機動戦士ガンダムGQuuuuuuX SIDE AMURO ~少年が見た戦争~ 作:すずき 虎々
第4話 運命
ドレンと呼ばれた士官は、シャアから戦闘記録映像の有無の確認を受け、短く「はっ!」とだけ答える。
すると、ドレンと呼ばれた士官の回答に満足そうにうなずいたシャアは、「少年、ついてこい。」と言うと、そのままグリップを握ってブリッジへと向かった。
ブリッジにたどり着くなり、シャアは一人のクルーに対し、「パーサ、先程の戦闘の記録映像を出せ。」と命じた。
指示を受けたパーサは「はっ!」と短く返事をすると、コンソールを操作する。すると、正面の固定されているモニターの右側にエアリアルディスプレイが現れ、連邦の艦隊が映し出された。
最初は、この艦に向けて発砲しているように見えたが、連邦のモビルスーツや戦艦が次々に撃破されていくと、最後に残った戦艦が、あらぬ方向に艦砲射撃を仕掛けているのが見て取れた。
「パーサ、後方カメラの映像に切り替えろ。」
再び指示を受けたパーサは、指示通りに後方のカメラ映像をモニターに映し出す。
すると、そこにはコロニーの外壁がビーム砲の光に焼かれて融解し、しばらくすると、コロニーの中から外に放り出される人や瓦礫などが映し出されていた。
「これを見てもまだ、信じることはできないというのであれば、それはそれで良い。人は信じたいものを信じる生き物だからな。だが、全てのジオン軍人が地球にコロニーを落とすことを由とするわけでもなければ、全ての連邦軍人が宇宙・地球双方に住む人民のことを考えて戦っているわけでもない。旧世紀の東洋の格言に、確か[勝てば官軍]という言葉があったと思うが、良く言ったものだ。ようは、勝った者が歴史を書き換え、正義の座を得るということだ。」
少年は薄々感づいてはいたのだ。普段から地球連邦政府や軍のやり方は強引で、反発心を煽るものではあった。ただ、身内贔屓をしているつもりはなかったが、それでも自分の父親が所属する組織が悪の集団だと思いたい子供などいない。今回の戦争だって、双方が好き勝手なプロパガンダを掲げて、声高に敵陣営を貶め、自らの正当性を主張しあっているだけであって、どちらが正義とか悪なんてことはないということも知っていた。
それでも、大好きだった裏のキマリおばあさんや、幼なじみのフラウ、隣に住むハヤト、友達が少ない少年を、からかい半分とはいえよくかまってくれていた不良少年のカイ。他にも学校のクラスメートや、良く買い物に行くお店の綺麗な店員さん。父親などは、おそらく真っ先に命を落としたことだろう。自分の周囲の人間がおそらく誰も生きていないという現実を受け止めるには、少年の心はまだ幼かった。
少年は、息をのみ、視線を彷徨わせ、それでも覚悟を決めたように、ようやくぽつりと一言、言葉を絞り出す。
「アムロです。僕の名前は、アムロ・レイ。」
一度言葉を発すると、あとは堰を切ったかのように言葉があふれ出す。
「あのモビルスーツを知っていたのは、僕のオヤジが連邦の技術士官で、あのモビルスーツの開発責任者だったからです。オヤジの名前はテム・レイです。以前オヤジの部屋に忍び込んで、パソコンの方はセキュリティが固くて入れなかったけど、紙の資料が引き出しに入っていたから、それを盗み見たんです。でも、設計図を見る限りでは、モビルスーツ本体の関節可動と一部のビーム兵装のエネルギー供給に課題が残っていたので、まさか完成しているとは思っていませんでしたが、僕が見た資料が古い物だったのであれば、それも頷けます。」
「テム・レイ博士の御子息だったか。しかし、設計図を見ただけでそこまでわかるとは、君もなかなか大したものではないか。」
シャアが父の名を知っていたことに驚いたアムロは、思わず問い返す。
「父をご存じなのですか。」
するとシャアは「いや、直接面識があるわけではないが、君の御父上や、モスク・ハン博士などは、著名な研究者だ、名前くらいは知っているさ。アムロ君と言ったか、君とはもう少し話しがしたい。そうだな、私の部屋でゆっくり話そうか。グラナダまではまだ大分時間がかかるからな。」
そういうと、シャアはそそくさとブリッジをあとにする。
アムロは戸惑いながら周囲のクルーを見回すが、先程ドレンと呼ばれた士官が、アムロと目が合うと、無言で頷いたのを切っ掛けに、アムロはシャアの後に続いてブリッジを出た。
「座り給え。まずは君に礼を言っておかねばなるまいな。あのザクは私用にカスタムしたものでね、愛着もあったのさ。持ちだそうともしたが、連邦のキャノンタイプに阻まれ、そうも言っていられなくなったのだが、幸運にも君が外に運んでくれたおかげで回収することが出来た。」
シャアは自室に備え付けられた小型冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出し、アムロに差し出した。
「しかし、私の機体をああも見事に操縦できるとは、君はモビルスーツの操縦の訓練を受けたことがあるのか?」
シャアが当然の疑問をアムロにぶつける。
「いいえ、軍事用のモビルスーツに乗るのは初めてでした。学校の実習で作業用モビルスーツには乗ったことはありますが。」
するとシャアは目を見開いて「驚いたな、訓練もなしに、初めてあの機体に乗って、最後はこの艦に着艦までさせるとは。あれは私の好みに合わせていて、多少ピーキーな挙動でね。私の部下でもあれをまともに動かせる者などいないのだよ。」
返答に困ったアムロは、一言「そ、そうなんですか。」とだけ答える。
するとシャアは自身がかぶっていたヘルメットをはずし、目元を覆っていたマスクもとって見せた。
アムロは、シャアの素顔を見た瞬間、目の前で稲妻が走ったかのような錯覚を覚えた。
『僕は、この人を知っている?それになんだ、この声、聞いたことがあるのか?』
それは、初めての経験のはずにも関わらず、少年にはデジャブとも感じられるような奇妙な感覚、ラ・ラと繰り返す声は、初めて聴くのに、妙な親近感さえ感じられる。
アムロの様子が明らかにおかしいと感じたシャアは、声をかける。
「アムロ君、どうかしたのか。」
アムロは、たった今自分が見た光景を、言葉で説明することは難しいと、早々に説明する事を放棄して「何でもありません。」と答える。
「ところで、先程、君からは憤りとは別に、深い悲しみを感じたのだが、その悲しみを少しは解消できるかもしれない。君はあのコロニーにいた人間は全て死んでしまったと思っているだろう。だが、我々が奪取した新型艦には、避難訓練と称して、民間人が多数乗り込んでいた。既に、乗り込んでいた全員のIDの確認はとれているので、その中に君の見知った人がいるかもしれない。後で、リストの確認を許可しよう。グラナダで下ろすことになるだろうがな。それと、君の今後についてだが、私としては君にはぜひ軍に入って私の部下になってもらいたいと思っているのだが。」
生存者がいると聞いて、喜んだのもつかの間、突然の軍への勧誘にアムロは拒絶的な反応を見せる。
「僕は軍属になんてなりたくありません。人を殺すなんて、僕にはできません。」
「直情的な物言いだな。では君はどうしたい。」
「僕は技術者を目指していました。将来はモビルスーツの開発を通して、自分の脳波でコントロールできる義肢の開発をしたいと思っています。」
シャアは、直感的に今後このアムロという少年が、自分にとって不可欠な人間になると理解した。彼を自分の目の届く範囲に置くことで、自分の目的にとってプラスの要素になるはずだと。
「アムロ君、ならばやはり君はこのままジオン公国軍に所属したまえ。」
話を続けようとするシャアの言葉を遮って、アムロが感情的に吐き捨てる。
「何度も言いますが、僕は軍属には。」
「人の話は最後まで聞くものだ。アムロ君、君がこのまま、自分の力でその手の会社に就職したとしよう。しかし、そこでは技術開発だけをしているわけではない。会社にはいくつもの部署があって、君が希望する部署に運よく配属される奇蹟が起きたとして、更に君が希望する研究開発を手掛けられるかどうかが、いったいどれ程の奇蹟的な確率を乗り越える必要がある思う。」
アムロは、シャアの言葉に「それは。」と口ごもることしかできなかった。
「しかし、我々ならば君の希望を叶えることが出来るし、君の希望は我々にとっても有益なものなのだ。なにも一方的な施しを与えようというわけではない、お互いにとって益のある話だということだよ。君をこのまま少尉待遇で軍に所属させよう。そして、そのままジオニックという、軍がモビルスーツの開発を委託している会社に、出向という形をとる。そうすれば、君の希望する部署で、開発責任者の一人として活躍することが出来る。まずはあの新型モビルスーツの逆解析に協力してもらいたい。軍からの給料も出るのだし、自立して生きていくことだってできるだろう。」
シャアの話を聞いたアムロは、急に今までの自身の発言が、駄々をこねる子供のもののように思えてきて、恥ずかしさで思わず俯いてしまった。
そんなアムロを見たシャアは、何かを感じ取ったかのようにつぶやく。
「自分自身の若さゆえの過ちというものを、認めたくない気持ちは私にもわかる。」
アムロはさらに小さくなって、ぽつりと一言口に出すのがやっただった。
「よろしくお願いします。」
ここまで読んでいただきありがとうございます。
一次創作は作者ページにリンクがあります。