東京都内某所、高級ホテルのスイートルーム。
そこに似つかわしくない、しかし異様な存在感を放つ面々がテーブルを囲んでいた。
「約束通り、禪院家の当主としてアンタの事業……『ファイトクラブ』の再建と拡大に協力する。これが俺とアンタの『縛り』だ、秤先輩」
重々しい口調で切り出したのは、伏黒恵である。
彼は禪院直哉が家督争いなどどうでもよくなるほどに「速さ」という概念へ没頭し、銀色のピチピチスーツを纏って空の彼方へ消え去った結果、なし崩し的に禪院家当主の座に就いていた。
対面に座る秤金次は、口髭を撫でながらニヤリと笑う。
「おう、話が早くて助かるぜ。俺は『熱』を愛している。だが、今の呪術界は冷え切ってる。死滅回游で世間に呪霊の存在がバレちまった今だからこそ、俺たちの戦いを『エンタメ』に昇華させる必要があるんだ」
「金ちゃん、でもさ~、上層部がうるさいんじゃない? 特に保守派の爺さんたち」
隣で星綺羅羅が心配そうに口を挟む。
彼女(彼)の言う通り、呪術の秘匿が崩れたとはいえ、公然と賭け試合を行うことへの反発は必至だ。
「そこは俺がなんとかします。金と……禪院家の名を使って禪院の名前がどこまで効くかわかりませんが」
伏黒が苦渋の表情で答えようとしたその時、スイートルームの扉が物理的に蹴破られた。
「――やあやあ諸君。その話、僕も一口乗らせてもらってもいいかい?」
高らかな声と共に現れたのは、白髪のオッドアイ、そして尊大な態度を隠そうともしない美少女――水都梨那だった。
「水都……さん? なんでここに」
「フフン、伏黒恵。君が面白いことを企んでいると小耳に挟んでね。エンターテインメントと聞けば、この水都梨那、黙ってはいられないよ!」
水都は勝手に上座へ座ると、テーブルに足を組んで乗せた。
「秤金次、君の『熱』……悪くないね。だが、足りない。圧倒的に『演出』が足りないよ! 君の構想はあくまでアンダーグラウンドだ。どうせやるなら、世界を巻き込んだ一大スペクタクルにするべきだとは思わないかい?」
秤の目が怪しく光る。
「……面白ぇ。具体的にはどうするつもりだ?」
「簡単なことさ。僕がスポンサーになり、そして――『監督』を務めるのさ!」
水都の提案は、あまりにも規格外だった。
「いいかい? 呪霊や呪術戦の最大の欠点は『一般人には見えない』ことだ。これでは賭けの対象としても臨場感に欠ける。だからこそ、テクノロジーの出番さ!」
水都は指を鳴らす。
背後に控えていた黒服たちが、大量の企画書とタブレットを広げた。
「僕は先日、ちょっとしたコネでハリウッド映画に出演してね。そこで知り合った超一流のVFXチームと撮影会社を引っ張ってきた。彼らの技術を使うのさ」
「……つまり?」
綺羅羅が首を傾げる。
「超リアルなCG合成さ! 術師の視覚情報を呪具化したカメラが捉え、呪力の残穢、術式の輝き、呪霊のグロテスクな姿まで、すべてを『映像』として可視化し、ネット配信する! もちろん、一般人向けに多少のデフォルメやエフェクト追加も可能だ」
「なるほどな……見えねぇもんが見えるようになりゃ、非術師の客も『熱』狂できるってわけか」
秤が感心したように唸る。
「それだけじゃないよ。伏黒、君は上層部の説得役だと言ったね?」
水都が伏黒に向き直る。
「君はただ『金になる』と言えばいい。禪院家の資産運用、ひいては復興資金の調達。そう名目を立てれば、腐った連中も文句は言えまい。何より、僕がバックについていると言えば、彼らも無下にはできないだろう?」
水都梨那。特級術士であり、その正体はかつての神座にある者。 彼女の影響力は、今や五条悟に次ぐ抑止力となっていた。
「……わかりました。場所はどうするんですか? 結界(コロニー)の跡地を使うにしても……」
「フフン、そこも抜かりはない。バカ目隠しが暴れて更地になった『新宿』の一部……僕が買い上げたよ」
「は?」
伏黒が素っ頓狂な声を上げた。
数週間後、新宿の一角は異様な変貌を遂げていた。
かつて高層ビルが立ち並んでいた区画には、巨大なオペラハウスのような絢爛豪華な「劇場」が建設されていた。
「地上は僕の趣味全開の『オペラ・デ・フォンテーヌ』。そして、その地下に……」
水都が案内した地下空間は、かつての地下鉄構内や地下街をぶち抜いて作られた、巨大なコロシアムだった。最新鋭のカメラドローンが無数に飛び交い、壁面には巨大なモニターが設置されている。
「ここが『新宿地下闘技場』……いや、『メロピデ・ファイトクラブ』だ!」
「すげぇな……これ全部、水都ちゃんのポケットマネー?」
綺羅羅が呆れながら見上げる。
「まあね。最近、資産運用を任せているキャストが優秀でね。それに更地で何もなかったおかげでかなり安く買えたよ」
水都は扇子で口元を隠しながら笑うが、その額は国家予算レベルだろう。
その時、頭上から凄まじい衝撃音と熱波が通り過ぎた。 キィィィィィィィィン!!
「なんだ!?」 伏黒が身構える。
「ああ、気にしなくていい。あれは『マッハ47で飛んでいる禪院直哉』だ。どうやらここが目立つからランドマークにして旋回しているらしい」
水都が忌々しそうに天井を睨む。
「あの変態ミサイル、あとで『サロン・メンバー』に撃ち落とさせようか……」
「いや、放置でいいです。関わると面倒くさい」
伏黒は即答した。
直哉は今や「人の尊厳を空気抵抗として切り捨てた」存在であり、会話すら成立しないだろう。
「とにかく、箱はできた。あとは中身(システム)だ」 秤がニヤリと笑う。
会議室(劇場の貴賓室)にて、秤と水都はシステムの詳細を詰めていた。
「現地に来る術師や裏社会の人間は、従来通り『金』を賭ける。これはいい。問題はネット配信を見る一般人だ」
「そこで『ポイント制』の導入さ」
水都がホワイトボードに書き込む。
1. 視聴者は配信プラットフォームで『ポイント』を購入。
2. ポイントを試合の勝敗予想に賭ける(法的には『投げ銭』や『予想ゲーム』の枠組みで処理)。
3. 貯まったポイントは、換金はできないが『リクエスト権』として行使できる。
「リクエスト権?」
「そう。『次は誰と誰の戦いが見たい』『どんなルールで戦ってほしい』……そういった要望をポイントで投票させるのさ。つまり、観客が脚本(マッチメイク)に干渉できる」
「ハッ! 客の欲望をそのままマッチメイクに反映させるか。そいつは燃えるな」
秤が膝を叩く。
「つまり、人気のねぇ奴はどんなに強くても試合が組まれねぇ。逆に弱くても人気がありゃ、何度でもチャンスが回ってくる」
「その通り。これは単なる殺し合いじゃない。『魅せる』ことが求められる舞台なんだよ」
水都の瞳が、プロデューサーとしての冷徹さと、演者としての情熱を帯びて輝く。
「さあ、演者たちを集めよう。野良の術師、呪詛師、そして……死滅回游の生き残りたちをね」
『ファイトクラブ・アビス』のこけら落とし当日。
ネット配信の同時接続数は、開始前から数百万を超えていた。
画面上には、水都梨那の指示によって作られたハイクオリティなOP映像が流れる。
そして、リングアナウンサー(綺羅羅が担当)のコールと共に、第1試合が始まった。
CGによって可視化された呪力が、花火のように画面を彩る。
視聴者のコメント欄は滝のように流れ、ポイント投票のグラフが激しく変動する。
「順調だね。やはり僕の演出に間違いはない」
VIP席でスイーツを食べながら、水都は満足げに頷く。
隣で伏黒は胃が痛そうにタブレットで収支報告を確認していた。
「しかし、やはりレベルの高い試合がないと客も飽きるぞ」
秤が言う。
「心配ない。ほら、彼らが来たよ」
ゲートから現れたのは、異様なオーラを放つ三人の男たち。
死滅回游の元プレイヤー。 鹿紫雲一、大道鋼、そして三代六十四だ。
「カッカッカ! 賭け試合か。相撲じゃねぇのが惜しいが、まあいい!」
三代が簡易領域を張りながら叫ぶ。
「刀……刀はあるか……!」
大道が血走った目で武器を探す。
そして、鹿紫雲一は退屈そうに稲妻をバチバチと放電させていた。
「五条との再戦までの暇つぶしだ。……おい、強い奴はどいつだ?」
彼らの登場に、ポイント投票システムがパンク寸前まで跳ね上がった。
彼らの戦いは、まさに圧巻だった。
大道の剣技はCGエフェクトすら置き去りにする速度で呪霊を斬り裂き、三代の相撲領域は視聴者たちに「謎の感動」と「困惑」を与えた。
そしてメインイベント。鹿紫雲一 対 特級呪霊(水都がどこかから調達してきた)。 鹿紫雲の一撃必殺の雷撃が、最新鋭のAR技術によって盛りに盛られた青白い龍となって画面を埋め尽くす。
『KO!! WINNER、KASHIMO!!』
爆発的な歓声と、スパチャ(ポイント)の嵐。
「金ちゃん! 今の試合だけで売り上げが億超えたよ!」
綺羅羅が興奮して報告する。
「ああ……感じたぜ。これが新しい時代の『熱』だ」
秤は満足げに笑い、伏黒の肩を叩く。
「約束は果たしたな、伏黒。これで禪院家の金庫も潤うだろ」
「……ええ。胃薬代も嵩みそうですが」
伏黒はため息をつきつつも、どこか安堵した表情を浮かべた。
「素晴らしい! ブラボー!!」
水都が立ち上がり、スポットライトを浴びる。
「これこそが僕たちが作り上げた最高の舞台だ! さあ、次はどんなカードが見たいんだい? 君たちの『熱』で、次の主役を決めたまえ!」
カメラに向かってポーズを決める水都。
その背後で、再びマッハ47の禪院直哉がソニックブームを撒き散らしながら通過し、劇場の窓ガラスが数枚割れた。
「……あとであのミサイル男に請求書を送っておくよ」
水都の額に青筋が浮かぶが、その顔は笑っていた。
「やめてください。それうち(禪院家)に届くんで」
渋谷事変後の禪院家に関してどっちにするか迷ったので
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直哉:「僕はマグロやない特級や」ルート
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直哉:「人の心が無いんか?自分」ルート