雷神の系譜~鹿紫雲一の末裔に転生したので、原作の悲劇を打ち壊す~ 作:メンチカツ
アンケート結果によって本作の(原作時間2018年時点)九十九由基の年齢は30代前半ということになりました。
おいおい……俺のセンサーがいい歳した年上美女の霊圧を察知しちまったぜ。恐ろしくテンションが上がってきましたよ。
おい、あんまワクワクさせるなよ!
目の前の爆イケお姉さんに「どんな女がタイプか?」と訊かれたから思わず答えてしまった。金髪巨乳! 人はこれを真理という!
「えぇっ! 私ぃ!? ……あははは、そういう答えは初めてだよ」
笑われてしまった。失礼だな、純愛だよ。
「それで、俺に何か用事ですか? それともただの通りすがっただけの雑談?」
「いやいや、これは取引に前のアイスブレイクってやつさ」
九十九は快活に笑うと、凛として、どこまでも澄んだ声が耳に心地よく響く。
「
昇仙教団───それはかつて加茂憲倫の助手や末端の協力者だった術師たちをルーツに持つ呪詛師のグループだった。
百年ほど前、憲倫が突如として姿を消した際、彼らは破棄されるはずだった実験資料や、呪物化・受肉に関する初期理論の数々を密かに持ち出した。呪物の受肉を独自の歪んだ解釈で尸解仙へと結びつけて、呪物化と受肉の成就を追い求めていた。
現代において、教団は表向き産業廃棄物処理会社の皮を被って世間に紛れ込んでいた。しかし、その裏の顔は全く異なる。研究に必要な莫大な資金と非合法な呪物を集めるため、彼らは呪詛師として残虐非道の限りを尽くしていた。
「あいつらが研究していた魂についての研究成果は、全部君が押収していると訊いてね。それを私に見せて欲しいんだ。あ、呪物や器物だったら調べさせても欲しいな」
目的は何となく察するけど、原作知識ありきだから余計なことは言わないでおこう。
「いきなりそんなことを言われても。何故そんなことを知りたいのですか? 高専と方針が合わないでいつも任務を受けないあなたがわざわざここに来てまで、俺に話を持ち掛けるだなんて妙でしょう」
「そう。呪霊が現れれば祓う、みんながやるのは対処療法。私がやりたいのは原因療法だ。つまり、呪霊が存在できない世界を作ること!」
九十九は己の手をギュッと握り込み、熱を帯びた声で壮大過ぎる宣言をした。
「へえ」
「リアクション薄っ! えぇ……なに、最近の若い子ってそんなクールないの? こういう馬鹿にされるでもなく、驚かれるでもないその反応は初めてなんだけど」
しまった。迂闊な反応はやめようと思ったら薄い反応になった。もっとなんか反応しないと。
「ええと……そうですね。そもそも、なんで俺があいつらの資料を持っていると知っていたんですか?」
「ああ、昇仙教団が魂の研究をしていると知って、あいつらを壊滅させて資料をがめようとしたら、調べたらもう君によって全滅していたわけだ。そして資料や研究成果は押収されたっていうから、こうしてやってきたわけだ」
「そうでしたか、ところで呪霊が生まれない世界を作るのであれば何か計画はあるんですか?」
「うん……まず、呪霊が存在できない世界を作る方法……それは2つある。ひとつは全人類から呪力を消し去る事」
形の良い右人差し指を立てて、九十九は説明する。取引を持ち掛けた彼女は素直に自分の目的を開示する。
「そもそも呪霊は人間から漏出した呪力が澱のように積み重なって形を成したものだ。だから、全員が完全に呪力を持たない一般人になれば、人間の呪力が漏出することもなくなり、呪霊はそもそも誕生できない」
九十九はそこで言葉を切って、口をへの字に曲げ、深く大げさなため息をついた。
「この計画のサンプルになりそうだった天与呪縛のフィジカルギフテッドがいたのだが……彼には振られてしまった」
不貞腐れたような仕草が可愛かった。
気を取り直して九十九は右中指を立ててピースサインを作る。二つ目の案を口にする。
「二つ目は全人類が呪力を扱えるようになること呪力を自在にコントロールして、呪力を自身の体内をよく巡るようになり、術式行使などの呪力消費によって漏出が極端に少なくする……つまり非術師を術師へ最適化させることで、呪霊は誕生しなくなる!」
人類全体からの呪力の奪却と人類全体による呪力の最適化。
それは、呪術界を揺るがすような、あまりにも途方もない思想であった。
「それで魂の研究を始めたわけですね。……まあ、理屈の上ではどちらでも、呪霊のいない世界は作れそうだ」
「そうだろう? それで、私はこのどちらかを実現させたい魂について研究しているが、呪詛師どもが研究していた内容も参考に調べたいと思ってね」
「そういうことでしたか。資料、お見せすることは可能ですよ。だけど、勿論タダでは嫌ですけど」
「それは当然だね。対価として何が相応しいだろう。現金でも呪具でもいい、他のものでもいいよ。私ができることならばなんでもやろう」
ん? いまなんでもって言った?
「何か困っていることとかあるかい?」
困っていることか……
困っていることなら一昨々日から義姉の月乃の様子がおかしいことだろうか。俺が領域展開を披露したことで、頬を紅潮させ興奮していたがあれからどうも様子が変だ。謎である。
月乃は俺が鍛錬している時も、たまに差し入れしてくれるし、仕事でも色々とフォローしてくれる。彼女はコミュニケーション能力も高く、接点の多い人も俺や鹿紫雲家関係者以外にも津美紀や禪院姉妹などともよく話していた。
津美紀や真依が月乃と話ながらときどき俺のほうを見て、慌てて目を反らすということも何度かあったので、月乃は何を話しているのかと気になったことが何度かある。
なのでこちらがどうしたのか?と訊ねても答えないのは、彼女自身で解決できる問題だと思う。そうであればこちらから過干渉するべきではないと思う。
まあ、月乃については九十九じゃどうにもならないと思うので除外。
だが、俺には九十九へ望みたいことは思いついた。
「そうですね……」
ここでちょっと考える素振りをする。しかし、何が欲しいかは決まっている。
「九十九さんのこれまでの研究。魂について全部教えてください。俺もその分野の知識を得ておきたいんです」
九十九は意外そうな顔をした。
「私が言うのもなんだけど、結界術や式神術と違ってこれは実戦的なものではないから呪霊や呪詛師を狩ることには向いてないよ?」
九十九としては即物的な対価でなければ、結界術や式神術を教えて欲しいと要求されると予想していたのかもしれない。
俺は原作知識があるからこそ、九十九の知識が欲しいと考える。
俺が魂に関する知識を得て、それを利用する技術を得るとどうなるか。
魂を知覚することができないとダメージを与えるのが困難である
羂索による受肉体も虎杖がやっていたように魂の境界へ干渉して、受肉を解除する方法を習得することができるようになる。
これは原作の悲劇を壊すための大いに貢献するだろう。
「昇仙教団では受肉体が襲い掛かるということがありました。もしも、今後呪物の受肉が発生したときに、それと敵対した場合の対抗策は持っておきたい。やり方によっては呪物の器にされた犠牲者を助けることもできるかもしれない」
相手が呪詛師だったら器ごと殺してもいいかなと思うが、非術師や仲間の術師が器にされたら流石に寝覚めが悪い。
結局、九十九は俺が要求する対価を提供することを了承した。これで取引は成立だ。
それにしても、九十九の願いは途方もないよな。誰からも支持されていないのも仕方ない。
「……まあ、実際のところ難しいのはわかっているけど、君はこの二つのプランをどう思う?」
「そうですね、教えてくれた計画は三つの理由で成就することはできないだろうと考えます」
「……なるほど」
高速で巡る思考のなかで、俺は気づけばそう口にしていた。何か他意があったわけではなく、ただなんとなく三つ程度に纏めた方がいいと感じたからだ。
「まず、人から呪力を除去することですが、イメージとして一番近いだろうフィジカルギフテッドは元々持ち得る術式が強大な格があるものだったり、術式がなくとも膨大な呪力を持っていたりしない限りは誕生できないでしょう」
パパ黒は生まれながらのフィジカルギフテッドだったが、あれはもしかすると息子と同じく、相伝術式の十種影法術を持っていたのかもね。それを失ったのであれば呪術としてのつり合いも取れているだろう。
「次に、人間から呪力を完全に無くすというのはほぼ不可能というのが俺の推量。そもそも呪力がないと言われている海外の人たちでも、日本人と比べれば微々たるものだが呪力を発している。だから海外にも呪力は生まれていますよね?」
「そうだね。呪力が微弱だが、いや、だからこそ霧散せずに形を成せる呪力が堆積する場所は限定される」
「ええ、例えば日本人の呪力を海外の人と同じくらいに出来たとしても、結局は呪霊が生まれることになります」
「数はかなり減るけど、根絶までには至らない、か……」
「そうですね。私は呪力という代謝がないと肉体に害が出る可能性は高いと思います。人間が発汗や排泄できなくなれば不味いでしょう。呪力もそういう次元の話だと思います。呪力は完全に消し去ることができない。人間の業ってやつです」
九十九はいつの間にか、真剣な表情になっていた。
美人は真剣な表情も本当に美しいな。間違いなく明日も美しい。
「最後はとてもシンプルで全人類が術師になった世界となれば、呪霊の被害が呪詛師の被害に変わるだけですね。修羅道の世界に興味ないです」
俺が欲しいのはハーレムを作れる世界です。
たくさん話して疲れたなと思っていると、俺の言葉を聞き───
「───素晴らしい」
九十九はただ感嘆していた。原作知識をしたり顔でドヤッて語っているだけなのでバツが悪い。
「私の願いを訊いて、笑うでも否定するでもなく、こうも理にかなう言葉で返してくれたのは君が初めてだよ。ありがとう」
今まで一番美しい笑みを九十九は浮かべた。そして、彼女は俺の目をじっと見つめ、パチンと軽快なウインクを飛ばした。
「ところで、君は五条悟から私に乗り換えて……」
俺にふっと体重を預けるように肩を預け、腕を軽く絡めてきた。凄いイイ匂いがする!香水!?ヘアオイル!?
「私の研究に手を貸す気はないかい?」
最高に艶っぽい笑みを浮かべて九十九は俺を誘惑する。
お、俺は屈しないぞ!
■鹿紫雲龍蓮
都合の良い女を演じる策士の策に気づけていない男。
■鹿紫雲月乃
都合の良い女を演じる策士。それはそれとして熱心なオリ主シンパでもある。
■九十九由基
呪霊のいない世界を望む術師。対龍蓮の仮想敵が五条悟になった。
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次回更新は9月上旬予定