呪術廻戦in水神   作:白黒ととか

29 / 30
第◼️幕 お茶会2 【IF】

フォンテーヌの優雅な午後。

 

話題は水都梨那の現在の主力である『最高審判官(ヌヴィレット)』から、彼女がかつて行使していたという「本来の術式」へと移っていた。

 

「……なるほど。今の『ヌヴィレット』は、君が心をすり減らした結果生まれたものというのは理解したよ」

 

夏油傑が紅茶のカップを置き、興味深そうに水都を見る。

 

「じゃあ、それ以前……君がまだ正常な精神状態だった頃の術式はどうだったんだい? 『水精操術』の本来の形について聞きたいね」

「あー、あれね。……あれはあれで、性格が悪かったよ」

 

五条悟がげんなりした顔で口を挟む。

水都はふんと鼻を鳴らし、虚空に水の泡を浮かべて、かつての「客演(ゲスト)」たちの姿を幻視させた。

 

「本来の僕の術式――『水精操術(サロン・ソリティア)』。それは、僕の孤独を埋める友人たちを招く舞踏会さ」

 

水都が指を振ると、タコ、タツノオトシゴ、ヤドカリを模した可愛らしい水の精霊の幻影がテーブルの上を踊る。

 

「可愛い見た目ですね。……今の威圧的な影とは大違いだ」

 

伏黒恵が少し安堵したように言うが、水都は冷酷に告げた。

 

「見た目に騙されてはいけないよ、伏黒恵」

 

「……はい?」

 

「術式順転『ウーシア』。この愛らしいサロンメンバーたちは、自律行動し、高い火力と耐久力を誇る。特級呪霊相手でも引けを取らない。……だが、それには強烈な『縛り』があるんだ」

 

水都はニヤリと笑い、隣に座る五条を指さした。

 

「『攻撃の代償として、術者および周囲の味方の血液を強制的に徴収する』」

「……は?」

 

伏黒の声が裏返る。

 

「つまりだ。僕が彼らを喚び出して『敵を撃て』と命じるたびに、僕の、あるいは組んでいる味方の体から、勝手に血が抜かれていくんだよ。……五条、君も昔、僕と組んだ時に貧血で倒れかけただろう?」

 

「あったねー。無下限で攻撃は防げても、味方判定の『徴収』は防げないからさ。気づいたらフラフラになってんの。マジで最悪だよ」

 

五条が嫌そうに手を振る。

夏油が眉をひそめた。

 

「……味方の生命力を弾丸に変えるのか。随分と……呪術らしいというか、えげつない縛りだね」

「その分、火力は保証するよ。味方が多ければ多いほど、彼らは踊り、敵を殲滅する。……まあ、終わった頃には味方も半死半生だがね」

 

「反転術式が使える味方か、あるいは極端にタフな術師と組まないと成立しない戦術ですね……」

 

乙骨憂太が分析する。

リカちゃんという膨大なリソースを持つ彼でさえ、勝手にHPを削られるのは御免被りたいだろう。

 

「そうだね」

 

水都は手元の泡の色を、暗い青から輝く白へと変質させた。

 

「次だ、術式反転『プネウマ』。……召喚する式神を『衆の水の歌い手』に切り替える。こいつは攻撃を行わない代わりに、広範囲反転術式をばら撒き継続的に治癒し続ける」

 

「広範囲の治癒……!?」

 

夏油が身を乗り出した。

家入硝子のような「他者を治癒できる反転術式使い」は、呪術界において希少中の希少だ。

それを式神として行使できるなら、その価値は計り知れない。

 

「だが、ここにも面倒な『縛り』がある。……僕は、自分自身の肉体で反転術式を回せない」

 

水都は自分の体を指さす。

 

「僕が傷ついた時、自分で自分を治すことはできないんだ。必ず『歌い手』を召喚し、そいつに歌わせないと回復できない。……つまり、回復行動には必ずワンテンポのラグが生じるし、式神を破壊されたら僕は治療手段を失う」

「……リスクが高いな」

 

伏黒が唸る。

 

「そうなんだよ! 順転では味方の血を啜り、反転では自分を守れない! あちらを立てればこちらが立たない! 戦況に合わせて衣装を着替え、式神を出し入れし、味方の顔色と自分の血圧を管理する……」

 

水都はそこで言葉を切り、心底うんざりした顔で、背後の巨大な『最高審判官』の影を指差した。

 

「……そんな面倒くさいマネジメント、もうやってられるか! ってなって、全部捨てたのが今のスタイルさ」

 

「ああ、なるほど……」 全員が納得した。

 

「今の『ヌヴィレット』なら、味方のHPなんて気にせず、僕の膨大な呪力を垂れ流すだけで全てを吹き飛ばせる。回復も、自己完結型の反転術式をオートで回せばいい。……繊細な指揮者(コンダクター)から、単独完結型の破壊兵器への転向。それが僕の『術式』の正体だよ」

 

「……効率的ではあるが、夢がないね」

 

夏油が苦笑する。

 

「夢で腹は膨れないし、残業は減らないからね。……伏黒恵、もし君が『魔虚羅』なんていう自爆スイッチを使うくらいなら、僕のサロンメンバーを貸してあげようか? 君の血を吸い尽くすまで敵を殴り続けてくれるよ?」

「……遠慮しておきます。貧血で死にたくないので」

「まぁ、縛り的にもう出せないがね」

 

伏黒は丁重に断り、改めて自分の式神の扱いやすさに感謝したのだった。

 

「とはいえ、だ。僕の『最高審判官』のような極端な例はさておき、『縛りと術式の限定運用』というアプローチ自体はアリだよ」

「……限定運用、ですか?」

 

伏黒が反芻する。

水都はテーブルの上に置かれた角砂糖を指先で弾くと、それを空中で静止させ、さらに言葉を継いだ。

 

「そう。僕自身、ヌヴィレットの影を常時背負っているわけじゃない。必要がない時は『ビームだけ』を顕現させることも可能だ。……というか、ヌヴィレットの本質は『式神の形をしたビーム発射口』だからね。極端な話、影すら出さずに僕の指先から直接撃つこともできる」

 

水都がパチンと指を鳴らすと、彼女の指先から圧縮された水弾が放たれ、遥か沖合の岩礁を音もなく粉砕した。 背後にあの威圧的な影は現れていない。

 

「見ての通りさ。式神の姿(ヴィジュアル)を省略し、その『機能(スキル)』だけを抽出して行使する。……これを対人戦でやるとどうなると思う?」

 

「……相手は、貴女が『式神使い』なのか、単に『水を操る術師』なのか判断がつかなくなる」

 

夏油が即答する。水都は満足げに頷いた。

 

「正解だ。術師同士の戦いにおいて、情報の非対称性は最大の武器になる。相手が『式神を召喚して攻撃してくる』と身構えている隙に、本体である僕が直接殴り飛ばせばいい。逆に、僕を狙って突っ込んできた相手の死角から、式神の『機能』だけで迎撃するのも有効だ」

 

水都は伏黒に向き直り、彼の影をステッキで突いた。

 

「伏黒恵君。君の『十種影法術』も同じだ。式神を完全に実体化させれば、破壊されるリスクが生じる。だが、例えば『鵺』の電気だけを君の拳に纏わせることはできないかい? あるいは『満象』の重さだけ拳に乗せることは?」

 

「……!」

 

伏黒の目が見開かれる。

式神を「相棒」として呼び出すのではなく、自身の術式の一部として「機能」だけを取り出す発想。

それは、式神が破壊されれば二度と戻らないという彼のリスクを劇的に軽減する可能性を秘めていた。

 

「式神を出さずに式神の力を発揮できれば、術式の誤認を誘えるだけじゃない。コスト(呪力)の節約にもなるし、何より『破壊される』というデメリットを踏み倒せる。……ま、高度な呪力操作と、術式への深い理解、再構築するセンスが必要だけどね」

 

「……なるほど。僕の『リカちゃん』の部分顕現に近いですね」

 

乙骨が納得したように頷く。

 

「そう、乙骨のアレだ。アレをもっと意図的に、戦略的にやるんだよ。……全部出すのは疲れるし、場所も取るからね。必要な時に、必要な分だけ、効率よく(サボりながら)相手を殺す。それが『賢い』術師の戦い方さ」

 

水都はそう締めくくると、冷めた紅茶を一気に飲み干した。

その横顔は、やはりどこまでも合理的で、そして徹底的に「楽をする」ことに貪欲な、現代っ子のそれだった。

 

 

 

 

「……まぁ、僕は全部吹っ飛ばすから関係ないがね」

 

 

「身も蓋もないな」 と五条悟がケラケラと笑う。

水都はナプキンで口元を拭い、愛剣『諭示裁定カーディナル』を弄びながら続けた。

 

「小細工が必要なのは、火力が足りない時か、被害を抑えたい時だけだ。僕の場合、敵ごと地形を変える方が早いからね。……だが、君たちは違うだろう?」

 

彼女のオッドアイが、二人の後輩に向けられる。

まずは、特級術師・乙骨憂太。

 

「乙骨憂太、君も呪力操作と効率を上げれば出来るさ」

「え、僕ですか?」

 

乙骨が目を丸くする。

 

「そうだよ。君の『リカ』という底なしの貯蔵庫(タンク)は、僕の出力機関(エンジン)と似た性質を持っている。君はリカを完全顕現させて、拡声器だの刀だのを使っているが……あれは無駄が多い」

 

水都は指先で空中に水の輪を描く。

 

「リカの『愛』という名の莫大な呪力を、わざわざ怪物の形に固める必要はない。ただ純粋な『エネルギーの奔流』として、君の指先から、あるいは刀身から直接放つイメージ。……そう、僕がヌヴィレットの影を出さずにビームを撃つようにな」

 

「呪力を、形にせず、ただ出力として……」

 

乙骨が自分の手を見つめる。

彼の呪力量は無尽蔵と評価されるほどの規格外だ。

 

「君ならできる。五条のような繊細な操作は無理でも、僕のような『大雑把な放出』なら適性があるはずだ。……ま、制御を間違えると高専が消し飛ぶから、練習は別の場所でやりたまえ」

 

「……頑張ります」 乙骨が冷や汗を流しながら頷く。

そして、水都の視線は次に、伏黒恵へと移った。

 

「そして伏黒恵。君は術式の理解と、魔虚羅の調伏だね」

「ッ……!?」

 

伏黒の動きが止まった。

その名は、彼が持つ『十種影法術』における最強の式神であり、同時に彼が「最悪の場合の自爆スイッチ」として隠し持っている奥の手だ。

 

「……不可能でしょう」

「ん?」

 

彼女の表情から笑みが消え、真剣な眼差しになる。

 

「君はいつかが来たら、その『八握剣異戒神将魔虚羅』を使って、敵と相打ちになろうと考えているだろう?」

「……」

 

図星を突かれ、伏黒は沈黙する。

五条が「おー、言われてる言われてる」と茶々を入れるが、水都はそれを無視して言葉を重ねた。

 

「やめたまえ。それは『雑魚の思考』だ。」

「……はい」

 

水都はテーブルの上の角砂糖を指で弾き、粉々にした。

 

「死んで勝つのは三流だ。死んでも勝つのが二流だ。一流は死なずに勝つ。……調伏できないなら、調伏できるまで『影』の解釈を広げろ。君の影は、ただの収納スペースじゃない」

 

「影の解釈……」

 

伏黒の中で、何かが繋がりかけた。

かつて宿儺に言われた「宝の持ち腐れ」という言葉と、今の水都の助言がリンクする。

 

「ま、どうしても無理なら、僕が唆したことだアドバイスくらいはしよう」

 

水都が不敵に笑うと、横で書類仕事をしていた夏油傑が、重い口を開いた。

 

「……水都。彼らを煽るのはいいが、あまり無茶を吹き込まないでくれ。……もし伏黒くんがここで魔虚羅を暴れさせたら、誰が尻拭いをすると思っているんだ?」

 

夏油は死んだ目で、手元の『復旧工事予算案』を叩いた。

 

「また私かい? 特級呪霊を総動員して怪獣退治をさせられた挙句、壊れた街の修繕費を計算するのは」

「安心したまえ夏油! その時は僕が『諭示裁定カーディナル』の出力を全開にして、島ごと更地に戻してリセットしてやる!」

「それが一番困るんだよ!!」

 

夏油の悲鳴に近いツッコミが響き渡る。

五条は腹を抱えて笑い、乙骨と伏黒は、このデタラメな先輩たちを見ながら、しかし確実に「強くなるためのヒント」を掴んでいた。

 

「……やるしかないですね、伏黒くん」

「……はい。この人たちに振り回されないためにも」

 

二人の若き術師の目には、先ほどよりも強い光が宿っていた。




ちょっとおかしい部分があったので修正しました。

渋谷事変後の禪院家に関してどっちにするか迷ったので

  • 直哉:「僕はマグロやない特級や」ルート
  • 直哉:「人の心が無いんか?自分」ルート
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。