「……い、行きますっ!」
わたしの号令に従わんと言わんばかりに響き渡るギターとベースの音色。調和するように弾けるドラムの打撃とキーボードの電子音が色彩を添える音楽に、わたしの詩をそっと添える。
歌詞に込めた想いは、真綿で首元をゆるりと締め付けられるような焦燥感。昔は当たり前にできていたことが遠ざかっていくことに何処か気がついていても、見送ることしかできない歯がゆさ。
『当たり前に浸っていたぬるま湯には、もう戻れない』
そして、それでもと。過去に縋るように停滞に甘んじた弱さを受け入れて、迷いながら歩むことを決めた決意。天秤を均衡を正すことではなく、択一を選び続けることを彼女は選んだのだと。
大丈夫だよ、わたしたちがそばにいるから。見せたくなかったであろう仮面の裏側すらも、全部をひっくるめて貴女だから。
『けれど、変わってしまったことをどうか嘆かないで』
体がふわふわしている。このままわたあめみたいにすっからかんになってしまいそう。でも、それだと困るから胸元で跳ねる脈が意識をなんとか繋ぎ止める。だからわたしは歌えるんだ。
右手でマイクを握りしめて、左手でありったけの勇気を掴む。練習スタジオに満ちた熱気をもっと肌で感じ取れるように。エアコンが吐き出す偽物の温さじゃあ誤魔化しきれない程の熱量をがむしゃらに求めているから。
マイクスタンドなんて窮屈なものを使っていられるか。あたし達は自由だから、もっと思うがままに暴れてもいいんだ。
スピーカーに繋がれたコードがすっぽ抜けてしまいそうな程に振り回せ。頭が転げ落ちてしまいそうな程に振り回せ。
『わたしたちの思うがままにゆっくりノロノロ歩んでいこう』
4人の音しか聴こえないし、そのつもりしかない。始まりは偶然に偶然を重ね合わせたような奇跡で集ったメンバーだった。
あの日、偶然出会ったキミは今時の女子高生って感じでキラキラしていて。その仮面の裏側でずっと形容しがたい恐れに怯えていた。
わたしはコミュニケーションが苦手だから。気づくのに遅れてしまったけれど。それでもわたしを繋ぎとめたのが音楽だったからこそ、今ならわかる。
『陳腐な言葉かもしれないけれど、わたしがいるから』
ずっと『居場所』を求めていたんだ。わたしも、キミも。
何処にいけば手に入るか分からないソレが『必然』であってほしいなんて、青々しい幼さをずっと大事に抱え込んでいた。
だからちょっとばかり欲張っちゃって、自分を見失っていた。
スイーツ然り、バンド然り。好きなことを我慢できないのはキミの悪い癖だよ?
『今はただ若さにかまけて、一緒に星空を見つめよう』
わたしにできることはマイク一本にありったけの声を注ぎ込むことだけだから。みんなみたいに楽器なんて分かりやすい相棒なんていないから、対等で在れるくらいの煌めきを捧げるんだ。
『―――DOUBLE-FACED YOUTH!』
⭐︎
「いやー、中々綺麗に仕上がってたんじゃない!?」
余韻に浸るように興奮を隠さないのは
ずっと自分だけの居場所を求めていた彼女は、SNSに依存して存在意義を確立していた現代っ子の姿は鳴りを潜めていた。
これまでだったらネットでバズっていたドーナツ屋さんだったり、期間限定のイルミネーションについて大いに語り始めていたことだろう。
それが今では目の前のバンドのことをちゃんと見据えて嬉しそうに微笑んでいる。
これまでは自分を通して何処か遠くの数字を見ていた眼差しに寂しさを覚えていた身としては感無量だ。
「いやー、かなりヤバかったわね!ありきたりだけど、一体感があって凄かったわ!」
そんな凄く語彙力のない言葉で感動したことを伝えようとするのは
芸能人時代の淑やかな印象とは打って変わって、内包していた鬱憤を開放せんと言わんばかりにただただ陽気さを演出している。
子役時代の彼女を知る人々からしたら、今の彼女はとてもじゃないが結びつかないだろう程の変貌具合だ。
あの日に偶然出逢って成り行きでバンドを組むことになった時の自分に伝えたら信じるだろうか。
……いや、開幕からその片鱗はにじみ出ていたような気もする。今更か。
「フフッ、確かに。音の一体感は過去一でしたし、これなら次のライブも大成功間違いなしです!」
そう誇らしげに胸を張るのは
実力に裏付けされた自信満々な姿は並び立つだけで自身が一つ上のレベルに到達したのではないかと錯覚してしまうだろう。
否。彼女のキーボードは時には果敢に旋律を主張させ、時には寄り添うようにそっと背筋を正す。
偶然集っただけの烏合の衆でしかなかったわたし達が音楽として成立する要因があるとしたら、間違いなく彼女が場を支配しているからに他ならない。
ピアノのコンクールを総なめしている実力者が何故このバンドの一員として参加してくれているのかは今でも謎だ。
「……まぁ、悪くはなかったんじゃないですか?」
何処か不貞腐れるようにぼやく彼女は
一匹狼な性格をしていて、コミュニケーションを交わすことが苦手なわたしにとって話しにくい相手でもあり、何処か親近感を覚えるような存在だ。
彼女は白金さんに引っ張られるようにバンドにやってきた子で、彼女とは年の差はあれども親友らしい。
白金さんは隙を見つければ所構わず椎名ちゃんにハグを敢行するし、それを受けて嫌な表情をしつつも拒まない姿は最早風物詩だ。
関係性が初期値のまま結成したバンドの中で唯一交友があったのが彼女たちなのだ。
「もー!いつまでそうやってボーっとしてるの!」
「え?」
「休憩してもう15分は経ってるよ。そろそろ練習を再開しないと!」
上原ちゃんの活気ある声がわたしの意識を現実へと連れ戻す。回想のごとく過去を振り返っていたのは、今回バンド解散の危機を乗り越えた達成感故だろうか。
片手に抱えていた天然水のペットボトルをバッグに仕舞い込む。バレンタインの差し入れだと白金さんが持ってきた手作りチョコを一つ口に入れる。
簡素なパイプ椅子から立ち上がりポジションへとてくてくと歩く。
「一応リーダーなんですから、しっかりしてください」
「もー、立希ちゃん。あまり乱暴な言葉は使っちゃダメだよ?」
「あっ、ちょ。頭撫でないで!髪が乱れちゃう!」
「さっきヘドバンしてたから、今更でしょ?整えておくね」
母親の愛情に照れる思春期男子のような反応に微笑ましくなる。なんだかんだで仲の良い彼女たちこそ、親友と称されるのだろう。
椎名ちゃんは本気で嫌な時は拒絶を明確に示すタイプだ。バンドを組んで直ぐの最初の練習でそれは嫌という程思い知らされた。
そんなバックボーンを知る者たちからしたら、この程度はなんのそのというものだ。
「ふぅ……」
マイクスタンドの前に立つと、いつも形容しがたい緊張感がお腹の底から湧き出てくる。たっぷりと摂取したお水がゆらゆらと湖面のように揺らめくような、そんな異物感すら感じるのだ。
なんでだろう、と自問してみるのだ。いつも。
自分がこのバンドのリーダーだから?ボーカルという主軸をになっているから?勿論それらもあるだろう。
けれど、根幹にあるのは、きっと焦燥感だと思うのだ。このままでは駄目だという、根拠のない直観。
学業ではない。そんなものは赤点さえ踏まなければオールオッケー。
だから、それはきっと―――。
「
白鷺さんが私の名前を呼ぶ。いけない、いけない。何かを考えようとばかりいるのは私の悪い癖だ。
そんな自分を変えたくて、わたしは歌を選んだのだ。
マイクを手にする。かちりと、ピースが適切にはまった様な納得感を覚える。やっぱりわたしにはこれが一番だと。
「よーし!それじゃあ、もっともーっと!歌おう!」
目指すは次のライブハウス。胸の高鳴りが示すままにみんなをキラキラドキドキさせるのだ!
はい。と言う訳で存在しないバンドのイベントストーリーでした。
……遅刻してすみませんでした!!!!
以下に設定メモを残しておきます。
急いで書いたので穴は多いですが、まぁ存在しないからヨシッ!
【設定】
存在しないユニットが結成された世界線のお話
一人称をオリ主と思わせといて、実は原作キャラだったという風にしたい
バンドコンセプト:二面性を抱えた思春期の少女たちが偶発的に組んだバンド
・バンド名:hollow-scope(ホロスコープ)
Vo:戸山香澄 (ランダムスターに出会わなかった少女)
→おどおど⇔きらきら
Gt:白鷺千聖 (芸能界に早く見切りをつけた)
→はっちゃけ⇔元芸能人
Ba:上原ひまり(幼馴染に出会えずにSNS依存が進んだ)
→多彩⇔SNS依存
Dr:椎名立希 (姉に似た少女に出会った)
→縁の下の力持ち⇔誰かを下に見ることで安心している
Ke:白金燐子 (ピアノを弾くときに一人じゃなかった)
→頼りになるお姉さん⇔実は不器用
【結成秘話】
①幼少期に才能があり結果を出す燐子と才能ある姉の陰で苦しむ立希が出会う。
→優しい性格である燐子に励まされるが、ある日招待されたコンサートで才能を目の当たりにする
→親友でありたいのと姉と似た存在の板挟みにあい、苦しむ
②芸能界で過去共演した同年代の子の活躍を見て、嫌悪する中で何処か憧憬のようなものを覚える千聖
→芸能界自体は黒い世界だと嫌悪しているが、共に夢を語り合った存在と肩を並べられないことに後悔がある
→そんな時に香澄に出会い、たまたま過去出演していたドラマのファンであると告げられる。
→普段であれば最低限の対応しかしないが、彼女が千聖の役を思って作ったメロディーに心奪われる。
新曲:DOUBLE-FACED YOUTH
→メインストーリー2章枠。1章では香澄の元でバンドを結成するまでの紆余曲折を描いたが、2章ではひまりの「依存」がSNSからバンドに移ったことによる公告力低下がテーマ。
ネット戦略を基に駆け上がってきたグループであるが、その維持が難しくなっていく。
費用対効果が得られないことに無意識に不満をため込んだひまりは、リアルバンドという現実に依存先を移す。