機動戦士ガンダムGQuuuuuuX SIDE AMURO ~少年が見た戦争~   作:すずき 虎々

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たくさんの作品の中から見つけてくださり、ありがとうございます。
第18話「示された赤い趨勢」です。
あと、うまく掲載されるかわかりませんが、この小説に登場するアムロを描いて、AIに着色してもらいましたが、かなり平均的なAI画像に修正されてしまいました……。
【挿絵表示】



第十八話 示された赤い趨勢

 僅かに蛇行した廊下の壁は、スポンジローラーで仕上げたような細かな凹凸があり、アイボリーの塗装が、天井のダクトレールライトに照らされることで、境界の曖昧なツートンカラーのように見えていた。

 カーブの頂点毎に置かれた観葉植物がアクセントとなり、ここが研究施設であることを忘れさせるほど洒落た雰囲気を醸していた。

 その廊下の奥から、綺麗な色の金髪を、鼻にかかる程不自然に伸ばした前髪の男が、歩いてくる。

 白衣の女性、ティルザ・レオーニに向かって、丁寧に頭を下げる。

「お初にお目にかかります、シロウズと申します。著名なレオーニ博士のご息女であられるティルザ女史の研究室にお招きいただけるとは、身に余る光栄です。」

 ティルザは、軽く肩をすくめて微笑んだ。

「父と私の研究に興味を示す方がいるなんて、二心をお持ちなのかと疑いもしましたけど、考えてみれば、父や私には研究以外で何かめぼしい持ち合わせもありませんものね。」

「御謙遜を。」

「ミノフスキー粒子の研究においては、未だ未知数だらけだというのに、よりによって、“各位相ごとの干渉と影響の検証”だなんて、そんなオカルトみたいな話に夢中になってる親子よ?物珍しさで言えば、たしかに面白そうではあるけど、シロウズさんの様な優秀な研究者には、少々肩透かしになるのではありませんこと?」

「博士の研究は、いずれ世界をリードするものになると、確信しております。現に、ゼクノヴァの発生原理の解明に多大な貢献をなされている。博士の研究なくして、ゼクノヴァの発生時に、ミノフスキー粒子の相反転現象を確認することはできなかったでしょう。」

「たまたまよ。でもまぁ、ここは素直に賛辞として受け取っておくわ。」

 シロウズは、ティルザの言葉に微笑みを返すと、少し間をおいてから、周囲を見渡して話を続けた。

「私は長らく軍の研究所におりましたので、このような民間の研究室の雰囲気も楽しみにしていたのです。」

「あら、それは残念ね。今週いっぱいでここはおしまいよ。週末には父を迎えて、一緒にアンマンの研究施設へ向かうのよ。父が政府経由で軍から受けた依頼の実証実験には、ここじゃ手狭過ぎるのよ。」

「そうでしたか、それは残念です。では、ここの研究室を見られるのも、残り二日ということですね。出発までの間は、じっくりと堪能させていただくことにします。」

「そうしてちょうだい。貴方の力を貸りるのは、父と合流してからが本番ですものね。」

 残念と漏らしながらも、男の口元はわずかに緩んでいた。

 

 ティルザの足音が遠ざかり、研究施設の喧騒とは裏腹に、男の周囲だけが静寂に包まれる。

 シロウズは、ラウンジの自動販売機の前に立ち、辺りを見渡すと、研究施設のモダンな空気とは対照的に、モニターに写しだされた放送の音声や、壁紙の色など、和やかな雰囲気に包まれていて、リラックスやリフレッシュといった、仕事の効率を上げるための配慮がちりばめられているような印象を受けた。

 シロウズは、落ちてきた銀色のチューブパックを拾い上げ、口元へ運ぼうとしたところで、先程見た、鮮やかなパステルカラーの壁面に設置された、テレビモニターに映る映像に目を止めた。

 音声は絞られていて、音声の内容までは聞き取ることは出来ないが、そこに写しだされている映像だけで十分だった。

 赤い機体が、画面の中を縦横無尽に飛び回る。

 スラスターの青白い光を纏い、人型であることも相まって、後光の差した鬼神の様にも見えるそれは、嘗て自分が操縦していた、あの機体だった。

 

 モビルスーツを使った非合法の賭けバトル、クランバトルの様子が映し出されていた。

 非合法なものである故に、中継ではなく、ニュースの速報として取り上げられてはいるが、実際の所は、クランバトルの運営母体から提供された映像を放映しているので、どのチャンネルにしても、同じアングルの映像が映し出されるだけであった。

 

 マブを組んでいる白い機体は、初めて目にする機体のはずにもかかわらず、知っているような気がするのは、単なる気のせいではないと考えながらも、彼は嘗ての乗機である赤い機体の方から目が離せずにいた。

 シロウズは、口元に運んだチューブパックを握る手に、力が入りそうになるのを押さえ、モニターに映る赤い機体を操っているであろう人物を思い出していた。

 モニターの中で、赤いガンダムが急旋回し、敵機の懐に滑り込む。

 その動きは、嘗て自分とシャリア・ブルの二人で編み出した必勝の戦術、マブ戦術の本質を踏襲していて、敵の機体はなすすべなく首を刎ねられていた。

 

 記憶の中の“少年”は、自分が向こう側に迷い込んだ際に、初めて出会った人間だった。

 ガンダムのコックピットから降り、自分の置かれた状況を理解しようと、思考をめぐらせていた際に、突然背後に現れ。

「この世界の貴方はもういない。僕は、貴方を失ったことで壊れてしまった彼女の心を取り戻したいと思っている。僕は貴方がいた世界に行かなければならないんだ。このモビルスーツもそう言っている。」

 シャアは、突然現れた少年の言葉に戸惑いながらも、努めて表情を変えずに少年に問いただした。

「貴様は誰だ。突然現れて、何故私にそのような話をするのだ。」

「僕は彼女の意思を守りたい。貴方はララァを探して。貴方が全てを理解出来るのは、その後だから。」

 

 あの少年が残した言葉が今も耳に残る。

 向こう側で、少年の言ったララァという少女に出会うことは叶わなかった。

 しかし、それで良いとも思えるのだ。

 画面に映る赤い機体が、自分の中の疑念を肯定しているかのように感じる。

「私が導かれるだけの男だとでも言いたいようだな…。」

 

 先ほど見た図面の一角が、ふと脳裏をよぎる。

 他の部分とは明らかに密度の異なる、妙に簡素な空白。

 そこに据えられた“遺物”と呼ぶべきキーデバイス。

 アルファサイコミュを相殺するための、もう一つの鏡。

 

 画面の中で揺れる赤い機体の軌跡が、彼の進むべき道を静かに指し示す道標のようで、あるいは踏み入ってはならないと拒絶しているかのようで、人工の大地の足元に広がる宇宙の闇が、彼自身の内面に口を開けた深淵を現しているかのようだった。

 




最後までお読みいただきありがとうございます。
示されたものが、やがて趨勢となる回でした。
次回もよろしくお願いします。
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