呪術廻戦in水神   作:白黒ととか

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思いついた以上書き始めないといけない気がした。


本編
第1幕


現代最強の術師・五条悟と、史上最強の術師・両面宿儺。

 

規格外同士の衝突が始まろうとするその直前、観戦者たちが詰めるモニター室の扉が、芝居がかった勢いで開かれた。

 

「やあやあ、待たせたね! 観客(オーディエンス)の諸君!」

 

張り詰めた緊張感を切り裂くように響いたのは、鈴を転がしたような、しかし尊大極まりない少女の声だった。

そこに立っていたのは、ステッキのように豪奢な片手剣――特級呪物『諭示裁定カーディナル』を突いた小柄な人影。

白髪に、水滴のような虹彩を持つオッドアイが特徴的な美少女である。

 

彼女こそが、日本に四人しか存在しない特級呪術師の一人、水都梨那(みずみや りな)。

呪術界上層部からは「単独での国家転覆が可能」と危惧される、歩く災害だ。

 

「水都さん……! 来てくれたんですね」

 

乙骨憂太が安堵と焦燥の入り混じった声を上げる。

水都はふふん、と鼻を鳴らし、ふわりと帽子を直す仕草を見せた。

 

「主役は遅れて登場するものさ。それに、僕がいなければこの『喝采』の準備は整わなかっただろう?」

 

胸を張って言い放つ彼女だが、その内心は冷や汗で溺れそうだった。

 

(こ、怖すぎる……! なんなんだこの空気は!? 帰りたい、今すぐ帰ってスイーツ食べて寝たい! でも特級として振る舞わなきゃいけないこのプレッシャー、誰か分かってくれないかな!?)

 

彼女は内心の悲鳴を鉄壁の演技力で押し殺し、モニターの前へ進み出る。

画面の向こうでは、五条悟が宿儺に対し、先制の「虚式・茈」を放った直後だった。

 

「さて……幕開けだ。瞬き厳禁だよ?」

 

水都は椅子には座らず、優雅に立ったまま戦況を見守る。

その瞳は、宿儺という受肉体の魂の在り方を、誰よりも鋭く見据えていた。

彼女は拡張術式『浸魂胎忌(しんこんたいき)』に付随する力によって『魂』を感じ取れる目には、伏黒恵の魂と宿儺の魂の結びつきが、あまりにも歪に見えていたのだ。

 

 

 

 

戦いは熾烈を極めた。

 

領域展開の押し合い。

 

五条の『無量空処』と宿儺の『伏魔御廚子』が衝突する。

 

結界を閉じない宿儺の領域に対し、五条は結界の対内条件と対外条件を逆転させるという離れ業で対抗していく。

 

「……やるじゃないか、あのバカ目隠し」

 

水都は感嘆の声を漏らした。

 

彼女自身の領域展開『万海蒼宴舞(ばんかいそうえんぶ)』もまた、宿儺と同じく「結界を閉じない」神業によって成立している。

最大半径数キロメートルに及ぶ広大な舞台を構築し、敵への攻撃を捨てて味方へのバフのみにリソースを全振りするというイカれた縛り。

だからこそ、彼女には今行われている領域戦の異常性が手に取るように理解できた。

 

「おい水都、お前の領域も結界を閉じない領域だったよな。あれはどういう理屈なんだ」

 

日下部が脂汗をかきながら尋ねる。 水都は『諭示裁定カーディナル』の柄を指先で弄びながら、得意げに解説を加えた。

 

「知らないよそんなこと。僕は呪力が漏れ出た範囲がそのまま領域の範囲になってるんだから宿儺に直接聞いておくれ」

 

口では余裕をぶっこいているが、水都の握る剣の手には力がこもっていた。

 

(五条先輩が負けたら僕たちが戦うの? あの化け物と? 無理無理無理! 僕の術式はサポーター寄りなんだよ!? 単独で戦ったら痛いし怖いし!)

 

彼女の術式『水精操術(サロン・ソリティア)』は、強力な式神を使役する代償に、術者や味方のHP(血液)を削るという縛りがある。

五条悟という最強の盾があってこそ、彼女は後ろでふんぞり返っていられるのだ。

その盾が、今、砕けるかもしれない恐怖。

 

戦況は二転三転した。

五条が脳を破壊し、反転術式で焼き切れた術式を修復しながら戦うという無茶を繰り返す。

見ているだけで吐き気を催すような呪力の応酬。

 

そして、魔虚羅の適応。

宿儺が伏黒恵の魂に負担を肩代わりさせ、適応の法陣を回した瞬間、水都のオッドアイが見開かれた。

 

「……汚い。あまりにも舞台裏が汚すぎるよ、呪いの王」

 

彼女は吐き捨てるように言った。

 

魂を知覚する(すべ)を持つ彼女には、伏黒の魂が深淵で沈み込み、傷つけられている様がより鮮明に感じ取れてしまったのだ。

 

だが、五条悟は強かった。

 

赫と蒼を融合させ、無制限の『虚式・茈』を新宿上空で炸裂させる。

宿儺ごと自身を巻き込む自爆覚悟の一撃。

紫色の閃光がモニターを白く染め上げ、新宿の街並みが消し飛んだ。

 

「こ、れって……」

 

虎杖悠仁が、祈るように、しかし確信めいた声を震わせる。

その言葉を引き継ぐように、日下部篤也が安堵の息と共に断言した。

 

「ああ、五条の勝ち――」

「――五条の負けだ」

 

歓喜に沸きかけたモニター室の空気を、冷や水のような声音が断ち切った。

日下部の言葉に被せるように、いや、彼が「勝ち」と言い切るコンマ一秒前に、水都梨那だけがその結末を宣告していた。

 

「あ……? 水都、何を言って」

 

日下部が怪訝な顔で振り返る。

だが、彼が見たのは、いつもの芝居がかった余裕をかなぐり捨て、蒼白な顔でモニターを凝視する少女の姿だった。

 

(な、なに……今の?)

 

水都の背筋を、極寒の氷柱が突き抜けていた。

彼女の特異な虹彩を持つ瞳――『魂の浸透圧』や呪力の流れを視る目は、捉えてしまったのだ。

宿儺の指先から放たれた斬撃が、五条悟という個体を飛び越え、彼が存在する「空間そのもの」を断絶した瞬間を。

 

それは彼女が使う『万海』の概念に近い。

「対象」ではなく「世界」を書き換える一撃。

不可侵であるはずの『無下限』ごと、世界がズレた違和感。

 

(嘘でしょ……五条先輩の呪力が、途切れた……!?)

 

「説明している時間はない! 冥冥、憂憂!!」

 

水都は叫んだ。その手には『諭示裁定カーディナル』が強く握りしめられている。

 

「僕を戦場(あそこ)へ飛ばしたまえ! 今すぐにだ!!」

「はあ? 何を言って――」

「どけ、次は俺の番だ」

 

割り込んできたのは、鹿紫雲一だった。 雷神の如き殺意を漲らせ、彼は好機とばかりに出撃しようと一歩を踏み出す。

五条が勝ったのなら次は自分だと、あるいは負けたのなら尚更自分だと、その好戦的な瞳が語っていた。

 

「邪魔だ、どきな小娘」

 

鹿紫雲が水都の肩を掴もうとした、その時だ。

 

ドンッ!!

 

室内の重力が倍加したかのような、重苦しいプレッシャーが爆発した。 水都を中心として、視界が歪むほどの濃密な呪力が奔流となって溢れ出す。

 

「――『観客』は席に着いていろと言っているんだよ?」

 

水都が鹿紫雲を睨みつける。

その背後に、巨大な水の龍が鎌首をもたげたような幻影が揺らめいた。

それは特級術師としての格。

普段は『諭示裁定カーディナル』に封じ込めている神クラスの出力の、ほんの一端からの漏出。

 

「ッ……!」

 

鹿紫雲ですら、本能的な忌避感を覚えて足を止める。

その一瞬の静寂を縫って、水都は震える指先を憂憂に向けた。

 

「憂憂! 僕を五条先輩の傍へ! 最前列(アリーナ)だ! 代金なら冥冥にいくらでもふっかけていいと言っておけ!」

「姉様の口座に振り込まれるなら、喜んで」

 

憂憂が即座に反応し、術式を展開する。

(ひいいい! 怖い! 行きたくない! 宿儺の前に飛び出すとか自殺行為じゃん! でも行かなきゃ五条先輩が死ぬ! 僕しか介入できない!)

 

水都は内心で半泣きになりながら、表面上は決然とした表情を作った。

 

「幕はまだ下ろさせない!」

 

空間が歪む。

モニター室の景色が反転し、鼻をつく硝煙と血の匂いが満ちた新宿の廃墟へと切り替わるその刹那。

 

水都の目の前に映ったその背中は既に――ゆっくりと、崩れ落ちようとしていた。

 

「何をやってるんだバカ目隠しッ」

 

戦場に似つかわしくない、高らかで、そして芝居がかった声が響き渡った。

瓦礫の山となった新宿の廃墟に、突如としてスポットライトのような光が降り注ぐ。

そこに立っていたのは、ステッキを片手に、豪奢な衣装を纏った一人の少女――水都梨那(みずみや りな)であった。

 

「あー、あー! コホン。……なんたる醜態! なんたる悲劇! これが『最強』の幕引きだなんて、僕が認めないぞ!」

 

彼女は震える膝を必死に隠し、胸を張って瓦礫の上に仁王立ちする。

その瞳孔には水滴の紋様。彼女は、自身に課した『演技』という名の縛りを最大限に発動させていた。

 

「さあ、喝采を! ショーの続きを始めようじゃないか!」

 

宿儺の目が、不愉快そうに細められた。

 

「何だ、あの小娘は」

 

五条悟の胴体が地面に叩きつけられる寸前、水都の影から、清らかな水を纏った精霊が現れる。

彼女の術式、水精操術:サロン・ソリティア。

その中でも治癒を司る『反転(プネウマ)』の権能を持つ、「衆の水の歌い手」である。

 

「キミに捧げよう!」

 

少女の号令とともに、歌い手から膨大な、あまりにも膨大な正のエネルギーが奔流となって五条の肉体を包み込んだ。

それは通常の反転術式とは一線を画していた。

 

「ぐ、ぬぅ……!」

 

水都の額に脂汗が滲む。

五条悟という規格外の存在、しかも「世界を断つ」斬撃による断面を繋ぎ止めるなど、本来ならば不可能。

 

だが、彼女は演じ続ける。

 

この場の誰よりも尊大で、余裕のある「水神」として振る舞うこと。

その『嘘』を『真実』に変えるほどの呪力出力を、「演技」という縛りが生み出していた。

 

千切れた臓器が、血管が、原初の海に還るかのように水泡に包まれ、急速に再構築されていく。

宿儺が興味を失い、追撃の『解』を放とうと指を振るう。

だが、水都は動じない。

 

「野暮だよ、呪いの王。役者が舞台裏で化粧直しをしている最中に覗き見なんて、マナー違反もいいところだ!」

 

彼女がステッキ――特級呪具『諭示裁定カーディナル』を掲げると、展開された水の膜が宿儺の斬撃を「希釈」し、無害な水しぶきへと変えた。

 

「……ほう」

 

宿儺が初めて、明確に彼女を敵として認識した。

 

渋谷事変後の禪院家に関してどっちにするか迷ったので

  • 直哉:「僕はマグロやない特級や」ルート
  • 直哉:「人の心が無いんか?自分」ルート
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