機動戦士ガンダムGQuuuuuuX SIDE AMURO ~少年が見た戦争~   作:すずき 虎々

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第二話 逃避

第2話 逃避

 

 連邦製の白いモビルスーツは、まるで眠っていた人が起き上がるかのように上半身を起こし、右足を地面に下ろすと、極めて自然な挙動で立ち上がった。

 大地に立つ連邦のモビルスーツは、宇宙船ターミナルに侵攻するジオンのザクと交戦するどころか、そのザクと協力して、赤いザクを運び出そうとしていた。

 

「連邦は何をやっているんだ。新型を奪われたのか。」

 

 新型とザクは、赤いザクを抱えたまま、宇宙船ドックの中に入ろうと移動を始めた直後、奥のドックから別の連邦製モビルスーツが現れ、肩部に装着されたキャノン砲を発射する。

 機体の流出を防ごうと、連邦の新型に向けられて発射されたであろう、ビームキャノンの弾道はわずかに逸れ、稼働中のザクと新型の間で抱えられている赤いザクの左肩にあるショルダーアーマーの辺りに着弾し、そのまま貫通して、自重に耐えられなくなった赤いザクの左腕が、地面に落ちる。

 少年は一連の戦闘を見ていた。

 赤いザクにビームが着弾する直前に、連邦の新型が、わずかに左方向に体をそらし、その後、赤いザクの左腕が地面に落ちる前に、既に前方へとジャンプして、ビームキャノンを放ったモビルスーツとの距離を詰め、背面に装備されたビームサーベルを抜いて、敵モビルスーツの腹部にあたるコックピット周辺を、熱核反応炉に誘爆しない最適な出力に調整したビーム刃で貫き、モビルスーツのパイロットをピンポイントで殺害した、その一連の流れるような動きを。

 少年は、当初逃げようと思っていた方向とは逆に向かって走り出した。何か考えがあっての行動ではなく、気が付いたら車をサイドスピンさせて、川沿いの道路を勢いよく突き進んでいた。道中、エレカを走らせながら、何度か爆発音や、爆風などにハンドルを取られそうになったり、腕で顔を覆って爆発の破片を防いだりと、身の危険を感じながらも、ただひたすらにエレカを走らせた。

 川はコロニーを縦断するように真直ぐにつながっている。このまま北に向かって走ると軍事施設の西側の駐車場にたどり着ける。たどり着いた先で何をしようと考えたわけでもなく、只々衝動的にエレカを走らせたのだった。

 

 駐車場にたどり着くと、先程の戦闘でコックピットを貫かれたモビルスーツが、人間が両膝をついて立ち膝をしているような姿勢で停止していて、まるで絶望の中、項垂れているかのように見えた。

 周囲には、其処彼処から火の手が上がり、戦闘の衝撃の凄まじさを物語っている。少年は一番近いシェルターを目指し、駐車場の奥でエレカを乗り捨てると、脇にハロを抱えてフェンスを飛び越え、貨物搬入口へと続く巨大なエスカレーター状のリフトがある丘の麓、第17シェルターを目指すが、遠目からでもランプが赤く点灯し、エアロックがかかっているのがわかる。少年は『あそこはもうダメだ。』と、そのまま方向をモビルスーツが立ち膝をしている方へと転換し、走り続ける。

 すると、次の瞬間、一瞬轟音が鳴り響いたと思った途端、世界から重力と音が消えた。

 少年の背後、まさに先程まで目指していたシェルター付近で、ビームの眩い光が、巨大な柱となり、周囲の温度を急激に上昇させ、辺り一面を蒸発させる。

 その衝撃で少年の身体は宙に跳ね上げられると同時に、その轟音は少年の聴覚を一瞬にして奪い去る。

 少年は、ビームの衝撃によって、かなり上空まで吹き飛ばされたが、幸運なことに、ビーム射撃を受けたコロニーの回転運動が一時停止したことによって、疑似的に発生している重力が緩和し、致命的な傷を負うことを免れたのだった。

 ハロを抱えたまま転がり続けた少年の動きを強制的に停止させたのは、赤く塗られた金属の壁だった。

 少年は、吹き飛ばされながらも、必死に顎を引いて頭部を守る努力をしていたせいか、意識を奪われることはなかったが、体中のあちらこちらが痛みで悲鳴を上げていた。

 何とか立ち上がった少年の目の前に聳え立つのは、まさに赤い壁だった。『これは、そうか、さっきの赤いザク!』少年は、目の前の赤い壁が、先ほど見た左腕を失った赤いザクだと認識すると、無意識にその胴体に這うように接続されたパイプをよじ登った。

 やっとの思いでコックピットまでたどり着くと、モニターやコンソールには明かりが灯っており、動力が失われていないことが見て取れた。

 

「コイツ、動くぞ。」

 

 思わず独り言ちた少年は、背後で人の気配を感じ、振り返ると、立ち膝の状態で稼働停止しているモビルスーツの前に、銃を構えてはいるものの、満身創痍でボロボロになった連邦の士官服を着た女性がこちらを向いて立っていた。

 

「そこの貴方、そこで何をしているの。今すぐ降りなさい。」

 

 少年は、手を上げて素直に投降するかのような素振を見せ、連邦の女性士官を油断させると、そのままザクのコックピットに滑り込んだ。

 直後、女性の「なっ!」という声とともに、銃声が響くが、その時は既にザクのコックピットの中にいた少年に、当然怪我などない。

 少年は、ザクのコックピットに座り、両サイドのコンソールに両腕を預け、コントロールヨークを握りしめる。正面のモニターに映し出されたガイドに従い、コックピットハッチを閉じると、改めてモニターを凝視する。

 

「凄いな、3倍のエネルギーゲインだ。やれるか。」

 

 少年は、セリフとは裏腹に、コントロールヨークとフットペダルを巧みに操作し、赤いザクを立ち上がらせることに成功する。

 

「思ったより動きがピーキーだな。無理やりゲインをあげるから。これじゃ動かせる人間が限られるじゃないか。」

 

 少年は愚痴をこぼし乍らも正面のコックピットハッチ裏に設置された大型モニターを切り替えて、周囲を確認する。

 先ほど発砲してきた女性士官も既に退避したのを見届けると、少年は内心で『それで良い。』と思い、「モビルスーツと人間じゃ喧嘩にもなりゃしない。」とつぶやいたのだった。

 すると、今まで大人しかったハロが、何かを感じたのか突然騒ぎ出した。

 

「アムロ、どうする。アムロ、どうする。」

 

 少年は、漠然としたハロの問いかけに、答えを口に出すことで、冷静さを取り戻そうとした。

 

「どうするって言われても、救助を待とうにも、救難信号すら出てないんじゃないのか。コイツで避難するにしても、一番近いのは連邦の軍事施設だろうし、だいたいそこまで推進剤が持つとも思えないな。」

 

 少年は、しばし黙り込んで思案するが、考えがまとまる気配もないので、思考を放棄して行動を感情に委ねてみることにした。

 

「一度外に出てみるか。」

 

 少年は、コロニーの外に出るために、モビルスーツを操縦し、貨物搬出入口を目指したのだった。

 

 




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