言葉が存在しない町。
人々の感情を灯籠にのせ、川へ流す灯籠師と、灯籠から感情を読み取り、受け入れる読灯の2人の物語。

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文章の表現の調整にAIを参考にしました。ご了承ください。


第1話

 

―この町には、言葉というものが存在しない。―

 

 人々の内側に生まれた想いは、声にも文字にもならず、胸の奥でどす黒く淀んでいく。やがて、それは歪み、持ち主を蝕む。

 灯籠師《とうろうし》は、感情を灯籠の形に封じ、川へ流す。人々が、自らの感情に殺されないように。

 読灯《どくとう》は、流れゆく灯籠を読み、その感情を引き受ける。灯籠が川底に沈み、水が淀んでしまわないように。

 灯籠師は、人々の感情を形にする代わりに、自分の感情は、どう扱えばよいかわからず、押し殺してしまう。読灯は、人々の感情を抱え込みすぎると、消滅してしまう。

 

 この町に残された灯籠師と読灯は、各々ひとりだった。

 

 灯籠師は、感情の持ち主の身に何が起きたか、知る必要はない。ただ、沈黙の温度だけを受け取れば、人々に触れさえすれば、感情の導くまま、手を動かすことができた。誰かの後悔や祈りは、触れた瞬間に形を選ぶのに、不思議なことに、自分の感情だけは、いつも輪郭を持たなかった。触れようとすると、紙は裂け、灯は点かない。作り方が、わからないのだと理解するまでに、ずいぶん時間がかかった。

 灯籠が流されるのは夜だけだ。暗くならなければ、炎の揺れが見えない。昼の光の下では、感情はただの紙にしか見えなかった。日が落ち、辺りが暗くなると、感情を形に封じた灯籠は、感情の持ち主の手によって火が灯される。行き場のない想いが読灯の元まで届くよう、丁寧に。

 

 灯籠は読まれなければならない。

 

 読灯は、川辺に立ち続けていた。灯籠に触れ、感情を読み込み、すべて自分の中へと取り込む。読み終えた後は、ほんの一瞬目を閉じる。灯籠師はそれを遠くで見守っていた。この一連の処置がどれほど読灯の身体を蝕んでいくか、この町の人々は問題視していなかった。

 読灯の身体は、少しずつ壊れていた。灯籠を読むたび、誰かの後悔や願いが、夜ごと胸に溜まっていく。朝になると、息をするだけで痛む日もあった。

 灯籠師だけが、それを知っていた。知っていて、何も言えず、ただ灯籠を作り続けていた。この町には、二人が必要だった。どちらかが欠ければ、灯籠は行き場を失い、この町は感情に溺れて崩壊する。灯籠師はこのまま読灯に甘えて灯籠を作り続けるか、自身が作るのを辞め、町を崩壊させるか、決断できずにいた。それが心配なのか、祈りなのか、それとももっと別の感情なのか、考えないようにしていた。

 

 ある晩、灯籠師が出向くと、いつもより重い感情が流れてきた。胸の奥に澱のように沈むその重さに、灯籠師は触れ、形にする作業へと移る。余分な感情は削り、重さが一点に集中しないよう形を整えた。今夜の灯籠は大きい。読灯の負担にならないよう、想いを損なわない程度まで、感情を薄く伸ばす。

 灯籠が完成する頃、流れゆく想いの重さは、少しずつ和らいでいくようだった

 涙とともに流された灯籠は、この日も読灯によって受け入れられる。受け入れなくてはならない。読灯は揺れ方を読み取り、灯籠に触れた。その瞬間、体が崩れ落ちた。同時に胸に溜まった感情が、濁流のように一気に溢れ出す。量は、もう限界を超えていた。

 駆け寄ろうとした灯籠師の足が止まる。胸の奥で、何かが音を立てて砕けた。読灯がもう立ち上がれないことを、灯籠師は理解した。込み上げる不安と焦りを抑えられるはずがなかった。

 

 灯籠師の感情とともに、空気が震え、光が無から立ち上がる。紙も、折り目もない。感情そのものが、形を取った。

 灯籠師は初めて自分の感情を完成させたのだ。灯は今まで見たどの灯籠よりも強く、胸を突き刺すような光だった。

 灯籠師は、それを隠そうとした。読灯に読ませてはならない。これを読めば、読灯は―。

 だが、このまま隠し持っていても、これほど大きな灯籠は町を壊してしまうだろう。灯籠師は先延ばしにしていた決断を迫られていた。

 背後で、空気がわずかに揺れた。振り向かなくても、誰がそこにいるかは分かった。読灯は、灯籠の光の揺れや紙の重さから、触れずとも、誰の想いでできた灯籠か、何が込められているのかを理解しているようだった。言葉も、動きも、必要ない。

 思わず胸に引き寄せる。触れさせてはいけない、という衝動が、考えるより先に体を動かしていた。読灯の瞳が、ただそこに在るだけで、自分の全てを見透かしている。灯籠師は、守られると感じると同時に、胸の奥から体全体にまで重さが押し広げられるような圧力に、飲み込まれそうになった。

 

 読灯は一歩踏み出そうとするが、膝が揺れる。崩れ落ちた直後の身体で、それでも立ち続け、ゆっくりと首を横に振り、灯籠に手を伸ばした。それは拒否ではなく、覚悟を示す動きだった。

 その姿を見た灯籠師は、自身の中で答えが定まった。この人が消えるなら、役割も、町も、灯籠も、もう必要ない。この人がいない世界に、意味はない。

 

 灯籠師は、ためらわずに読灯の手に自分の手を重ねた。

 

 初めて灯籠に触れ、初めて自分の感情と向き合う。二人で引き受ける、という選択だった。光が、二人を包む。読灯は笑った。灯籠師も、初めて笑った。

 

 夜の川には、もう灯籠は流れない。光の揺れも、川の上に積もる想いも、二人の胸の中で静かに終息し、互いの存在も眠りにつくように消滅していった。代わりに、それぞれの心が、穏やかに、しかし確かにほどけていく。

 

 別れの言葉は必要ない。たとえ次の生で、遠く離れていようと、流れる川や灯籠の光のように、二人の道はまた交わるかもしれない。互いの存在が、かすかな光となり、いつかまた手を重ねられることを、心の奥で願いながら。




ネットで出会った同性のお友達がいて、もう何年も仲良いです。
ネットの関係って浅いのに、どうしてこんなに仲良いんだろうねと聞くと、「きっと前世で会ってて、死ぬ時に約束したんだと思う。」と言われました。その言葉が素敵だったので、このお話をつくりました。

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