私はデパートの食品売り場でアルバイトをしています。
同僚の木崎君は同い年です。店内放送に彼は異常な反応を‥

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第1話

 

私は横浜にある某デパートでアルバイトをしている。そこの地下1階の食品売り場で働いています。

「おはよう、嶋野さん」

同じアルバイトの木崎君が挨拶してきます。

「おはよう」木崎君は歳は同じ20歳ですが、高校を卒業してすぐここで働いているので私より2年先輩です。

 

受験シーズンなのでお店に専用コーナーができている。お菓子のパッケージに「合格祈願」とか「開運」などの文字が入っている商品が並んでいる。ただパッケージが違うだけで中身は変わらないのだが。

 

「でも受験シーズンが終わって合格発表の時期になっても『合格おめでとう』って言うポップはつかないよ」木崎君は語る。

「えっ、なんでだろう?」

「合格した人ばっかりじゃないから。そういう人の気持ちも考えて配慮しようっていうこと」

「そんなの何にも言えなくなっちゃうじゃん」

「そうなんだよね」木崎君はうなずいた。

「でもそういう時代なんだよ」何故か得意げな顔だ。

 

木崎君はときどきこんな風に先輩風を吹かす。

しかし私は高校でも大学でもクラブ活動もせず、上下関係も緩かったのでそれが妙に新鮮で心地良かった。

 

スナック売り場の商品がスカスカになっているので補充しないといけない。

そう思い在庫置き場に向かって歩き出したら店内放送が流れてきました。

 

「3階で生理用品を買い上げになった五十嵐様 お伝えしたいことがあります サービスカウンターまでお越し下さい」 

 

「生理用品か…まずいな」木崎君は言った。

「まずい?何が?」私は問いかけた。

「危険が迫っていると言う事」冗談を言っている雰囲気ではない。

「危険?生理用品が?」

「生理用品だけならギリ大丈夫。五十嵐だけでも大丈夫。でもその2つが組み合わさると絶望的」

木崎君の表情は大真面目だ。

 

確かこういうお店では店員同士だけにわかる隠語のようなものがあると聞いたことがある。

さっきの店内放送は危険が迫っていることを知らせていると言うことだろうか?

 

雰囲気を和ませようと私は「考えすぎだよ」と言った。

「嶋野さん、嶋野さんが生理用品を買ったとして買った商品名、さらに自分の名前まで出されて店内放送されたらどう思う?」

「嫌、かな」

「でしょう?」

確かによく考えてみたらありえないことが起こっているような気がする。

お客様の個人情報を店中の人間にしゃべっていることになる。

配慮がなさすぎる。

「でも… でもあれくらいはっきり言わないと呼び出しに別のお客さんが来ちゃうかもしれないし…」

私は食い下がった。

「ありえないよ。個人情報をばらまいたとお客さんに激怒されるかもしれないのに」

木崎君は首を振った。

 

「危険が迫ってるって… そんなに危ないの?」

「嶋野さんが想像するよりずっとね」

木崎君の表情には危機感が溢れている。

 

何が起こっているの?私は尋ねた。

「地下はまだ大丈夫、ギリギリね。3階はもうダメかもしれない」彼は悲痛な顔をした。

「そんな…」私は泣きそうな顔になった。

 

「確認してみる」彼はそう言って従業員用の携帯を取り出し3階の売り場に連絡した。 

誰も出ない。

「3階はもう無理。あきらめるしかない」

彼はそう言って首を振った。

 

「俺たちもいつまでもここにいるべきじゃない。危険が迫っている」

 

お客様が木崎君に声をかける。

「すいませんメーカー名も商品名もわからないんですけど… わかりますか?」

「わかるわけねぇだろ」彼は冷たく言い放った。

 

お客様にあんなそっけない態度を取るなんて…。

私はドキドキしてしまった。

 

「申し訳ないけど客のことも他の従業員のことも考えている余裕は無い。まずは自分たちのことだけを考えよう」

 

「そんなに危険なの?」

「はっきり言ってしまうと、この店だけではなくて日本中どこも危ないよ」

木崎君には普段のちゃらけた雰囲気は微塵もありません。

 

彼は歩いてエスカレーターに向かう。

「行こう」1階に上がり、外に出ることを促す。

退店カードも切らず店の外に出るなんて…

私は不思議と胸が高鳴った。

 

エスカレーターで1階に着くと従業員用の出入り口ではなく通常の客の出入り口からデパートを出る。従業員出口ではないので当然、警備員の荷物チェックもない。

 

本当に出ちゃっていいの?思わずそんなふうに考える。

 

まだ日も落ちていない。空は明るい。

こんな時間に表に出ている。背徳感と一緒に開放感が湧き上がってくる。

 

両手を上げ背伸びをする。太陽の光がこんなに心地よいなんてすっかり忘れていた気がする。

 

「どこに行くの?」

「東京はもうダメだろう。横浜もやばい。大阪はまだ大丈夫。大阪に行こうか?」

木崎君はそう言って私に手を伸ばしました。

 

私は手を伸ばしその手を握った。

 

どこにいてもミサイルが降ってくるかもしれない。

外の世界では毒ガスが蔓延し

世界中どこも安全な場所はない。

 

でも彼と一緒にいれば大丈夫。

そんな気がしました。


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