機動戦士ガンダム SilenceWar ~U.C.0093 Madness AXIS Breaker~ 作:にわ@タイトル単位作品作成者
―U.C.0093 3月12日
某時刻 ~アクシズ針路上~
艦内に、余計な音はなかった。
別動隊は、予定宙域に静止している。
ミノフスキー粒子はすでに飽和状態。
互いの存在は、熱源反応にも視界にも現れない。
そこは、
本来“戦場になるはずのない宙域”だった。
「作戦開始時刻だ。オービタル・リーダー」
クラップの艦橋から、短い通信。
「――コメットブレイカー、発射」
「了解!」
即座に返る声。
「目標!アクシズ表層本隊側!コメットブレイカー…発射ッ!」
その瞬間――
砲身内部の湾曲して見える空間が、歪んだ。
奥行きの感覚が崩れ、
圧縮され、折り畳まれ、
一点へと収束した粒子が、臨界を越える。
次の瞬間、
爆縮された重粒子が一気に解放された。
視界が、白に塗り潰される。
別動隊の全てのモニターが、
同時に意味を失った。
音はない。
振動もない。
ただ――
理解を拒む光景だけが、そこにあった。
誰も、言葉を発せなかった。
ジェガンのコクピットで、
ユウ・カジマは、息を止めていた。
(……何だ、今のは)
思考は、追いつかない。
戦闘でも、兵器でも、
知識のどこにも当てはまらない。
やがて、光が引く。
そこに残ったのは――
モニターに映る
“その巨体が三割欠けたアクシズ”だった。
ユウは、それを言葉にしなかった。
ただ、現実として受け取るしかなかった。
別動隊全体が、ようやく呼吸を思い出した頃。
オービタル・リーダーの周囲で、
大量の冷却材が噴き出す。
白い霧が機体を包み込み、
砲身が、低く唸りを上げながら沈黙する。
兵器は、
人の正気を待たずに、次の工程へ進んでいた。
「……」
誰もが呆然としている、その中で。
「オービタル・リーダーへ伝達ッ!」
クラップ艦長の声が、艦橋を叩いた。
「目標!アクシズ中央部!!
第2射用意!!」
一喝。
それで、全てが動き出した。
理解は、後回しでいい。
説明も、不要だ。
そこにある事実だけが、命令だった。
こうして、
世界のルールは――
静かに、書き換えられた。
同時刻 ~ロンド・ベル本隊~
「各MS、発進を開始せよ」
ラー・カイラムのカタパルトが、順に動き出す。
ロンド・ベル本隊は、予定通りの初動に入っていた。
その時だった。
艦橋の正面モニターに映るアクシズが――
光に貫かれた。
一瞬、
それが何であるのか、誰にも分からなかった。
ただ、
天体規模の構造物が、焼き貫かれていく光景だけがある。
「……っ」
ブライト・ノアは、言葉を失った。
それは、ほんの一瞬だった。
「あれは……別動隊の攻撃か……!?」
すぐに、表情を引き締める。
「……状況を確認しろ!」
「本隊、被害なし!
アクシズ、大規模な構造破断を確認!」
報告が追いつくより早く、
ブライトはすでに次を見ていた。
モニターには、
三割を失ったアクシズが映っている。
――理解する必要はない。
判断するだけでいい。
「……作戦を変更する!」
艦橋の空気が、一気に引き締まる。
「本隊は予定通り、波状攻撃を維持。
ラー・カイラムは前に出るな!」
即断。
「別動隊を主軸として、アクシズを止める!」
声は低く、だが揺れていなかった。
「核ミサイルは陽動に回す。
敵の視線を引きつけろ!」
誰も異を唱えない。
結果は、すでに目の前にある。
「……コメットブレイカー……。
まさか、ここまでとは……」
ブライトの呟きは、
艦橋の指示と応答の中に消え、
戦局は、開始と同時に――
塗り替えられていた。
同じころνガンダムは、カタパルト上にあった。
最終チェックの声が、淡々と流れていく。
アムロは前を見据えたまま、操縦桿に手を添えていた。
――その時だ。
視界の中心が、帯状に白く塗り潰された。
「……っ」
反射的に、息を呑む。
爆発ではない。
天体そのものが貫かれる光。
モニター越しに見てもなお、
それが“兵器”だとは、すぐには信じられなかった。
『アムロ、聞こえるか。』
ブライトの声が、割り込んでくる。
『作戦を変更する。
別動隊を主軸としてアクシズを止める。』
一拍。
『出来る限り敵の目をこちらに引き付けたい。』
「わかった。」
短く応じる。
問い返す必要はなかった。
「νガンダム、アムロ、出るぞ!」
カタパルトが、νガンダムを前へと押し出す。
(……ララァの言っていた
救世の閃光とは――
あれのことか……?)
――だが、その答えを得る前に。
その視界に映ったのは、
“三割を失ったアクシズ”だった。
……一撃で、戦局が変わる。
それだけの力だ。
(これが――
ララァの言っていたものと、
本当に同じかは分からない)
だが少なくとも、
“流れを変えた光”であることだけは、
否定しようがなかった。