機動戦士ガンダムGQuuuuuuX SIDE AMURO ~少年が見た戦争~ 作:すずき 虎々
静かな会議の場で、それぞれの立場が大きく分かれ始める回になります。
第23話 A.I.L.A[Axis Independent Liberty Army]
ミーティングルームに集まった面々の顔は、一様に重かった。
フィフス・ルナ投下作戦の成功から数日、アクシズの首脳部が一堂に会するのは、これが初めてだった。
マハラジャが口を開く前に、ハマーンが立ち上がった。
「地球の人口は、現在もなお増加し続けています。」
静かな声だった。
しかし、その場の空気が、張り詰めていくのがわかる。
「スペースノイドへの資源依存も、戦後も何ら変わっていない。穏やかな治世は、問題を先送りにするだけです。」
誰も口を挟まない。
「アクシズの質量は、試算では——地球の環境を、根本から変えるに足るものです。」
ララァの脳裏に、昨夜の深い赤の液面に映る、シャアの表情が蘇る。
あの時、シャアが語ったのは何だったのか。
自分への信頼と受取ることで、肯定も否定もしなかった。
しかし、あれは、信頼などではなく、今日、ここで自分以外の口から語らせるための、単なる布石だったのか。
彼女は、隣にいるアムロが怒りで震えるのを目の当たりにして、唯一の人間らしい体温を感じていた。
「アクシズを、落とすということですか。」
重い沈黙を破り、震える声でアムロが言った。
その問いは鋭い礫となって座に投じられたが、シャアは動じない。
むしろ、その言葉を待っていたかのように、彼はゆっくりと椅子から立ち上がった。
ララァは、握り合わせる手に力を込めた。
ハマーンの語った「資源依存」も「先送り」という言葉も、昨夜、シャアが真っ赤なワインを揺らしながら囁いた言葉と、寸分違わない。
『大佐……なぜ、彼女も同じことを知っているのです……?』
共有していたはずの熱が、ハマーンという冷徹な他者の口を通ることで、急速に凍りついていくのを感じていた。
「そうだ、アムロ。ハマーンが言った通り、もはや猶予はないのだよ。」
シャアは、自分の言葉を正しく話すハマーンの「有能さ」にわずかな笑みを浮かべながら、一同を見渡した。
「諸君、ミーティングを進めていく前に、一つ伝えておくことがある。今後、我々は、A.I.L.A(アイラ)と名乗り、かつてキシリアが世界を欺いたイオマグヌッソのようなまがい物ではなく、真に地球を護るための歩みを始める。」
「ふざけるな!」
アムロの椅子が激しく音を立てて転がる。
その瞳には、かつてないほどの怒りが宿っている。
「アイラだと?貴方は、聞こえのいい名前を掲げて、数えきれない程の人間を殺すことを、ただの事務作業のように言うのか!」
だが、シャアの視線は冷ややかだった。
アムロの背後にいる、動揺を隠せないララァを一度だけ盗み見ると、彼はより残酷な、宗教的とも言える宣告を紡ぎ出した。
「アルテイシアの治世は確かに穏やかだ。だが、それは死にゆく母の枕元で、安らかな眠りを祈るだけの気休めに過ぎない。それではもう地球が持たんところまで来ているのだよ。我々がこれから地球に落とすのは、ただの石塊ではない。それは、人類がこれまでに犯した傲慢への『業』だ。」
「業だと……?これは、そんな聞こえの良い言葉で包み隠し切れることなんかじゃない、人が大勢死ぬんだ!一人の独善的な妄想に付き合わされて、殺される人間の身にもなってみてくれ。」
「数多の命が消え、大地は凍てつき、生き残った者たちも天変地異の地獄を彷徨うことになるだろう。だが、その絶望と苦しみこそが、重力に魂を引かれた者たちに許された唯一の『贖罪』なのだ。人は、自らの血を流し、凍える夜を越えて初めて、星の一部であったことを思い知る。この苛烈な清算こそが、人類を真の革新へと導くのだ。」
シャアはそこでいったん言葉を切り、怒りに震えるアムロに、慈悲すら感じさせる微笑みを向けた。
「救済とは、常に痛みを伴うものだ。アムロ、君にはまだ、この静かな怒りが理解できないようだがな。」
「これ以上地球に人間が住めなくなる。貴方のしていることはエゴだとは思わないのか。」
シャアは、アムロの言葉を受けても、表情一つ変えなかった。
「アムロ、君が今言った言葉こそが、正しい解釈だということだ。」
「……何?」
「人が住めなくなる環境を整えること、それこそが我々の目的だ。地球という揺り籠から、人類を解放する為にな。」
「解放?それを解放と呼ぶのか。」
「地球に依存し続ける限り、人類は進化しない。スペースノイドでさえ、地球という幻想を捨てきれずにいる。ならば、その幻想ごと終わらせるほかあるまい。」
アムロは言葉を詰まらせた。
論理としては理解できる。
しかし、その論理の先にある現実が、どうしても受け入れられない。
シャアは続ける。
「君がエゴだと吐き捨てる気持ちは正しいのだろう。しかし、エゴなき革命など存在しない。それは歴史が証明している。」
会議室に沈黙が落ちた。
アムロは、反論の言葉を探したが、見つからなかった。
いや、何を言ったところで、考えを変える気などないことを、理解していた。
アムロは一度周囲を見回す。
そして、そのまま出口に向かって歩き出そうとした。
すると、ハマーンが立ち上がり、その怜悧な瞳でアムロを射抜き「待ちなさい!」と叫んだ。
「アムロ・レイ、あなたが抱いているのは、幼稚なインテリの感傷に過ぎません。私たちが議論しているのは、人類という種の存続です。個人の倫理で測れる規模の話ではありません。」
シャアがそれに頷き、満足気な表情でアムロを見る。
その優雅な動作が、アムロには耐え難い侮蔑に見えた。
「そうだ。エゴとエゴがぶつかり合う地上の喧騒を離れ、我らA.I.L.A(アイラ)は、インテリゲンチャとして歴史に審判を下す。わからないことはないだろう? この痛みこそが……。」
その瞬間、アムロの中で、何かが音を立てて千切れた。
目の前の男たちが語る「大義」や「計算」の影で、今この瞬間も地球で息づいている何十億という「体温」が、単なる数字として処理されていく。
その傲慢な選民思想。
そして、慈愛を語ったその口で、虐殺を肯定するシャアの二面性。
場が凍り付くほどの勢いで、アムロはテーブルを叩いた。
「付き合っていられるか。俺はインテリゲンチャになるつもりもなければ、人類に絶望もしちゃいない。この件から手を引かせてもらう。」
そう言い捨てると、アムロは扉を開けて部屋を出ようとする。
ハマーンは「アムロ・レイ!」と叫び、アムロを呼び止めようとする。
しかし、シャアは、右手を挙げてハマーンを制すると、一言「構わん。」とだけ言った。
ララァは、離れた場所に座り、握り合わせた手の甲から血が滲んでいることにも気づかずに、二人のやり取りを黙って見届けていた。
『大佐、貴方は何をしても、この道を選んでしまうのですね…。』
最後までお読みいただきありがとうございます。
同じ言葉を聞きながら、見ている未来が異なる者たちの断絶。
ここから物語が動きだします。