フォンテーヌ(仮)の優雅な午後。
王宮のテラス席には、不釣り合いなほど豪華なメンツが揃っていた。
テーブルには水都梨那が「若い世代の育成と、おじさんの休憩のため」にと提供した、最高級の紅茶とタワーのようなケーキスタンド。
そこに座るのは、現代最強・五条悟。
特級呪詛師(現在は建国事業の宰相)・夏油傑。
特級術師・水都梨那。
特級術師・乙骨憂太。
そして、2級術師・伏黒恵。
「……で、なんで俺がここに呼ばれたんですか?」
伏黒が居心地悪そうに尋ねると、五条がショートケーキの苺をフォークで突きながら答えた。
「んー? 恵は今、伸び悩んでるだろ? ここにいるのは、式神使い……あるいはそれに『近い』運用をしてる先輩たちだ。たまには真面目に話でもしてみなよ」
「……」
伏黒は黙り込んだが、その目は真剣だった。
「……伏黒くん。私も、君の『十種影法術』には興味がある」
夏油は優雅に、しかしどこか疲れを滲ませながら紅茶を口にした。
「私の『呪霊操術』と、君の『十種影法術』、水都のは一旦良いとして乙骨くんの『折本里香』。……アプローチは違うが、自らの手足となる『別個体』を使役するという点では、学ぶべき共通項が多い」
「夏油さんのは『主従』って感じですよね」
乙骨が控えめに口を開く。
彼の背後には、見えないが特級過呪怨霊・リカの気配が漂っている。
「そうだね。私は降伏した呪霊を取り込み、完全に支配する。彼らに自我はない……いや、ある程度の知能はあるが、基本的には私の命令を遂行するだけの『駒』だ。……最近はもっぱら、発電用の呪霊を創造したり『生産』としての側面が強いがね……」
夏油が遠い目をする。
水都による建国事業で、彼の数千の呪霊たちはブラック企業の社員並みに酷使されていた。
「……大変そうですね」
「……で、本題だ。私の術式は『理論上無限の数』と『手札の多さ』が強みだ。対して、君の式神は『質』と『連携』が肝だろう?」
「はい。破壊された式神は二度と戻らない。だからこそ、慎重にならざるを得ないんです」
伏黒が答えると、五条が横から口を挟んだ。
「そこが恵の真面目すぎると・こ・ろ! 傑を見てみなよ。呪霊を『使い潰す』ことに躊躇がないだろ? 『極ノ番・うずまき』なんて、せっかく集めた手駒をあえて圧縮してぶつける技だし」
「おい悟、人聞きが悪いな。……だが、一理ある。伏黒くん、君は式神を『独立した個体』として尊重しすぎているきらいがあるね」
夏油は指先でテーブルを叩く。
「水都を見てごらん。彼女の『式神』……あの背後に現れる『最高審判官(ヌヴィレット)』の幻影を」
「あれは……式神なんですか?」
伏黒が問う。
「厳密には違う。あれは彼女の『攻撃意志の具現化』であり、膨大な質量の『水』を人型に固めただけの、いわば『自動砲台』だ」
夏油の分析に、乙骨が頷く。
「確かに……水都さんのあれ、意思を感じませんよね。リカちゃんみたいな『感情』がない。ただ、水都さんが『殴る』と思ったら、それに合わせて高圧水流ビームが出る……システムみたいな」
「そう。彼女は式神を『生物』ではなく『機能』として扱っている。……最近、彼女に教わってね。私も呪霊を合成して『機能特化』させることを覚えた。『発電特化』や『濾過特化』の呪霊を作るようにね」
(……やっぱりインフラ整備の話じゃないか)
伏黒は心の中でツッコミを入れたが、口には出さなかった。
「僕の場合は、リカちゃんが勝手に動いてくれることも多いので……」
乙骨が苦笑する。
「憂太のは『共依存』に近いよねー。リカは燃料タンクであり、外付けハードディスクであり、最愛のパートナー。……傑のが『軍隊』、恵のが『群れ』なら、憂太のは『夫婦』かな」
五条の適当な分類に、夏油がフッと笑う。
「『夫婦』か。言い得て妙だね。……伏黒くん。君の『影』は、まだ拡張の余地がある。媒体が『影』である以上、形に囚われる必要はないんじゃないか? 水都が水を自在に操るように、君も影をもっと『流動的』なリソースとして捉えてみたらどうだい?」
「流動的な……リソース」
「そう。犬は犬、鳥は鳥、と決めるのは君の固定観念だ。相伝の術式である以上どこかで決まった形になったのかもしれないが……時には複数の影を混ぜ合わせたり、あるいは影そのものを『沼』として使ったり。……まあ、私がやっている『新規創造』のような真似はリスクが高いだろうが」
夏油のアドバイスは、実践的でありながらもマッドサイエンティストの領域に片足を突っ込んでいた。
だが、伏黒の中にはストンと落ちるものがあった。
「……ありがとうございます。少し、考え方が変わりました」
「……あ、ちなみに水都の『ヌヴィレット』だけどさ」
五条がケーキを完食し、新しい紅茶を注ぎながら言った。
「あれ、本人は『式神』って言ってるけど、実際は彼女の呪力の『質量』そのものだから。恵が真似するとパンクするよ? 水都は憂太以上に呪力があるから、あんなデタラメな『出しっぱなし』ができるだけ」
水都はカップをソーサーに置くと、自嘲気味に口の端を歪めた。
「僕の『最高審判官(ヌヴィレット)』を真似するのはお勧めしないよ、伏黒恵君」
「……なぜですか? あれだけの出力と術者との連携、追撃、参考になる部分は多いはずです」
伏黒が食い下がる。
彼にとって、特級術師の式神運用は喉から手が出るほど欲しい情報だ。
だが、水都は首を横に振り、遠い目をした。
その瞳には、かつての過酷な労働環境(ブラック高専時代)の暗い光が宿っている。
「あれは……僕が任務に次ぐ任務で疲れ果てていた頃、精神的にイカれていた頃に作った『欠陥品』だからだよ」
「欠陥品……? あれがですか?」
乙骨が驚いたように声を上げる。
島一つ分のインフラを支え、海を割るほどの破壊力を持つあの影が、欠陥品とは信じがたかった。
「そうさ。あれの構築理念は、極めて頭の悪い『縛り』の上に成り立っている」
水都はステッキで空中に水の輪を描き、説明を始めた。
「通常、式神というのは『自律思考』や『生物的な特性』、あるいは『特殊な術式』を持つことで価値が出る。君の玉犬や鵺、乙骨のリカちゃんがそうだね」
「はい」
「だが、僕のヌヴィレットは違う。あれは『縛り』によって、それら全てを捨てているんだ」
水都は指を一本立てる。
「一つ、『自我を持たない』。 二つ、『複雑な術式を持たない』。 三つ、『生物としての構造を持たない』。四つ、『もともと持っていた式神の破棄』 汎用性と希少性、そして運用コストの安さ……それらを全て天秤に乗せ、対価として得たのは、ただ一点――『破壊力(火力)』のみだ」
「……!」
伏黒が息を呑む。
それは式神術師として、あるまじき構成だった。
式神の利点は、術師の手足となり、偵察や撹乱、連携を行う「多機能性」にある。
それを全て捨てたということは……。
「そう。あれは式神の形をした、僕の『代行者』なんだよ」
水都が冷ややかに笑う。
「あの頃の僕は、とにかく早く任務を終わらせて帰りたかった。敵の行動を分析したり、弱点を探ったりする手順すら面倒だった。だから作ったんだ。『敵がどこにいようが、どんな防御をしていようが、建物ごと押し流して殺せば解決する』という、思考停止の暴力装置をね」
「うわぁ……」
五条が楽しそうに引いている。
「効率厨の極みだね。要するに、『考えるのが面倒だから全部吹き飛ばす』ための縛りってこと?」
「ご明察だよ、五条。……伏黒君、君の『十種影法術』は、影を媒介に多様な式神を喚び出し、臨機応変に対応できるのが強みだ。僕のような『脳筋』の真似をして、その柔軟性を捨てるべきじゃない」
夏油が静かに紅茶を啜りながら、補足するように口を開いた。
「……水都の言う通りだ。彼女のあれは、式神というより『質量兵器』に近い。彼女自身の規格外の呪力出力があるから成立しているだけで、普通の術師が真似をすれば、一発撃っただけでガス欠で死ぬよ」
「……なるほど。俺には真似できないし、するべきでもない、と」
伏黒は納得し、少しだけ残念そうに肩を落とした。
「そういうことだ。君は君の道を往け。……あんな、殺意と疲労と『早く帰りたい』という怨念の塊みたいな式神、作るべきじゃないのさ」
水都はそう締めくくると、再び甘いケーキにフォークを突き立てた。
その背後に、半透明の『最高審判官』の影がゆらりと揺れる。
主人の「邪魔なものを排除したい」という無言の圧力を受け、ただ静かに、圧倒的な破壊の予兆を漂わせながら。
渋谷事変後の禪院家に関してどっちにするか迷ったので
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直哉:「僕はマグロやない特級や」ルート
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直哉:「人の心が無いんか?自分」ルート