実在の人物とは一切関係がありません。
瓦礫の山の中で、外山街児は一人立ち尽くしていた。
足元には崩れたコンクリート。
視線を上げれば、壊れた町の残骸。
「……」
何か言わなきゃいけない気がした。
でも、声が出なかった。
街児は自分の右手を見つめる。
拳は、さっきからずっと握られたままだ。
(……開いたら……)
理由は分からない。
ただ、怖かった。
その時。
「……いつまで、そうしてるつもり?」
背後から、声。
「ひっ……!?」
街児は肩を跳ねさせ、慌てて振り向いた。
そこにいたのは、見知らぬ少女だった。
金髪に、青い目。
手には黒いグローブ。
「だ、誰……?」
声が裏返る。
少女は少し驚いたように目を瞬かせた。
「……そんなに警戒しなくていいわ」
「べ、別に……警戒とか……」
言い訳しながら、街児は一歩下がる。
「私はジェン・ダー。
通りすがりの、ハンドグリッパー」
「……は、ハンド……?」
聞き返す声は小さい。
ジェンは、街児の拳に視線を落とした。
「まだ、握ってるのね」
「……え……?」
「自覚、ない?」
街児は慌てて手を見る。
「あ……いや……その……」
(いつから……?)
「さっきの、見てた」
ジェンの言葉に、街児の胸がぎゅっと縮む。
「……町が……壊れるところ」
「っ……」
「し、知ってるんですか……あいつのこと……」
語尾が、消え入りそうになる。
「直接じゃないけど」
ジェンは静かに答える。
「でも、似た被害は何度も見た」
街児は唇を噛んだ。
(俺だけじゃ……ない……?)
「あなたね」
ジェンは、はっきりと言った。
「力に、目覚めかけてる」
「え……ち、力……?」
「ハンドグリッパー」
ジェンはグローブを外し、軽く手を握る。
空気が歪む。
「ひ……」
街児は反射的に後ずさった。
「わ、俺……そんなの……」
「でも、あなたは違う」
ジェンは街児の拳を見る。
「《絶対把持》タイプ」
「ぜ、絶対……?」
街児は首を振る。
「む、無理です……俺……
ケンカとか……したことないし……」
ジェンは少し困ったように笑った。
「そういう問題じゃない」
「……」
「でも」
ジェンは、真剣な目で言う。
「離さない人は、長生きしない」
「……」
街児は俯いたまま、ぼそっと言った。
「……でも……」
「?」
「……もう……奪われるの……
やなんで……」
声は小さい。
けれど、確かにそこにあった。
その瞬間。
鼻を突く、不快な臭い。
「う……っ」
街児は顔をしかめる。
「な……なに……この……」
ジェンが舌打ちする。
「最悪……」
瓦礫の向こうで、誰かが笑った気がした。
「覚えときなさい、街児」
ジェンは低く言う。
「この世界には、
“握らせない”ことで勝つ奴もいる」
街児は、震える指で拳を握り直した。
「……そ、それでも……」
「俺……離さない……です……」
ジェンは、少しだけ目を見開き、
そして小さく息を吐いた。
「……ほんと、危険なインドア系ね」
こうして外山街児は、
望まぬまま――
戦いの世界に足を踏み入れた。
――第二話・完。
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