pixivでアップしているものと同様の内容になります。
艦娘にとって、解体とは死を意味するわけではない。
戦うための装備を外される、それが艦娘にとっての『解体』だ。
役目を終えた彼女達は年相応の、本来あるべき場所へと帰ることが出来る。
彼女もそうして『平和な日常』へ帰還した艦娘の一人だった。
彼女は思う。強く強く思う。
自分は今、幸せだと。
学校に行くことが出来る。友達がいる。放課後は友達と遊ぶことが出来る。休日に遊びに出かけることが出来る。長期休暇には旅行にだって行くことが出来る。
ここにいれば恋愛だとか青春だとか、自分の年齢相応のことが全て体験できるだろう。少なくとも、可能性としてそこに用意されている。
『平和な日常』。掛け替えのないもの。得難い貴重な毎日。
ここにいれば深海棲艦の砲撃に怯えることは無い。真っ暗な夜戦で魚雷に怯えることも無い。隣にいたはずの仲間が酷い目に遭う瞬間を目にすることも無い。
脳裏に焼き付いて離れない悲鳴を聞くこともない。
身も心もすり切れてしまう戦場から自分は遠く離れることが出来た。もう二度とあそこには行かないでいい。
彼女は自分自身にそう言い聞かせて過ごす。自分自身の見てきたことをなるべく見過ごすように日々を暮らす。
だが、確かにある現実をいつまでも見過ごすことは出来なかった。
ある日、友達と出かけた先の街角で、テレビに映っているそれを彼女は見てしまった。
そこには、彼女の仲間達がいた。
映像の中の仲間達は、彼女の記憶の中と同じ姿をしていた。
編集された映像を通して、彼女には仲間達の状況が伝わってきた。
彼女達は、鎮守府の艦娘達は、今もあの恐怖の戦場で傷つきながらも懸命に戦っている。
砲雷撃の雨の中を、励まし合いながら、必死に戦っている。
その戦いの結果が、自分の謳歌している『平和な日常』なのだ。
映像の中では元気だった仲間達、しかし、戦場で傷つかない者はいない。
それを彼女は良く理解していた。
それ故に、彼女には自分の中で生まれゆく新たな意志を止めることが出来なかった。
わかっていた、一度目にしてしまえば、きっといてもたってもいられなくなることを。
自分には戦う力がある。
小さな力だが、仲間達を守るために役立ってくれるだろう。
もしかしたら、艦娘達を『平和な日常』に導く一助になるかもしれない。
こうして、彼女は決意した。
砲火と爆炎に揺れるあの海へ帰ることを。
全身を火薬と鋼鉄で纏い、深海棲艦を見据えて戦うことを。
全ては仲間達と『平和な日常』を手に入れるため。
そのためなら、今の生活を捨て去っても惜しくない。
それが嘘偽り無い、自分の意志だ。
不撓不屈の決意と共に、彼女は再び鎮守府に舞い戻る。
「艦隊のアイドル、那珂ちゃんだよー! よっろしくー!」
即日解体されたという。