機動戦士ガンダムGQuuuuuuX SIDE AMURO ~少年が見た戦争~ 作:すずき 虎々
いよいよ第二章もクライマックスに差し掛かってまいりました。
楽しんでいただけたら幸いです。
第17話 刻の胎動
小惑星アクシズ。
アステロイドベルトのさらに奥に位置する資源採掘用の巨大な岩塊を基地化し、地球圏と木星圏を繋ぐ重要拠点として活用されてきた小惑星。
現在もなお、地球圏へ向けてゆっくりと移動を続けている。
通常であれば、これほど深い宙域での接敵などありえない。
だが今しがた回収班が運び込んだ三機のモビルスーツの残骸は、旧連邦製の軽キャノンとそのカスタム機であることは間違いなく、いずれも正確にコックピットを撃ち抜かれていた。
故に、ブラックボックスの回収は困難かと思われた。
「旧連邦軍の識別コードがそのままです。残党部隊と見て間違いありませんね。このタイプは確か……ブラックボックスのミラーが頭部カメラユニットの奥と、マニピュレーターの付け根の……あ、ありました。生きてますね。」
技術士官がグリスまみれの手で作業しながら、淡々と報告する。
装甲は寄せ集めで、整備も十分とは言えない。
だが、データ収集に特化したカスタムの痕跡が見られた。
「行動パターンも不自然です。もともと襲撃を目的とした部隊とは思えませんね。」
キューベル博士は残骸に視線を落としたまま、小さく息をついた。
「偵察のつもりが、偶発的な接触に変わった。そう考えるのが妥当でしょうか。」
周囲で検証作業に従事する者たちも、それぞれに頷いていた。
医務室の照明は、壁の白さも相まって、心に落ちた影を見透かすような、そんな逃げ場のない焦燥を否応なく意識させる眩しさだった。
今回の遭遇戦で、ハマーンが物理的な外傷を負った事実はない。
しかし顔は青ざめ、心拍の乱れは明らかで、動揺は隠しきれなかった。
「問題ありません」
強張った表情のまま、カウンセラーの質問に答える少女。
だが固く握りしめた右の拳は震え、その緊張を抑え込もうと、右腕を抱き寄せるように添えた左手もまた震えていた。
強がる声に、博士が横から静かに声をかけた。
「今日はもうお休みになってください。無理をする必要はありません。今日のことは、予期せぬ事故でした」
少女は反発しなかった。
いや、抗う気力すら持てず、ただ小さく頷くしか出来なかった。
こみ上げる怖気に、胃の底を鷲掴みにされるような感覚だけが残る。
ただ静かに立ち上がり、医務室を後にした。
廊下に出た瞬間、壁の金属面に反射した光が視界を歪ませ、身体がわずかによろめく。
それでも眉間に皺を寄せ、歯を食いしばり、恐怖を押し殺して前へ進んだ。
「このくらい、なんでもないんだから。」
シロウズは、回収された残骸を一瞥しただけで状況を読み取っていた。
「全てコックピットを一撃、しかも誘爆させずにとはな。」
機体から回収したブラックボックスに映る戦闘ログを再生する。
微弱なファンネルビットのビームに狼狽する敵影。
しかし、それも無理はない、ハマーンは敵機影の目視を待たずに、ほぼ同時にファンネルのビームを、コックピットとメインカメラ、背部のメインスラスターに正確に当てている。
敵のパイロットからしたら、自機のコックピットのモニターに、突然ファンネルが現れて発光したのだ、自分の命の火が潰えたと誤認しても仕方がないだろう。
あの一瞬で生まれた“凶気の鼓動”。
「これほどまでとはな。彼女には、なんとしてもこちら側についてもらわねばなるまい。」
静かに、誰に聞かれるとも無く、独り言ちた男は、そっと端末のモニターを閉じ、部屋をあとにする。
マハラジャは、自身の執務室内で報告を受け、豪奢な革張りの椅子に深く体を沈め、目を閉じた。
政治に携わる者として、そして、父として、様々な想いが巡る。
「現段階では公にはするな。ただし、映像の検証次第によっては、付け込む余地はあるだろうから、パイロットの報告書も併せて提出するように伝えろ。ブラックボックスに通信記録が残っているなら、それも一緒に提出させるように。」
「畏まりました。」
「それと、本国にも通信を入れておくように、連邦の残党が、こんなところまで潜り込んで来ているとな。」
「承知いたしました。」
恭しく一礼する秘書官は、マハラジャの指示を只粛々とこなす。
能面の様に表情を崩さないその男を見たからなのか、報告に上がった娘の名前を聞いてなのか、マハラジャは、一人の幼い少年を思い出していた。
美しい金色の髪が風に靡き、幼さに似つかわしくない引き結んだ口元には、並々ならぬ覚悟が見て取れた。
父の棺の傍らで、泣きじゃくる妹の肩を抱き寄せて宥める姿が、一枚の絵画の様に頭にこびりついて離れない。
嘗て志を共にした友人の忘れ形見。
「彼は今、どうしているのだろうな。」
シロウズは、居住区モウサの一室で一人、静かに端末のモニターに写しだされた一つの文書を眺めていた。
「ほう、とうとうここまで来たか。」
彼が眺めるモニターには、[イオマグヌッソ開発計画]と題された計画書が写しだされており、起案した者や、現在のスタッフなどの名前が連ねてある頁で目を止める。
とある名前が書かれた場所を指ではじいて指し示し。
「まずはこの人物か。」
誰に向けるでもなく、囁くように発せられた声には、しかし、確かな意思が感じられた。
「レオーニ博士か。いったいどのような人物なのか、楽しみではあるな。しかし、私もとうとう地球圏に戻る時が来たということか。」
目元をすっかりと覆い隠している前髪を、手櫛でかき上げたことで露わになった蒼い瞳には、モニターに映る一人の人物の名がくっきりと写り込んでいた。
お読みいただきありがとうございました。
第二章はここから終盤へ向かいます。
次回もよろしくお願いいたします。