機動戦士ガンダムGQuuuuuuX SIDE AMURO ~少年が見た戦争~   作:すずき 虎々

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いつも私の作品を読んでいただき、ありがとうございます。
今回は、今後の物語のメインキャスト達の交錯が始まる回です。
静かな変化ですが、ここから先の展開に繋がる大切な一話になります。


第十五話 交錯する影

第15話 交錯する影

 

『まただ。』

 

 彼女の中で感じる違和感。

 それが何かは理解出来てはいないが、それでも無視することの出来ない感覚。

 数年前は朧気だった、喪失感のような、悲哀のような、感情の記憶。

 しかし、今感じたのは、あの時とはまるで逆の感情であるのに、奇妙なまでの共通点。

 胸の奥をかすめる、この奇妙なざわめき。

 

「キャスバル……。」

 

 口をついて出たのは、嘗て幼かった自分が憧れた人の名前。

 まだあどけなさの残る、透き通るような肌の色をした頬が、みるみる内に自らの髪色の様な薄紅色に染め上がっていく。

 

「私ったら、どうしたのかしら……。」

 

 誰もいない部屋で、独り言ちた言葉を、自ら取り消すかのように立ち上がり、部屋を出る少女。

 

 今日は、アクシズの研究所で開発した、新しいサイコミュシステムの稼働テストの為に、手を貸してほしいとの依頼を受け、午後から研究所に呼ばれていた。

 彼女はエレカを走らせ、研究所へと向かう。

 研究所への道すがら、エレカに接続した端末から、大好きな音楽を流して気持ちを落ち着けようとしたが、胸の奥のざわめきが収まる様子もない。

 彼女は、エレカを駐車場に停めると、心に蓋をするのを諦め、研究所内へと歩いた。

 

「悪い気持ちではないみたいだしね。」

 

 彼女は人混みが嫌いだった。

 多くの感情が流れ込んでくるような気がして、その度に腹の底を強く握られるような感覚を覚えるからだ。

 多くの人が働くこの研究所も、例外ではなく、何度来ても、気持ちが悪くなるのを堪えるのに辟易するのだった。

 しかし、今日は珍しく気分が悪くなる様子はない。

 すれ違う研究員達の会話も、すんなりと耳に入っては通り過ぎて行ってくれていた。

 

「…レイ大尉の論文がなかったら、こんなに早く実証実験にまでこぎ着けるのは不可能だったさ。」

 

「それはそのとおりだと思う。脳波とサイコミュシステムを同期させて、義肢をって発想が、既に天才というか、この人こそニュータイプだろ。」

 

「確かに。その辺混同しがちだけど、しっかり別物と捉えて、更にリンクさせるって、どうやったらそういう思考になるのか、サイコミュの感覚を肌で理解出来てるからこそなんだろうな。」

 

 彼女の耳に入る雑多な会話の一つ。

『レイ大尉、大尉ってくらいだから、軍の人なんだろうけど、凄い人なんだ。』

 漠然と聞き流したはずの会話が耳に残り、ほんの少しだけ、違和感を覚える。

 しかし、目の前には、もう既に、今日のテストで乗り込む機体が、その異様な姿を現していた。

 機体といっても、まだ外装もなく、四肢も取り付けられていない、頭部の中身とコックピット周り、胴体部分のフレームのみのスケルトン状態のもので、無数のケーブルで覆いつくされた様は、血管に至るまで詳細に作られた、人体模型の様でもあった。

 しかも、その人体模型がハンガーにつるされている様子は、これが何かを知っている少女でさえも、夜に見たら悲鳴を上げる自信が持てる程に、異様な光景だった。

 

 その吊るされた人体模型の後方には、六角形の無数の穴が開いた、板状のコンテナが吊るされていて、いくつかの穴の中には、円錐状の機器が浮遊状態で格納されていた。

 

「可動テスト、行くぞ。」

 

 技術者の声と同時に、試験用のビームが射出される。

 次の瞬間、三つのファンネルビットが一斉に跳ねるように動き、三つのファンネルビットの先端を結ぶようにビームが形成され、三角錐となったビームが、試験用ビームの光を相殺した。

 

「良い反応速度だな、成功だ。」

 

「サイココミュニケーションと脳波の同期を参考にしたアルゴリズムを入れた効果だ。脳波の波形を拾う精度が段違いだよ」

 

 その光景を目の当たりにした少女は、思わず息を呑む。

 思い浮かべた名前に、再び胸の奥がざわめく。

 すると、ファンネルビットの一つが微かに震えた。

 まるで、彼女の心の波に呼応したかのように。

 

「……え?」

 

 少女は思わず一歩後ずさる。

 だが技術者たちは気づかない。

 計器類の数値に夢中で、少女とサイコミュの呼応に気づかない。

 

「リンク率、上がってるぞ!」

 

「やっぱり義肢制御の論文は本物だな……」

 

 少女は、吊るされたスケルトンの機体を見上げた。

『あなたは誰を守りたいの?』

 胸の奥のざわめきは、もう誤魔化せなかった。

 胸が、締め付けられるように痛む。

 

 あの気配と、この機体の“揺れ”が、どこか似ていると感じた瞬間、誰かに見られているかのような気配を感じて、少女は思わず振り返るも、視線の先には誰もいない。

 ただ、ケーブルまみれのスケルトンの機体が静かに吊られている。

『気のせいか…。』

 しかし、胸の奥に微かに引っかかるものが残り、自分でも理由の分からない問いが、頭を離れなかった。

 

「ようこそお越しくださいました、お嬢様。本日もよろしくお願いします。」

 

白衣を身に纏い、白髪が混じる頭髪を丁寧に撫でつけ、小綺麗な印象の男、キューベル・グリーン博士。

 

「こんにちは、グリーン博士。よろしくお願いします。」

 

 伏し目がちに挨拶をする少女にいつもと違う雰囲気を感じた博士は、そのままを口にする。

 

「おや、今日は少し様子が違いますね。どうかなさいましたか?体調がすぐれないようでしたら、テストはまた後日でも差し支えありませんが。」

 

 真顔で少女を心配する博士だったが、博士を良く知る少女は、その表情と発言を正確に受け止める。

 

「問題ありません博士。少し懐かしい気持ちになっただけですから。さぁ、テストを始めましょうか。」

 

 少女は受け取ったケーブルまみれのヘルメットをかぶり、覚悟を決めたとでもいうように、口元を引き結ぶのだった。

 

 

 頭の中で稲妻が走るイメージ。

 普段は曖昧だが、今日に限っては、思い浮んだ人物に、思い当たる節がある。

 シロウズという偽名を名乗る男が歩みを止め、手にしている資料から視線を外して顔を上げる。

 研究所の廊下を満たす無機質な空気が、一瞬だけ揺れる。

 

「……?」

 

 資料を持ち直し、周囲を見渡す。

 

「技官、こちらへ。新型サイコミュの稼働テストが始まります。モニターに映っているのは開発中の機体で、資料の少女がサイコミュのテストを担っております。彼女はマハラジャ閣下の…。」

 

「知っているよ。彼女のことはな。」

 

 案内された、観測室のモニターに映し出されていたのは、顔の上半分を覆う半球状の機器から、無数のケーブルが伸びているヘルメットを被った少女が、パイロットシートに体を埋めている光景だった。

 そのヘルメットから見える薄紅色の髪色には、見覚えがあった。

 そして、厚いガラス越しに、下を見ると、直接テストベイが見え、吊り下げられたスケルトンの機体や、その周囲を忙しなく動く技術者たちの姿が目に入る。

 

 男は窓越しに見える機体のコックピット内に収まる、直接見えないはずの少女を、しかし、はっきりと視覚的に感じ取っていた。

 

「大人の女性になったのだな…。」

 

 自分でも気づかぬうちに口をついた言葉は、彼女の心のありように配慮したものになっていた。

 だが胸の奥に広がる微かな波紋は、彼女の中の“何か”に触れてしまっていたようだった。

 

「リンク率、上がってるぞ!」

 

「脳波の揺れが……これは予想以上だ!」

 

 観測室のモニターに、少女の脳波が大きく跳ねる。

 同時に、ファンネルビットの一つが震えた。

 

 男の心臓が、わずかに脈打つ。

『私に反応しただと?』

 同席する研究員は、モニターに映る脳波のグラフに目を奪われているようだった。

 

「私にも説明してほしいものだな。」

 

「あ、これは失礼しました。彼女の脳波の波形が、これまでにない程、サイコミュ受信波形との高い同期率を示していまして。これ、きっとアムロ・レイ大尉が残した論文にある、サイコミュ義肢のリンク率上昇スキームを採用にした結果だと思います。」

 

「アムロ大尉か、なるほどな。」

 

 男の目元に、わずかな翳りが差した…。




最後まで読んでいただきありがとうございます。
アムロの物語なのに、アムロがしばらく出てきませんが、いつか戻って来るので、楽しみにしていてください。
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