砂漠によって埋もれ、荒廃した街の中をビナーは不規則に暴れている。だが、この2、3日で観察した結果、たしかにアビドス高等学校の校舎へと近づいてきているのはたしかだ。
見た目の半分以上が破損しているのと、まるで狂ったように動き回るその行動から、おそらくは壊れて暴走しているのではないかと私は推測するが、まあそうでなくても化け物のような機械の思考回路など理解できるはずもない。
双眼鏡を目から離し、元は高層ビルであったであろう半壊した建物から立ち去る。
観測は済んだ。暴走したオートマトンや無人機をけしかけた威力偵察もある程度できた。
あとはどう戦うかセリカと話し合う。
……そう、戦うのだ。ビナーとか言うあの巨大な怪物と。
「なにしてるんだろうなあ、私」
三日前の、夜のことを思い返す。
何を思ったのか、私はセリカにビナーの討伐に協力すると申し出た。
あの時は自分でも何言ってんだと思った。セリカも、表情から同じことを思っていると察せた。
セリカは私の申し出を断る言葉を口に出していたが、どんな内容だったか思い出せない。
なにせ、その時の私はセリカの自殺じみた特攻と、生きる気力のないその顔に何故だが無性に腹が立って、感情まかせに言葉を吐き出した。
言いたいことを全て終えると、セリカはポカンとした顔をしたあと、大笑いしながら一緒に戦うことを承諾してくれた。
いや、本当にあの時のことを思い出せない。感情に任せたせいなのと、恥辱心から早く忘れたいと言う無意識的な思いから、記憶から忘却しているのだと思う。
まあともかくだ。共に戦うと言った以上、私も最後まで付き合うつもりだ。
安寧を求めてーーー今のキヴォトスにそんな場所はないがーーーこんな砂漠にきたと言うのに、自ら危険に飛び込むとは何を考えているのだろうかと、たまに自問自答している。
けれど不思議とマイナスな感情はなく、妙に心は落ち着いている。なんとも不思議に思ったが、これを理解するのはひとまず置いておこう。
とりあえず、セリカのいるアビドスの校舎に着くまでに頭の中で状況を整理する。
まずはビナーについて。
機械について詳しくはないが、ビナーは明らかに壊れて暴走している。セリカも2年前は他の在校生と一緒になって戦ってたらしく、その時よりも動きは鈍くなっているらしい。……あんなのと戦っていたアビドス生徒へと追及はひとまずやめておこう。
オートマトンをけしかけた時も攻撃方法は基本体をぶつけるだけで、本来備わっていた武装は使えないように見えた。
使えたとしても、あの壊れた機体ではそれほど脅威ではないと素人目でも分かる。
とはいえあの巨大で出せるとは思えないほどの機動力と、それによる物理的な攻撃は危険であり、まだ私たちに見せていない能力もあるかも知れないので楽観視はできない。
次にこちらの戦略についてだが……あまりにも心許ない。
まず、人数が二人だけ。そして武装は私の回転式銃とセリカのアサルトライフル。弾の数は総数で100より上とだけ言っておこう。
使えそうな武器はこの荒廃した砂漠の自治区にまともにあるはずもなく、なら他の自治区から援軍の要請など……今のキヴォトスを見てそんなことできるか?まともだった頃も怪しい?それはそう。
これがいわゆる無理ゲーと言うやつだ。
まだテレビゲームをまともにできた頃にプレイした、テイルズ・サガ・クロニクルと言うゲームを思い出す。……いやあれは無理ゲーと言うよりクソゲーすら超える何かだったが。
思い出すだけで眩暈がする。何故チュートリアルの操作説明通りにやって爆破死しなければならないのか。いや、今はそんな思い出よりも……
「……爆発、か」
何か大きな、爆発力のあるもの。ガソリンでも火薬でもなんでもいいから一箇所にまとめて爆破して、それにビナーを巻き込めば、あの破損した機体ではただでは済まないはず。
……いや無理だ。そんな破壊力を持つほどの燃料も武器もアビドスにはもうない。セリカも、まともな物資はもうないと言っていたじゃないか。
セリカとの会話を思い出してそう考える。
けれど、待てよ。
それはあくまで水や武器などの食料などの需品の話であって、爆発するような危険物ならばまだどこかにあるのではないだろうか、とトンチキな思考を巡らせる。
こんな素っ頓狂な考えでも思いつかなければ、ビナーにまともに勝てる策なんて、少なくとも私には思いつかない。
とりあえず、一旦セリカにも今後の動きを相談するのと一緒に聞いてみることにする。……まあ、そんな上手い話があるわけないが。
「………あるかも知れないわ」
「まじで?」