機動戦士ガンダムGQuuuuuuX SIDE AMURO ~少年が見た戦争~ 作:すずき 虎々
読んでくださる皆さんに、楽しんでいただければと思います。
第二十話 隕石落とし
宇宙世紀0093年3月3日
艦橋の全面を覆う強化ガラスから見えるのは、大気との摩擦によって焼灼する“フィフス・ルナ”が焔尾を引く様だった。
嘗ての資源採掘用隕石は、その役目を終え、宇宙を漂うだけだったはずが、再び核パルスエンジンに火が灯る。
レウルーラのオペレーターが緊張感のある声色で報告する。
「フィフス、進入角度良好、速度良好、安定軌道に乗りました。」
「シャア大佐の所在は?」
レウルーラ艦長のドレン大佐が、オペレーターに尋ねる。
「は、ナイチンゲールです」
「大佐、キャラ・スーンの宙域が膠着状態です。援護の必要を認めますが?」
橙色のパイロットスーツに身を包んだ男が即座に答える。
「フィフス・ルナの投入は終わったのだ。総員引き上げの指示を出せ。」
「出してはおりますが、モビルスーツの後退の為に、ミノフスキー粒子を散布しての電波攪乱が困難となっております。」
「その分キャラが危険か。よし。キャラのサイコ・ドーガを援護、回収する」
シャア・アズナブルが搭乗する、赤く、巨大な機体を固定するワイヤーの緊度が増し、スカートやファンネルコンテナを兼ねたバインダーに装備されたスラスターが最大出力を示す。
「ナイチンゲール出ます、ナイチンゲール発進」
レウルーラの、モビルスーツデッキのマーシャラーが、ルミナマーシャリングワンドの発光をグリーンに灯した瞬間、ナイチンゲールを固定していたワイヤーがパージされ、赤い巨体が勢いよく宇宙に飛び出して行く。
艶やかなピーコックブルーに塗られたザクⅢが、ブラッディオレンジのサイコ・ドーガをあしらいながら、しかし、じわじわと追い詰めるように間合いを詰めていく。
「このフィフスを、地球に落ちるのを阻止できなかったとは……。」
「シャリア・ブル中将、敵の新手です。」
「まだ援護がいた?シャア大佐か。」
「大佐!?くっ!?うぅっ…。機雷が仕掛けてあったのか?ミノフスキー粒子が薄くなっているじゃないか。」
キャラは自分のサイコ・ドーガに伝わる、爆発の振動を受け、顔を歪めて吐き捨てた。
シャリア・ブルのザクⅢが、ナイチンゲールとサイコ・ドーガの退路を塞ぐように回り込み、グレネード・ランチャーと腰部三連装ミサイルポッドで弾幕を形成する。
「なんでこんな物を地球に落とすのですか。これでは地球が寒冷化を引き起こして、生物が住む環境ではなくなってしまいますよ。」
「地球に住む者は、自分たちの事しか考えていない、だから抹殺すると宣言した。」
シャアのナイチンゲールが、巨大なビームライフルの銃口をシャリア・ブルに向けると、三点バーストのビーム射撃をリズムよく撃ち込む。
そのビーム射撃を旋回しながら回避するザクⅢだったが、退路を塞ごうとして距離を詰めたはずの場所からは、遠ざけられてしまう。
「人が人に罰を与えるなどという考えは、傲慢というものなのではないですか。」
「私、シャア・アズナブルが粛清しようというのだ、シャリア・ブル!」
ポジションの入れ替えに成功したシャアのナイチンゲールとサイコ・ドーガ、シャアはさらなる追撃の射撃を撃ち込んだ。
「貴方の欠点は、これだけの事をしてなお、満足できないところだ。」
「まるで、この後私が何をするのか、見てきたような物言いだな。」
「やはり、あの時、貴方を仕留められなかったことが悔やまれます。」
ナイチンゲールの射撃を難なく回避して見せるザクⅢだったが、回避をすることで、更に距離を開けられてしまう。
「地球はもうもたんのだ、それを知らしめる必要があると言っているのだ。そんなモビルスーツで何が出来る!」
シャアは、射撃のモードを切り替え、砲身の奥で赤熱したエネルギーが、加速度的に膨れ上がり、周囲の空間が歪んでいるのかと錯覚するほどの、特大の一撃をお見舞いした。
シャリア・ブルは、その圧倒的なビームの束を回避することに成功することこそ出来たものの、旧式の機体の限界が、回避してなお、焼かれた左の脚部に現れていた。
コックピットの中で、離れてゆくシャアのナイチンゲールを眺めることしかできない事に、苛立ちを覚え、それを隠そうともせずに、無言でコンソールを殴打するシャリア・ブル。
「大佐、なんでファンネルを使わないんですか?大佐、私にかまわずに。」
「キャラ、引くぞ、ハマーンはもう帰還しているぞ。」
「お姉ちゃん!?あ、大丈夫です、一人でも行けます。」
「無理だ、外から見るとわかる。よくフィフス・ルナの核ノズルを守ってくれた。偉いぞ、キャラ。」
「お姉ちゃんに褒めてもらえるかな。」
「あぁ、褒めてもらえるさ。」
ジオン公国宇宙軍第一艦隊旗艦ドロス級空母“ゼネラルドズル”
巨大な宇宙空母のモビルスーツデッキは、一つや二つではない。
よって、この男が帰投したシャリアの元に訪れたのも、偶然というわけではなかった。
「閣下、申し訳ありません、我々が束になってかかっても、アクシズのテロリスト共には歯が立ちませんでした。核エンジンのノズルの破壊一つ満足にこなせぬとあっては…。忸怩たる思いであります。」
「貴方のせいではありませんよ、ガトー中佐。マツナガ隊も、私だって出ていたのです。そして、手をこまねいていたのは私も同じです。」
「次の一手は、アクシズはどう出るつもりなのでしょうか。」
「フィフスルナを落としたとて、地球が完全に寒冷化するわけではありません。となれば、恐らくシャアはまだ何かを隠しているはずです。それに、私の所ではキャラ・スーン、貴方の所は、ハマーン・カーン、マツナガ隊からはララァ・スンが出てきたとの報告を受けています。となると、シャアの懐刀であるアムロ・レイはいったいどこにいたのか、ということにはなりませんか?」
「まさか、これ以上の戦力増強など、ありえるのでしょうか。」
「相手はあのアムロ・レイです。クアックスやジフレドの開発は、彼の功績と言っても過言ではない。となれば、考えられるのはただ一つ。月です。」
「閣下はこれから、どうなさるおつもりで。」
「私は艦隊とは別行動をとります。デラーズ大将にはその旨伝えておいてください。」
「では、私も御供を。」
「いえ、シャアがこのまま、大人しくしているとも限りませんので、貴方はマツナガ大佐やライデン大佐と共に、艦隊の護衛に当たってください。私はイグザベ大尉を連れて行きます。本国のラル元帥には私から直接報告しておきます。」
「畏まりました。道中お気をつけて。」
月の裏側は、陽光の届かぬ灰色の闇に沈んでいた。
その闇に向かう、一隻の使い込まれた強襲揚陸艦が、灯りを消したまま滑るように進んでいく。
まるで、何かを隠すように、 あるいは、何かに呼ばれるように。 宇宙は静かだったが、その静けさの奥で、確かに何かが動き始めていた。
その気配は、誰にも気づかれず、しかし、確実に、次の戦いへと誘う潮流に満ちていた。
最後までお読みいただきありがとうございます。
いよいよ最終章幕開けですが、これからは展開が早いと思いますので、どうか最後までお付き合いいただけますよう、よろしくお願いします。