う、うにゃぁあ〜。
見えないことを良いことに、今日も宮益坂女子学園を彷徨い歩く
(チラッ)
ソレはコソコソと知ってる顔がいる教室の隙間を覗き込んだり。
(そぉっと)
部活や委員会と頑張る生徒達の空間へと、空気も読まずに顔を突っ込む悪どいにゃんこ。
(ぐーぬぬぬっ。今日もバーチャルシンガーはいないなぁ)
はい、僕です。
透明なのを悪用して、新たな世界を見つける為にバーチャルシンガー探索隊を結成してる猫だよ。
ちょっと前に、ストリートのセカイに行ってから、すっっごく上手いこと『土地を把握する能力』を手に入れた僕。
……もしかすると、他のセカイなら別の力を上手いこと手に入れることができるのでは?
そんでもって、その中に一時的でも人に見えるようになる力とか、便利な能力があったりしちゃうかも?
なーんて、邪な理由で新たなセカイのヒントを探し回っていたのだけど、成果の方はサッパリ。
新たに手に入れた能力で短縮されたパトロールの時間を使ったのに、全く手掛かりがないものだから、悔しがっていたところなのである。
(うぅむ。世の中はそんなに甘くないかぁ)
少し観測した穂波達と、まだ全く観測できていない雫達。
大きなグループが2つある宮女の方がチャンスがあると、狙いを絞ったのが間違いだったのだろうか。
(いや、宮女ならえむも見れるから3つある。神高なら1点集中になるから、1と3という範囲の違いを考えると間違いじゃないはずだ)
確率の問題、だったっけ。
まふゆからソレっぽいことを教えてもらったので、その考え方は間違いないはず。
だとしたら、後は純粋に量か。
下手な鉄砲も数を撃てば当たるというし、隙を見て量を増やしていくしかない。
(どちらにしても、苦労しなくちゃ目標には届かないと。世の中は甘くないねぇ)
人間のケーキ並みに世の中が甘かったから、もっと気楽でいいのにね。
その辺は残念だけど、目撃できていないのなら仕方がない。
今日もチャンスを掴む為、まずは放課後の屋上に突撃だ。
(よーし、行くぞー。お邪魔しまーす)
いい感じに開いている扉の隙間に首を突っ込んでこんにちは。
中庭よりも空が近い場所に顔を出した僕の耳に、音が届く。
「……から、資料を──」
「はーい!」
微かに聞こえてくる元気な声と、紙を配る音。
紙を配ってるのが愛莉で、元気に返事してたのがみのりかな。
今日もアイドル活動を屋上でしてくれていたようだ。
今日はここで張り込んでたら、まだ見たことのない愛莉達のセカイの糸か、バーチャルシンガーを見ることができるかもしれない。
(これは僕の運も向いてきたかな? やっぱり日頃の行いが……)
にゃふふっ。
気分が高揚していて、前ばかり集中してたせいで、後ろから来ていた気配に全く気が付かなかった。
「──いた」
(うにゃ!?)
扉に顔を突っ込んでいた姿勢だった僕の体に、誰かの手が回り込んできた。
逃げる間もなくそのままズルりと引っ張られ、屋上から踊り場へ。
僕を掴んでる手の持ち主は扉に近い階段を降りてから、くるりと回して僕と向き合った。
「何してるの、マロ」
(えっ、まふゆ?)
声的にまさか、とは思ったけれど、今日は部活だと言っていたまふゆが何故ここにいるのだろう?
「最近、日野森さんや望月さんから話を聞いたよ」
僕を逃げないように抱きしめたまふゆは、語りながらも校舎から中庭へと続く道を進む。
「校舎に入って、日野森さん達を見てるらしいね」
「みゃぅ」
「最初は偶然だと思ってたらしいけど、あまりにも頻度が高いから私の方まで話が来たよ」
僕の飼い主ってことになっているまふゆに話がいっていたから、僕の行動を待って現場を取り押さえに来たようだ。
飼い猫っていう建前だという意識はあったけれど、周りからすればソレは建前じゃなくて事実である。
僕の行動は僕だけの責任だと猫が思っていても、人間には通じない考え方だったらしい。
(……ごめん、まふゆ)
「マロの行動を縛ろうとは思ってない。けど、校舎に入るのはもう少し、考えてほしい」
僕の行動でまふゆにも話がいってしまうのでおれば、まふゆの主張はご尤もだ。
今回ばかりは僕が悪い。まふゆの飼い猫って建前を通してる以上、何かがあれば後輩に迷惑がかかるという理解が浅かった。
「あまり、聞かない方がいいんじゃないかって。そう思ってたんだけど……今回は、聞いてもいい?」
「にゃぁ」
皆まで言わなくてもわかる。
今まで見逃してたけど、僕が校舎に乗り込んでまでセカイを調べようとした理由を聞きたいのだろう。
「じゃあ、行こう」
その予想は正解だったようで、校舎の裏に回ったまふゆは誰もいないことを確認してから、スマホを取り出す。
目だけでなく耳も使って入念に探ってから、僕とまふゆはセカイへと移動した。
「マロ、ミクは何処?」
(んー、待ってたらすぐに来ると思うよ)
まふゆが案内を求めてくるけれど、ミクが急ぎ気味にこちらに近づいて来てるので「にゃあ」と鳴くだけに留めた。
案内せずとも来るのなら、下手なことはしない方がいいもの。ほら、もう来た。
「まふゆ、マロ。いらっしゃい」
「うん、来たよ」
(やっほー、ミク)
「今日は少し早いけど、どうしたの?」
「マロから話を聞いたいから、通訳をお願いしたくて」
また僕がやらかしたのを早々に察したミクは、素直に「わかった」と頷く。
そうして2人から早く話してと言わんばかりに見つめられると、いくら図太い僕でも話さないのは難しい。
(話は少し、長くなるんだけど……)
最近、僕が積極的に校舎に乗り込んでたのは『他のセカイを調べる為』という理由が大きい。
他のセカイを調べたい理由はもちろん、ストリートのセカイの時のように僕の能力を拡張する為だ。
たった1つのセカイを新しく見つけた結果が、『土地を把握する能力』というちょっと便利な力である。
今の僕には迷子達を減らすための仕組みの自動化だとか、凪が来てしまう前に短時間でもいいから姿を見せられるようにしたいだとか。
今の状態では難しい問題が噴出しているので、セカイを見つけて能力のヒントをゲット。
そしてあわよくば、問題そのものを解決できる何かを手に入れたい……と、目論んでいるのである。
「──って、マロは言ってるよ」
セカイのこととか、少しぼかされたこともあったけれど、概ね言いたいことは伝わったと思う。
「そう、理由はわかった。けど……校舎に入るのはやっぱり、よくないと思う」
ミク越しに僕の話を聞き終えたまふゆは、首を横に振った。
(だよね。でも、張り込み以外に思いつかなくて)
まふゆからすれば、誰もいないセカイ以外にもセカイがあることや、僕が見える人はセカイを持ってるかもって話も気になるはずだ。
しかし、我が後輩はあくまで僕の話を聞いた上で、疑問よりも先に意見を述べた。
「そもそも、学校内でバーチャルシンガーを見るのは難しいと思う」
(え、なんで?)
「ミク達も学校で顔を出すことなんて殆どないよ」
「うん。誰かに見つかったら大変だし、皆の邪魔をしたいわけじゃないから。普段は出てこないと思う」
(あっ……)
冷静になって考えればわかることなのに、僕の目は鱗的な何かで覆われていたらしい。
目から鱗、という言葉がピッタリなぐらい、まふゆとミクが指摘してくれた可能性が頭から抜け落ちていた。
何も言い返してこない僕を一瞥し、まふゆは指先を口元に持っていく。
「マロが他のセカイの子を見たって言ってたけど、それって何処で?」
(何処って、夏祭りの時だよ)
「あぁ、絵名達とキーホルダーを探しに行った時かな」
(その後、ちょっと寄り道してね)
「つまり、バーチャルシンガーの子が外を見たくなるぐらい、特別な時にマロは居合わせたんだね」
(あっ)
淡々と、まふゆが事実を整理していく。
ここまで徹底的に突きつけられると、僕が校舎に乗り込むのは無駄であると理解させられてしまった。
──あのまま普通の日常の象徴である学校内で僕が張り込んでも、迷惑はかけても目的は達成されない、と。
(……ごめんなさい。もう校舎で探索するのはやめます)
「全部やめて、とは言わない。ただ、今回はやり過ぎたね」
(うん、ごめん)
情けない話だ。まふゆ達にこうして時間を割いてもらわないと、気がつけないなんて。
あまりにも酷いやらかしに、僕は肩を落とすことしかできない。
猫に頭を下げられても、と思われるかもしれないけれど、見てた子達には謝らないと。
「……マロにとって、他のセカイを見つけるのは大事なの?」
(そっちの方が新しい力は拡張される気がするかな)
「このセカイだけだと足りない?」
(まぁ、新しい力っていう点では)
最近、気のせいじゃないことを知ったのだけど、まふゆのセカイのおかげで回復力そのものは上がってるらしいのだ。
しかし、回復力が上がっても削れた体力の上限はどうしようもない。
況してや完全復活せずに見える方法など、現状維持で先延ばしをしても解決しないだろう。
「なら、謝ってから頑張ってみる?」
図々しいことを言っているのに、まふゆから出てきた言葉はそれだった。
さっき、やめてほしいという話をしたのに頑張るとは一体……?
話が見えないせいか、僕の脳内でバッと宇宙が広がったような気がした。
(頑張るって、どういうこと?)
「日野森さん達や望月さん達が気になるんでしょ」
(んー、まぁ。広義的には?)
気になるのは本人というよりも、その背後にあるセカイだけど……間違いではない。
「だったら、特別なことを──遊んでみたり、するしかないと思う」
(なるほど、気になるっていうのは建前的な意味か。じゃあ、気になってるんでーってお話しして、僕1匹でも遊べるように交渉しないとね)
「……どうしてマロだけで遊ぶの?」
(え、そうじゃないの?)
首を傾げる僕を見て、心底不思議そうな顔をするまふゆ。
「私が同行した方が話が早いと思う」
(でも、まふゆも忙しいでしょ?)
「暇じゃないよ。でも、困ってる猫を助けられないほど、余裕がないわけでもないよ」
──何処かの三毛猫のおかげかな、と。
そう言いながら僕の頭を撫でるまふゆの顔は、僕が想像してたよりも優しかった。
(……じゃあ。お願いしてもいいかな、まふゆ)
「うん、大丈夫」
そう頷くまふゆも、通訳してるミクの目も温かくて。
僕はついつい、前足で顔を隠してしまった。
☆マロ知識
流石に怒られました。見えないからって調子に乗り過ぎである。
……
・学校では見れない
それはそうである。映画版のミクさんが大暴れすることはあっても、普段のバチャシンの皆さんが出てくるわけがないのです。