──あれから色々な事があった。
冴さんに、シャドウ冴さんを見せたら、変なメイクにショックを受けてしまったり。
上手いことハイレートフロアに入れるようになって、シャドウ冴さんを打倒して説得したり。
冴さん自体の説得は、結構スムーズにいった。
明かせる全てを明かした時は、あまりの情報量と腐った人間達の業の深さに絶望しかけていたけれど。
修学旅行では、雨宮くんとデートすることになり、少しテンパってしまった。
……というか、告白されてしまった。
今までアプローチしても気付いてもらえなくて、流石にこのチャンスを逃すと何時になるかわからなかったからと言われた。
思い返してみれば、結構そういえば……というところが結構あり、私の鈍感さに気付かされてしまったのであった。
いやあ……その、ねえ?推しに手を出すなんてみたいな感じで考えていたからさ、まさか枠外の存在である私に対して
ただ、これから色々ある。
返事を聞かせて欲しいと、そう言われたけど。
これから起こる事件を全て終わらせたら、私の全てをあげる。だからそれまで保留じゃダメ……かな?
そう伝えると、頷いて納得してくれた。
ただ、この日からお互いのことを、彼からは海咲、私からは蓮くんと呼ぶようになった。
当然皆からは逃がすものかと揶揄われたけど、はぐらかしておいた。
奥村社長のパレスに侵入する前に、冴さんの説得が成功したことで、彼女にだけはこの後起こる事を説明した。
怪盗団が奥村社長のパレスを攻略し、改心を行った後。彼らに罪を擦り付けるために、黒幕は奥村社長を廃人化させ、殺そうとする……と。
私は、それを止めたい。だから協力して欲しい。
貴女のよく知る、廃人化の真犯人である明智くんの裏をかくために。そう告げると、上手いことやってみせると、心強い返事をもらった。
その後は、原作通りにモナが坂本くんと仲違いして怪盗団から離れ、奥村先輩と出会う。
そんな折、成り行きで……っていう体で合流し、一時的に私の家で匿うことになった。
一緒にメメントスに行って特訓しようとしたけど、ちゃんと覚醒してない先輩に肉弾戦させるわけにもいかず、即撤退。
そんなわけで、私と一緒に入ったらまた強敵が現れて危険だからと、モナを説得して実際にパレスに潜ってみたほうがいいと思うと誘導。
あとは原作通りの流れになり、モナと先輩は怪盗団に合流した。
その後、先輩だけ呼び出して冴さんと同じように、この後実行される黒幕達の計画を話しておいた。
奥村社長には、死んだフリをしてもらうことになるからだ。
実の父親が死んだと思ったまま過ごすなんて、残酷過ぎる。……だから、私は奥村先輩にだけその計画を話していた。
改心が終わった後、秘密裏に奥村社長の元へ連れて行ってもらい、事情を話して説得した。
黒幕との繋がりもあった奥村社長だ。廃人化され殺されると言うと、すぐにこちらの話しに乗ってきてくれた。
それで結局どうしたか──。
記者会見が行われる日、状態が良くないが記者会見は行わなければならないと並べ立て、モニター越しに会見を行ってもらうことに。
当然、誠意がないだのと色々言われはしたが、そこはゴリ押しだ。質問も無しである。結局、ここでどれだけ叩かれても、死ななければ立て直しは出来る。
先輩に全権を譲り、隠居すると申し出た社長が一向に死なないことに、焦っただろうね……獅童正義。
ちなみに、モニターに映っているのは、事前録画した動画である。
記者会見の日は、冴さんのパレスに一時的に避難してもらっていた。
原作でも謎だった、パレスが崩壊したのにタイミング良く奥村社長を廃人化させることが出来た理由はわからなかったけど、凶行を防ぐことは出来た。
明智くんも思い通りにいかず、それはそれは悔しがっただろう。
その後は色々と原作とは違うルートを行くこととなった。
奥村社長は、誰にも見つからないところへと雲隠れしてもらった。
色々と物件も持っているみたいだし、その辺はどうとでもなったみたい。
遊園地で打ち上げをしていた彼らが、記者会見を見ていた時に奥村先輩がネタバレをしたことで、めちゃくちゃ驚かれたと笑って言われた。
そりゃそうだよねえ。実は廃人化させて、殺されるところだったなんてバラされたわけなんだから。
私がその全てを整えたと知ると、皆から労いの言葉をもらった。
ただ、後悔していることがひとつある。
明智くんに、怪盗団がオクムラパレスから出てくるところを撮られることは避けられなかった。そして、奥村社長の暗殺に失敗した黒幕達が利用したのは、秀尽学園の校長の死だった。
彼の死は、時系列の関係で絶対に避けられない。
それを利用されたのだ。
映像も証拠も全てでっち上げ、まるで怪盗団が犯人かのように大々的に放送したのだ。
言ってはなんだが、さして大物でもないただの校長一人の死に、何故ここまで?……そう思う人はどうやら居なかったようだ。
これも、認知の操作……聖杯の仕業だったんだろうね。今思えば。
ただ、こちらは全て事情を知っている。
敵の思惑通りにいかず、向こうには
そう、ここで活躍してくれたのが冴さんだ。
原作では廃人化して命を落とした奥村社長という事実と、怪盗団が彼らであるという証拠を握り、脅すと同時に協力を申し出てきた明智くんと共闘する流れになる。
だが、彼の思惑は上手くはいかない。何故なら、計画通りなのはこちらのほうなんだから。
冴さんは完璧に演じきってくれた。
私に事前に知らされていた事実に懐疑的な所はまだ残っていたようだけど、明智くんの言動や行動、そして特捜部長による嫌味な言動、プレッシャーをかけてくるその様子を見て確信したらしい。敵は怪盗団ではないと。
彼女は私との連絡用に、別途スマホを用意してまで協力してくれた。
そして、原作通りに冴さんのパレスを攻略しようという流れになる。
ただ、冴さんと冴さんのシャドウを含めて、すでにこちら側なのだ。
ニイジマパレスを攻略したと思い込んでいる彼らが、カジノを脱出すると待ち構えていた警察が蓮くんを逮捕する。
そんな用意されたシナリオは、事前に怪盗団には説明済みなのだ。
冴さんには、蓮くんが怪盗団のリーダーであると明かしてある。そこで、シャドウ冴さんに頼んで、認知上のジョーカーを用意してもらった。
当然、認知上の存在である。逮捕されて現実世界へと脱出した途端に消え去るわけだ。
怪盗団と一緒にいる明智くんは、もちろんその場で本性を現すことは出来ない。
現行犯でもないのに、何事もなかったかのように生活する怪盗団の皆を逮捕することも出来ない。
その後、双葉に頼んで明智くんに匿名のメッセージを送ってもらい、冴さんのパレスへと呼び出した。
隙をついて急襲し、いわゆる半殺しという状況に追い込み、立ち上がるのが困難なぐらいに痛い目に遭ってもらった。当然、回復アイテムの類は全て没収だ。
謝らないよ、蓮くんをもっと酷い目に遭わせて、さらに殺そうとした貴方に容赦する気はないからね。
これで、少しだけ時間が稼げた。あとは前倒して獅童を倒すだけ。
そこで、私は怪盗団の皆を集めて、黒幕が獅童である事を話した。
すでにある程度事情を話してあるので、彼らの行動も速かった。
私もここで正式に怪盗団へと加入した。もう、敵に対して素性を隠す必要は無くなった。
やっと、皆と肩を並べて戦えるようになったのだ。
やっとか……!と感情が爆発した蓮くんに抱きしめられて、私の顔が真っ赤になって落ち着くのに時間が掛かったのは許して欲しい。
獅童正義のパレスへと乗り込み、厄介な仕掛けの数々をサクっとこなして、奥へと進む。
……なんだろう、こうやって原作知識をふんだんに利用して先に進んでも、まあ海咲だしねみたいな感じで済ませてくれるのありがたいなあ……。
用心棒を倒し、隔壁の向こうへ行こうとした時に明智くんが現れる。
これが、彼との最後の対決だった。
「なるほど……お前か。お前が居たから全て上手くいかなかったのか!!奥村を廃人化させることも!怪盗団を終わらせることも!!蓮……そいつを逮捕させて、全ての罪を擦り付けて殺すことが出来なかったのも……ッ!!全てお前のせいかぁあああああああああああ!!!!」
「そうだ。海咲のおかげでお前の思惑は全て潰され、俺は二度目の逮捕歴と命を救われた。そしてこれから、獅童正義は改心され、全てが終わる」
「クソがァッ!!だったらここでお前ら全員殺してやるよォ!!!!」
彼との対決は熾烈を極めた。
私が居て尚、ロキを喚び出した明智くんはとても手強かった。
私や怪盗団への憎しみが増し、更に力が強まったんだと思う。
それでも……運命は彼に味方しなかった。
「なんなんだお前ら……理解を超えてるよ。俺を許す……だと」
「許せないよ、許せないけど、ここで死なすわけにはいかない。罪は償って。ちゃんと……生きて罪を償うの」
『そうはいかないな』
もう一人の、獅童の認知上の明智くんが現れる。
聞き苦しい手前勝手すぎる問答の後に、明智くんは偽物を撃ち、スイッチを撃って隔壁を閉鎖する。
ダメだ、このままじゃダメだ……!
「明智くん!」
私は隔壁が閉まる直前にソーマを投げ渡す。
万全であるならば、おそらく彼は──生き残れる。
「取引だ怪盗団!ここは俺が片付ける!だから……獅童を必ず改心させろ……!必ず改心させて罪を、罪を償わせろ!!」
「……いいだろう。その取引、怪盗団が請け負った」
「……はっ。頼んだよ、ジョーカー」
その後銃声が聞こえ、戦闘が始まる音がした。
私達は、先に行く以外の道がないことがわかり、獅童の元へと急いだ。
そして、辿り着いた先は国会を模した場所。獅童のオタカラがあるところだ。
私達は、シドウパレスを脱出し、予告の仕方について話し合った。
そして双葉監修の上、予告動画を作成し渋谷の街を、各テレビ局をネットの放送を全国規模でジャックする。原作とは違って、全員参加の代物。
実行日は明後日の朝に決まった。実行と同時にシドウパレスへと乗り込み、一気に改心させる予定だ。
──そして当日、作戦開始。
『ハイ、皆さんおはようございまーす。我々は皆さんに『怪盗団』の名で知られている者です』
から始まって、獅童一派の悪事をつまびらかにする。
獅童の顔写真が画面に出て、全国にその存在を映し出す。
そして、トドメに蓮くんの宣言だ。
『悪党がこの国を我が物顔で操り、沈めていく様を黙ってみているつもりはない。その前に我々がこの国を頂戴する!』
……蓮くんカッコいいなあ。見惚れてしまう。
彼は、今回冴さんのパレスで捕まっていない。何食わぬ顔で学校にも出席したし、冴さんとも動きを合わせている。
私が目指し、彼らの為に迎えたかったエンディングに辿り着くためのひとつの大きな区切りが、すぐそこにある。
もう少しだ。必ず成功させてみせる……!
そして、シドウパレスへと乗り込み、オタカラのもとへと急ぐ。
獅童との戦いが始まり、最終形態まで追い詰めた……そう思った矢先のこと。
まるで天使と融合したような姿に、もう一度変化した。
でもやっぱりハゲだった。
天使の輪の代わりに輝くそれを直視しないように、私達は全力で戦った。
そしてついに獅童正義を倒し、オタカラの奪取に成功したのであった。
――国会での質疑中にそれは起こった。
獅童の様子が変わったのだ。
だが、それを察知した獅童は退出し、一時的に仮死状態へと至る薬を飲む。側近の指示で息の掛かった病院へと連れていき、情報規制を敷いて外界からシャットアウトした。
そして、私達としてはモヤモヤとした気持ちが残る中、日々は過ぎる。
ここまで来たら、原作の流れを踏襲しよう。そう考えた私は、事が起こるのを待つことにした。
その間に起こったこと。
私は水族館へと、蓮くんを呼び出していた。
「ごめん。待たせたかな」
「ううん。楽しみすぎて、時間とか気にならなかった」
「良かった、それじゃ行こう」
「うん」
私は差し出された手を握り、彼の隣で歩く。
しばらく館内を回って、今日のデートを楽しむ。
とても楽しくて、幸せなひと時だった。
まだ全てが終わったわけではないけど、このまま放置してたら、彼が取られてしまうのではないかと危機感を抱いていたのだ。
……だってモテるんだもん、蓮くん……。
怪盗団の皆は、むしろ公認カップルとして扱ってくれる。でも、恋敵は色んなところにいるのだ。
と、いうわけで。今日はもう覚悟を決めたとばかりに、彼をデートに誘ったのだ。
「ねえ蓮くん。私ね、蓮くんの事が好き。好きだって意識してからは、修学旅行の時よりもっと好きになったよ。だから、蓮くんが取られちゃうんじゃないかって不安なの……。まだ全てが終わったわけじゃないけど……蓮くんの気持ちがまだ変わってなければ、私と……私と付き合ってください」
彼の目を真っ直ぐ見つめて、私は告白した。
彼は受け入れてくれるだろうか。あの時から時間も経った。もっと好きな人が出来てたりはしないだろうか?
でも、そんな不安も吹き飛ばすように、彼は即答してくれた。
言葉よりも行動で、思いっきり私を抱きしめながら。
「ありがとう、めちゃくちゃ嬉しい。俺は、初めて会った時からずっと海咲の事が好きだった。他にこんな思い抱いてる相手なんて、一人もいないよ」
「…………蓮くんっ」
彼の背中に両手を回して、私も抱きしめる。
そして互いに見つめ合って、私達は初めてのキスをした。
それ以来、キスまでは時々している。
というか、蓮くんは結構キス魔である。
一人で店番してる時に、こっそりカウンター越しにキスしたりとかもしてきて、こらー!って怒るけど結局は絆されてしまう。
イケナイことしてるみたいでやめられないとは彼の言だか、双葉に茶化されるからルブランでは控えてほしいんだけどな……しちゃうんだけど。
右手の薬指に指輪が増えた。
そんな折、マスターに連れられて、蓮くんと双葉と私の4人で教会に行って、お前らも家族みてぇなもんだと思ってると言われた事が、すごく嬉しかった。肉親というものが存在しない私にとって、双葉やマスターのことはとても親しく思っていたから。そんな風に受け入れてくれたことが、本当に嬉しかった。
それを期に、双葉が私のことをお姉ちゃんと呼ぶようになった。最初こそ面食らったけど、上目遣いで「……ダメか?」とか聞かれたらそりゃOK出しちゃうでしょ……。
そして、獅童が目覚めて、自分の罪を告白した。
それでも操られた大衆心理は、獅童を支持することをやめない。
私達はメメントスを攻略するために、メメントスのオタカラを求めた。
そこでは、モナの事とか、自分から捕らえられている鴨志田や斑目、金城や獅童達がいた。奥村社長は、ここには居ない。今は表に戻り、裏から会社を支えているからだ。
というか、最下層に着く前に極大の試練が待っていた。
本来のものより確実に強い刈り取るものが、道を塞いでいたのだ。
文字通りの死闘を潜り抜け、なんとか倒すことが出来た。数え切れないほどの即死攻撃が飛んできたけど、狙われたのが私だけだったのが本当に助かった。全体攻撃だったらクソゲーだったよアレは……。
そんなこんなで、こちらをバグ呼ばわりしてキレ散らかす聖杯もなんなく倒して。
渋谷でのあのイベントが始まった。仲間達が消えていく姿を見るのが本当に不安だったけど、私は蓮くんに手を伸ばして「蓮くんを信じて待ってるから。あとでね」と告げて、ベルベットルームの牢獄へと閉じ込められた。
と言っても、私はただ囚われのヒロインよろしく待っていただけだけど。
他の皆は、心折れてるのかもしれないけど、あいにくと私はもうそこはすでに通り過ぎているのだ。
それに、私のヒーローが助けに来てくれると信じているから。それを思うだけで、私は耐えられる。
ただし、ここで彼の偽物が現れて、罵倒してきたりとかそういうのされたら、膝を抱えて心を閉ざしてしまうかもしれない。偽物だと理解っていても。
でも、そんな事は起きなかったのでヨシ!
「海咲、待たせた。大丈夫か?」
「大丈夫、蓮くんが来てくれるって信じてたから。年単位でも待ち続けられるよ」
「どんな状況に陥っても、すぐに助けに来るよ」
そんな甘い会話を繰り広げていたら「貴女たち、こんな状況でイチャイチャしないでよね……。普段通りすぎてなんか安心しちゃったわ」とか言われて、やり取りを見られていたという事実が、一番ダメージが大きかったのは言うまでもない。
ベルベットルームの中心へ向かい、ラヴェンツァに会った時に、ずるいですよバグのくせに!と罵られたが、ノーダメである。何故なら私と彼はもう結ばれたようなものなのだから。ふっ……。
その後は怪盗チャンネルの支持率が100%を記録し、なんとなくそれを聞いた私が微妙な気持ちになりながら、やるじゃない……み……なんとかくん。みたいなことがあったりしながらも、ペルソナシリーズの正義面天使どもを私怨も込めてボッコボコにし、統制の神ヤルダバオトとの戦闘では、原作通りに雨宮くんが元気玉よろしく、サタナエルを召喚してトドメを刺した。
これにて、真のラスボスを除く全ての事変は終わりを告げたのだった。
万が一、私の存在も消えてしまったらどうしようと思ってはいたけど、そんな事はなかった。
『絶対にそんな真似はさせない』
そんな声が何処からか聞こえてきた気がしたので、私は「ありがとう」と返しておいた。
……ありがとね。待っていて──あと少しで私達が望んだハッピーエンドを迎えられる。
そして迎えたクリスマスイブの夜のこと。
観覧車でデートをした私と蓮くん。狭い空間で、寄り添って語り合う。
今日の私は大胆だぞ、と彼に寄り添って肩を抱かれている。
今までのこと、そして私のこと……は、考えた結果話さないことにした。
私になれなかったみんなの意識を、個人のものとして扱うのではなく、その全ての意識が私の中に居たということを忘れないために。
ただ、知識を与えてくれたのは、よくわからない何かとだけ説明しておいた。そしてもうそれが私の前に現れることはないだろうということも。
そして、その日は彼を私の家に誘った。
一緒に料理をして、一緒にご飯を食べて、一緒のベッドで寝て。そして私は彼に全てを捧げた。
幸せな時間を過ごした後は、一緒に寝た。
起きた後、彼の寝顔を見つめているだけの幸せな時間。
……と思っていたのに、彼は先に起きていてコーヒーを淹れてくれていた。
昨日の事もあるので、お風呂に入ろうとしたら、一緒に入ろうと言われ断りきれず、一緒に入ったんだけど……恥ずかしすぎる……!やることやったけど、これはこれで全然違う恥ずかしさがある……!!なんでそんな余裕なの!?と思ったが、彼は大体そんな感じなので私に勝ちの目はない。
そして、彼と結ばれた事によって、私のペルソナはマスターシュからゲフィオンへと変化した。
人の全ての運命を知ると言われている女神。私らしいと言えば、私らしいのかもしれない。
当然、蓮くんは逮捕されていないので、冴さんからの出頭要請もなく、平和に終わったわけである。
ああ……本当に、私は事を成せたんだ。
正直、一番難しい事だった。彼を逮捕させずに終わらせること。志帆を助け、双葉の心を開く助けをして、奥村社長を襲わせないことで春の心も救った。……あ、うん。春って呼ぶようになったよ。
そして、冴さんを説得して協力してもらい、蓮くんを逮捕させずに終わらせるということ。
その全てを成し遂げた。でも、最後の仕事が残ってる。
そして今日はルブランでクリスマスパーティーである。
マスターがモルガナを抱えて持ってきて、皆が驚くなり喜ぶなりしたり、双葉から「そういや蓮、昨日は屋根裏に帰ってこなかったみたいだな」とか言われて、私が顔真っ赤になって全てを察した皆に揶揄われたりと色々とあった。
年末はすみれちゃんも一緒に忘年会をして。そして、新年を迎えた瞬間に。
私は異変を感じ取った。
丸喜先生が統制の神と入れ替わり、メメントスを支配したその結果。認知が歪み、
でも私はなんの変化もない。そもそもこの世界に生まれたときからの思い出以外、何も持っていないものが現れるなんてことはありえないのだから。
そして、すみれちゃんと、ちゃんと生きていた明智くんと合流し、合流した皆とマルキパレスを攻略する。
……やっぱり、この歪んだ世界は私にとっては毒でしかない。絶対に受け入れられない世界だ。
メメントスでの戦いも終わり、丸喜拓人の元へ辿り着いた時、最後の戦いが始まった。
──アザトースを打倒し、進化したアダムカドモンの巨大な拳が、世界を押し潰さんばかりに振り下ろされる。
視界を覆い尽くすほどの黄金の光。けれど、私の心は驚くほど静かだった。
「……はあ、はあ……っ」
膝を突き、肩で息をしながら、私は隣に立つ蓮くんの横顔を見た。
返り血と汗に汚れながらも、その瞳に宿る光だけは、神を殺し、運命を書き換えてきたあの日から一度も曇っていない。
P5Rプレイヤーの「こうあってほしい」という願いを詰め込まれた、バグの塊。
私が望めば、このまま私の力で丸喜先生を消し去り、
(……でも、それは違う)
ここで私が全てを決めてしまったら、それは丸喜先生がやろうとしていることと、何ら変わりなくなってしまう。
救われるべき者が救われる物語なんて、誰かが用意した夢の中の願いに過ぎない。
(私は、貴方の隣にいたい。蓮くんが……彼が選ぶ未来を、一緒に歩きたいだけ)
私は震える手に力を込め、最後の手札を場に出す決意をした。
私の役割は、この物語を完結させることじゃない。
この不条理なゲームを戦い抜いてきた本物の『主人公』に、最後の一撃を繋ぐことだ。
「……ゲフィオン!!」
残された全魔力を、ゲフィオンが背負う傾いた天秤へと注ぎ込む。
ゲフィオンが掲げた秤が、アダムカドモンの動きを数秒間だけ、強引に止めてみせた。
「蓮くん、今!!」
私の叫びに、彼が頷く。
私は一歩下がり、彼の背中を見送った。
怪盗団のリーダーとして、一人の少年として。彼がこの一年で紡いできた絆、流してきた涙も汗、そして仲間から渡されたバトン。そのすべてを乗せた最後の一撃。
私が入り込む余地なんて、どこにもない。ここは、彼が彼自身の人生を取り戻すための、最後の舞台だ。
「――ジョーカー!!」
私の視線の先で、蓮くんが跳躍した。
背後にサタナエルを背負うでもなく、ただ一人の
(いって……! 貴方の選ぶ未来なら、どんな道でも私は愛してみせるから!!)
私は祈るように、その背中を見つめ続けた。
大衆の願望なんて知ったことか。
今、この瞬間、世界を救うのは私じゃない。
私が愛した、ただ一人の男だ!!
──ペルソナも、武器も、もう必要なかった。
崩壊を始めるパレスをよそに。そこにいたのは、神の力を失った一人の男と、血と汗にまみれ、それでも拳を固めた一人の男の姿だった。
私は、ただ見守ることしかできなかった。いや、手を出してはいけないのだと、私の魂が理解していた。
鈍い打撃音。荒い呼吸。互いの正義を、執念を、言葉ではなく拳でぶつけ合う二人。
やがて、丸喜先生が力なく地面に伏した時、この長くて残酷な偽りの夢は、本当の終わりを迎えた。
崩れ落ちる足場。消えゆく異世界。
「……行こう、蓮くん!」
私は彼の腕を引き、消滅していく世界を駆け抜けた。
背後では明智くんが、不敵な笑みを浮かべて闇に消えていくのが見えた。
彼がどういう選択肢を選んだのか、今は分からない。
けれど、あの時のソーマが彼の運命をわずかにでも変えたのだと、私は信じている。
彼のしでかしたことが許せなくても、獅童による被害者の一人であることに変わりはないのだから。
──三月の穏やかな日差しが、駅のホームを照らしている。
私は、誰もいないホームの端で、彼が来るのを待っていた。
「……蓮くん」
改札の方から、ゆっくりと歩いてきた蓮くんが、私の姿を見つけて足を止める。
いつも通りの、でも少しだけ大人びた笑顔。今日で彼は、この街を去り故郷へと帰る。
「……海咲。来てくれたんだな」
「当たり前でしょ? 貴方を一人で行かせるわけないじゃない」
精一杯の笑顔を作ったけれど、声が少しだけ震えてしまう。
私は、彼の手を握り、自分の胸に引き寄せた。
「……私の家は、ずっとあそこにあるから。……一軒家だし、部屋も余ってるからね? だから、いつでも会いたくなったら来てね……」
寂しさが溢れ出しそうになって、私は視線を伏せた。
大衆の願望から生まれた私にとって、この別れという痛みさえも、自分が生きている証拠のように感じられて。複雑な気分が抜けなかった。
すると、蓮くんが何も言わずに私を強く抱き寄せた。
彼のコートから、微かに香る珈琲の匂い。
「……俺も行く。でも、海咲にも来てほしいんだ」
「え……?」
「俺の地元に。……両親にも、紹介したいから」
蓮くんの耳が、少しだけ赤くなっている。
あんなに飄々として、神と呼ばれるような存在まで倒した怪盗団のリーダーが、ただの男の子として私を家族に紹介したいと言ってくれている。
胸の奥が、幸せな熱でいっぱいになった。
私は彼の胸に顔を埋めて、小さく、けれど何度も頷いた。
「……ふふ。楽しみにしてるね。お義母様とお義父さんに恋人の東雲海咲ですって紹介される時のこと」
離れたくない。でも、行かなければならない。
発車を知らせる音楽が、無情にホームへと響き渡る。
私は彼から身を引き、悪戯っぽく微笑んで、指でカードを弾くような仕草をした。
「……雨宮蓮くん。覚悟しておきなさい。……近いうちに、君の『オタカラ』を私が盗りに行くんだから!」
蓮くんは一瞬驚いた顔をした後、可笑しそうに笑う。
「……それは、俺のセリフなんだけどな」
彼はもう一度、私を壊れるほど抱きしめ、深いキスを交わした。
唇に残る熱。それが、私たちの新しい約束だった。
列車がゆっくりと走り出し、彼の姿が遠ざかっていく。
私は、その光が完全に見えなくなるまで、ずっと手を振り続けた。
「……さようなら、蓮くん。……ありがとう」
ホームに独り取り残された私は、空を見上げた。
真っ青な、どこまでも続く自由な空。
私はもう、誰かの『こうあってほしい』という願いの塊じゃない。
バグとして生まれた私は、この世界に存在する一人の人間として。
この身体も、この心も、すべて私自身のものだ。
「……じゃあね、
これからの人生は誰かの願いが紡いだ物語じゃなく、その与えられた知識も全て役に立たない、私自身の足で描いていく不確かな未来。
私は大きく背伸びをして、春の風を吸い込んだ。
「……さて。まずは、彼に会いに行くための『予告状』でも書こうかな?」
私は一歩、新しい明日へと踏み出した。
東雲海咲という、ただ一人の女性として。
光り輝く未来を目指して──。
急ですみませんが、これにて最終回となります。
というのも、ちょっと手術的なアレで入院しなければいけなくてですね……。
ちょっと珍しめのものなので、長くなるかな……と思います。
プロットに少々肉付けした感じのものになってしまいましたが、とにかく終わらせたくてこういう形になりました。
本当なら、このプロットの二十倍ぐらい文字数多くなるはずだったんですけどね。
無事戻ってこれたら、完結を取ってこのプロット通りに肉付けして投稿しなおしたいなと思っています。
約一ヶ月ちょっとぐらいですか。
毎日投稿が途切れてしまったのも悔しいですが、このような形での完結となるのも悔しいところであります。
このような素人の書いた二次創作小説をお気に入り登録して読んで頂いた方々に、感謝申し上げます。
本当にありがとうございました。