機動戦士ガンダムGQuuuuuuX SIDE AMURO ~少年が見た戦争~   作:すずき 虎々

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第八話 兆し

第8話 兆

 

 1階の受付でイザベラに呼び出された旨を伝えると、そのまま7階の執務室に向かうよう指示された。

 イザベラの執務室についたアムロは「アムロ・レイ技術大尉入ります。」と言って室内に入ると、別の士官が立ち上がり「奥へどうぞ。室長は現在不在ですので、おかけになって少々お待ち下さい。」と言って、執務室の中央左手にある扉を指し示した。

 アムロは奥の部屋に入ると、目の前に用意されていた応接用のソファには腰掛けず、扉から左に一歩ずれた位置で、立ったまま待機することにした。

 5分ほど過ぎた辺りで、イザベラが誰かと話しながら入室してくるのが聞こえると、おそらく先程の士官がアムロの出頭を報告したのだろう、一言「そうか。」と答えた後に、別の誰かに「では。」と言ったあと、アムロの待つ部屋に入ってきた。

 アムロは、イザベラの入室を認めると、イザベラに正対し「アムロ・レイ技術大尉、御命令に従い、出頭しました。」と述べる。イザベラは手前のソファを顎で指して「そこに座りなさい。」と言うと、自身はアムロの向かいのソファに腰を沈めた。

 アムロも言われた場所に座ると、イザベラが、一瞬視線を扉にやるのが見えるのとほぼ同時に、背後から男の声が聞こえる。

 

「大尉、キシリアから受け取った物について、聞きたいことがある。」

 

 アムロは声の方に顔を向けると、そこにはジオン公国総帥であるギレン・ザビが立っていた。

 立ち上がろうとするアムロを、右手を上げて制すると、ギレンは言葉を続ける。

 

「大尉、君はジオン・ダイクンの残した言葉、あれをどう受け止めている。」

 

「生物学的な物の見方でいうなら、自然な発想だとは思います。ただ、それを都合の良い部分だけを切り貼りして、ニュータイプがエスパーみたいな捉えられ方をすることには違和感を覚えます。」

 

「私は君もそのニュータイプを噂されていると聞いているが。」

 

「そんなわけありません。自分は多少プログラムや機械いじりが得意というだけで、それこそエスパーのような力なんてありません。」

 

「なるほどな。つまり大尉はシャアのような存在も否定するということか。」

 

「いえ、大佐を否定するつもりはありませんし、むしろ、ニュータイプのことも肯定的にとらえているつもりです。ただ、それこそ人類は宇宙に出てまだ数十年で、世代にしたってやっと3世代目という現状で、必要な時間が足りていないというのが率直な感想です。」

 

「実に興味深い意見だな。君は物事の本質を見極める力が養われているようだ。」

 

「閣下、そろそろお時間が。」

 

 イザベラが、時計を気にしながらギレンとアムロの会話に割って入る。

 

「そうだな、呼び出しておいて申し訳ないが、私もこれで、なかなか忙しい身でね。時間もおしいので、率直に聞こう。キシリアから受けとった物について、大尉の意見を聞かせてもらえないだろうか。」

 

「閣下のおっしゃるのが、UNMのことであるならば、アレは、今現在、この世界にあって良いものではないというのが私の見解です。シャロンの薔薇はまだ建造計画が中止されたというだけで、中の少女やあの張り巡らされた光る茨のようなものの説明はつかずとも、構造や原理などは理解が出来ます。しかし、あの謎の金属片については、現代の科学では説明することが不可能なレベルの技術によって生成されているものです。ただ、異世界ファンタジーのような魔法とかそういった類の話ではなく、あくまでこのまま科学が進歩して行けば、いずれたどり着く未来に生み出されたであろう物質であることだけは確かです。だから解析にも成功したのだと言えます。」

 

「何っ!?イザベラ、UNMの解析についての報告は上がっていたか。」

 

「いえ、そのような報告は受けておりません。」

 

「キシリアめ、ほとほと困った妹だな。大尉、UNMについてのデータはどこにある。」

 

「はい、おそらく今回はこの件についてだと思っていたので、こちらにデータのコピーを持参してまいりました。こちらを見ていただければ新型試作機が、1号機だけでなく、2号機まで建造する必要があった理由と、あのキーデバイスの真の利用目的について、ご理解いただけると思っております。地球の環境再生なんて、本気で信じてるスタッフなんていませんよ。」

 

「大尉、君と話せて良かったよ。イザベラ。」

 

「はっ。」

 

 ギレンがイザベラにマイクロデバイスを受け取るよう促すと、イザベラはアムロからカード型のマイクロデバイスを受け取ると同時に、目くばせで下がってよいと伝える。

 アムロは立ち上がり、扉の前まで進むと回れ右をし「アムロ・レイ大尉、帰投します。」と言って部屋をあとにした。

 

 アムロは総帥府を出ると、そのままグリムアーチに戻ろうと考えていたのを思いとどまると、一度自宅に戻ることにした。

 

「まだしばらくレクスの顔を見られないだろうからな。」

 

 アムロは、レンタエレカに乗り込むと、自宅に向けて走り出した。

 次の交差点を左に曲がれば、自宅が見えるというところまでくると、アムロは突然聞こえた音に違和感を覚える。

 

「まただ、あの音、それに、これはなんだ、赤ちゃんの声が聞こえる?」

 

 アムロは、誰にともなく思わず独り言ちる。

アムロは、自宅に到着し玄関を開けて「ただいま。」と声をかけるが返事がない。

 

「出かけているのか。」

 

 アムロはキッチンに向かい、冷蔵庫からミネラルウォーターを出して、一気に半分ほど飲み干す。

 再び冷蔵庫を開け、ミネラルウォーターのペットボトルを戻そうとするが「飲みかけを戻したらレクスにどやされるな。」と言って思いとどまるが、ふと見た冷蔵庫の中身に、なんとなく違和感を覚えた。

 冷蔵庫の扉を閉めてキッチンからリビングに移動する際も、やはり違和感を感じる。

 すると、玄関の扉が開く音が聞こえた。

 

「アムロ、帰ってるの?」

 

「レクス、お帰り。出かけていたのか。総帥府から呼び出しをくらって、今行ってきたところなんだ。この後またすぐグリムアーチに戻るけど、その前にレクスの顔を見ておきたくなってね。」

 

 レクスは背負っていたリュックをソファにおろすと、アムロにハグして「そうだったの。私も丁度アムロに会って話したいことがあったの。」と言った。

 レクスはアムロを下から見上げるようにして、喜怒哀楽がごちゃ混ぜになったような表情を作る。

 アムロは、レクスの表情の理由を読み取れず、先程からの違和感も相まって、不安な気持ちでレクスに尋ねた。

「話ってなんだい?」

レクスはアムロの不安な感情を敏感に読み取ると、レクス自身も不安な気持ちとなり、一瞬口ごもるが、意を決して言葉を絞り出す。

 

「実はね、今、病院の帰りなの。」

 

「病院?大丈夫なのか?」

 

「うん、大丈夫、病院って言っても、病気ではないから。」

 

「…。」

 

「赤ちゃんが出来たみたいなの。」

 

「そういうことか。」

 

「え?」

 

 レクスから妊娠を打ち明けられたアムロの口から出た最初の言葉は、疑問でもなく、歓喜でもなく、不安でもなく、納得。

 レクスも思わずアムロの反応に疑問の声を上げてしまう。

 

「いや、ごめん、こういう時はなんて言えば良いのかわからなくて。ただ、ここに帰る途中に、赤ちゃんの声が聞こえた気がしたから、それがこのことだったのかと思ったんだ。それで、レクスは生んでくれるのかい。」

 

「アムロが賛成してくれるなら。」

 

「もちろん賛成するさ、そうか、俺が父親に。」

 

「レクス、俺は今のプロジェクトが終わったら、軍を除隊しようと思う。」

 

「え?でも大丈夫なの?」

 

「なぁに、今迄の実績もあるし、除隊しても雇ってくれるところならあるさ。」

 

「そうじゃなくて、言ってたじゃない、アムロ。自分の意思で動かすことの出来る義肢を作って、苦しんでる人を助けたいって。」

 

「それも大丈夫さ。今のプロジェクトを完遂できれば、その為の技術的理論も概ね完成する。後は、時間を掛けさえすれば、小型化してサイコミュ搭載型の義肢の普及を現実化することが出来る。それに、今は兎に角君たちの傍にいられることの方が大切だと思うんだ。」

 

 お互いを抱きしめる腕にも自然と力が入る。

 

「アムロ、ありがとう。」

 

「こちらこそ、ありがとう、レクス。」

 

 二人が感じた思いは、誰しもが感じることであるようで、他にはどこにもない、二人だけの温かな感情であった。

 

 アムロは、グリムアーチに帰投するための航路設定も終わり、オートパイロットに切り替えたコックピットの中で、頭の上で両腕を組み、一人考えていた。

『俺が親父になるのか、でも、なんだこの感情は、ただ嬉しいってだけじゃない気がするな。別に世間じゃ特別珍しいことでもないはずなのに、でも俺にとっては特別なことなんだろうな。オヤジにはもう会えないだろうけど、いつか家族3人で地球に行くことが出来たなら、その時は母さんに会いに行って、孫の顔を見せてやれたらな。』

 

 アムロは、自分がごくありふれた幸せを手にしようとしている事に、妙な違和感を感じていた。自分がモビルスーツのパイロットになる事への嫌悪感に似た感じ。今の自分が、本当の自分ではないと感じるのと同時に、誰かが自分を待っているのではないかと感じる感情が、自分のレクスに対する感情と衝突し、陥る自己嫌悪で落ち着く不安定さに、アムロは自分が壊れて、どこか深い海の底にでも引きずり込まれていくのではないかという感覚を覚えるのだった。

 

 




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