呪術廻戦in水神   作:白黒ととか

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第6幕

ロサンゼルス、某巨大スタジオ。  

映画『The Vision Silence(神の目は語らない)(名称が確定した)』の撮影は、クランクアップ目前にして最高潮の熱気に包まれていた。

 

「――カット! パーフェクトだ! なんて神々しいんだ、RINA!」

 

ストーブン・ハン・バーグ監督の興奮した声が響き渡る。

 

セットの中央、巨大なプールの上に作られた「神殿」のセットで、水都梨那は優雅に足を組んで座っていた。

 

「ふふん、当然だろう? この程度の『悲哀』、僕にかかれば造作もないことさ」

 

カメラに向かって不敵に微笑む水都。  

その頬には、美しい一筋の涙が伝っている。  

 

スタッフたちが

「なんて演技力だ……」

「本物の女神が憑依しているようだ」

とざわめく中、水都の内心はパニックの極致にあった。

 

(やばいやばいやばい! 今の英語のセリフ、発音合ってた!? 『Sorrow(悲しみ)』が『Sparrow(スズメ)』に聞こえてない!? 監督がめっちゃ褒めてるけど、これ絶対僕の勘違いを深読みして感動してるパターンだよね!? あとこの衣装、コルセットがきつすぎてリアルに涙出てきたんだけど!!)

 

内心で絶叫しながらも、彼女は優雅に指を鳴らした。  

すると、彼女の周囲に浮かんでいた「水球」が、パシャリと弾けて美しい霧となる。  

 

これはCGではない。

彼女の術式による微細な呪力操作――水蒸気爆発の応用による演出だ。

 

「……おい、今の見たか? 水が勝手に……」

「CG班の仕込みだろ? 最新技術すげーな」

「いや、俺何も操作してないぞ……?」

 

現場がざわつく中、サングラスをかけた「付き人」こと釘崎野薔薇が、手にしたピコピコハンマー(なぜか現地で購入)でスタッフを威嚇しつつ、タオルを持って駆け寄った。

 

「はいはい道あけて! 女優のお通りよ! 梨那様、お疲れ! 水飲みな!」

「あ、ありがとう野薔薇……助かったよ……」

 

裏に引っ込んだ瞬間、水都はへなへなと長椅子に崩れ落ちた。

 

「もうダメだ……緊張で胃に穴が空く……。なんで監督は『次は水の上を歩いてみようか!』とか無茶振りするんだい? ワイヤーアクションの準備もなしに!」

「アンタが『神に不可能はない』って言って、本当に水面歩行(術式)やったからでしょ。スタッフ全員、日本の忍術だと思って感動してたわよ」

 

釘崎は呆れながらも、冷えたスポーツドリンクを渡す。  

この数週間、釘崎野薔薇は完璧なマネージャー兼ボディーガードとして覚醒していた。

現地のパパラッチを釘崎特有の殺気で追い払い、理不尽なスケジュールの変更には英語(のような何かと拳)で抗議し、水都のメンタルケアまでこなしている。

 

「でも、これで撮影は全部終わり。あとは明日のプレミア上映会だけよ」

「うぅ……それが一番の問題なんだよ……。レッドカーペットだよ? 全世界生中継だよ? 転んだらどうするんだ、ドレスの裾を踏んで『ギャッ』とか言ったら呪術界の恥だぞ……!」

「大丈夫だって。アンタの顔面と度胸は、私が保証してやるわよ」

 

釘崎はニカっと笑い、水都の背中をバシッと叩いた。  

その痛みに、少しだけ水都の震えが止まる。

 

「……そうだね。僕は水都梨那、またの名をフォカロルス。観衆が僕を見ている限り、舞台からは降りないさ!」

 

 

 

 

 

 

そして翌日。  

ドルビー・シアター前、レッドカーペット。

 

そこは、光の洪水だった。  

世界中から集まったカメラのフラッシュが、夜空を昼間のように照らし出している。  

リムジンが止まり、ドアが開く。  

降り立ったのは、深い蒼と白を基調としたドレスに身を包んだ「RINA」と、黒のパンツスーツで髪をアップにした、SP顔負けの鋭い眼光を放つ釘崎野薔薇だ。

 

「キャァァァァァ! RINAァァァ!!」

「こっち向いて! RINA!!」

 

凄まじい歓声。  

水都は一瞬怯みそうになる膝に呪力を込め(身体強化)、優雅に手を振った。

 

「ボンジュール、愛しき子羊たちよ! 今夜の宴を楽しんでくれたまえ!」

(ひいいいい! なんでこんなに人いるんだよ! こっちは全くの無名だぞ!!フラッシュで前が見えない! 野薔薇、足元誘導して! 小声で!)

(分かってるわよ、あと三歩で階段! 顎引いて、笑顔キープ!)

 

二人がカーペットを進む中、突如として空気が変わった。  

ルーフバルコニーから、何かが降ってきたのだ。

 

「Hey RINA! 遅かったじゃないか!」

 

シュタッ!!

 

陽気な声と共にレッドカーペットのド真ん中に「何か」が着地した。

 

舞い上がるスモークと、色とりどりの紙吹雪。

 

そして謎の薔薇の花弁。  

 

煙が晴れると、そこにはタキシードに身を包み、目隠しではなく漆黒のサングラスをかけた長身の男――五条悟が立っていた。  

 

両脇には、なぜかポップコーンのバケツを抱えた虎杖悠仁と、明らかに居心地の悪そうな伏黒恵もいる。

 

「ご、五条先生!? 登場が派手すぎますって!」

「いやー、空いてたからさ、此処が」

「空いてるからって降ってきていい場所じゃないんですよここ!」

 

 虎杖と伏黒が慌てる中、五条はカメラの砲列に向かってピースサインを決めた。

 

「やあみんな! 僕がRINAのプロデューサー(自称)、SATORU GOJOだよ! あ、写真いいよ。どんどん撮って。拡散してね」

 

会場が一瞬静まり返り、次の瞬間、爆発的なシャッター音が響いた。  

イケメンすぎる不審者の乱入に、ハリウッドが沸いたのだ。

 

「ば、バカ目隠し……! 本当に来たのかい!?」

「当たり前でしょ。可愛い教え子の晴れ舞台だもん。ほら、これお祝い」

 

五条が指を鳴らすと、彼が用意していたらしい演出用花火が、夜空に『RINA』の文字を描いて打ち上がった。  

 

規模がおかしい。

ロサンゼルスの消防局が動き出すレベルの火力だ。

 

「やりすぎよこのバカ目隠し!!」

「野薔薇ちゃん、言葉が汚いよー。ほら恵、お前も花束渡しな」

「……はぁ。おめでとうございます、水都さん。これ、五条先生が勝手に経費で買ったやつですけど」

「おぅ! 梨那先輩すげー綺麗! マジで女優じゃん!」

 

巨大な花束を押し付けられ、水都は瞬きをした。  

周りを見れば、呆れる釘崎、苦笑いの伏黒、純粋に喜ぶ虎杖、そして悪戯っぽく笑う五条。

 

ここはハリウッドの真ん中で、世界で一番注目されている場所のはずなのに、空気感だけはいつもの高専のそれだった。

 

(……ふっ、まったく)

 

水都の胸から、緊張が消えていく。  

代わりに湧き上がってきたのは、演技ではない、本物の自信と高揚感。

 

「ふふ……あはははは! 良いだろう! 役者は揃った!」

 

 水都は花束を片手で高々と掲げ、五条たち、そして世界中のカメラに向かって宣言した。

 

「さあ、上映の時間だ! 刮目せよ! この水都梨那が、世界を涙の海に沈める瞬間を! ――開演だ!」

 

彼女の術式『万海蒼宴舞』のバフなど必要ないほどに、その瞬間の彼女は輝いていた。  

 

カメラのフラッシュよりも強く、眩しく。

 

こうして、伝説の映画『The Vision Silence(神の目は語らない)』のプレミア上映が始まった。  

 

 

 

――その内容が、観客の情緒を破壊し尽くす「鬱展開」の連続であることも知らずに、全米は笑顔でスクリーンを見つめていたのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドルビー・シアターの巨大なスクリーンが、ゆっくりと暗転していく。  

 

映画『The Vision Silence(神の目は語らない)』のラストシーン。  

 

それは、主人公である水の精霊が、愛する人々を救うために自らの存在と記憶を対価として捧げ、泡沫(うたかた)となって消えていくという、あまりにも美しく、残酷な結末だった。

 

 

 

――静寂。  

 

 

エンドロールが流れ終わっても、数秒間、誰一人として動こうとしなかった。呼吸をするのも忘れたかのような、完全な静寂。

 

(……えっ、嘘でしょ? 失敗? スベった!? なんで誰も何も言わないの!? 僕の最後の独白、噛んでた!? それとも泣き顔がブサイクだった!? 誰か何か言ってよ、怖いよぉぉぉ!!)

 

最前列の席で、水都梨那の心臓は早鐘を打っていた。  

冷や汗が背中を伝う。

隣に座る監督をチラ見しようとした、その時だった。

 

ワッ……と、波のような音が聞こえた。  

 

次の瞬間、それは爆発的な轟音へと変わった。

スタンディングオベーション。

 

観客全員が立ち上がり、割れんばかりの拍手を送っている。

 

多くの観客がハンカチで顔を覆い、中には抱き合って号泣している者もいた。

 

「ブラボー!! RINA!! ブラボー!!」

「なんて悲劇だ……だが、美しい……!」

 

それは、演技という嘘が、真実を超えて人々の魂を震わせた瞬間だった。  

水都は震える手でドレスの裾を握りしめ――そして、スイッチを切り替えた。

 

すっ、と立ち上がる。  

その表情から怯えは消え、そこにあるのは慈愛に満ちた女神の微笑み。

 

「……泣かないでくれたまえ、愛しき人よ。僕はただ、あるべき形に還っただけさ」

 

映画の台詞を引用し、優雅に一礼する。  

その瞬間、劇場内のボルテージは最高潮に達した。

 

「うっうっ……梨那先輩、マジですげぇよ……俺、3回くらい脱水症状になるかと思った……」 「……。」

 

虎杖は顔をぐしゃぐしゃにして泣きじゃくり、伏黒でさえ目元を少し赤くしながら拍手を送っている。  

 

そして、五条悟は満足げにポップコーンの空容器を放り投げ、口笛を吹いた。

 

「でしょー? 僕の自慢の後輩だからね。あーあ、これでまた楽巌寺学長が泡吹いて倒れちゃうかな?」

 

そして、水都は感じていた。  

 

この喝采。

この注目。

この熱狂。  

 

数千人の観客、そして中継の向こうにいる数億人の視線。

それら全てがスポットライトの中にいる自身を輝かせていると。

 

それは最強の術師の一人としてではなく、世界を魅了した大女優として。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――数日後、日本。

東京都立呪術高等専門学校。

 

 

「……帰りたい。今すぐLAに帰りたい」

 

高専の正門前で、水都は深いため息をついた。  

彼女の目の前には、バリケードのように張り巡らされたマスコミの群れと、それを必死に食い止める補助監督たちの姿があった。

 

『RINAさん! アカデミー賞最有力候補と言われていますが、今のお気持ちは!?』

『次回作の予定は!? ストーブン監督と会食したというのは本当ですか!?』

『五条悟氏との関係は!? 隠し子説が出ていますが!?』

 

「だーかーらー! 敷地内は立ち入り禁止ですってば!! 警察呼びますよ!?」 「伊地知さん、胃薬! 誰か伊地知さんに胃薬を!!」

 

阿鼻叫喚の地獄絵図である。  

釘崎はサングラスをかけ、慣れた手つきでファンをあしらいながら、水都の前に立った。

 

「はいはい下がって! 事務所(高専)通して! 今の梨那様は時差ボケで機嫌が悪いのよ!」 「……釘崎、お前すっかり染まったな」

 

呆れる伏黒の横で、水都はふふんと笑った。  

確かに騒がしい。LAの優雅なホテルとは大違いだ。  

だが、不思議と悪くない気分だった。

 

「やれやれ、人気者は辛いねぇ。だが、これも『正義』を成す者の宿命か」

 

水都はマスコミに向かって、あえて大仰に手を振ってみせた。  

黄色い歓声とシャッター音が響く。

 

五条の目論見通り、世界的な有名人となってしまった「RINA」に対し、呪術界上層部は手を出せなくなっていた。  

もし彼女を不当に拘束したり、処分したりすれば、世界中のメディアが騒ぎ出し、呪術の秘匿さえ危うくなるからだ。  

彼女は、最強の「盾」を手に入れたのである。

 

「さて、と。映画のプロモーションはこれにて終了だ」

 

水都は制服――少しアレンジを加えた舞台衣装のようなそれ――を翻し、校舎へと歩き出した。

 

「行くよ、野薔薇、悠仁、恵。……溜まっている任務を片付けないと、夜蛾学長に雷を落とされるからね」

「うげっ、そうだった……現実に戻りたくねぇ~」

「私は次のオフでまたLA行くから! 絶対行くから!」

 

騒がしい後輩たちを引き連れて、水都は歩く。  

 

その背中は、渡米前よりも一回り大きく、頼もしく見えた。

 

虚構(エンタメ)の世界で神を演じ、現実(リアル)の世界で呪いを祓う。  

 

二つの舞台を行き来する、最強の女優術師。

 

水都梨那の、騒がしくも華麗なる「日常」は、まだ始まったばかりである。

 

「――さあ、アンコールだ! 僕の活躍を、特等席で見届けるがいい!」




五条じゃなくてドブカスが着地したら面白いかなと思ったけどキモすぎるのでやめた

渋谷事変後の禪院家に関してどっちにするか迷ったので

  • 直哉:「僕はマグロやない特級や」ルート
  • 直哉:「人の心が無いんか?自分」ルート
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