呪術廻戦in水神   作:白黒ととか

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第◼️幕 過去編3

2006年 夏

 

蝉時雨が降り注ぐ東京都立呪術高等専門学校のグラウンドは、うだるような熱気に包まれていた。

 

「――はぁ、はぁ……! み、見事だ……! 流石は現代最強と謳われるだけはあるね、五条悟!」

 

土埃にまみれながらも、水都梨那はステッキ代わりの片手剣『諭示裁定カーディナル』を突き立て、懸命に優雅な立ち姿を維持していた。

 

豪奢な帽子が少しズレているのを直す手つきは震えている。

 

(死ぬ! 死んじゃう! なんなのこの人、体力無限なの!? もう三十分も追い回されてるんだけど! 早く寮に帰ってクーラーの効いた部屋でケーキ食べたい!)

 

彼女の内心の悲鳴など露知らず、目の前の長身の男――サングラスを掛けた五条悟は、涼しい顔でしゃがみこんだ。

彼の手には、いつの間にか自販機で買ってきた炭酸飲料が握られている。

 

「なんだよ水都、もうバテたの? 『神』ってのは意外と体力ねーんだな」

 

五条はニカッと笑うと、冷えた缶を水都の頬にピタリと押し付けた。

 

「ひゃうっ!?」

 

冷たさに驚き、水都は素っ頓狂な声を上げて飛びのく。

 

その拍子に足がもつれ、あわや転倒――しかけたところを、五条の『無下限』による引力が雑に引っ張り上げ、体勢を整えさせた。

 

「……無礼者め! いきなり冷たいものを当てるなんて、神への冒涜だぞ!」

 

「はいはい。ほら、飲めよ。脱水で干からびた神様とか笑えないからさ」

 

放り投げられたコーラを、水都は慌ててキャッチする。

プシュ、という音と共に炭酸が喉を潤すと、彼女はようやく生きた心地がした。

 

当時、五条悟は三年生。水都梨那は一年生。

二つ下の後輩である水都の「指導」という名目で、五条は暇潰しによく彼女を呼び出していた。

 

「それにしてもさぁ」

 

五条はサングラス越しに、水都が大切そうに抱えている『諭示裁定カーディナル』をじろりと見下ろした。その視線は、物質の構造から呪力の流れまでを看破する『六眼』の輝きを帯びている。

 

「お前のその剣、やっぱキショいな」

「失敬な! これは僕の権能の象徴、気高き天秤の剣だよ!」

「いや、構造の話。僕の目でも中身がよく分かんねーんだよ。ブラックボックスっていうか……お前と同じ質の呪力がパンパンに詰まってて、中で渦巻いてる。時限爆弾持ち歩いてるみたいでゾワゾワすんだよね」

 

五条の言葉に、水都の心臓がドクリと跳ねた。

(バレる!? いや、六眼でも解析不能のはず! この剣の中に先代水神の力が封印されてるなんてバレたら、即解剖コースだよ!)

 

彼女は冷や汗を隠すように、大げさにフンと鼻を鳴らした。

 

「凡人には理解できない高尚な神秘さ。キミのその澄んだ瞳でも、深淵の全ては覗けないということだよ」

「生意気言うねぇ。ま、いいけど」

 

五条は興味なさげに肩を竦めた。

彼は他人の秘密に深入りする趣味はない。

強ければそれでいい、面白ければそれでいいというスタンスだ。

彼はコーラを飲み干すと、ふと真面目なトーンで言った。

 

「お前の術式『水精操術』、ありゃ燃費が悪すぎる」

「……む?」

「式神の火力を上げるために自分の血(HP)を削る縛り。あれ、ソロだとジリ貧だろ。僕みたいに反転術式が回せる奴か、優秀なヒーラーがいないとすぐ死ぬぞ」

 

的確な指摘だった。 水都の術式は、自身や味方の血液を代償に高火力を叩き出す諸刃の剣。 今の彼女はまだ未熟で、代償のコントロールも完璧ではない。

 

「ふふん、心配には及ばないさ。僕は孤独なソリストではないからね。いつか僕の輝きを支える、最高の共演者(パーティ)が現れるはずさ」

「……ふーん」

 

五条は少しだけ目を見開いた後、口角を吊り上げた。

 

「ま、そうだな。一人で最強なんて、案外つまんねーしな」

 

その言葉には、かつて「最強」を分け合った親友を失ったばかりの、微かな影があったかもしれない。あるいは、これから育てる後輩たちへの期待か。 水都には読み取れなかったが、五条は立ち上がり、パンと手を叩いた。

 

「よし! 休憩終わり! あと一本やるぞ」

「はぁ!? まだやるのかい!? 僕はもうお肌のゴールデンタイムに向けて休息を取りたいんだが!?」

「文句言わない。次は『ウーシア』禁止な。剣術だけで僕に一発入れてみろ」

「無理難題を言うなこのサディスト!!」

 

抗議の声を上げる水都の首根っこを掴み、五条は楽しそうに笑う。

その姿は、まるで珍しいペットを見つけてはしゃぐ子供のようでもあった。

 

(ああもう! なんで僕がこんな目に! でも……五条先輩、なんだかんだ言って僕の術式のこと考えてくれてる……のかな?)

 

「ほら、構えろ梨那ちゃん」

「ッ……! 僕の名を気安く呼ぶな! ……手加減したまえよ!?」

 

蝉の声にかき消されながら、二人の模擬戦は夕暮れまで続いた。

それは、後に新宿決戦で世界を救うことになる「最強の術師」と「水神」、二人の共演の原点となる、何気ない日常の一幕だった。

渋谷事変後の禪院家に関してどっちにするか迷ったので

  • 直哉:「僕はマグロやない特級や」ルート
  • 直哉:「人の心が無いんか?自分」ルート
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