まだ、生きてる   作:5734589

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清浄区

第九話

 

清浄区

 

――守るという名の隔離

 

その領地は、

白かった。

 

壁も、

建物も、

人々の服さえも。

 

「清浄区」と呼ばれるその場所は、

疫病や犯罪から

弱き者を守るために作られた――

そう説明されている。

 

門の前には、

大きな標語が掲げられていた。

 

「弱き者は、

強き者に委ねられる」

 

彼は、

その言葉を見上げ、

何も言わずに通り過ぎた。

 

 

中にいる者たち

 

清浄区に入ると、

奇妙な静けさがあった。

 

子どもは、

笑わない。

 

老人は、

外を見ない。

 

獣人だけではない。

身体の不自由な者。

心に傷を負った者。

身寄りを失った者。

 

皆、

“守られている”。

 

だが、

自由はない。

 

門は、

内側から開かない。

 

 

管理者

 

管理官は、

貴族だった。

 

柔らかな声。

穏やかな表情。

 

「ここは、

 慈善の結晶です」

 

「彼らは、

 外の世界では

 生きていけません」

 

彼は、

静かに問う。

 

「そう決めたのは、

 誰だ?」

 

管理官は、

少しだけ笑う。

 

「現実です」

 

 

子ども

 

彼は、

一人の子どもと話す。

 

人間の子だ。

足が不自由。

 

「外に、

 行きたいか?」

 

子どもは、

首を振る。

 

「……外は、

 こわい」

 

それは、

本音だった。

 

同時に、

教え込まれた言葉でもあった。

 

 

守護の歪み

 

夜。

彼は、

区画の奥を見る。

 

そこには、

労働区があった。

 

軽作業。

単純労働。

 

名目は、

「社会参加」。

 

報酬は、

ほぼない。

 

「守る代わりに、

 使う」

 

その構図が、

はっきりと見えた。

 

 

公開裁定

 

翌日。

広場で、

裁定が行われる。

 

清浄区の拡大。

より多くの「弱者」を

収容する計画。

 

住民は、

拍手する。

 

「安全になる!」

「いいことだ!」

 

彼は、

群衆の中で立ち上がる。

 

「違う」

 

声は、

大きくなかった。

 

だが、

広場が静まる。

 

「守るってのは、

 閉じ込めることじゃない」

 

「選ばせないことでもない」

 

管理官が、

顔をしかめる。

 

「あなたは、

 外から来た異端だ」

 

彼は、

頷く。

 

「そうだな」

 

「でも――」

 

彼は、

子どもを見る。

 

獣人を見る。

老人を見る。

 

「弱いってだけで、

 居場所を決めるな」

 

 

試し

 

兵が、

前に出る。

 

「出て行ってもらう」

 

彼は、

盾を下ろす。

 

戦わない。

 

ただ、

動かない。

 

「ここにいる人間が、

 “出たい”って言うなら」

 

「俺は、

 それを止めない」

 

沈黙。

 

やがて、

一人の老人が、

手を挙げる。

 

「……外の空を、

 一度でいい」

 

それが、

始まりだった。

 

 

崩れない壁

 

裁定は、

撤回されなかった。

 

清浄区は、

そのままだ。

 

だが、

変わったことがある。

 

門が、

少しだけ、

開くようになった。

 

外へ出る許可。

期間限定。

 

管理官は、

彼を睨んだ。

 

「あなたは、

 秩序を壊す」

 

彼は、

静かに返す。

 

「秩序は、

 人のためにある」

 

 

夜明け

 

彼は、

清浄区を出る。

 

後ろで、

誰かが手を振っていた。

 

子どもだ。

 

ぎこちない笑顔。

 

それを見て、

彼は思う。

 

――守護は、

――守り続けることじゃない。

 

――戻れる場所を、

――残すことだ。

 

街道は、

まだ続く。

 

次の噂は、

もっと露骨だ。

 

――「弱者」を

――処分する村。

 

彼は、

歩みを止めない。

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