実際の人物とは一切関係がありません。
第一話:壊された故郷
外山街児が生まれ育った町は、地図にもろくに載らない小さな場所だった。
古い商店街、錆びた自転車置き場、夕方になると必ず鳴る防災無線。
何もないが、何も失われていない――はずの場所。
その日までは。
「……?」
地鳴りのような振動が、街児の足元を揺らした。
最初はトラックでも通ったのかと思った。だが、次の瞬間、視界の端で何かが“折れた”。
――電柱が、根元から握り潰されていた。
「な……」
言葉が出るより早く、衝撃波が町をなぎ払った。
家屋の壁が裂け、ガラスが雨のように降る。
悲鳴。金属音。瓦礫。
街児は反射的に走り出していた。
「母さん!!」
家に向かう途中、あり得ない光景が目に入る。
人間の形をした“何か”が、通りの中央に立っていた。
そいつは、片手で建物を掴んでいた。
指が食い込み、コンクリートが紙のように砕ける。
そして、何の感情もなく――投げ捨てた。
「……嘘だろ」
街児の喉が、ひくりと鳴った。
「これが……人?」
その“何か”が、ゆっくりとこちらを向いた。
???「まだ、残ってたか」
声は静かだった。
嵐の中心にいるのに、不思議なほど落ち着いている。
???「小さい町だ。すぐ終わると思ったんだが」
街児は叫んでいた。
「やめろ!!
ここは……ここは俺たちの町だ!!」
???は、初めて興味を示したように首を傾ける。
???「町?」
次の瞬間、地面が抉れた。
街児の足元すれすれに、巨大なクレーターが生まれる。
???「そんなもの、
“握る価値”がない」
街児は転び、瓦礫に手をついた。
血が滲む。だが痛みは感じなかった。
目の前で、
自分の家が、
友達の家が、
思い出が――
次々と、壊されていく。
(奪われる……)
その言葉が、胸の奥で何度も反響した。
(また、奪われる……)
???「さて」
???は、最後に町を見下ろした。
「ここにはもう、何も残らない」
その背中を、街児は睨みつけた。
「……待て」
声は震えていた。
だが、確かに言葉になっていた。
「全部……
全部壊して、行くつもりか」
???は振り返らない。
「当然だ」
そして、去ろうとした。
その瞬間だった мең
街児の手が、地面の破片を強く握りしめた。
ミシ、と音がした。
石が砕ける。
(離すな)
(今は何もできなくても――)
(これだけは……)
「……覚えてろ」
街児は、叫んだ。
「俺は……
俺は絶対に――
お前を、掴む」
???は、初めて笑った。
「面白いことを言う」
「だが――」
「握れもしない手で、何ができる?」
次の瞬間、姿は消えていた。
⸻
瓦礫の中、立ち尽くす外山街児。
彼の手は、まだ震えている。
だが――
決して、開いてはいなかった。
この日、外山街児は失った。
故郷を。
日常を。
守れなかった自分を。
そして同時に――
“握る理由”を手に入れた。
――第一話・完。