機動戦士ガンダムGQuuuuuuX SIDE AMURO ~少年が見た戦争~   作:すずき 虎々

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静かな宇宙に、わずかな“気配”が交錯する回です。
その瞬間に生まれる鼓動を、物語の中で感じていただければと思います。


第十六話 凶気の鼓動

第16話 狂気の鼓動

 

 グォン、グォンと断続的に響く音が、腹の下からじわじわと胃を押し上げるように伝わってくる。

 おそらく何かが回転している音が、グリスや金属板、樹脂素材、あるいは、コックピットに伝わる衝撃を極力減衰してくれるゲル状の緩衝材、あらゆるものに遮蔽されて届く、くぐもった音。

 膨大な量の演算処理を行うたびに漏れるビープ音の連なりは、まるで機械が言葉を話しているようにも聞こえ、連続して明滅を繰り返すパネルは、光の波のようでもあった。

 モニターに映し出されるのは、何処まで続くのかもわからない程の深い闇と、その闇を照らす星々の輝き。

 着用したパイロットスーツは、身体にぴったりと張り付くようで、ボディラインをくっきりと浮かび上がらせるのが嫌いだが、今はコックピットの中で、周りには誰もいないので、気にはならなかった。

 ヘルメットのバイザーに投影されるパイロットのコンディションも全て正常値を示している。

 

「それではお嬢様、カタパルトへお願いします。」

 

 バイザーのスピーカーから聞こえるキューベル博士の声は、高度なノイズキャンセリング機能によって、直接会話するよりもクリアに聞こえる。

 

「了解、コンディションオールグリーン、ゲルググサイコミュテストタイプ、ハマーン・カーン出ます。」

 

 カタパルトから射出される際のG負荷は、何度経験しても心地の良いものとはならず、意識が飛ぶ寸前の所までパイロットを鬩ぎ立てる。

 

 カタパルトによる射出の衝撃が全身を押し潰すように襲い、巨大なコンテナを背負ったゲルググが、一気に加速する。

 彼女の視界は極端なまでに狭くなり、意識が飛びそうになるのを、彼女は歯を食いしばって堪える。

 カタパルト射出によるG負荷が抜けた後は、慣性とメインスラスターの推力に乗り、宇宙空間を高速で突き進む。

 普段は美しいと感じる星々の瞬きも、この瞬間だけは、自らの命を奪いに来る光跡にすら感じる。

 

「それではお嬢様、テストを開始します。順次ダミーバルーン、射出しますので、認識してください。認識すると、自動でファンネルが迎撃します。」

 

 キューベル博士の声がバイザー越しに響くと、前方に光点が生まれたかと思うと、人型のバルーンが膨らみ、モビルスーツ大のダミーが形成された。

 

 彼女は意識を集中させ。

 

「ファンネル!」

 

 とつぶやいた。

 

 背後のサイコミュ受信機がビープ音を連ね、パネルの明滅が激しくなる。

 ゲルググの背部に装着されたコンテナが開き、数機のファンネルが展開すると同時に、ターゲットとなるダミーバルーンの周囲を不規則に、しかし一定の距離を保った状態で周回したかと思うと、ファンネルから射出されたか細い光が、ダミーバルーンを捉える。

モニターには、ダミーバルーンをロックした赤いリングがグリーンに変わり、撃墜を示す表示に変わる。

 すると、暗く何もない宇宙空間に、次々と赤いロックオンを示すリングが表示されていき、その後にダミーバルーンが後から追いかける様に形成されていく。

 しかし、それらダミーバルーンが膨らみ切る前に表示はグリーンに変わっていく。

 バルーンの表面にはレシーバーがついていて、ファンネルからの微弱なビームを受けると、自機が破壊されたという信号を出すようにつくられていた。

 

「シミュレーターと変わらないわ。」

 

「テスト用ですので。反応速度の計測が目的ですが、やはりここまでとなると、自分の語彙力の低さが恨まれますが、最早、異常値としか言いようがありません。」

 

 博士の声は落ち着いているものの、しかし、明らかに高揚しているとわかる物言いだった。

 

ハマーン・カーン。

 

 若干16歳とは思えない程に、サイコデバイスとの親和性を示す少女。

 彼女のこの類稀なる才能を看破した人物こそ、このキューベル・グリーン博士であった。

 キューベル博士は、公国政府の要職にあった頃のマハラジャ・カーンに招聘される形で、ジオン工科大学の客員教授となり、マハラジャとはそれ以来の付き合いであったが、幼い頃のハマーンが、人の感情を読み取っているかのような素振りに着目し、生粋のニュータイプであると見抜いたのだった。

 

「お疲れ様でございました、お嬢様。本日の予定していたテストは全て完了となります。」

 

「それじゃあ、戻るわね。」

 

 彼女が言い終わるのが早いか、突然モニターの隅に、自機がロックオンされたことを示すアラームが鳴り響く。

《UNKNOWN TARGET CLOSING IN》

 

「……え?」

 

 視認出来る範囲の外からの攻撃。

 長距離狙撃のビームが飛来し、ゲルググを撃ち抜こうという、明らかな殺意を持って急激に迫る。

 

「なっ……!」

 

 考えるよりも先に、反射的にスラスターを噴かし、殺意を持って迫る光跡を、しなやかな動きで躱す。

 撃って来た機体の他に、2機。

 ゲルググのトライアイでは捉えきれないが、既に彼女の感覚は、正確に敵の居場所を捕捉している。

 そして、それは、ファンネルが得物に牙をむく合図としては十分なものだった。

 得物は、先の戦争で、連邦が前線に投じてきた軽キャノンと呼ばれる機体が2機と、同型機の長距離射撃にも対応可能なレーダーを備えた改修機の計3機。

 彼らは自分達の攻撃が当たらなかったことを察し、しかも、一瞬で飛来した小型の無人機を見て、一瞬狼狽したものの、その無人機から発射された攻撃は、モビルスーツの装甲どころか、コーティング塗装すらも焼けないものであると知るや否や、猛然と襲い掛かって来た。

 

 だがファンネルはテスト用の出力のまま、彼女の感応によって、逐一敵の位置を捕捉しては、自動で攻撃を繰り返し、敵の神経だけを逆なでする。

 迫りくる敵機影を目の当たりにしたハマーンは、恐怖と焦りから、呼吸が浅くなる。

 

「誰か、助けて……。」

 

「お嬢様、落ち着いてください、至急そこから離脱してください。今、防衛隊のモビルスーツがスクランブル発進するところです。」

 

 敵に捕捉されている、ここは危険だ、直衛隊が相手をしてくれる。

 そんなことはわかっているけど、初めて浴びせられる本気の殺意に、身体が硬直して思うように操縦することが出来ない…。

 ゲルググのフレームが無理な旋回のG負荷に軋み、悲鳴を上げているような音を出し、それを操る彼女も両足で踏ん張って、歯を食いしばる。

 

 その頃、アクシズ管制室では──

 

「ライフルを射出しろ。」

 

 シロウズの短い指示に、クルーが一瞬固まる。

 

「射出って言ったって、一体どうやって……。」

 

「カタパルトを使うんだ。」

 

 シロウズは、ハマーンの機体の進路と移動可能範囲を想定し、コンソールのキーボードを操作する。

 

「R12座標に設定して射出すると良い。」

 

「わ、わかりました!」

 

 クルーが慌ただしく動き出す。

 本来MSを射出するためのカタパルトに、単体のビームライフルが固定されていく。

 

「デッキの博士に伝えろ。“ハマーンにライフルを射出する”と通信を入れるようにとな。ハマーンなら、それでなんとかするだろう。」

 

 彼の声は静かだが、迷いがない。

 カタパルトが起動し、ライフルが宇宙空間へと放り出される。

 新設計のミドルレンジライフルが、無重力の中でカタパルトの勢いそのままに、ハマーンのゲルググのいる方へと向かっていく。

 

 視認したわけではない、先程、博士からライフルを射出するとの通信はあったが、何処に、どのタイミングで来るかも知らされなかったが、しかし彼女にはライフルが飛んでくる映像を事前に見たかのように理解することが出来たのだ。

 そして、次の瞬間、そのライフルとゲルググの間を割るように、敵のビーム射撃が飛来することもわかっていた。

 事前に見たとおり、敵機のビームが横から飛び込み、ライフルのすぐ脇をかすめ、彼女はそれを見越して絶妙にAMBACを駆使し、機体を傾けてライフルへ手を伸ばす。

 機体の指先が触れ、自らの命綱を手繰り寄せる。

 3機の敵影が迫る。

 

「見える……!」

 

 彼女が手にしたライフルを、機体のインベントリから選択し、そのまま流れるような動きで一撃を放つ。

 すると、その射線上には、敵が放ったビーム射撃の光跡が、まるで吸い寄せられるかのように衝突し、激しい光を放ち、相殺される。

 そして、その激しいスパークの光が収まる頃には、ハマーンのゲルググが手にしたライフルが、迫る3機の敵影を消失させることに成功していた。

 モニターに映る、ロックオンアラートがグリーンに変わり、仄暗い宇宙に漂うゲルググを、三つの青白い光球が照らしていた。

 

 シロウズは、慌ただしいアクシズの管制室で、その様子を静かに見つめていた。

 そして、口元に、わずかな笑みを浮かべる。

 

「どうやら、私にも運が回って来たようだな。」

 

 急な敵の襲撃にざわめくアクシズの管制室に背を向け、男が一人、その場をあとにした。

 




読了ありがとうございます。
ハマーンが感じた凶気は、彼女の未来を動かす最初の一歩になります。
次回も見守っていただければ嬉しいです。
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