呪術廻戦in水神   作:白黒ととか

9 / 30
◼️
第◼️幕 過去編1


時計の針を少し巻き戻そう。

これは、新宿決戦の舞台で「神」を演じた少女が、まだ何者でもなかった頃――あるいは、何者かになろうとして足掻いていた頃の記憶。

都立呪術高専に入学する少し前。

 

「水都梨那」と「五条悟」の出会いの物語である。

 

--------------------------------------------------------------------------------

 

夜の公園は、即席の舞台(ステージ)にはおあつらえ向きだった。

 

噴水の水音が静寂を埋め、街灯がスポットライトのようにベンチを照らし出している。

 

「コホン……。――世界の熱狂(カルナバル)はここにある! さあ、僕の名を讃えるがいい!」

 

誰もいない公園の中心で、少女――水都梨那は、高らかに叫びながらポーズを決めた。

 

右手に握っているのは、ステッキのような形状をした片手剣。

彼女の前世の記憶にある「推しキャラ」の愛剣「静水流転の輝き」を模して具現化したはずが、なぜか脳裏に焼き付いていた処刑装置のイメージが混入し、とんでもない呪力を帯びてしまった特級呪物『諭示裁定カーディナル』である。

 

(……よし! 今の発声、完璧じゃない!? 角度も決まってたし、これぞ「フリーナ」って感じ!)

 

彼女は内心でガッツポーズをする。

前世の記憶を持って生まれ変わり、鏡を見たら大好きなキャラに瓜二つ。

ならばやることは一つ、徹底的なロールプレイだ。

彼女にとってこれは、退屈な日常を彩るための、誰に見せるわけでもない密かな楽しみだった。

――はずだった。

 

「……ぷッ」

 

不意に、背後の闇から噴き出すような笑い声が聞こえた。

水都の動きが凍りつく。

心臓が跳ね上がり、冷や汗がドッと吹き出す。

 

(え? 嘘、誰かいたの!? 今の見られた!? 死ぬ! 恥ずかしすぎて死ぬ!)

 

恐る恐る振り返ると、そこにはコンビニ袋を提げた、背の高い少年が立っていた。 黒い丸サングラス。

 

白髪。

 

そして、見る者を射抜くような蒼い瞳。

 

彼は腹を抱えて震えていた。

 

「あー、悪い悪い。あまりにもノリノリだったから声かけそびれたわ。……で? 『僕の名を讃えろ』だっけ? 傑作だなオマエ」

「なッ……!?」

 

水都の顔が湯沸かし器のように赤くなる。

だが、ここで逃げ出せばただの「痛い一般人」で終わってしまう。

彼女は震える膝を必死に叱咤し、反射的に「フリーナ」の仮面を被った。

 

「無礼な観客だね! 神聖なリハーサルを覗き見るとは、マナーを知らないのかい!?」

 

精一杯の虚勢。

だが、サングラスの少年――学生時代の五条悟は、ニヤニヤと笑いながら、しかしその瞳の奥をスッと冷たく細めた。

 

「リハーサルねぇ。……にしては、物騒なモン持ってんじゃん」

 

五条が指差したのは、水都の手にある『諭示裁定カーディナル』だ。

 

「その剣、特級クラスの呪いが詰まってるよね。普通の人間が持ったら即死レベルの代物だよ。……オマエ、何者?」

 

空気が一変した。

先程までの茶化すような雰囲気は消え、強者特有の圧倒的な威圧感が水都を襲う。

五条の「六眼」は、目の前の少女がただの痛いコスプレイヤーではないことを見抜いていた。

膨大な呪力。

そして、その剣の中に封じ込められた、馬鹿げた呪力の気配。

 

(ひぃぃぃ! 何この人怖い! ヤクザ!? それとも警察!? 剣持ってるから銃刀法違反!?)

 

水都は内心でパニックになりながらも、引くに引けず、ステッキを突きつけた。

 

「ふ、ふん! 凡人には理解できない高尚な道具さ! これは僕がデザインし、僕の輝きを注ぎ込んだ至高の芸術品……『諭示裁定カーディナル』だ!」

「ふーん。作ったの、君?」

 

五条がスッと距離を詰める。

 

速い。

 

瞬きする間に、鼻先まで顔が近づいていた。

サングラス越しに覗く蒼眼が、水都の魂まで見透かすように観察する。

 

「呪力の特性が水っぽいけど、出力と総量はエゲツないね。……へぇ、面白い」

 

五条は水都の手からステッキを取り上げようとはせず、代わりにコンビニ袋から大福を一つ取り出した。

 

「決めた。君、高専(ウチ)来なよ」

「は……?」

「その剣、放置しとくと危ないし。君みたいな面白い逸材、上の連中が見つけたら五月蝿そうだしさ」

 

五条はパクりと大福を咥え、ニカっと笑った。

 

「僕は五条悟。一応、最強ってことになってる。……君の名前は?」

 

水都は呆然としながら、それでも染み付いた演技で胸を張った。

 

「……僕は水都。水都梨那だ! 覚えておくがいい、いずれ世界はこの名を喝采と共に叫ぶことになる!」

「はいはい。じゃあ梨那ちゃん、とりあえず入学手続き行くぞー」

「えっ、今!? 夜だよ!? ていうか僕の意見は!?」

「拒否権あるわけないでしょ。君、歩く特級呪物みたいなモンなんだから」

 

五条は強引に水都の背中を押して歩き出す。

 

これが、後に呪術界を揺るがす「最強」と「水神」の出会い。

伊地知潔高と同級生となり、五条悟という奔放な先輩に振り回される、水都梨那の受難の日々の幕開けであった。

 

(帰りたい……お家に帰ってケーキ食べたい……!)

 

夜空に響く水都の心の叫びは、誰にも届くことはなかった。

渋谷事変後の禪院家に関してどっちにするか迷ったので

  • 直哉:「僕はマグロやない特級や」ルート
  • 直哉:「人の心が無いんか?自分」ルート
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。