姫!姫!姫!みなさん最近ブルアカやってます?

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姫と添い遂げたい…


虚無の逃亡者

 幸せは誰にでも訪れるものだと、誰かが言っていた。

 それは約束された事柄であり、分け隔てなく、等しく降り注ぐものなのだと。

 ただ、幸せは「訪れる」だけであり、それを手に入れるには自ら手を伸ばさなければならないのだとも、その誰かは言っていた気がする。

 私の通う学校は、学校と呼ぶにはあまりに暗く、朽ち果てた校舎しか存在しない。

 トリニティの異端。存在を忘れられ、過去の汚辱に埋もれた亡霊の巣窟——それが、私たちの『アリウス分校』だ。

 そんな私たちの指導者として君臨するベアトリーチェは、私たちにたった一つの思想を刻み込んだ。

 「Vanitas vanitatum, et omnia vanitas」

(全ては虚しい。どこまで行こうとも、全てはただ虚しいものだ)

 幸福は悪であり、夢を見ることは罪であり、希望を抱くことは罰。

 私もそれに従い、ゲヘナとトリニティを断罪することだけが唯一の正義なのだと、そう信じようとしていた。

『どうかしたの?』

「……何でもないよ、姫」

『ふふっ……変なの』

 かつてのアリウス生徒会長の血筋であり、「ロイヤルブラッド」と呼ばれる特殊な神秘の持ち主。私たちが「姫」と呼び慕う、秤アツコ。

 出会いは最悪だった。

 顔も見えない仲間たちと、殺し合いの訓練を強要される毎日に耐えかねた私は、郊外の寂れた花畑で眠りに落ちた。目を覚ました時、目の前に彼女の顔があった。驚いて咄嗟に跳ね起きた拍子に、彼女と頭を強くぶつけてしまったのだ。

 花を愛でる姫と、そこしか安らげる場所がなかった私は、必然的に顔を合わせることが多くなった。

 愛想のない私に、姫は何度も花冠を作って頭に乗せ、とりとめもない話を語りかけてくれた。

 いつしか絆された私は、生まれて初めて心の底から笑えるようになっていた。

「あのね……変かもしれないけれど、私、すごく今幸せなの。虚しくなんかない。……変だよね? 幸せは悪いことなのに」

『幸せになることは、悪いことじゃないよ』

「でも、全ては虚しいって、あのお方は……」

『私のお友達のアズサちゃんが言ってたことだけどね』

『例え全てが虚しくても、それは今日、最善を尽くさない理由にはならない……私は、すごく素敵な考えだと思うの』

 アツコは穏やかに、けれど確かに私の手を取った。

『最善を尽くせば、幸せは訪れるかもしれないし、訪れないかもしれない。でも、何もしないと私たちは、ずっと虚しいまま。……だから◯◯ちゃんも、虚しくても「幸せを手に入れること」を忘れちゃだめ。約束だよ?』

「うん……! 約束……!」

 ——けれど。

 あの時交わした約束の温度を、私は裏切った。

       少女が信じた大人を守り通した。

       裏切りの少女は友のために銃を取った。

     平凡な少女が友のために奇跡を起こした。

    大切な子どもたちの為に、大人は全てをなげうった。

  大切な仲間のため、少女は復讐を捨てて助けを求めた。

  魔女と呼ばれた少女は、最後に未来のために赦した。

            私は——

        全てを捨てて逃げ出した。

 自分の身を犠牲にして大人を守ろうとする、あの吸血鬼のような少女が怖かった。

 私達を捨てて、自分だけ光の世界へ行ったアズサが憎かった。

 私より弱く、脆いはずのトリニティの生徒が、あんな奇跡を起こすなんて許せなかった。

 生徒のために命を削り、敵であるはずの私達まで救おうとする「先生」の善意が、反吐が出るほど気持ち悪かった。

 サオリが——あの冷徹だったリーダーが、あんなにも惨めに助けを乞う姿が理解できなかった。

 全てを赦し、微笑んだあの魔女の聖性が、恐ろしかった。

 私は、自分がどこにいるのかもわからない森の中で座り込み、込み上げる吐き気を抑えきれずに、木の幹へ汚物をぶちまけた。

 彼女たちは、手を伸ばしたのだ。その先に希望があると、信じ抜いた。

 傷だらけになりながら、それでも伸ばした手の先に、確かな幸せを掴み取った。

 あそこで私も手を伸ばせていたら、何か変わったのだろうか?

 ……いいえ、今何を考えたところで、それは後悔が見せる偽りのIFでしかない。

 真実は、仲間も、使命も、約束も、全てを放り出して逃げ出したアリウスの出来損ないが、ここに一人いるという事実だけ。

「あぁ……そっか……」       

    

「溢れた幸せは……」

「私が救わなかった、幸せか」

 足元に落ちた、枯れ果てた花冠を踏みしめて、私はまた、光のない方へと足を進めた




感想オネシャス!

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