機動戦士ガンダムGQuuuuuuX SIDE AMURO ~少年が見た戦争~ 作:すずき 虎々
第10話 謀略
一瞬の出来事。
比喩的な表現ではなく、本当にほんの一瞬、視線を外しただけで、長年苦楽を共にした仲間の命の灯が消えていく。
モビルスーツの性能云々の話ではない、存在そのものが理不尽極まりないのだ。
一年戦争の際にも、噂では聞いたことはあるが、そんな話は面白半分に誇張したものだとばかり思っていた。ニュータイプなんてものは、夏になるとよく耳にする怪談話と同程度に受け止めていた。
愚直に毎日厳しい訓練を繰り返してさえいれば、戦場で生き残ることが出来るし、適度な戦果も得られるとさえ考えていた。
自分を含めた部隊の面々は、歴戦の兵士だとさえ思っていた。
こんな作戦行動などとは言えない、海賊まがいの略奪行為で、まさか返り討ちにあうなんて思ってもいなかった。
テスト部隊にいるパイロットなんて、せいぜいひよっこ同然のキースに毛が生えた程度くらいの認識でいた。
この作戦が終わったら、キースは腕立て100回の刑が待っていたんだった。
モンシアとアレンは上等な酒が手に入ったから、一緒に飲もうと言っていたな。
そういえば、去年除隊したあいつは今頃何をしているんだろうな、真面目を絵に描いたような男だったから、きっと今回の作戦も、あいつがいたら猛烈に反対していたんだろうな。
バニングの思考は混乱の極みだった。
今考えるべきは、兎に角敵機との距離をとって、相手を冷静に分析し、正確過ぎる程に正確なその攻撃は、むしろAIの得意とする攻撃だろうから、AIの補助を受けて回避行動をさせれば、あるいは別の道が開けた可能性すらあった。
しかし、バニングには最早歴戦のパイロットであることなど、なんのプラス要素にも感じられない程に、敵のパイロットを只々恐怖の対象としか見ることが出来ずにいた。
その思いがモビルスーツの挙動に敏感に表れる。
「逃がすかよ!」
アムロの駆るクアックスのビームライフルが、この後敵のモビルスーツが移動するであろう位置を正確にとらえ、放たれたビームの光跡は、まさに敵機体の移動先を捕らえる。
自機が爆散する直前、バニングの目には、かつて自軍である地球連邦軍が、一年戦争を 勝ち抜くために開発したものの、その成果である機体や母艦を敵の部隊に掠め取られ、剰えそのモビルスーツによって敗北を喫するに至った悪夢の機体であるガンダム。
そのガンダムによく似た白い機体の顔が、自分を地獄へと導く死神のようにも、自分を嘲り笑う悪魔のようにも見えたのであった。
「白い悪魔…。」
アムロがコアファイターとクアックスをドッキングさせてから、ものの1分も経たないうちに、敵のモビルスーツが3機撃墜された。
気心の知れた仲間である艦の護衛部隊のメンバーや、テストパイロット達が皆、敵のモビルスーツ部隊にやられたという事実が、アムロの感情を普段とは違う、激しいものにしたことは言うまでもないが、自分が近い将来父親になるという思いが、死ぬわけにはいかないという思いが、一時の間、まるで別の誰かが憑依したかのように、彼を本能の赴くままに獲物を狩る獣に変えた。
しかし、3機のモビルスーツを一瞬にして撃破しても、アムロはその動きを止めようとはせず、どこかに向かって急加速する。
「そこか!」
2隻のマゼラン級が折り重なるように座礁したデブリの陰から、僅かに見えるサラミス級の艦橋の明かりを認めたアムロは、ビームライフルの一撃で、艦後方のエンジンから艦橋までの一直線を貫いた。
アムロの駆るクアックスに撃ち抜かれたサラミス級は大きな火球に姿を変え、そこにあった多くの命と共に、宇宙の塵となった。
「終わったのか。 他に気配は感じない。 俺が、やったのか。 俺が、人を殺したのか。 しかし、なぜ生きているんだ俺は、あの時のアレは何だったんだ…。」
アムロは、コックピットの中で、AIが補正したモニター越しの映像を、只、茫然と見つめていた。
月面都市グラナダ・ジオン公国宇宙攻撃軍司令本部司令官室
装飾や調度品などは最小限に抑え、シンプルといえば聞こえは良いが、女性が使う部屋としては少々飾り気のない執務室だが、置いてあるものの品質は極めて高い。
自席の事務机は地球産の黒檀製で、一枚板の天板の値段だけでも、一般の市民が半年以上は生活できるほどの価値があり、主が深々と身を沈めるリクライニングチェアも、フェイクやクローン製のものではなく、本物の皮を職人が丁寧に鞣した一級品である。
モニターに映し出された、最高司令官であるキシリア・ザビ少将の決裁待ちファイルを一つ一つゆっくりと確認し、一つ一つに不明な点を追記して、別途報告を求める。キシリアの決裁を受けるには、並々ならぬ努力が必須条件となっていた。
現在キシリアが確認しているファイルは、先の戦争で汚染された地球環境改善に係る大規模設備建設を担当する部署からの要請で、完成にこぎつける為にも必要不可欠な専門家の招聘を求める申請書だった。
キシリアは、そのファイルの全文を読むことなく承認した。けっしてキシリアがこの件について手を抜いたわけではなく、書いてある内容は読むまでもなく、既に頭に入っている事ばかりなので、読むのを省略したのではなく、読む必要性がなかったのだ。それほど、彼女はこの件に対して熱意を持っていた。いや、執着していたというべきかもしれない。
キシリアが次のファイルを開こうとすると、執務室の扉をノックする音が聞こえる。
「入れ。」
モニターから顔を上げることも無く、ノックした者を招き入れる。
宇宙攻撃軍最高司令官であるキシリアの執務室は、最高水準のセキュリティによって守られていて、軍に所属する階級の高い者であったとしても、おいそれと入室することは罷り通らない。
当然ノックした者とて、幾重にもわたるセキュリティをクリアして執務室にたどり着いており、キシリアは既に扉の外の人物が誰かも把握していた。
「で、例の件はうまく運んだんだろうな。」
部屋に入るなり、そう声を掛けられた人物も、聞かれることも、報告することも既に決まっていると言わんばかりに答えた。
「はっ。今回手を回した連中は、軍人崩れの中でもなかなかの実力を持っていたようで、戦時中も一部では噂が流れる程の部隊だったようです。思いのほか上手くいったようで、ほぼ閣下の筋書き通りに進みました。」
「で?スコアは。」
「コアファイターとモビルスーツのドッキング完了からカウントして、71秒。敵機3機撃墜、敵艦1隻撃墜です。しかし、撃墜したモビルスーツから受けた攻撃で、少々妙な現象が記録されていました。視認可能範囲外からの狙撃を1発受け、それを躱そうとはしたものの、躱しきれずに被弾したかと思われたのですが、謎の発光現象が発生し、敵のビームがクアックスに着弾する寸前に軌道を反らし、まるでIフィールドを展開したかのような現象が確認できました。」
「ほう、クアックスにそのような機能はついてはいないはず。だとすれば原因はあの男にあると考えた方が良さそうだな。であれば、あの男はイグザベやクスコより優れているだろうことは予測できたが、シャリア・ブル、いやシャア以上の可能性すらあるようだな。」
「どういたしましょう。」
「下手に動いてへそを曲げられても面倒だ、しばらくは放っておけ。今は他にやってもらわねばならない事もあるのだからな。それよりも、その映像を私のデバイスに送れ、直に見てみたいものだ、本物かもしれないニュータイプの初陣をな。」
「承知いたしました。」
「私はシャアが死んだとは思っていない。ヤツが再び私の前に現れる日が来たとして、その時シャア・アズナブルとして私の矛となるか、キャスバル坊やとしてザビ家に仇なす者となるか。後者だった場合、シャリアでは盾にはならん。あれは元々ギレン兄の駒だしな。しかし、アムロ・レイ、あの男であれば…。」
男はキシリアの言葉に答えることなく、静かに部屋から退室した。
一人執務室でたたずむキシリアの顔が、モニターの明かりに照らされる。
その口元は、不気味に歪んでいた。
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