機動戦士ガンダムGQuuuuuuX SIDE AMURO ~少年が見た戦争~ 作:すずき 虎々
第29話「Signs of Liberation」です。
29話 Signs of Liberation
「見つけた!」
Hi-νガンダムのサイコフレームが、より強く、深く、薄緑から、翡翠へと変わり、明滅する。
戦場の隅々までに至る情景が、まるで俯瞰で見渡せるかのように、アムロの中に流れ込む。
ナイチンゲールに斬りかかるザクⅢカスタム。
それを妨害しようと、ララァのα・アジールが優先サイコミュ式5連装メガ・アーム砲で牽制する。
回避に気を取られたシャリア・ブルに、ナイチンゲールのメガ・ビームライフルの一撃が襲い掛かるが、それをフロントアーマーから引き抜いたビームサーベルで弾いて相殺する。
全てわかった。
「シャリア・ブル中将、聞こえますか。」
「アムロ・レイ。来てくれたのですね。感謝します。」
「ナイチンゲールは俺が抑えます。」
「頼みます。」
多くを口に出さずとも、それだけで伝わる。
ガンダムのフレームに埋め込んだ、嘗てUNMと呼ばれた素材、サイコフレームが、周囲一帯の感覚をも増幅して行くのを感じる。
Hi-νガンダムが、ナイチンゲールに正面から対峙する。
「やはり、来たか。」
シャアの声は、静かだった。
「初めて貴様がザクに乗って私の前に現れた時、こうなる予感はあったのだ。」
「こんなこと、止めてください!人が人に罰を与えるなんて、傲慢だとは思いませんか。」
「地球に住む者は自分達の事しか考えていない。だから私、シャア・アズナブルが粛清すると宣言した。」
「そんなエゴを受け入れられるわけがない!そこでしか生きられない者にまで、背負わせることじゃない。突き合わされて殺される者の身にもなってくれ。」
「悠長な事を言っていられないくらいに、地球は持たん時が来ているのだ。」
ナイチンゲールのビームトマホークが閃き、Hi-νガンダムを上段から袈裟斬りにする。
アムロはそれを紙一重で躱し、頭部のバルカンで牽制しながら距離を取り、ビームライフルを返す。
シャアはナイチンゲールの巨躯を華麗に操縦し、無駄のない動きで回避する。
すると、シャリア・ブルと対峙していたはずのララァが、ファンネルでHi-νガンダムの背後を突いた。
しかし、アムロは完全なる死角からの攻撃であるにもかかわらず、それを難なく回避し、頭部バルカンでファンネルを撃ち落とした。
「ララァ、ヤツにかまうな。私がケリをつける。」
「大佐。彼は危険すぎます。」
「ヤツだけは、私がやらねばならんのだ!」
しかし、α・アジールはナイチンゲールの前に躍り出るとIフィールドを展開し、更に頭部の大口径メガ粒子砲と有線式のサイコミュ兵器である5連装メガ・アーム砲を放ち、周囲一帯をビームの光跡が埋め尽くし、一瞬の後には数多の青白い火球が咲いた。
「Iフィールドですか、あれは厄介ですね。」
常に冷静なシャリア・ブルが、苦虫をつぶしたような顔で呟いた。
「仕組みはわかってます。」
Hi-νガンダムの装甲の隙間から滲む翡翠の光が、一瞬その輝きを強めると、アムロは、Iフィールドジェネレータへと続く一筋の隙間を感じ取り、それ以外には存在しないタイミングで、シールドに内蔵されたミサイルランチャーを発射した。
その一瞬は、アムロにとって、スローモーションのムービーでも見るかのようで。
しかし、世界の刻は平等ではなく。
α・アジールの機体が大きく震え、Iフィールドは、消えた。
「ララァ!」
「大佐、大丈夫です。」
「下がれ。」
「大佐、私は。」
「いいから下がれ!サイコ・ドーガ隊をここに!」
シャアはナイチンゲールをα・アジールの前に滑り込ませた。
ララァが押しのけられる形で下がるが、それでも残りのファンネルを展開して、牽制を続けた。
宙域にファンネルと、ファンネルの放つビームの光跡が、宇宙の闇にキネティックアートを描く様に走る。
Hi-νガンダムのサイコフレームが応じるように光り、アムロのファンネルが迎撃する。
ララァのファンネルが、じりじりとその数を減らしてゆく。
「ララァのファンネルもそろそろ打ち止めだ。」
アムロは数刻先の未来を感じていた。
シャリア・ブルのザクⅢが、ナイチンゲールの背後に回り込む。
「これで終わりのようですね。」
「まだだ。」
シャアの声に、初めて、わずかな焦りが滲んだ。
ナイチンゲールの動きに、ほんの僅かな乱れが生じた、その瞬間だった。
Hi-νガンダムが構えるビームライフルのマズルの先端が、薄紅色に染まり、今まさにシャア・アズナブルという元凶を狩り取らんとする光の矢が、そのエネルギーを凝縮しつつも膨張しようとしている、まさにその瞬間だった。
宙域の遥か奥——
キュベレイのコックピットの中で、何かが弾け、稲光が走った。
「大佐……!」
ハマーンは、マチュとニャアンの存在など忘れてしまったかのように、キュベレイのスラスターを全力で噴射した。
「間に合って!」
キュベレイがナイチンゲールとHi-νガンダムの間に割り込もうと、一直線に突っ込んでくる。
アムロは感じていた。
しかし、その指が握り込もうとするトリガーを止めることが出来なかった。
そして、引き金は、引かれた。
迸る光、一直線にナイチンゲールのコックピットがある頭部へと向うその光跡は、まるで、ブラフマーストラを穿つブラフマシラスであるかの様に。
しかし、そのブラフマシラスが貫いたのは、純白のキュベレイの胴体だった。
「ハマーン……!?」
シャアの声が、辺獄であるかのようなコックピットに響く。
キュベレイは、ただ、静かに、ゆっくりと、その動きを止めた。
コックピットの中で、ハマーンは薄れゆく意識の中で、ナイチンゲールの背後に守られるように浮かぶ、α・アジールを見て、自嘲した。
キュベレイの光が、消えた。
一方、マチュとニャアンの戦場でも、異変が起きていた。
「お姉ちゃん?お姉ちゃんどこ?ねぇ、マチュ、お姉ちゃんは?嫌ぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
キャラの絶叫が、宙域に響いた。
サイコドーガが、動きを止め、その隙を、マチュとニャアンは認識しながらも、二人は引き金を引けずにいた。
「ニャアン……。」
「うん。」
泣き叫ぶだけで、動けないキャラに向けて、攻撃を仕掛けることが、どうしても出来なかった。
誰も予測していなかった。
誰も感じられなかった。
宙域の端から、走る一条の光跡。
ギラドーガが、無造作に放った流れ弾だった。
キャラの駆るサイコドーガの胴体を、貫いたのは、敵意のない味方のギラドーガが、無造作に放った流れ弾だった。
「キャラ——!」
マチュが叫ぶ。
サイコドーガは、ひと際大きな火球と化した。
宙域に、青白い花が咲く。
リゲルグ・カスタムのコックピットで、アナベル・ガトーはその光景を見ていた。
しばらく、何も言わず、柄にもなく感傷的な気持ちになり、やがて、ゆっくりと口を開いた。
「諸行無常とは、このこ……。」
その言葉が終わる前に、一条のビームが、リゲルグ・カスタムのコックピットを貫く。
誰が放ったのかも、わからない。
続くはずだった命が、零れ落ちる。
ただ、それだけだった。
宙域に、また一つ、火球が咲いた。
ハマーンが撃ち抜かれた瞬間、シャアのナイチンゲールの動きが、止まった。
ほんの一瞬だった。
しかしシャリア・ブルはその隙を逃さなかった。
ザクⅢのビームバイオネットが、ナイチンゲールの右腕バインダーを掠め、ファンネルコンテナの一部を吹き飛ばした。
「貴方が始めたことの結果であることは理解しているのでしょう。貴方は貴方に向けられる感情すら消費し潰しているのですよ。」
「人の心の内が見えすぎるのは感心せんな。」
シャアの声に、普段では見られない、何かが滲んでいるように見えた。
「大佐を援護しなさい!」
レウルーラからの通信を受け、宙域の後方から、数機のサイコドーガが展開した。
その動きは、通常のパイロットとは明らかに違った。
一機一機が独立して動くのではなく、まるで一つの意思を共有しているかのように、有機的に連携していた。
「あれは……!」
シャリア・ブルが息を呑んだ。
アムロもそれを感じていた。
サイコフレームが、複数の、しかし似通った気配を告げていた。
「行くよ!」
「うん!」
「こっちから!」
幼い声が、複数の通信回線から同時に飛び込んできた。
ファンネルが一斉に展開され、Hi-νガンダムとザクⅢをはじめ、宙域に展開するジオン軍勢のモビルスーツに向かって殺到する。
アムロは迎撃しながら、その気配を感じ続けていた。
幼い、あまりにも、幼い気配だった。
「なんだ?この邪気は!」
「当たった!」
「やった!一機落とした!」
「帰ったら、お母さんに報告しなきゃ!」
通信が、弾んでいた。
まるで、遊んでいるかのように。
「帰ったら、お母さんにシチュー作ってもらおう。」
「私はカレーがいい!」
「また食べ物の話してる。」
「だって、お腹すいてるんだもん!」
「お仕事中にそんなお話してたら、お母さんに叱られるんだから!」
アムロの手が、一瞬止まりそうになった。
シャリア・ブルも、ほんの僅かに動きが鈍った。
「子供?」
シャリア・ブルが、低く呟いた。
「まだ子供だっていうのに、実戦投入するなんて。」
アムロは吐き捨てるように言った。
しかし、ファンネルの群れは執拗にアムロ達に群がる。
「子供に付き合っていられるか。」
そういうと、アムロは次々とサイコドーガのファンネルを撃ち落とし、無力化していく。
「あのモビルスーツ、アムロの匂いがする。」
「ホントだ!アムロだ。それなら全員で行くよ!」
「うん!」
その言葉と同時に、サイコドーガの連携攻撃が、これまでとは別次元の精度で展開された。
アムロのHi-νガンダムに全ての意識を集中させ、全員のファンネルでアムロを囲む。
さっきまで聞こえていた、どこかはしゃいでいるかのような声は止み、まるでテレパシーででも繋がっているかのように、一斉にアムロのHi-νガンダム目掛けてビーム攻撃を仕掛けた。
針の通る隙間もない程の攻撃に、危険を感じたアムロが、『やられる!』と感じたその瞬間、周囲に展開していたフィン・ファンネルが、Hi-νガンダムを角錐状に囲むと、ビームの幕を形成し、サイコドーガのファンネルが放つ、全ての攻撃を弾いた。
Hi-νガンダムを囲んでいたサイコドーガ達の動きが、一斉に止まった。
フィン・ファンネルが形成したビームバリアが、全ての攻撃を弾いた瞬間だった。
「なんで!?」
「当たらなかった。」
「全部弾かれちゃった。」
幼い声が、通信に漏れてきた。
「あぁ、なんかもう面倒くさい。」
「帰りたいよ。」
「お母さんのところに帰りたい!」
一機、また一機と、サイコドーガが後退し始めた。
「お母さん!お母さん!」
「待ちなさい、戻りなさい!大佐をお守りしなさい!!!」
どこかから、大人の女性の声が飛んだ。
しかし、サイコドーガ達は止まらなかった。
アムロは、その光景を見ながら、何も言わず、追いもしなかった。
「アムロ・レイ。」
シャリア・ブルの声が、静かに響いた。
「ここは私に任せなさい。」
「中将。」
「貴方にはまだ、やるべきことがあるのではありませんか?」
アムロはしばらく動かなかった。
そして、静かに答えた。
「行きます。」
Hi-νガンダムが、ナイチンゲールへと向かった。
「シャア。」
「どこまでも、私の前に立ちはだかるか、アムロ…。」
二人が互いの名を呼ぶ声が、宙域に静かに響いた。
最後までお読みいただきありがとうございます。
もう誰も引き返すことの出来ない領域に来てしまいました。
次回最終回「光のその先へ……」ニュータイプの答えを見つけられたらと思います。