機動戦士ガンダムGQuuuuuuX SIDE AMURO ~少年が見た戦争~ 作:すずき 虎々
第27話「束の間」をお届けします。
第27話 束の間
アクシズ旗艦レウルーラ ブリッジ
アクシズ降下作戦の失敗から、数日が経過していた。
シャアは腕を組んだまま、眼下に広がる地球を見下ろしていた。
「大佐、キュベール博士から入電。」
オペレーターの声に、シャアは振り返ることなく答える。
「繋いでくれ。」
シャアが座るキャプテンシートの前にエアリアルモニターが展開され、白衣に身を包んだ壮年の男が現れる。
「大佐、キュベレイとα・アジールのテストが完了しました。サイコミュの同調テストも問題なく終了いたしました。先の作戦に間に合わせられていれば、違う結果となっていたのかと思うと、心苦しい限りです。申し訳ありません。」
「博士、気に病むことはない。サイコミュについては了解したが、α・アジールに搭載する予定だったIフィールドについてはどうなった。」
「そちらについても起動確認を完了し、最大出力での継戦時間もクリアしております。レウルーラの主砲を受けても、問題なく威力を拡散させることが出来ます。」
シャアの口元に、わずかな笑みが浮かんだ。
「間に合ったな。博士、良い知らせに感謝する。」
「はっ。もったいないお言葉、痛み入ります。」
エアリアルモニターに映るキュベール博士は、恭しく頭を下げた。
ブリッジの後方で、ハマーンが静かに口を開く。
「大佐、キュベレイは、誰が。」
シャアはハマーンの問に振り返ることなく答える。
「ハマーン、キュベレイは、君のために作らせた。」
「大佐、ありがとうございます。それと、もう一つ、アムロ・レイがジオンに拾われた件、このまま放置するおつもりですか。」
今度は振り返り、肩越しにハマーンを見据えて、シャアが口を開く。
「放置?いや、むしろ都合が良い。ヤツがジオンの庇護下に入ったというのなら、ジオンごと叩くまでだ。先の戦闘でもわかったはずだ、彼らには最早、我々と渡り合える兵などいない。軍事力の差が、決定的な戦力差と同義ではないという事を教えてやろうではないか。」
ハマーンはキャプテンシートの下まで出て、シャアを下から見上げる。
「アクシズは今、完全に押さえられています。奪還と制圧を同時に行うということですか。」
「流石だな、核ノズルを修復するには時間がかかるが、アクシズそのものはまだ使える。あの宙域を押さえておくことの意味はわかるな、ハマーン。」
ハマーンは何も口には出さなかったが、その表情が雄弁に語っているかのようだった。
ただ、ララァがビューイングポートのピラーに寄りかかり、静かに地球を見つめているのが見えた。
その横顔に、ハマーンは視線を向けたまま、動かなかった。
強襲揚陸艦ソドン 格納庫
Hi-νガンダムの整備に取り組んでいたメリルは、その構造や機体のコンセプト、革新的なサイコミュの使い方に圧倒され、工具を握る手に力が入っていることすら気づかずに、只々見入ってしまっていて、格納庫の入口に現れた人影にも気が付くことが出来なかった。
イザベラは、肩に提げた鞄一つという、現れた時と変わらない身軽な格好で、出発の準備を整えていた。
「あっ。准将閣下、え?もうお戻りになられるんですか。」
我に返ったメリルが工具を置いて、慌てて駆け寄る。
「私の仕事はここまでだ。あとはお前たちでやるのだろう。」
「そんな、もう少しいてくれても。」
「コモリ中尉の邪魔にはなりたくないからな。それに、私は文官だぞ、戦場になんてついて行っても、取り乱して、みっともない姿を晒すだけだ。」
そう言って、イザベラは格納庫を見渡すと、キャットウォークにいたアムロがこちらに気づき、イザベラのいるモビルスーツハンガーに向かって降りてくるのが見えた。
「大尉、見送りは不要だぞ。」
「そういうわけにはいきません。」
アムロはイザベラの前に立つと、しばらく二人は黙ったまま、お互いを見ていた。
「准将、一つ聞いても良いですか。」
「なんだ。」
「貴女は、僕のことを知っている。それは、記憶がない僕にでも伝わってきます。だから聞きたいのですが、僕は、良いエンジニアでしたか。」
イザベラは一瞬だけ目を細め、いたずらっぽく笑って口を開いた。
「最悪だったぞ。部屋は足の踏み場もなく、メールは無視、呼び出したところで、来たためしがない。」
「それは、なんというか、申し訳ない…。」
「だが。」
イザベラは優し気な表情で続けた。
「この宇宙に生きる人間の何人かは、貴様のおかげで今も生きている。それだけは覚えておけ。記憶は消えても、貴様がやってきたことは、消えてはいないのだからな。」
アムロは何も言えなかった。
そこへメリルが割り込んできた。
「そうですよ大尉、それに大尉の記憶がどうなってるかは知りませんが、ランチ奢ってくれるって約束だって、消えてはいないんですからね!」
「そう……なのか?」
「そうなんです!何年も待たせたんだから、それなりのものお願いしますよ!」
イザベラが小さく笑った。
「なら、今回の作戦が終わったら、三人で行くか。私も同席させてもらおう。」
メリルが目を丸くした。
「え、准将閣下も!?」
「まずいか?」
「い、いえ!光栄であります!」
アムロは二人のやりとりを見ながら、静かに口を開いた。
「帰ったら、必ず。」
イザベラはアムロをしばらく見つめると、小さく頷いた。
「それでいい。」
踵を返したイザベラの背中に、メリルが声をかけた。
「准将閣下、楽しみにしてますね!」
イザベラは振り返らず、ただ、右手をわずかに上げて、格納庫を出て行った。
その背中が見えなくなるまで、アムロはそこに立っていた。
その頃、アムロ達が知る由もなく、レウルーラをはじめとするアイラ艦隊は、アクシズが漂う宙域を目指し、静かに進路を変えていた。
最後までお読みいただきありがとうございます。
静かな回でしたが、物語は次へ進みます。
そして、次からはいよいよクライマックスです。
長年続いてきたニュータイプ論に、私なりの結論を出すつもりです。