機動戦士ガンダムGQuuuuuuX SIDE AMURO ~少年が見た戦争~   作:すずき 虎々

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たくさんの作品の中から見つけてくださり、ありがとうございます。
この章では、アムロが歩んできた過去と、これから向かう未来が静かに交差します。
記憶の濁りの奥で揺れ始めるもの、その気配が、物語を次の段階へ誘います。


第二十六話 再会

月面都市イーストキャピタル

 

 アムロ達三人は、拠点として使っていた建設機械工場に帰還した。しかし、シャア率いるアクシズの勢力に対して、明確に敵対的行動をとった以上、ここをこのまま拠点として使うわけにもいかない。かといって、母艦もない状態でのモビルスーツの運用など、現実的ではないと、今後の見通しが立たず、ただ途方に暮れるしかなかった。

 マチュとニャアンは「考えてもわからないことは考えない!」と言って、食事に行こうと立ち上がったその時。三人しかいないはずの格納庫内に、聞き慣れない声が響いた。

 

「建機工場とは考えたわね、こんなところを隠れ蓑にするなんて。フォン・ブラウンと目と鼻の先じゃないの。」

 

 不意を突かれた形となったアムロが、振り向きざまに「誰だ!?」と言い放つ。

 

「今のあなた達にとっては、救世主みたいなものなんじゃないかしら。久しぶりねマチュ、元気そうで何よりだわ。」

 

「コモリン!なんで?」

 

 アマテの視線の先には、嘗てソドンで何かと世話を焼いてくれていた、コモリ・ハーコートが立っていた。

 

「あなた達を拾ってくるようにと、シャリア・ブル中将から仰せつかったのよ。あと、こちらの方をアムロ・レイ大尉のところにお連れするようにともね。」

 

 コモリ・ハーコートは、そう言って、左に半歩よけると、その背後から、豪奢な装飾のなされた将官用の軍服に身を包んだ美しい女性が現れた。

 その女性の姿を見た途端、アムロは辛そうに顔を歪め、こめかみを抑えて蹲ってしまった。

 

「久しぶりだなアムロ大尉。といっても、貴様は今、記憶がないんだったな。」

 

 確かに記憶はない。

 しかし、アムロは直感でこの女性を知っていると感じていた。

 

「貴女は、う、うぅ…。僕は、貴女を知っている…?」

 

 すると、その女性は、アムロの方に向かってゆっくりと歩き出した。

 そして、辛そうに顔を歪めるアムロの眼前まで来ると、その頭をそっと抱き寄せた。

 

「すまなかった。苦しかっただろうに。それでも、よく帰ってきた…。」

 

 女性の目からは涙が零れていた。

 アムロは、辛い記憶を刺激されながらも、女性の抱擁を拒めずに、やはりその瞳からは涙があふれ、月の優しい重力に引かれてゆっくりと零れ落ちていた。

 記憶の濁りに阻まれ乍らも、時は静かに流れる。

 

「あのぉ…。」

 

 その静かな再会の空気を破って、アマテが口を開く。

 

「感動の再会?のなか申し訳ないんだけど、こちらはどなた?っていうか、コモリンしれっと登場してるけど、私達がここにいること、どうやって知ったの?」

 

「あなた達が去った方角と、モビルスーツが単体で移動できる距離を考えれば、彼らの拠点は月でしょう。イーストキャピタル辺りは、工業区画もあって丁度良いでしょうね。貴女なら見つけられるでしょう。」

 

 コモリ・ハーコートは、突然誰かの口調をまねているかのように話し出した。

 

「ヒゲマンか…。」

 

「正解。中将閣下はこのイーストキャピタルに、どれだけの工場があるのかご存じないようで、相変わらずの無茶ぶりっぷりを発揮なさっておいでのようよ。そして、こちらは…。」

 

 コモリがアムロを抱きしめる女性を紹介しようとすると、その女性が自ら口を開いた。

 

「私はイザベラ・アービング。現在はジオン公国宇宙軍作戦参謀本部直轄の戦時物資情報統括官を任されている。」

 

「肩書が長いということは、とてもお偉いお方だったりなさりまされますか?」

 

「そうだな、アムロが大尉だから、その四つ上の階級と言えばわかりやすいか?」

 

「あぁ、なんとなく、とんでもないことはわかりました。でも、そんなとんでもない方が、天パとはどういったお知り合いで?」

 

「天パ?あぁ、コレか、なかなかひどい言われようだな。」

 

 イザベラは笑みを浮かべながら、アムロの髪を撫でた。

 

「この男は、とても優秀なエンジニアでな、今お前たちが乗っているモビルスーツは、この男、アムロ・レイが居なければ、おそらく存在してはいないだろう。ジオンの技術だって数年は遅れていたはずだ。そして、私は、そんなアムロの才能にほれ込んだ私の嘗ての上司と、この男との間にいたことがあってな。」

 

「それって、もしかして…。」

 

「そうだ、私の嘗ての上司とは、旧ジオン公国総帥ギレン・ザビ閣下だ。お前の嘗ての上司とは浅からぬ因縁を持ったお方だよ。そのせいで、アムロはこんな目に…。」

 

 ニャアンは表情を強張らせたまま、何も言い返すことが出来ずにいた。

 そんなニャアンの気持ちを知ってか、イザベラは柔らかい表情のまま続ける。

 

「何もお前を攻めているつもりはないさ。お前だって、見方を変えればキシリア閣下の被害者と言えなくもあるまい。」

 

「そ、それは…。」

 

「今となっては、お二人とももう、この世にはいない。この男を前に、過ぎたこととは言えないが、囚われることの愚かしさくらい、理解出来るのだろう?」

 

「は、はい…。」

 

 イザベラは、アムロを抱きしめていた両手をそっと肩に移すと、真っすぐにアムロを見つめて話し始めた。

 

「さて、今日私がここに来たのは、貴様との再会を懐かしむためではない。シャリア・ブル中将から聞いた話では、貴様達はシャアの陣営に敵対しているのであろう?ならば私達に力を貸してはくれまいか。貴様達がジオンに対して思うことがあるのは私も理解しているつもりだが、だからといってシャアの蛮行を指をくわえて見ているわけにもいかないのだ。そして、ヤツらに対抗出来る戦力は、我々ジオンにはシャリア・ブル中将を除いて存在しないのだ。しかし、貴様達が手を貸してくれるのであれば、あるいはシャアの反乱を食い止めることが出来るやもしれん。」

 

 アムロはイザベラに握りしめられた肩に、自分の手を重ね、涙を拭うこともせずに口を開いた。

 

「貴女の言っていることはわかります。そして、大佐がこのまま終わらないということも。ですが、僕達をジオンの正規軍に編成したいと言うならお断りします。正直な話、僕達とジオンの正規軍の足並みがそろうとは思えません。ですが、大佐を、シャアを止めたいと思っているのも事実です。なので、僕達に母艦となる艦を貸してもらえませんか。」

 

「ふっ、はははははははははははははは。」

 

 イザベラはアムロの肩から手を離すと、そのまま自分の口と腹を抑えて笑い出した。

 その姿を怪訝な顔で眺めながら、アムロが「なんです?」と尋ねる。

 しかし、イザベラは、こみ上げる気持ちを抑えられずに、しばらく笑っていたが、やがて落ち着いた様子で話し始めた。

 

「いや、すまない。あまりにもシャリア・ブル中将の言った通りの反応を見せるのでな。コモリ中尉、貴様の上司は本当に恐ろしい男だな。」

 

「まったくもって、准将閣下のおっしゃるとおりです。それに人使いの粗さも超一流ですので、内勤への移動を嘆願しようかと画策したくなるほどであります。」

 

「はははっ、そうか、私の所で良ければ、いつでも歓迎するぞ。」

 

「ありがとうございます。」

 

「アムロ大尉、貴様に預けたいものがある。外へ出てみろ。」

 

 アムロ達は、イザベラに促されるまま、工場の外へと移動した。

 外に出ると、イザベラがアムロ達の背後を見ながら、顎で上空を見るように促すようなしぐさをした。

 アムロ達は、言われるままに後ろを振り返って、上空を見上げた。

 すると、そこには、嘗てアムロが住んでいたサイド7で、シャアに強奪された連邦製の戦艦が、遥か上空で停泊していた。

 

「あれを使うと良い。一年戦争当時のものとは言え、まだまだ現役だ。カタパルトの性能では、貴様がかつて乗っていたチベ改級のグリムアーチよりもずっと良いと聞くぞ。」

 

「うわぁ、懐かしい。あの艦で監禁されてたんだよ私、ね、コモリン!」

 

「そうね、どうしたら、こんな生意気な子共に育つのか、親の顔が見たいと思ったものだわ。」

 

「あはははは、マチュは思ったことが口に出るタイプだったもんね、まぁ、今も変わらないけど。」

 

「ちょっと、二人とも、ひどくない?」

 

「「あはははははははは。」」

 

女三人の姦しさをよそに、イザベラがアムロに向かって、静かに口を開いた。

 

「貴様らに、あの艦、ソドンを与える。当然クルー付きでな。もちろん、補給も面倒を見る。そして、我々正規軍とは完全に独立した行動を認める。艦長は、そこのコモリ中尉が務める。あと、クルーの中には、懐かしい顔も加えておいたから、会ったら挨拶くらいはしてやるのだぞ。」

 

 アムロは何も答えずに、静かに浮かぶ艦を見上げていた。

 

 

 アムロ達三人は、早速モビルスーツをソドンに移動させることにした。

 アマテがコモリを、アムロがイザベラをそれぞれのコックピットに乗せ、イーストキャピタル上空で停泊するソドンへ向うと、後部ハッチが開き、ガイドビーコンが照射される。

 アマテとニャアンに続き、アムロもHi-νガンダムを巧みに操り、モビルスーツハンガーへと機体を移動させた。

 アムロは、デッキへ降りようと、キャットウォークを歩いていると、背後から激しい気配を感じた。

 振り返ると、反応する間もなく、「大尉~!」という声が聞こえるのと同時に、腹の辺りに体当たりをくらい、思わず声が出てしまう。

 

「メリル。」

 

「そうです、メリルです!今までどこに行ってたんですか、もう~~~!!!」

 

 アムロの服は、このメリルという女性の涙と鼻水で、すでにぐちゃぐちゃになっていた。

 

「すみません、確かに今、僕は貴女をメリルと呼んだけど、貴女は僕の事を知っている?」

 

「え?」

 

 信じられないと言った表情でアムロを見上げるメリルだったが、アムロの背後から聞こえる声に我を取り戻した。

 

「前にも言ったが、大尉は記憶を失っている。今はそっとしておいてやってくれ。」

 

「イザベラ准将…。そ、そうですね、大尉は少しお休みしているんですよね。いつかまた、前みたいに一緒に研究出来ますよね。」

 

「あぁ、だから、貴様も支えてやるのだ。ひどい顔になってるぞ。化粧を直してこい。」

 

「はい、じゃあ大尉、また後で、積もる話がたっぷりありますから、付き合ってもらいますよ!」

 

 メリルは、言いたいことだけ言うと、そそくさと去って行った。

 

 アムロは、歩きながらぼんやりと考える。

 

『このイザベラという人のことも、今のメリルという女性も、俺は知っているような気がする。そして、この艦に着艦した時も、初めて見る艦とは思えなかった。きっと知っているのだろう。それと、今日の戦闘の時のあの感覚、あれはなんだったんだ。核ノズルが破壊された、とわかった瞬間のことだ。誰かから通信が入ったわけではなかった。あのミノフスキー粒子濃度では、敵の通信を傍受などすることは出来ない。それでも理解出来てしまった。まるで、宙域全体の状態が、自分の頭の中に直接投影されるような感覚。アクシズが沈黙した瞬間、それが波紋のように伝わってきた。俺はいつから、こんなことが出来るようになった?戦場でも敵の殺意が、肌で感じるようにわかる。仲間の動きも見えている。宙域全体の状態が、まるでいくつものモニターに映し出されている映像でも見ているかのように伝わってきた。』

 

「ニュータイプ、なんて…。」

 

 アムロは静かに独り言ちた。

 

 かつてギレンに言ったことがある。人が宇宙に出てまだ数十年、世代にして三世代目では、人類の革新を期待するにしても尚早だと。

その言葉は今も正しいと思っている。

 自分はニュータイプなどではない。

 ただ、何かに近づいているのかもしれない、という感覚はある。

 いや、近づいている、というより、何かが自分を引っ張っているような。

 

「うぅ……。」

 

 名前を思い出そうとすると、胸の奥でざらつきのようなものが広がる。

 しかし、今日は不思議と、その痛みの奥に、温かい何かを感じた。

 まるで、誰かがそこにいるような。

 まるで、導いてくれているような。

 伸ばした手を誰かが引いてくれるような。

 

 背後に佇むHi-νガンダムのサイコフレームが、一度だけ、大きく脈打つように光った。

 

 誰もその光を見ることはなかった。

 

 




最後までお読みいただきありがとうございます。
過去の縁、失われた記憶、そして言葉にならない感覚。
それらがひとつに収束し始めた時、アムロは“覚醒の入口”に立ちます。
次の章では、その揺らぎがさらに深い意味を帯びていきます。
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