火災ゾーンへと進む道中。
上鳴を八百万が支え、俺は先頭を行く。
少し状況が落ち着いたところで、八百万がずっと胸に秘めていたような問いを投げかけてきた。
「玩具さん、一つ伺ってもよろしいかしら。『死神』と呼ばれるヴィジランテについて、ご存知?」
「……ああ、知ってたのか。耳が早いな」
俺は隠し通すのを諦めたように、小さく息を吐いて言葉を返した。
「まあ、察してるだろうがあれは俺のことだ。雄英に入る前までは、ヴィジランテ活動をしていた。その時の呼び名が『死神』だ。因みに、自称じゃねぇからな。勝手につけられた二つ名みたいなもんだ」
「やはり……! 確かに、あの方が姿を消した時期と、あなたが雄英に入学した時期が符合しますわ。腑に落ちました」
八百万は納得したように頷く。
先ほどの俺の戦いぶりと、巷で噂される『死神』の情報が、彼女の中で一つに繋がったようだった。
「ちょうどいい。歩きながら、さっき俺が暴走した理由についても話しておこう」
俺は前を見据えたまま、頭の中でまとめた答えを言葉に出していく。
「俺の体には『霊力』っつう、エネルギーが宿ってる。ヴィジランテ時代は実戦の中でそれを発散できていたんだが、入学してからというもの消費量が極端に減った。結果、出口を失った霊力が脳内に『戦え』と指示をだした。それが原因で俺は暴走したわけだ。一番効率よく霊力を吐き出せる手段が戦闘だったから、脳がそっちに引っ張られたんだろうな」
「供給過多による暴走……それでは、これからもその問題はつきまとうのでは?」
「安心しな。俺にも考えがある。前に才能がなくて諦めたことに、改めて挑戦してみようと思ってな。それができれば、霊力の蓄積問題は解決するし、俺自身の手数も増える」
「既に考えがあるのですね。お力になれることがありましたら、いつでも相談してくださいまし」
八百万の誠実な申し出に「そん時は、頼らせてもらうよ」と返し、俺たちは火災ゾーンへと到着した。
入口を塞ぐ瓦礫を素手でぶち抜き、中へ踏み込む。
ドーム内は熱気、火の手、煙、そして崩落した瓦礫が入り乱れる地獄絵図だった。
そして、微かに聞こえる戦闘音
人がいるのは確定だ。
火災ゾーンを移動しながら、俺は手持ちの魂石を確認した。
温存していたN魂石70個、R魂石4個。これを一気に吐き出す。
「くそ、10連のために貯めてたのに、背に腹は代えられねぇか……!」
俺の平均魂石収入は、一月に約190個前後ほど。
R魂石は1月に15個前後。
N魂石は取得してから、だいたい一ヶ月で自動的に消滅する。
R魂石はもって数日だ。
大事に温存していたのだが、仕方ない。
最初に引くのはレアリティガチャ。
適正レアリティの魂石を1個消費して、適正斬魄刀が1本手に入る。
R魂石を4個消費して、単発で引いていく。
ガチャを選択すると、脳内に映像が流れる。
暗闇の中を、地獄蝶が一頭、ひらひらと飛んでいく。
荒廃した大地。その中央に突き刺さる一本の斬魄刀。
それを4回行う。
結果は『双魚理』『神鎗』『灰猫』『蛇尾丸』。
既に持っている斬魄刀は『飛梅』『灰猫』『蛇尾丸』なので、二つが被った。
続けて、通常ガチャを回す。
N魂石を10個消費して1回、回すことができる。
ラインナップはN~SRまで。
これも単発で引いていく。
その結果は……R『断風』N『鬼灯丸』N『鬼灯丸』N『崩山』N『五形頭』N『劈烏』N『鬼灯丸』。
「クソ爆死!」
「ッ!? 唐突に叫ばないでくださいまし!」
「悪い……」
やっぱり単発だと、R斬魄刀が全くでねぇ。
そもそも、排出率がクソ低い。天井も最低保証もない。
N:80%
R:19%
SR:1%
それでも、SRが出るかもという希望が俺を通常ガチャに望ませる。
回復系の『瓠丸』は出なかったが、いざとなれば俺には『
これは卍解を模索する中で編み出した技。
斬魄刀5本を消費して同ランクの指定、または一階級上の刀をランダムで出す合成技だ。
5分しか維持できず、精神的疲労——おそらく霊力の過剰消費——を伴うが、特筆すべきは別の点にある。
俺の個性『斬魄刀ガチャ』のラインナップには、俺が解号を理解していないものや、能力を把握していないもの、アニオリの刀は含まれない。
だが、この『骸ノ楔』を使うと、解号不明の刀であっても「始解状態」で擬似的使用できるようになる。
これによって、俺はRから『
SRから『斬月』『神剣・八鏡剣』。
URから『鞘伏』を引き出すことが可能だ。
SR5本を消費すれば、ガチャでは手に入らないURの『
そもそも、SRは数時間しか保存できない。
物理的に不可能だろう。
URを5本消費して指定するなんてのは、もっと非現実的だ。
そもそも、URなら他の斬魄刀で十分だしな。
それでも、Rを5本を消費すれば回復系の斬魄刀を確実に呼べる。
いざという時のために、R斬魄刀を5本以上、所持しているという安心感が俺を包んでいた。
思考を切り替え、黒煙の先を見据える。
そこには一人、縦横無尽に跳ね回るクラスメイトの姿があった。
「あれは……尾白か!」
彼が器用に尻尾を使い、ヴィランたちを翻弄している。
だが、流石に数が多すぎる。
「尾白ぉ! 加勢するぜぇ!」
「……ッ! 玩具!? 上鳴に八百万さんも……助かるよ!」
俺は即座に斬魄刀を構え、密集するヴィラン共へと飛び込んだ。
一撃。
踏み込みと同時に、先頭の男の顎を柄頭で打ち抜く。
二撃。
返しの刃で、横から襲いかかってきたヴィランの武器ごと叩き伏せる。
斬るまでもない。
正確な打撃と峰打ちだけで、群がる雑魚どもを次々と地に這わせていく。
「くそっ、増援か!?」
狼狽える敵の懐に滑り込み、呼吸を整える暇も与えず鳩尾に拳を叩き込んだ。
瞬く間に一帯を制圧し、俺たちは合流を果たす。
「玩具! ありがとう、助かったよ!」
「火災ゾーンは尾白一人か?」
「多分ね。他には見なかったよ」
「そんじゃ、残りをすべて蹴散らしてセントラル広場へ戻るぞ。
刀身を手のひらで押し潰した瞬間、刃が数多の黒い手裏剣へと散り、上鳴や八百万を護るように旋回し始めた。
「さっさと終わらせる」
※ ※ ※
火災ゾーンのヴィランを一人残らず無力化し、拘束を終えた俺たちは、迷路のような廃墟を抜けてセントラル広場へと急いでいた。
視界が開けた瞬間、目に飛び込んできたのは、世界の中心を体現するかのような激闘だった。
「オールマイトだ……!」
尾白が安堵と興奮の混じった声を上げる。
その視線の先では、平和の象徴が漆黒の怪物――脳無と正面からぶつかり合っていた。
「すげぇな……あの脳無相手に、真っ向からやり合ってやがる」
一目でわかった。
あの個体は、俺が山岳ゾーンで沈めたものとは『格』が違う。
俺が戦ったやつは、おそらく調整不足の試作品。
目の前でオールマイトと拳を交わしているのは、彼を殺すためだけに完成させられた、対・平和の象徴用兵器だ。
広場近くには、緑谷や爆豪、切島、轟たちの姿も見える。
どうやら無事に合流できているらしい。
俺たちはヴィランの後方、ちょうど死角になる木陰に身を潜め、勝負の行方を見守った。
――ドォォォォォンッ!!
拳と拳がぶつかり合うたび、大気が爆ぜ、USJ全域に強風が吹き荒れる。
「きゃ……!?」
「うおっ!?」
八百万と尾白がたじろぐほどの衝撃波。
俺は飛ばされないよう、ふらつく八百万と気絶寸前の上鳴をがっしりと掴み、地面に踏みとどまる。
尾白は強靭な尻尾を近くの木に巻きつけて必死に耐えていた。
「なんつう威力だよ」
連打に次ぐ連打。
オールマイトは血を吐きながらも、目にも留まらぬ速さで脳無を圧倒していく。
100%の力で脳無の再生が追いつかないほどのラッシュを叩き込み、彼は咆哮した。
「
大地を砕く勢いで踏み込み、オールマイトの右拳がしなる。
「
渾身の一撃。
脳無の巨体はUSJの強固な天井を紙細工のようにぶち抜き、青い空の彼方へと消え去った。
「……これが、No.1の力か」
ぽっかりと開いた天井を見上げ、呆然と独りごちた。
理屈を超えた、ただ純粋な強さ。
だが、その余韻を切り裂いたのは、全身に『手』を纏った男の苛烈な声だった。
「チートがぁ……! 脳無さえいれば、奴なら、何も考えずに立ち向かえるのに……!」
男は喉を狂ったように掻きむしり、苛立ちを剥き出しにしている。
――妙だ。
脳無を飛ばした後のオールマイトが、一歩も動かない。
ダメージの蓄積か?
それとも別の理由?
助けに入るべきか迷ったが、もし俺の勘違いで、不意打ちを狙っているのだとしたらかえって邪魔になる。
俺は息を潜め、タイミングを計った。
「そうだ、黒霧! あの蒸気野郎に貸してた脳無を呼び戻せ! 駒を回収して、仕切り直しだ!」
「死柄木弔……落ち着いてください」
「早くしろ!!」
黒霧と呼ばれた靄の男が、自身の体を広げ始める。
――出るなら、今だ。
奴らは背後の俺たちに気づいていない。
さらに、ワープの個性を使う瞬間は隙ができるはずだ。
俺は身を隠していた木陰から、音もなく斬魄刀を抜き放った。
「射殺せ――『
解号と共に、刀身が音速を超えて伸長する。
狙うは手の男——死柄木の足。
――まずは、機動力を奪う!
「ッ!!?」
刀身は一瞬で彼我の距離を詰め、死柄木の足を貫いた。
よし、手応えあり。
「もう一発!」
神鎗を引き戻し、すぐさま二射目を放つ。
だが、奴は咄嗟に地面を転がって回避していた。
「後ろからコソコソと……虫ケラがぁ!!」
こちらの存在が露見したが、構うものか。
俺は絶え間なく神鎗を伸縮させ、連続突きを繰り出す。
風を切り裂き、呼吸さえ許さない刃の雨。
手、足、肩、確実に奴の肉を削り、追い詰めていく。
「死柄木弔!」
そこへ、戻ってきた黒霧が間に入り、空間を歪めて盾となった。
俺はすぐさま刀を引き戻し、攻撃を止める。
あの靄に呑み込まれれば、攻撃がどこへ繋げられるか分かったもんじゃない。
「黒霧……! 脳無はどうした、早く呼び出せッ!」
「……死柄木弔。脳無は既に、何者かに倒されていました」
「……は? そんな訳あるか! あれはオールマイト用の試作品だぞ! 雑魚にやられるはずが——」
死柄木の視線が、鋭く俺を射抜いた。
アイツラの言っていた脳無は、俺が倒した奴だろう。
既に、駒は取っている。
次の攻撃を考えていたその時――
「1-A。クラス委員長飯田天哉!! ただいま戻りました!!!」
USJの入口に、校長をはじめとする雄英のプロヒーローたちが勢揃いした。
「あぁ……ゲームオーバーだ」
死柄木が忌々しげに吐き捨てる。
逃がすまいとスナイプ先生の銃弾が唸りを上げ、死柄木の四肢を正確に撃ち抜いた。
「今度は殺すぞ……平和の象徴、オールマイト……!」
深手を負った死柄木を回収し、黒霧の靄が渦巻く。
俺も最後の一撃を放とうとしたが、奴らは霧の彼方へと消え去った。
嵐が去った後のような静寂。
崩落した天井から差し込む陽光が、戦いの終わりを告げていた。
「……よし、これで後処理も終わりだ」
拘束した爆煙隊や山岳ゾーンのヴィランたちが、ヒーローたちの手によって次々と連行されていく。
「玩具さん、本当にお見事でしたわ」
「ウェ〜イ……」
「いや、俺の方こそ助かったよ。一緒に転移したのが優秀なヒーローで良かった」
疲弊した仲間たちの顔を見て、ようやく俺の肩からも力が抜けた。
こうしてUSJでの戦いは終わったが、1年A組、
俺たちは雄英のヒーローたちに迎えられながら、USJを後にした。
これで、USJ編終了です。
打ち切ります