機動戦士ガンダムGQuuuuuuX SIDE AMURO ~少年が見た戦争~ 作:すずき 虎々
第十三話の前に、一話だけ、置かせていただきたいと思います。
第12.5話 見えかけた刻
「ちぃっ……!」
赤い機体が慣性に逆らって、背面飛びのような挙動で、敵の放ったビーム射撃の一閃を躱す。
しかし、その後もビーム射撃の光跡は四方八方から降りそそぐが、その都度、赤い機体はアポジモーターの微細な操作や、AMBACを駆使して、踊るように攻撃を躱す。
敵のビームが、真横から鋭い線を描いて通り過ぎる。
この世界のパイロットは、どうにも反応が速く、読みも鋭い。
「えぇい……!この世界のパイロットは、どうも敏感すぎる。それにしても、オールレンジ攻撃とはな……。私の十八番を奪うとは、やってくれる。」
スラスターを一瞬だけ噴かし、軌道をずらすと同時に、敵がオールレンジ攻撃を繰り出しているインコムが移動する先を感じ取り、ここに来るであろう場所を打ち抜く。
その刹那。
全ての感覚が遮断されたように、背筋が凍るとも違う、全身がひどく冷たくなった様に感じる。
加速度でもなく、戦闘の緊張とも、敵のパイロットが放つプレッシャーとも違う。
“巨大な何か”が、宇宙そのものを震撼させたかのような、一言で表すのであれば“違和感”のような。
戦闘の中で、思わず動きを止めた。
いや、その場の空気そのものが止まったと言った方が正しいだろう。
「……今のは、誰だ?」
敵モビルスーツのコックピットでは、赤い機体をロックしたことを告げるアラームが鳴り響き、放たれたビームの光跡は、当然のようにその派手な外装色の機体に吸い込まれ、青白い爆発の光球となって、暗闇の広がる宇宙空間を照らすはずであった。
亜光速にも迫ろうかというビームの光跡を、戦闘距離で躱すなどという常軌を逸したパフォーマンスなど、通常はありえない。
あって良いはずがないのに、モニターには虚空に消えるビームの光跡しか映っておらず、次の瞬間には甲高いアラームの音と、モニターの左半分を、ビームの薄桃色が埋め尽くし、一瞬だけ熱を感じた気がしたが、その後は何を感じることもなく、この世界と別れを告げることとなった。
確かに“何かが来た”。
この世界ではない、どこか遠い場所で。
誰かの感情が、全ての枷を解き放ち、刻の境界を越えたのだ。
「私は今、“誰だ”と言ったのか?」
先ほどまでの激しい戦闘が、嘘のように、何もない、空気すら存在しない空間には、ただ果てのない闇と星の輝きだけが広がっていた…。
コックピットの中、周囲を映し出すモニターや、計器類の光。
モニターには周囲に広がる星々の美しい輝きが映し出されている。
狭いコックピットの中、計器類が作動している微かな音や、時折響く補器類のビープ音、熱核反応路に火が入っていることにより伝わる微かな振動、そして自分が放つ呼吸音に、心音…。
しかし、それらを認知する感覚が、徐々に失われていくのを感じる。
時間の感覚さえもが曖昧になる。
感じるのは、先ほどの違和感の正体が、自分に恐怖という感情と、懐かしさという、一見相反する感情を同時に抱かせる存在であるという矛盾。
『これは、敵意ではない。では、なんだというのだ…。』
まるで自分の存在そのものが、宇宙から切り離されたかのような感覚を覚え、五感が機能を失うのを感じる。
確かに見えていた星々の光が、まるで霧に包まれるように輪郭を失っていく。
聞こえない、見えない、匂いもしない…。
闇の奥で、何かが揺らぎ、やがてそれは光を加速させて行く。
“誰かの感情”に直接触れてしまったかのような、そんな気配。
怒りでも、憎しみとも違う。
もっと深く、もっと切実で、もっと強く、最も暗い…。
それはまるで、祈りにも似た衝動。
その感情が、闇の中に波紋を広げ、波紋はやがて波となり、形を持ち始める。
輪郭のない“何か”がこちらへと近づいてくる。
「私を呼んでいる?」
自分でも驚くほど、その声は静かだった。
しかし、先ほどから聞こえている「ラ、ラ…。」という音だけは、次第に大きくなっているようにも感じられる。
刹那、大きな存在の中に感じる別の小さな気配、幼さの残る息遣いが、ただ必死に何かを伝えようとする意思だとでもいうのか、しかし、それはあまりにも朧げで、儚い…。
やがて、刻は揺らぎ、境は失われ、しかし、中心から、微かな光が溢れ続ける。
光は、懐かしさも、痛みも、全てを同時に孕もうとする。
それは記憶なのか、幻なのか、あるいは、誰かの願いなのか…。
世界を覆いつくしたその光に触れたと感じた瞬間、闇はひび割れ、世界は一気に崩れ落ち、無情にも反転するかのような感覚に襲われた。
そして──
彼は、次の瞬間、再び“別の世界”へと落ちていった…。
この続きは、新章で。