呪術廻戦in水神   作:白黒ととか

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第◼️幕 過去編2

2006年 秋

 

高専の校舎裏にある自販機ベンチは、水都梨那にとっての「玉座」であり、伊地知潔高にとっては「胃薬を飲むための休憩所」だった。

「――嘆かわしい! 実に嘆かわしいよ、伊地知! 今日の任務報告書はなんだい、この無味乾燥な文章は!」

 

夕暮れ時。

 

缶ジュースを片手に、水都は大げさな身振り手振りで文句を垂れていた。

彼女の膝の上には、伊地知が作成したばかりの報告書が広げられている。

 

「はぁ……。水都さん、それは公的な文書ですから。詩的な表現も、貴女の決めポーズの描写も必要ないんです」

 

伊地知潔高は、深く、それはもう深く溜息をついた。

入学してから数ヶ月。

一般家庭から呪術師の道を志し、真面目に勉強しようとしていた伊地知にとって、唯一の同級生である水都梨那は、あまりにも「濃すぎる」存在だった。

 

「分かっていないな、これだから凡人は! 『特級呪霊を祓った』とただ書くのと、『水神が舞い、穢れを禊ぎ、世界に平和が戻った』と書くのでは、読み手(上層部)へのインパクトが違うだろう!?」

「そんな書き方をしたら、夜蛾先生に怒られるのは僕なんですよ……」

 

伊地知は眼鏡の位置を直しながら、げんなりとした顔をする。

水都梨那、学生にして準一級の等級を持つ実力者でありながら、その言動は常に芝居がかっており、一人称は「僕」。

片時も手放さないステッキ(中身は特級呪具『諭示裁定カーディナル』)を持ち歩き、隙あらば「神」としての振る舞いを強要してくる。

 

だが、伊地知は知っていた。

この尊大な態度の裏に、極度のビビリと、小心者な素顔が隠されていることを。

 

「それに水都さん。さっきの任務、結局トドメを刺したのは貴女の式神(クラバレッタさん)ですけど、貴女自身はずっと『汚れるのは嫌だ!』って逃げ回ってたじゃないですか」

「ッ……! そ、それは戦略的撤退だ! 指揮官が前線で泥にまみれてどうする!」

 

水都が顔を真っ赤にして反論する。

図星だった。

彼女の戦闘スタイルは、強力な式神に戦わせて自分は安全圏から指示を出すというもの。

本人は「優雅な演舞」と言い張っているが、実際は痛いのが嫌いなだけである。

 

「ま、おかげで僕はサポートに専念できましたけど……」

 

伊地知は苦笑した。

水都は手のかかる同級生だが、根は悪い奴ではない。

任務の後は必ず、「付き合わせてすまないね」と言わんばかりに、こうして伊地知にジュースを奢ってくれる(ただし『神からの施しだ、受け取りたまえ』と言って渡してくるが)。

 

二人の間に、奇妙な連帯感が生まれていた。

それは、「五条悟という台風」に巻き込まれた者同士の絆だ。

 

「よっ。何シケた面してんの、一年ズ」

 

噂をすれば影。

空間が歪んだかのようなプレッシャーと共に、長身の白髪男が現れた。

五条悟、二つ上の先輩であり、水都をこの世界に引きずり込んだ張本人だ。

 

「ゲッ……五条先輩」

「ご、五条さん……!」

 

二人の声がハモる。

五条はニカっと笑うと、伊地知と水都の間に強引に割り込んで座った。

 

「伊地知、今回の任務帳、降ろすの遅れたろ? あと水都、報告書の字が汚い。書き直し」

「なッ!? 僕の筆跡は芸術的だろう!? それに何故キミが僕たちの報告書を見ているんだ!」

「暇だったから。あと硝子が『甘いもん食いたい』って言うからさ、これから買い出し行くぞ。荷物持ち決定な」

 

五条が指をパチンと鳴らす。 それは拒否権のない命令だった。

 

「ええ……僕、まだ明日の予習が……」

「伊地知は真面目すぎ。ほら行くぞ。水都も、限定のショートケーキある店だけど?」

「……!」

 

「ショートケーキ」という単語が出た瞬間、水都の表情がピクリと動いた。

彼女は大の甘党であり、スイーツには目がない。

 

「……ふ、ふん。仕方ないな。最強からの招待となれば、この水神が断るわけにもいくまい。伊地知、光栄に思いなさい。僕たちのパシリ……じゃなくて、随行を許可するよ」

「……はいはい。分かりましたよ」

 

水都は素早く立ち上がり、服の埃を払ってポーズを決める。

その横で、伊地知は諦め半分に立ち上がった。

五条を先頭に、尊大に歩く水都、そして荷物持ち確定の伊地知。

夕暮れの高専を歩く三人の影。

 

「あ、そうだ伊地知。今回のケーキ代、お前のツケにしとくから」

「えっ!? 五条さん、それあんまりじゃ……!」

「あはは! ドンマイ! ……まあ、僕が半分出してやろう。感謝したまえよ?」

「水都さん……! ありがとうございます(泣)」

「その代わり、僕の分のイチゴは2つに増やすこと。いいね?」

「……前言撤回します」

 

騒がしくも、どこか楽しげな放課後。

特級へと至る前の水都梨那と、後に補助監督として胃を痛め続ける伊地知潔高。

二人の学生時代は、最強の先輩に振り回されながらも、確かな信頼関係(と、互いの苦労を労う心)で結ばれていたのだった。

渋谷事変後の禪院家に関してどっちにするか迷ったので

  • 直哉:「僕はマグロやない特級や」ルート
  • 直哉:「人の心が無いんか?自分」ルート
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