プレ先時空のセリカがやってくるお話   作:気弱

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変わったもの 変わらなかったもの

昼下がりの対策委員会室

 

「セリカ、そろそろ時間じゃない?」

 

愛銃のボルトを丹念に磨き終えたセリカテラーが、壁の時計を見上げて静かに立ち上がった。隣で眉間に皺を寄せ、熱心に家計簿を睨んでいたセリカも、弾かれたように顔を上げる

 

「あ、もうそんな時間!? 早く行かないとあれ売り切れちゃうわね!……じゃあ、みんな! ちょっと用事があるから出かけてくるわ!」

 

バタバタと慌ただしく身支度を整え、二人のセリカは連れ立って部室を後にした。扉が閉まり、廊下を遠ざかっていく二つの足音を聞きながら、アヤネがふっと表情を和らげる

 

「ふふ、なんだか本物の姉妹みたいで、見ていて微笑ましいですよね」

 

その言葉に、残されたメンバーは一様に深く頷く。背格好も声も同じ二人が、時に喧嘩をし、時に背中を預け合って支え合う姿は、今やアビドスの日常を象徴する欠かせない光景となっていた

 

「うへ~、そうだねぇ。あのセリカちゃんが揃うと、部室の賑やかさも二倍……いや、三倍くらいに感じるよ」

 

ホシノがソファに深く沈み込み、のんびりと伸びをしながら、ふと思い出したように言葉を繋いだ

 

「そういえば、シロコちゃん達と違って見た目が全く変わらない……肉体的に、その、どこがとは言わないけど成長の兆しが一切見えないから、ついつい忘れてたけど。セリカテラーちゃんの方が年上なんだよね。経験値だけじゃなくて、戸籍上というか、学年的にも」

 

「ホシノ先輩……それ、セリカテラーちゃんに聞かれたら本気で怒られますよ。本人も、その……発育については結構気にしているみたいですし……」

 

アヤネの至極冷静な、しかしどこか同情を含んだ指摘に、ホシノは「おっと、流石におじさんの命が危ない」とおどけて苦笑いした。話題はそこから自然と、どちらがより「姉」らしい振る舞いをしているかという方向へ流れていく

 

「ん。年齢と学年だけを見たら、セリカテラーの方がお姉ちゃんだよね。肉体的にも、戸籍上の数字で見ても」

 

シロコが淡々と、しかし核心を突くように事実を口にする。その言葉の刃は、思わぬ方向に火花を散らすことになった

 

「……それなら、そっちの弱シロコより実戦経験も年齢も上の私の方が、お姉ちゃんっていう理屈になるね。異論はないよね?」

 

クロコが静かに、だが隠しきれない優越感を込めて言い放つ。刹那、室内を支配していた穏やかな空気は霧散し、二人の「シロコ」の間にはバチバチと火花が散るような殺気が渦巻いた

 

「…………」

 

「…………」

 

無言のまま、二人の指がそれぞれの愛銃のグリップへと同時に伸びる

 

「ちょっと二人とも!? こんなことで喧嘩しないでくださいよ! 銃から手を離して!」

 

アヤネが悲鳴のような声を上げ、二人の間に割って入る。一触即発の事態をどうにか収めると、彼女は乱れた眼鏡を直しながら、深く溜息をついて強引に話題を引き戻した

 

「こほん……。ええと、私も、セリカテラーちゃんの方が雰囲気としてはお姉さんに見えるんですよね。もちろんセリカちゃんは同級生で気心が知れているからというのもありますが……この前、私が一人で遅くまで書類整理に追われていた時のことです。彼女が何も言わずに部屋に入ってきて、『あまり無茶しないで。少しだけ、私も手伝うわ』って、淹れたての温かいお茶を差し出してくれたんです。その時の彼女の眼差しというか、包容力というか……セリカちゃんにはない『大人の魅力』のようなものを感じて、つい見惚れてしまいました。一つしか学年が違わないはずなのに、不思議ですよね」

 

アヤネが少し頬を上気させて語ると、ノノミは人差し指を頬に当てて「うーん」と可愛らしく唸りながら、別の視点を提示した。

 

「確かに、ふとした瞬間の気遣いはお姉さんらしいですけど、私は意外とセリカテラーちゃんの方が甘えん坊な気がしますよー? この前、彼女の毛並みの良さに惹かれてブラッシングしてあげたんですけど。最初は『子供扱いしないで』って嫌がっていたのに、途中から本当に気持ちよさそうに目を細めて……。私が少しお手洗いに立とうとしたら、もう終わりだと勘違いしたんでしょうね。寂しそうにギュッと私のスカートの裾を掴んで離さなかったんですよ♪ あの時の潤んだ瞳は、守ってあげたくなる可愛い妹そのものでした!」

 

「ん……。確かに、特にもう一人の私と一緒にいる時のセリカテラーは、どんな時でも全幅の信頼を寄せていて、完璧な『妹』の顔をしてるよね」

 

シロコの補足に、隣にいたクロコが「フンス」と満足げに鼻を鳴らした

 

「そこが可愛い……。セリカは、私の妹」

 

絶対的な所有権を主張するかのようなクロコの態度に、ホシノは困ったような、それでいて愛おしいものを見るような苦笑いを浮かべる

 

「あはは……。結局、どっちがお姉ちゃんかっていう議論は、いつまで経っても決着が着きそうにないねぇ。……まぁ、セリカちゃんはどんなに過酷な経験を積んでも、どれだけ姿形が成長しても……根っこの部分は、良くも悪くも……」

 

ホシノがそこまで言いかけた、その時だった

 

静寂を切り裂くように、廊下の方から「ドタドタドタ!」と床を激しく叩く、凄まじい勢いの足音が近づいてくる

 

「みんな見て! やっと手に入れられたわよ!」

 

扉が勢いよく開き、息を切らせたセリカと、その後ろで同じように頬を高揚させたセリカテラーが飛び込んできた。二人の手には、何やら怪しげな黄金の刺繍が施された、いかにも胡散臭い輝きを放つお守りが握られていた

 

「お、おかえりなさいセリカちゃん……どうしたの、二人ともそんなに息を切らせて」

 

困惑するアヤネの質問に、セリカが勝ち誇ったように叫ぶ

 

「ふふん♪ 実は昨日から狙ってたのよ、最近流行りの金運アップお守り! 今日入荷するって聞いたから、二人で開店前から買いに走ってたの!」

 

セリカテラーも、いつもの落ち着いた口調はどこへやら。もはや元のセリカと瓜二つの表情を浮かべ、誇らしげに胸を張る

 

「これがあれば、私たちの未来は明るいはずよ!店主さん……私たちの熱意に負けたのか、『特別だ』って少し安くしてくれたし…!」

 

キラキラと瞳を輝かせる二人に、ホシノの頬が微かに引き攣った

 

「あー……二人とも、それ……もしかして、駅前の路地裏にあるあそこで買わなかった……?」

 

「そうよ? よく分かったわね、ホシノ先輩!」

 

「そんな不安そうな顔しなくても大丈夫よ、みんな。ちゃんとみんなの分も買ってあるわよ! お金なら私たち二人が出し合ったから、遠慮なく受け取ってよね!」

 

「あ、あはは……」

 

アヤネの手の中に、プラスチック製の安っぽい感触のお守りが押し付けられる。ホシノは溜息混じりに、決定的な一言を放った

 

「あのね、二人とも……。あそこ、有名な詐欺グループの拠点で、もうすぐ風紀委員やヴァルキューレによって合同摘発される予定の場所だよ……?」

 

「…………え?」

 

時が止まる

 

セリカとセリカテラー、二人の動きが完全に凍りつく

 

「嘘……。だって、あのおじさん、すごく親切に『君たちには未来があるから特別だ』って……」

 

「……そ、そうよ。ホシノ先輩、冗談言わないでよ……あはは……」

 

藁にもすがる思いで二人のセリカは周囲を見渡した。しかし、ホシノは申し訳なさそうに視線を伏せ、シロコとクロコはやれやれと言いたげに首を振り、アヤネは頭を押さえて絶句し、ノノミは引き攣った苦笑いを浮かべている

 

誰一人として二人の擁護をしないまま、重苦しい沈黙が続く。そして、部室の窓を震わせるほどの絶叫が響き渡った

 

「わ、私の今月の給料、全部使ったのにぃぃ!!!?」

 

「うそ……この世界で、初めて頑張ってもらった給料だったのに……!!」

 

ソファに崩れ落ち、クッションに八つ当たりし始めるセリカ。その横で魂が抜けたかのように真っ白になり、膝から崩れ落ちるセリカテラー

 

その様子を眺めながら、ホシノたちは呆れを通り越して、ある考えが全員の頭をよぎった

 

(ああ……どんなに過酷な経験を積んでも、学年が上がっていたとしても……)

 

(中身のこういう所は、やっぱり、二人とも可愛い妹にしか見えないんだろうなぁ)

 

絶望のどん底にいる二人に、アヤネとノノミは急いでお茶を淹れ直し、甘いお菓子を差し出す。一方で、ホシノとシロコ、そしてクロコの三人は、アビドスの「可愛い妹たち」を泣かせた詐欺グループにお礼参りをするため、静かに武器の点検を始めた




セリカテラーがこの世界に来るでのお話書いてみたいなーって思ったけど…暗すぎる話になりそう…
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