葬送フリーレン~アフターオレオール~   作:rvr75_raiden

20 / 34
オレオール到達後のシュタルクとフェルンを中心に描くアフターオレオールの番外編。流石兄妹兄者さんのお正月コメントのリクエスで作中出てきたシュタフェルの子供達で「エリシア誕生前の二人(シュタアル&ティアフォート)の話」をテーマに書いてみました。
兄と比べて生まれつき何でも出来てしまった孤高の妹、ティアフォートが家族の愛を知るまでを末の妹エリシアに語り聞かせるお話です。
シュタルク、フェルン、フリーレンを始めとする見守る大人たちは優しく格好良く。
子供達はクセがありつつも可愛く、愛おしく……迷い悩みつつも成長する姿を表現できればと書いてみましたので楽しんでいただければ幸いです。(子供の言葉使いが流暢なのはファンタジー幼児ってことで)

例によって、シュタルク・フェルン・フリーレン以外の登場キャラは全て独自解釈に基づくオリジナルキャラクターであるため原作には一切登場しません。ご注意ください。


小さな真紅のお姫様 ~ Little my Crimson Princess ~

■小さな世界のお姫様


 

父譲りの紅い髪、そして髪よりなお紅く母譲りに引き込まれそうな深い瞳。

かつて伝説の魔法使いフリーレンと共にオレオールへの旅をしてきた父のシュタルクと母のフェルンのもとに第2子として生まれ、フリーレンから「深紅の瞳(ティアフォート)」と名付けられた。

 

これはそんな1人の少女のお話。

 

その少女は物心がついた時から母とその師であるエルフの魔法使いの言っていることが理解できた。

彼女たちが作り出す魔法のイメージも構造も、なんとなく分かってしまった。

 

何もかもが思考と想像の範疇。世界は狭い。

 

いま、幼い自分では届かずとも、優れた私は成長すればなんだって出来る、なんでも叶えられる……世界は全て自分の掌の上で回っている。子供心にそんな事を本気で思っていた。

 

それが愚かな思い上がりだと気付くことすらなく。

 

まあ、それはともかく、言語も、魔法も、手先の技術もどんな事でも誰よりも習得が早かった。

場所が違えば神童ともてはやされたことだろう。

無論、母とその師、そして父はそんな事は考えすらしなかったが……

 

普通の子供として育て、教え、庇護下で自由にさせてくれていたこと。

それが彼女たちの深い愛であり、救いであった事に気付いたのはごく最近のことだ。

 

そして――

 

「ティア、待って……そっちは危ないからあまり行っちゃ駄目だって父さんが」

「平気です。大した魔力も感じません。つまり、危ないことなんてありません」

 

一つ上の兄は、臆病で、鈍感で、当時の私にとって、要領の悪い愚かな兄……そう思っていた。

同じ血を受け継ぎながら何故こんな臆病で呑気なのだと……

 

『シュタアルは……いつもあなたを守ってくれている優しいお兄ちゃんですよ』

 

母にそんな疑問をぶつけてみた時にかけられた言葉はそれだった。

そして、あの日の自分はそんなことすら信じられないでいた……

 

これは、そんな愚かな小娘だった私が、「私自身の想い」を見つけ、手に入れるまでの……そんな小さな物語だ。

 

■生誕と始まりのお話


 

中央諸国 クレ地方 戦士の村 跡地

 

ここはかつて優秀な戦士達を輩出してきた戦士の村が魔族により滅ぼされた跡地。

 

フリーレン一行がオレオールへの旅路を終えた後。その出身者であるシュタルクが建て直しを決意し、その決意に添い遂げると決めたフェルンの2人が管理する土地。

 

旅の中で出会った様々な協力者の助力の下、少しずつ人の暮らす領地の形を成し始めてきた頃。そして同時に、その2人の間に産まれ出た新たな命が芽吹き始めて間もない頃の出来事。

 

「やっと出来たぞ。めちゃくちゃ苦労したぞい」

「ありがとう。……本当に助かるよティシュレーさん」

 

そう言ってシュタルクに小さなアクセサリを渡してくれたのは

現在シュタルクが復興中の地にアイゼンの紹介で住み着いてくれた職人ドワーフのティシュレー。

 

「そいつには、加工した封魔鉱が仕込んである。漏れ出る魔力はそいつが吸収して霧散するから魔法暴発は防げるじゃろ」

 

封魔鉱……周囲の魔力を吸収することの出来る謎の多い鉱石だ。

構成素材から何故魔力を吸収するのか、どうやってできるのかも謎の超希少素材。

握り拳ひとつ分のサイズのもので屋敷が一軒建つらしいが……

周りで魔法が使えなくなる特性上、運搬も保管も大変厄介な代物。

現存する鉱石類の中でも異常に硬く、通常破壊手段もない。

 

のだが……

 

「めちゃくちゃ、硬かったろあれ……どうやって加工したんだ?」

「それは企業秘密だ。あーそれと。フェルンとフリーレン以外はお守りの石とか言って適当に誤魔化せよ、超貴重品じゃし加工技術も超極秘だ」

 

何とかしてくれたらしい。

そこに対してどうやってなど問い詰めるのは今聞くことでは無いし聞いたところでシュタルクの理解に及ぶ話かも判らない。

今はただ、シュタルク達を信頼して彼らの秘匿した技術を使ってくれた事を感謝する以外ない。

もちろん、ティシュレーが何も言わないなら、何も聞かずこの事実も墓まで持って行くぐらいのつもりでいる。

 

「わかった。支払いの方はちゃんと……」

「それは、一人で封魔鉱の欠片を取りに行ってくれたお前に免じてタダにしてやる。それに――」

 

そう言ってティシュレーはちらっと部屋の奥を見る。

奥ではベビーベッドの上に寝転ぶ赤い髪が少し生えてきた赤ん坊に手をかざしてなにかしているフリーレンの姿が見えた。

 

「子供の未来は人の宝だ。儂も協力させてくれ」

「ありがとう――」

 

深々と頭を下げるシュタルクの肩を叩いたティシュレーは

「落ち着いたらお前の自慢の娘を儂にも抱かせてくれ」とひらひらと手を振って自分の工房に帰っていった。

 

「……本当に、たくさんの人に支えられてるんだな……」

 

その背を見ながらシュタルクは呟く

 

✧ ✧ ✧ ✧

 

シュタルクとフェルンの間に第2児として生まれた女児。フリーレンにより 深紅の瞳(ティアフォート)と名付けられた、まだ赤ん坊のこの子は……いや生まれる前からわかっていたのだが。

 

『シュタルク、フェルン……この子は天賦の異才(イレギュラー)だ』

 

それはフェルンのお腹が大きくなってきた頃診断した際にフリーレンが漏らした言葉。

生まれた時点で個人で持つ魔力量が多すぎる。

勿論、フェルンやフリーレンに比べれば随分小さいが、産まれたばかりの赤ん坊が通常持つそれではなかった。

 

『エルフやドワーフと違って、人ってこういう事がまま有るんだね……

 当人の努力がなければ成功はあり得ないにしても歴史上の偉人達も何人かはそうなのかもしれないね』

 

両親の紡がれた血の中にある物、その相性、体調、土地の魔力、星のめぐり合わせ、様々な要因で生まれてくる天賦の異才(イレギュラー)という存在。

種として強靭なほかの種族に比べて人間種がなぜ最も繁栄しているかと言われれば、産まれ出る機会が多いことによる数と……天才が生まれる可能性の高さだ。

 

かつて魔王を討った勇者ヒンメルも……剣に選ばれずとも魔王を討ったその力は、あるいはそうだったのかも知れない。

 

だが、女神がくれた贈り物が少女に与えたのは幸福だけとは言い難かった。

 

『幼いこの子は、制御できず漏れ出る魔力で少しでも魔法をイメージし、魔法に方向性を与えるだけで、それは発動しうる』

 

そう、無意識の魔法暴発の恐れ……

原始的な感情しか持ち得ない赤ん坊にとってそれはとても危険なことだった。

 

それが判ってからはとにかく大変だった。

シュタルクはまだ1歳と少しとなったばかりのシュタアルの世話をフェルンと代わる代わる行いつつも、復興の仕事も少しずつ。

フェルンは母にしか出来ないシュタアルの世話と妹のティアフォートの面倒も同時に

 

そしてフリーレンとフェルンは常にティアフォートから漏れ出る魔力の霧散化を行い続けた。

 

結論として抜本的解決を見なければどうにもならないということで先の封魔鉱のアクセサリの話だ……

数日ほど二人に無理を承知で耐えてもらい、シュタルクが全力で取ってきた。

 

「すごい……。私達に影響がないのに、この子の魔力だけが霧散していく」

 

シュタルクには見えないがティアフォートの近くに置くとチカチカと光を発しているそれはティアフォートの魔力を確かに吸っているということだった。

 

「おっと……」

 

安心で長く続いた緊張の糸が切れたのか、フェルンはふらつき始めたのでシュタルクがその肩を抱きとめる。

 

「ありがとうございます。シュタルク様……」

「いいよ、ここのところ全然寝てないだろ? あとは俺がやるから。

 魔法の問題が解決したらライニさんにも手伝ってもらえる。フェルンは少し寝てて」

「でも……シュタルク様も……あまり……寝て――」

 

あまりに疲れていたのか、フェルンはそのまま眠りに落ちてしまった。

 

「おやすみ、フェルン……」

「私が見てるから、寝室で寝かせてあげて。あとライニも入っていいよって、外で待っていると思うから」

「わかった」

 

そう言うと、シュタルクはお姫様抱っこで愛する妻を抱き上げる。

ここ最近の騒動で少しだけ軽くなったな……と思えるのは感覚的にフェルンの重さを熟知できてしまうシュタルクならではの感想だが……

言うと膨れてポコポコ叩いてきそうなので基本シュタルクだけの秘密である。

 

「旦那様……」

 

廊下に出るとフリーレンの言葉の通り、お手伝いのライニが心配そうな顔つきで待っていた。

 

「……旦那様はやめてよ、俺貴族じゃないから柄じゃない」

「オルデン家からはこの様なときのためにと命じられてきたのに、お役に立てず申し訳ございません。シュタルク様」

 

彼女は、オルデン卿の元でメイドの長として長年働らいていた女性であり、後任に仕事を引き継いだ後、晩年の就職先としてシュタルク達の支援を買って出てくれたベテランのお手伝いさんだ。

 

シュタルクからすると家事・仕事・その他諸々の方面で訳がわからん程有能な人という印象。

フェルンも育児に関してはこの人から多くを学んでいる……ようだ。

何故かそういう現場をシュタルクの前で見せてくれないけど。

 

「いいよ、本当に危なかったから」

「せめてシュタアル様だけでもと……」

「フェルンが嫌がったからね」

 

胸元で眠るフェルンを見ながら苦笑する。

 

「ご家族を、愛(いとし)子を……深く愛しておられるのですね」

「そうだな……」

 

家族が大切なのは誰にとってもそうだが、

かつて失ったものをようやく取り戻すことが出来た二人にとってより特別な意味を持つ。

その原動力がここ最近のフェルンを突き動かしていたのだろう。

 

「今なら、部屋に入れるから。これからはライニさんも手伝ってもらうよ」

「かしこまりました」

 

頭を下げた彼女は、実年齢からは20年は若く見えるぐらいの背筋の伸びた歩き方で部屋の中へ入っていった。

 

「さて、俺も頑張るか」

 

そう言ったシュタルクは愛する妻を寝室に運び……「ごめんな」と謝りつつも軽く着替えさせてからベッドの上に寝かしつけた。

 

✧ ✧ ✧ ✧

 

「ティア姉さまは、昔から凄く魔力が強かったのですね」

 

そう言ったのはティアフォートの妹のエリシア。

シュタアルとティアフォートの後に生まれた、見た目は母の幼い頃にそっくりだという少女。

まあ、今それを知るのは母当人とフリーレンしかいないので全面的にその言葉を信じるしか無いのだけれど。

ティアフォートにとっては世界一かわいい妹であることは間違いない。

 

『自分が生まれる前、みんなどんなふうに過ごしていたのか?』という話を聞きたがった妹にティアフォートが知っている自分の昔話を聞かせている。

これらはティアフォートが後にフリーレンから聞かされた産まれたばかりの頃の話。

 

「そうね……だからエリシアの時も結構厳戒態勢がひかれたのよ?」

「私はティア姉さま程強くないですよ?」

「まあ、魔力はね……」

 

エリシアはそういう意味では予定外なことはなく……といってもあの両親の子として産まれて普通な訳が無い……

この娘の異才……というより魔法と異なる異能は違った意味で現れていた。本人はあまり意識していないし普通にしてると……歳相応の少女なのだが。

 

まあ、その話はよそう。

 

「何にしても、その時はたくさん迷惑をかけちゃったこと、後で謝ったんだけどね」

「なにか言われたんですか?」

 

首を傾げる妹に少し声真似をしながら

 

「『赤ん坊は迷惑をかけるぐらい元気なことが仕事だよ』ってフリーレン様が」

 

そう伝えるとエリシアは 「言いそうですね」とクスクスと笑った

 

■お姫様の健やかなる成長のお話


 

産まれた直後の騒動の後、しばらくは穏やかな日々が続いた。

 

封魔鉱を加工したアクセサリをペンダント状にしてティアフォートに持たせることで無意識に魔法を暴走させることなく日々は過ぎていった。

 

「ティアフォート!おいで~お父さんだぞー」

「いやいや、ティアフォート~名付けの親の私のところにおいで~」

 

手を叩いたり、街で買ってきたおもちゃをシャカシャカ鳴らして気を引こうとしているのはシュタルクとフリーレン。

シュタアルを抱き上げたフェルンはソファーに座りながらそんな二人の様子を苦笑いしながら見ている。

 

どちらが親として好かれているかという妙な勝負をし始めた二人はつい先程シュタアルに同じことをしてフェルンに負けた。

シュタアルは二人を交互に見てからトコトコとフェルンの足元まで行って母親にしがみついたのだ。

それを抱き上げたフェルンに膝を屈した二人は現在ティアフォートを必死に呼んでいる。

 

ティアフォートはまだ足元がおぼつかない様子でちょっとよろけている。

 

「あ~、うーー」

 

と言いながらシュタルクの方ともフリーレンの方どちらかと言えないが二人の方向にふらふらと歩き出した。

 

「ちょっ……大丈夫か!?」

「まだティアフォートには早かったかな……?」

 

二人共、転んだ場合に備えて腰が浮いている。フェルンはいざという場合に魔法で衝撃を防ごうとイメージを固め始めた。

よちよちと歩くティアフォートがプルプルする足元を我慢しながら一歩ずつ足を踏みしめて進んでくる……

 

が、しかし、交差した足がもつれたらしく正面に転びそうになる。

 

「危な――」

 

シュタルクとフリーレンが飛び出そうとした瞬間だった。

ティアフォートは両手に魔力を集中させて一瞬ふわっと浮いたかと思うと、姿勢を立て直し、また元の直立状態に戻った。

 

「あ~」

「「えっ?!」」

 

少女は嬉しそうに笑っている。

 

シュタルクとフリーレンは駆け出す姿勢のまま止まった。

ころんだ箇所に衝撃を防ぐ魔法を展開しようとしていたフェルンも固まっている。

 

「魔法を発動させた……」

「いったい、どうやって……」

 

フリーレンとフェルンは唖然としながらそう呟いた。

封魔鉱で魔法は使えない状態と聞いていたシュタルクとしては意味がわからない。

 

「いまのって……魔法使ったんだよな?」

そのシュタルクの疑問にフリーレンが答える。

「そうだね、どうやら今の魔法はティアフォートが明確な意思で制御した魔法だ」

「使えないんじゃなかったの?」

「そんなことはないよ。私達も使っているでしょ?

 この封魔鉱のアクセサリは効力をかなり弱めていて

 ティアフォートが制御出来ずに放出していた魔力を吸収するだけ。

 光ってたのは魔力を消化するためだね」

 

あとは振動と熱もちょっと出していると補足するフリーレンだったが魔法が発動したという理由がシュタルクにはまだわからない。

 

「つまり……?」

「体内に蓄積している魔力を自分の意志で制御して出力すれば魔法は発動します。

 この子はいま明確な意思を持って自分の力を使って浮遊した……ということになります」

 

シュタアルを抱いたフェルンは、シュタルクの隣りに座った後、シュタアルをシュタルクに渡してから念のためにティアフォートのあちこちを触って異常がないか確認している。

 

「すごい……ことなんだよね……?」

 

おずおずと聞くシュタルクにフリーレンは真顔で答える。

 

「フェルンの子供だから魔法適性の高さは当然だけど……とんでもないことだ。

 要するにこの子は言葉を理解して喋る前に魔法の構造を理解して制御しているってことだ。生まれつきの天才って本当に怖いな」

「私達のやっていることを見て感覚的に理解して学習している……ということでしょうか?」

 

顎に手を当てたフリーレンは首をひねりながらも肯定した。

 

「そうとしか思えないね。この子が見ているのは私達の魔法だ」

 

シュタルクはうーん、という顔で抱き上げたシュタアルを見つめる。

 

あるいはこの子も何か見えているのか?

男の子だしシュタルクの技とか見せたら覚えてくれたりするのか?!

なんかそれって凄く良いな……と思うけど子供の様子からは全然判らん。

 

我が子はくりくりした目で「なあに?」と言った表情をシュタルクに返す。

目の中に入れられそうなぐらいかわいい。

いや、そうじゃない。

 

「とりあえず、大きくなるまで危ない魔法、覚えさせないでね」

「少なくとも、普段の生活だと一般攻撃魔法すら撃つ機会はないよ」

「まあ、確かに……」

 

✧ ✧ ✧ ✧

 

これらも後になってフリーレンから聞いた話だが、ティアフォートも自分でもよく覚えてはない。

初めて使ったのは転けないよう使った空中浮遊の魔法だったそうだ。

 

「ティア姉さまは、飛行魔法の練習で苦戦してませんでした?」

「ちょっと浮くのと、自在に空を飛ぶのって全然イメージ違うもの……最初は高いところ怖いし」

 

痛いところを突かれたティアフォートは口を尖らせながら答える。

 

物心がついた頃に何が使えるようになっていたのかはあまり気にしていなかったが……少し浮くぐらいなら小さい頃から使えたような気はする。

 

「私は浮くのも無理です。難しいです」

「兄様は知らないけど、エリシアは飲み込みが早いから練習したらすぐよ」

「楽しみです!」

 

あの兄は多分飛ばなくても、疾走り、跳ぶことで解決するだろう。

脳筋ではないのだが、出来ないことは代替手段と努力の積み重ねで解決する人だ。

 

ともかく、ティアフォートにとっては魔法を使えることが日常茶飯事だった。

まるで大陸共通言語とどちらが慣れ親しんだ言語なのか自分でもわからないぐらいに手の平の上のものだった。

 

■天賦の才のお姫様と愚かな王子様のお話


 

そしてまた少しの時間が経過し、少女は成長する。

 

「フリーレン様、これでいいですか?」

「凄いね……見せただけで出来るんだ」

 

フリーレンが見せたのは防御魔法。まだ子供達に何か訓練をするつもりはない。

ただ、身を守る手段だけはどんな方向に進むにしても教えるべきだとシュタルクとフェルンの許可のもと「魔法を教えてあげよう」と二人に遊びながらも教えている。

 

幼い割に流暢に敬語で話すのは恐らくは親のフェルンの影響か。

何に対しても成長が早い。

 

「……フリーレン様が魔法を発動させる時にすべてやり方を教えてくれているじゃないですか」

「どういう意味?」

「どういう意味とは……言葉のとおりです」

「うーん、そうか……」

 

魔法発動を見た段階で確かにいろいろな情報は手に入る。

魔力の流れ、発動のイメージ、得られる結果、諸々。これはフリーレンクラスの魔法使いならある程度は見ただけで真似るということは出来ると言えば出来る。

 

もちろん、フェルンもやれるだろう。それはあくまでフリーレン達が相応の経験値を持っているからだ。

基礎の応用で再現ができる。だが、この子は前提が異なる。本当に見たままに解釈して再現したのだ。

 

(末恐ろしいな……)

 

流石に今から何も知らない初心者に戻ることは出来ないのでフリーレンが自分にも出来ることなのかは判らない。

しかしとんでもないことだ。

 

一方で兄のシュタアルは……

 

「ふんぬーーーーらぁぁぁぁぁ!」

 

シュタアルは顔を真っ赤に染め、全身から汗を滴らせながら手の平に魔力を必死に集中させていた。

眉間にしわを寄せ、歯を食いしばる様子は、小さな体の全てを賭けた戦いのよう。

が恐らく、発動には出力が足りない。

ヘクスの防御壁の先端のようなものが見えた瞬間にそれらは光となって消えていった。

 

その横でティアフォートは、息一つ乱さず、まるで水を飲むように自然に魔法を操っている。

 

「惜しかったね。まあ、実は割と難しい魔法だから。ゆっくり練習しよう」

 

フリーレンはしょんぼりした様子で「うん」と答えるシュタアルの頭を撫でる。

恐らく妹が一発で成功したのを見て焦っているのだろう。

ここで、曲がって投げ出すことを一切しないのがこの子のいいところだが、少々自分を卑下して見がちだ。

全く親子揃って面倒な性格をしている。

 

「シュタアル、最初から何でも出来る人間だけが成功するわけじゃない。

 出来ないからこそ一歩ずつ歩んだ行動もまた偉業につながることもある。コツコツ練習しよう」

 

そう伝えると少年は「わかった……」と短く答えてからまた練習を再開した。

 

そんな様子を見ていたティアフォートは「こんな簡単なことなのに」と

1枚だった防御障壁のヘキサを2枚、3枚と増やして連結し最終的にはゾルトラークなどを防ぐのに十分な形状まで構成した。

 

その時の少女が兄に見せた表情は少女の中にある僅かながらの呆れと失望の感情をフリーレンに感じさせた。

 

(あまり、いい傾向じゃないかもしれないな……)

 

魔力量に対して不思議と出力の低いシュタアルだが、決して彼の能力が低いわけではない。

身体能力で言えば、正直同年代のそれを大きく上回る上に当人も努力家だ。

だが、魔法使いの視点でみた時にティアフォートとシュタアルの見えている世界は全くステージが違う。

 

ティアフォートが当たり前に見え、感じる世界、触れられる力……それを血を分けた最も近しい存在であるシュタアルが共有出来ない事に彼女なりに孤独さや寂しさがあるのかも知れない。

 

一瞬、フランメを失ってから、ヒンメルたちに出会うまでの出来事がフラッシュバックする。

 

(そうか……、私はこういう感情が希薄だったのかも知れないな)

 

フリーレンは情動を殺すことで長い孤独を生きていけた。寿命の長いエルフの処世術とも言えることだろう。

だが眼の前で今を生きる子供達はそうではないのだ。

 

(私やフェルンがこの子の理解者であらなければならないんだな)

 

小さな少女が笑って過ごせるように、孤高の孤独に震えないように……

そして、いつかこの二人の兄妹がお互いを判りあえるように。

 

✧ ✧ ✧ ✧

 

「そうですか……ティアフォートがそんなことを……」

 

膝の上で眠る二人の子供の頭を撫でながらフェルンはフリーレンの話に頷いた。

 

フリーレンの練習から帰ってきた子供達をシュタルクにお風呂に入れてもらった後、子供達は疲れてしまったのかウトウトし始めたのでフェルンがソファーの上で「おいで」と手招きするとふたりとも目元をこすりながらフェルンの元にやってきてふにゃっと寝転んであっという間に眠りについてしまった。

 

「最も近しい他人……ですか。

 私は兄妹がいなかったので判りませんが……シュタルク様どうだったのですか?」

「え、俺?

 兄貴はいたけど、結構年離れてたし……能力も才能も雲泥の差で、親父からも……」

 

とまで考えながら言ったあたりで、フリーレンとフェルンが気まずそうな顔をする。

 

「いやいやいや、やめやめやめ。

 そういう話をしたいんじゃなくて。兄貴から見て俺は、年の離れたかわいい弟過ぎて、理解者とかそういう立場じゃなかったからなんともだな……」

 

と雰囲気の悪さに焦ってシュタルクは手を振って答える。

 

「俺から兄貴を見ても、優しくて頼りになったけど、この子達の例に当てはめるのはちょっと難しい気がする。

 シュタアルとティアフォートは1歳しか変わらない。

 ティアフォートにとっては本当に鏡合わせの隣人ぐらいに感じるのに違う……って感じなのかな?」

 

とシュタルクは「俺は出来が悪い方だったからわからんけど」と言いながら首をひねった。

 

「救いなのは……シュタアルはティアフォートに何を言われても、お兄ちゃんであろうと頑張ってくれてるところかな」

「そうですね……この子は、いつも一生懸命です」

 

フェルンはそう言いながら二人の頭を撫でた。

親としては願わくば、その想いを互いに理解し、尊敬し会える二人になってくれたらと思う。

 

「……」

 

ティアフォートは少し眉を動かしてから母の膝枕に顔をより強く擦り付けた。

 

✧ ✧ ✧ ✧

 

「……今のティア姉さまからするとあんまり想像出来ないのですけど。

 シュタアル兄さまのこと好きじゃなかったのですか?」

 

自身を含めて兄妹の仲が良い事が何より大好きなエリシアは当時のティアフォートの話を聞いて意外そうな様子で聞いてきた。

 

「……当時の感情を、言葉にするのはちょっと難しい……ね。

頑張っているけどなかなかうまくできない兄様を父様と母様が暖かく見守ってることに……納得ができなかったとか……」

 

別に仲が悪かったわけではない。普通の兄妹だった。

ただ、自分は当たり前に出来ることが兄には出来なかった。

兄は自分より劣った人間だ、という漠然とした認識が僅かにあった。

 

だが父と母はそうは思っておらず

当時はそれに納得ができなかったのだろうと今は思う。

 

「でも、お父様とお母様はそうでないとらしくないです」

「それはエリシアの心が当時の私より豊かで大人な証拠ね」

 

そう言って、妹のつややかな髪の頭を撫でると彼女は気持ちよさそうに目を閉じる。

その様子が人懐っこい子猫のような仕草が可愛くて思わず抱きしめたくなるが、話がずれるためティアフォートはグッとこらえた。

 

「私はその時、どうしても優れているか、劣っているかを拙い感情で比べる事でしか、人の価値を認めることが出来なかったのかも」

「……ティア姉さまの年齢からするとそれもそれで凄い気もしますが……」

「そうね、そうかも」

 

妹のその言葉にティアフォートは苦笑いで返した。

 

■幸福の授かりものが降り立ったお話


 

そんな日々を過ごしている内に1つの大きな出来事が起こった。

 

「母様?」

 

昼食の最中に具合を悪くしたフェルンは口を抑えて、キッチンの方向へ走った。

 

「フェルン?大丈夫?」

「母さん?どうしたの?」

 

ゲホゲホと咳き込みながらも口を濯いだフェルンは調子が悪そうに戻ってきた。

 

「フェルン……久しぶりだけどこの感じは……?」

「すみません、フリーレン様……後で確認いただけますか」

 

フェルンのその言葉を聞いたフリーレンは表情を緩めて「わかった」 と答えた。

 

フェルンは心配そうに見つめるシュタアルとティアフォートの頭を愛おしげに撫でながら

 

「驚かせてごめんなさいね。お母さんは大丈夫だから。

 もしかしたら、二人がもっとびっくりすることになるかもしれないけど……きっと喜んでくれるわ」

 

いまいち事情が飲み込めない二人は顔を見合わせて首を傾げた。

 

✧ ✧ ✧ ✧

 

街道整備や都市建設で日々関係者の間を飛び回っているシュタルクが帰宅したその日の夕暮れ時……

 

「フェルン! フリーレン! 本当に!? 」

 

事情を聞いたシュタルクが食い気味に二人に確認すると「本当だよ」とフリーレンは答える。

あわあわという表情だが心の底からの歓喜をこらえているような表情でシュタルクはフェルンの方を見つめる。

どことなく照れくささを覚えたのか、少し朱くなった顔のフェルンは「はい」と言いながらうなづいた。

 

「はは、ははははは……」

 

愛しさ余って思わず強くフェルンを抱きしめたくなる気持ちをぎゅっと抑えてシュタルクはゆっくりと、力がかからないようにゆっくりとフェルンの身体に手を回すと、フェルンも嬉しそうにシュタルクの背に手を回した。

 

「頑張ってたもんね、ここ最近、かなり」

 

二人を微笑ましく見守りながらいうフリーレンに

 

「「うっ……」」

 

っと言葉に詰まる夫婦。

そう言われると説明が難しいが、シュタアルとティアフォートの件も少し落ち着いてきたのと……

なんというか、こう……あるじゃないか……凄く盛り上がりたくなる時期が。

旅の最中ほどではないにしても、二人ともまだ、若いといえば若い訳で持て余すものを時々ぶつけ合いたくなる訳で。

 

シュタアルとティアフォートに子供部屋を与えて部屋を分けて眠る様になってから、毎晩色々あったのだ。

 

ちなみに、フェルン本人は気づいてないが……

朝食を準備している時のご機嫌とか肌艶と腰回りのキレというか全体的な身体の充実感のようなものが日によって違うので、その様子で昨晩どうだったのかをなんとなく察しているフリーレン。

 

「週5はなかなか……頑張るなって思ったけど今回は流石に実を結んだね」

「あ、あの……フリーレン様……覗き見とかは……」

 

若干焦った様子でフェルンはフリーレンに問いかける。

 

「いや、流石にもうやらないよそれは……」

 

実は初夜の時に心配になった結果の前科は有るが流石に滅茶苦茶怒られそうなのでもうやっていない。

 

「では、どうしてそんな……」

「むしろどうしてフェルンはバレてないと思ったの……?

 いや、うん。家族を増やすための大切な儀式だし……四六時中、好きな時に好きなだけしていいと思うよ。

 ある意味、そのために夫婦になったんでしょ?」

 

「違わないけど、違います!!」

 

そんな、終わりそうにない、若干ずれた問答をしているとこちらを覗いている視線を感じたシュタルク。

廊下の角から二人が駆けつけていいのかどうか迷った様子でこちらを見つめている。

 

「二人とも、ただいま。おいで」

 

そういうと笑顔になった二人は嬉しそうにシュタルクに飛びついてきた。

 

「父さん、おかえり!」

「おかえりなさい父様」

 

そこそこ大きくなった子供二人を何の苦も無くヒョイと抱きかかえたシュタルクは愛おしげに二人の頬に自分の頬を当てる。

 

「聞いてくれ二人共、家族が増えるんだ!お前たちに弟か妹ができるぞ!」

 

まだピンと来ないシュタアルとティアフォートをきょとんとした表情だが、二人を抱えたままくるくると回りはしゃぐ父の様子にそれは喜ばしい出来事なのだろうと察する。

 

「色々準備を進めないとな。忙しくなるぞ。二人共協力してくれるか?」

「判んないけど、うん。頑張る」

「はい、父様」

「よし、いい子だ」

 

二人を下ろすとシュタルクと手を繋いで居間へ歩き出した。

 

✧ ✧ ✧ ✧

 

「家族が増えるってどういうことですか?」

 

そんな娘の言葉にフェルンは屈んでティアフォートの視線に高さを合わせて答える。

 

「シュタアルはティアのお兄ちゃんでしょ?」

「はい」

「それと同じ様に、ティアもお姉ちゃんになるんです」

「……?」

「あなたより小さな子が、私達の家族に加わります。

 ティアはその子のお姉ちゃんとして、守り育てるお手伝いをしてほしいの」

 

ティアフォートは兄であるシュタアルに守られているという自覚は……あまりない。

遊び相手程度にはなる、自分に近しい家族の1人。父と母程の敬意を抱けない。

自分より少し劣った存在。それでも自分の庇護しなければならないほどのものでもない。

 

……兄と妹とは何なのだろう?

そして同様になる今後増える家族にとって自分とはどういうものか。

 

母と父の願いに沿うとしても自分はそれを受け入れられるのか?

ティアフォートにはそれがわからない。

 

✧ ✧ ✧ ✧

 

「つまり、私の出番ですよね!?」

 

胸の前で拳を握り、目を輝かせてずずいとかわいい顔を寄せて聞いてくるエリシア。

 

「そ、そうね……」

 

かなり可愛いのだが、ちょっと近いので両肩に手をおいて落ち着かせる。

 

「でもまあ、まだしばらくはでてこないかな?」

「えぇー」

 

ちょっと不満気な妹は残念そうな顔をするが……まあそういう思い出話なので仕方ない。

 

「あなたが産まれてから可愛くて仕方ない話は10年分ぐらいあるから今度別途聞く?」

「それ、私が産まれてからほぼ全部の時間じゃないですか?」

「その通り」

「寝ている時の時間ぐらい省略してください」

 

エリシアは苦笑いしながらそう答えた。

「寝顔も可愛いのに」といいながらもティアフォートは話を続けた。

 

■万能の薬のお話


 

それから5ヶ月程が過ぎた。

パっと見で母のフェルンのお腹には何か新しい命が宿っている事がわかる時期。

 

フリーレンが言うには産まれてくるのは恐らく女の子だろうという話だった。

『男の子ならあるものが、ついていなさそうだよ』

というフリーレンの言葉に父が『そういう言い方やめようよ』と言ってた。

 

妹が産まれる。

 

なるほど……血を分けた妹が産まれて自分は姉になるのだ。

そう思いながらも隣で母のお腹に手を当てて「動いている!」と笑いかけている兄のシュタアルを見る。

この人を見たところでその存在の意義に今ひとつ実感は湧かないが……

産まれ落ちた子供は家族の庇護下なしに生きていけるような存在ではないのは理解できる。

 

つまり父が言っていた通り守らなければならないのだ。

家族とはそういうものだ。そう定義付けられていて、そうやって機能している。

その筈だ。

 

✧ ✧ ✧ ✧

 

日々色々あれば母のフェルンの体調も変わる。

実際は、少し体調の悪いリズムな日だっただけなのかもしれない。

それでも、数日体調を崩しつつもお腹の痛みを訴えること無く耐えていた母を見て子供心になんとかしなければと思ったのは確かだ。

 

後になってみれば無事だったからこそ笑い話で済ませられるが……

身重で魔法も使えない状態の母が目を離した隙に子供二人を見失ってどこに行ったのかもわからない状況は恐怖でしかなかったろう。

 

反省しか無いけれど当時はそれなりに真剣だったのだ。

 

「ティア、待って……そっちは危ないからあまり行っちゃ駄目だって父さんが」

「平気です。大した魔力も感じません。つまり、危ないことなんてありません」

 

フリーレンの蔵書の中にあった万能の霊薬(エリクサー)に関する記載

 

その記載は古く、前置きとして『神話の時代に在ったとされる真の万能の霊薬(エリクサー)に関する正しい生成法は既に失伝しており、それに近づく効果のあるものを現代の錬金術師は永久の命題として追い続けている。』というもの。

 

つまり、本物の万能の霊薬(エリクサー)は現存しない。

それ自体はティアフォートにとってはどうでも良い。

ティアフォートにとって大事なのはそれに類した本物になり損なった調剤方法。

瀕死の命を万全にする奇跡などは必要がない。

人に対して高い回復の効果をもたらすものがあれば良い。

 

ここ近隣で取れる材料で作れる物を探し、ようやく見つかった。

すぐ近くの森を抜けた丘の上で自生する花と根を素材に作れる回復薬がある。

 

「これがあれば、母様も……妹も助けられる。待っててください……」

 

そう思いついたら行動は早かった。

フリーレンと遠出をする時の服と靴に着替え、フェルンの身の回りの手伝いをしているライニの目を盗み……外に出ようとしたところを兄に見つかった。

 

「どこに行くの?」

「ちょっと、近くに散歩へ」

「まって、ティア。その服はフリーレンに買ってもらった遠出用の丈夫なやつだ。

 それ、散歩じゃないだろ!」

 

思ったより、よく見ている。

どう言い包んでまいてしまおうか、そう考えていると向こうも考えあぐねているようだった。

 

「ティア、僕も着替えてくる。だから待ってろ、一人で行っちゃだめだ」

 

いつになく真剣な目でそう訴えてくる。

 

「……」

 

ひとまず兄を待つことにした。この状況で逃げれば確実に母やフリーレン、ライニの耳に入る。

そうなるぐらいならまだ、ついてきてもらったほうが良い。

 

「はあ……」

 

面倒なことになったと、その時はそう思った。

彼がいてくれたからこそ、その後の自分があるということもその時は知らず。

 

✧ ✧ ✧ ✧

 

木々の間から漏れる光が足元を照らす中、二人は森へと進んでいった。

家の輪郭がだんだんと小さくなる後ろ姿を見ながら、シュタアルは周囲を警戒するように視線を巡らせた後、ティアフォートに向き直った。

 

「それで、どこへ行くつもりなんだ。

 こっちは危ないからあまり勝手に行くなって父さんが言ってた場所だ。

 ティアがそんな事も知らないはずがない」

 

無論知っている。言われた時から時折遠巻きに魔力を見てどれほどの脅威があるのか調べてはいる。

結論から言えば、そこまで危険視する必要がない。近隣で危ない魔物は恐らく父と母とフリーレンが徹底的に駆逐してしまっている。

 

野生動物はいるかもしれないが、これもフリーレンから教わっている隠蔽の魔法で回避が可能だ。

あとは……体力的な問題はあるかもしれない。これは頑張るしか無いが、地図で確認する限り森を抜けるのは不可能ではないという見積もりだ。

 

「丘の上にある、花……まあ薬草を取りに行きます。

 最近調子の悪い、母様の体調に効く薬が作れる……はずです」

「………わかった。それを取って帰ったら良いんだな」

 

理由を説明すると兄はすんなりと頷いた。

 

「反対……しないのですか?」

「ティアは、きっと納得しないと止まらないだろ。

 止めて、今度は夜とか寝てる時に抜け出されたら困る。

 あと、僕も母さんのことは心配だし、元気になるなら」

「……」

 

少し、意外だった。

兄は自分のことを真正面から見ている。妹である自分の事を慮って行動している。

ティアフォートは内心で焦りのようなものを感じた。能力で劣る兄の内面など考えなどしてこなかった。

本来はどうあるべきなのだ。兄妹であるとはそういうことなのか?自分に間違いがあったなど……

 

「ティア? 大丈夫か? 早く行こう。街の方まで遊びに行くって書き置きしたから、夕方ぐらいまでに戻れるようにしよう。

 そうしないと騒ぎになっちゃう」

「は……はい」

「ここを抜けた先の丘なんだよな?」

 

そう言って、ティアフォートの手を引く兄の背と手の暖かさに何故か言葉を紡ぎ出すことができなくなってしまった。

 

(どうして……?)

 

✧ ✧ ✧ ✧

 

そこまで聞いたエリシアは両手を叩いて嬉しそうな表情で

 

「シュタアル兄さまらしいです」

 

と感想を漏らした。

いま、彼をよく知るものからすればその通りだ。

 

「そうね……本当に、あの兄様は……」

 

いつもは情けない表情で泣いて、間抜けな顔で笑って。愛嬌はあるけど頼りなくて。

だけど、誰かが困っている時、助けてほしい時、ここ一番のときは……いつだって真っ先に駆けつけて来る……

 

「昔から……天然スケコマシ……」

「スケ……コマ……シ? ってなんですか?」

「エリシアは今気にしなくていいの。

 ただ、兄様はどうしようもなくそういう人だと……あと5年ほどすれば理解すると思う。

 多分3~4人の女性から色々付け狙われる運命にあるわ」

「はあ……、でもシュタアル兄さまが何人かに囲まれている夢は時々見ますね」

 

なんやかんや当人が隠しているつもりの助平心は割とあるのは把握している。

揺れるなら妹の胸ですらチラ見する……悪い気はしないが……

だが、しかし、兄は全く悪意と下心なく誰にでも本音の言葉を紡ぐので非常にタチが悪い。

 

と、なんとなく兄の苦情をしみじみと語ってみる。

だって、今この場で……本当の気持ちを吐露するのは……姉妹と言えども恥ずかしいではないか。

 

「でも、フリーレンさまについてきてもらってたほうが良くなかったですか?」

「フリーレン様は母様が休んでいる分仕事を手伝っていたから、家には母様とライニさんしかいなかったの。

 ライニさんは……母様のことで手が離せなかったし、お歳も召している……から無理はさせられない……と、その時は思っていたのよね」

「そうなんですか?」

 

下唇に人差し指を当てたポーズでん~?と考えるエリシア。

 

「ライニさんが私達より体力で劣るなんて……あんまり想像できないです」

「そうね……今考えたら本当にそう」

 

今でも背筋を伸ばしたまま、優雅さの基本を地で行く年老いたメイド。

若くはないのに立ち振舞はそれを一切感じさせない。美しいとはああいうことを言うのだと今は思う。

そして、あのオルデン家からなぜ彼女1人だけ遣わされる判断となったのかは後に知ることになる。

 

■お姫様と最も近しい他人のお話


 

森を抜ける間のことをティアフォートはあまり細かくは覚えていない。

なんせ……

 

「泣くなよ……」

「……泣いてません」

「そっか……」

 

それ以上は何も言わずシュタアルは黙々と歩き続ける。

 

それは10分ほど前の出来事。

 

ツタの絡まった岩場、足を取られて転んでしまったため擦りむいてしまった。

ボケットから小さな冊子を取り出したシュタアルはすぐさまソレを開き

 

「これぐらいの擦り傷なら……多分なんとか……」

 

そう言いながら開いたページの一説をたどたどしく読み上げるシュタアルの手に宿ったのは女神の魔法。

 

「これは……」

「びっくりしたか? なんか適正があるらしくて……大したことは出来ないけど一応発動するならってフリーレンが教えてくれたんだ」

 

そういう兄が持っている冊子に目を移す。小さな、薄い冊子だ。

 

「それは、聖典……?」

「簡易版ね……僕にも読めるようにしてくれたやつ。ゲンテンっていうんだっけ。あれは専用文字が難しくて読めないし……どう?」

 

擦り傷を女神の魔法で癒した後を丁寧にハンカチでまいてくれた。

 

「……驚きました」

 

呆然と、ただそんな言葉が礼より先に口をついて出てしまったが、兄は苦笑したようだ。

 

「いや、そうじゃなくて怪我の方」

「あ、はい。大丈夫そうです。歩けます」

 

そう言ってよろよろと立ち上がろうとすると

 

「ほれ」と言ってシュタアルは背中を向けた。

 

「何を?」

「背負って移動するから、乗れ」

「は?」

「表面の傷治っても痛いだろ?だから乗れ」

「でも、自分で歩け……」

 

という理由でずっと背負われて移動している。

シュタアルはまだ小さいその体のいったいどこにそんな体力があるのか、呼吸1つ乱さず、ただまっすぐに突き進む。

 

兄が妹を守るという事とは……妹として兄に甘えるという事とは何なのかその時、その一瞬まで理解できなかった事なのに。

その瞬間はそうするのが当たり前なことのように兄の背の首筋に顔を埋めていた。

 

✧ ✧ ✧ ✧

 

「森を抜けた……先の丘? ってここ?」

 

と妹を背負ったままのシュタアルが呟いた。

 

「はい。ここです」

「もっと、花畑みたいなのが広がってると思った」

 

シュタアルがそういうのはこの辺一体がゴツゴツした岩場となっているからだ。

ティアフォートは「平地じゃなくて山の麓ですし」と苦笑した。

風が吹き溜まり、影もできやすいこの場所に花畑というと流石に無理がある。

魔法で作れなくもないが。

 

だが、こういう場所だからこそ生えている数少ない植物には濃縮された効果がある……筈だ。

 

「あの……もう大丈夫だから、降ろしてください」

「そっか、足元気をつけろよ」

 

そう言ってゆっくり降ろしてくれるも掴んだ腕は離してくれないシュタアル。

 

「あの、花……探すので離してください……」

 

申し訳もなくか細い声でそういうとシュタアルは「あ、ごめん」と言って手を離した。

 

✧ ✧ ✧ ✧

 

花のイラストと特徴を記載したページを転写した紙は兄に渡して手分けして探すことにした。

随分と心配されたが、お互いに見える範囲に必ずいるという約束の元で効率重視だということで飲んでくれた。

 

岩場の隙間など隠れた場所に咲いているということなので、パっと見では判らず探すしかない。

 

「ティアー、あったかーー?」

 

と先程から度々声をかけてくる。今までの自分であれば、鬱陶しく思っていたと思う。

 

「まだ見つかっていません」

 

だが、わかってしまった。

風の強い、この荒涼とした岩場でただ1人いることの寂しさ。

そして、誰かが見守ってくれているということが、どれほど自分の力になっているのかと言う事実。

 

「兄妹……か……」

 

最も近しい他人。所詮は他人、何から何まで分かり合うことは出来ない。見えてる世界は何もかもが違う。

だが、自分に寄り添ってくれようとしてくれる人。理解してくれようとしてくれる人。守ろうとしてくれる人。

 

自分はそうあれていたのか。これから産まれてこようとしている命にそう向き合おうとしていたのか。

 

判らない……ティアフォートは一人懊悩する。

 

✧ ✧ ✧ ✧

 

そんな状況を一変させたのは

 

「めちゃくちゃ美味そうな匂いがすると思ったら……人間のガキか?

 ガキにしちゃ良い魔力だぁ」

 

角が生えた妙な男が、山から降りてきてこちらに話しかけてきた時だった。

 

「……だれ?」

 

かろうじて言葉が出た。背筋が凍った。明らかにこちらへの害意を感じる。

そして、今の自分達で対処できるイメージが沸かない。

 

「お前らは今から食う家畜に名前を名乗るのか?」

「魔、族……」

 

言葉が震える。

喉が締め付けられるような感覚に、ティアフォートは自分の声が遠くから聞こえてくるような錯覚を覚えた。

そんな危険な魔力は感じなかったはずなのに。どうして……?

自分の判断が、致命的に間違っていたという恐怖が背筋を走り抜けた。

 

✧ ✧ ✧ ✧

 

話が急展開を迎えたせいか、エリシアは膝に手をおいたままハラハラした様子でこちらを見つめている。

 

「………」

「………」

「あの、ティア姉さま……? 続きは?」

「………」

 

何となくその様子が可愛いので沈黙してみる。

 

「まさか、そのままやられちゃったんですか!?」

 

そうしているとそんな素っ頓狂な回答が返って来たのでブっと吹き出してしまった。

 

「あなたの眼の前にいるのは誰?」

「はっ、そうでした!!

 でも、近くに魔族がでてくるなんて……怖いです」

 

北側諸国に比べると中央諸国は魔族被害がかなり少ない。だがゼロではない。

居るにはいるのだ。

力の強い魔族であればフリーレンや母のフェルンがすぐに感知するから良いが……

 

その時はフェルンが万全でなかったことと、そこまで強力な魔族でない場合はその限りではない。

だがそんな魔族でも……年端のゆかぬシュタアルとティアフォートにとっては非常に危険な存在にほかならなかったのだ。

 

「エリシアはいい子だから一人で街や結界の外にホイホイでちゃ駄目よ?」

「はーい」

 

大人しくいうことを聞いてくれる妹の頭を撫でる。

この娘はまだ戦闘技術を持たない。ならば、絶対に自分が守るべき存在だ。

 

■同じ血を分けたモノのお話


 

「同胞連中からあわよくば美味いものが食えると言われたけどマジだったんだな。ありがてえ。こんな上等な魔力のガキなんて感謝しかねぇ」

 

舌なめずりをしながらその魔族の男はずいずいと近寄ってくる。

 

食欲を満たすために自分を攻撃しようとする意思をぶつけられてティアフォートは地面に腰をついてしまった。

 

そんな折……

 

「っ!!」

 

その魔族は払った左腕で何かを粉砕した。

 

「ああ!?」

「ティアから離れろ」

 

それはティアフォートがいた場所の岩壁の上に立ったシュタアルが投げた拳大の石だった。

 

「もう一匹いたのか、今日はいい日だな。だけどお前はこいつほどの魔力はないのか……まあ両方食うけど」

 

そう言ってニヤニヤ笑う魔族とティアフォートの間にシュタアルは着地する。

シュタアルはフリーレンから渡されている遠出セットの中に入っているナイフを取り出した。

 

「妹に近づくな!」

「………」

 

だめだ。勝てない。兄が勝てるイメージが沸かない。

そして、ぶつけられた殺気で声が出ない。

 

「いい度胸のガキだな。座興にこういうのはどうだ?」

その魔族は近くの岩に手をかざす。そうするとその岩はガタガタと音を出して集まり、4本足の獣のような形状に固まった。

 

「人間には『はんばーぐ』って料理があって肉を細かくすりつぶすらしいぜ。

 せっかくの極上の食材が手に入ったんだ。

 俺もそれを真似て魔族流の料理ってやつに挑戦してみようか?」

 

ケタケタと笑う魔族から遮るようにナイフと逆の手をティアフォートへとかざす。

そんなシュタアルは

 

「時間を稼ぐ。ティア。全力で逃げて父さんとフリーレンを連れてきて」

「ッッ!?」

 

あなたはどうするのだ!!自分を逃がすために死ぬつもりなのか!?

そう問いたいが先ほどのショックで言葉が出ない。

 

こちらを見てくれないのは一瞬たりとも脅威から目を背けられないから。

ティアフォートからは兄が一体どんな顔をしてそんな事を言っているのかは見えない。

 

恐怖に歪んでいるのか、死の覚悟を決めて諦めた顔なのか、怒りに満ちた顔なのか、それともあるいは……

 

「それ、いけ!」

 

魔族の男は生み出したゴーレムをけしかけてきた。

シュタアルは逃げること無く……魔族とティアフォートの間から退くこと無く、一直線に前に進む。

 

ぶつかってきた獣型ゴーレムの頭をシュタアルはナイフの腹で受け止めた。

 

「ぐぅ……」

 

当たり前のように後ろに飛ばされる。体重に差がありすぎるのだ。

 

「ッッ!!」

 

叫びたくても、名を呼びたくても今は声が出ない。

 

「ティ……ア……、逃げ……ろ」

 

よろよろと立ち上がるシュタアルは自分の傷に女神の魔法を当てながら擦り傷を治している。

 

「一発で終わると思ったのに頑丈なガキだなー。

 じゃー、もうちょっとレベルアップしていこうか」

 

岩で出来た獣は一度退いてから再度シュタアルに突進をする。

 

「ちゃんと受けないと女のガキごといっちまうぞー」

「………」

 

構えたシュタアルは当たる寸前で岩の獣の先端から体の軸をずらしてかわす。

そのまま後ろに通すとティアフォートに当たるが、そうならないように横から身体を反転させた勢いで胴体に蹴りを叩き込む。

 

「へえ……やるじゃん、じゃあこれは?」

 

そう言って獣型ゴーレムは部位の形状を変化させながらシュタアルに襲いかかる。

 

「がぁッッ……!!」

 

ナイフで弾きながらもいくつかは体を打ち据えてくる。

緊張と、ダメージと、限界を超えた動作。今の動きも子供が出来るそれではない。

ゼイゼイと肩で呼吸をするシュタアルはそれでも退こうとしない。

 

「ティアに……近づくな……」

「さっきからそればっかりだな。何なのお前?」

 

ニヤニヤしつつ魔族はシュタアルに問いかける。

 

「ティアは……僕の妹だ……大切な家族だ……

 父さんとも母さんとも約束した、フリーレンにも言われた……僕は……ティアのお兄ちゃんだ。だから……だから……」

 

 ―――― 絶対に、守るんだ!!

 

何がそうさせたのかはわからない。

だがその一瞬、その場の空気が揺れる。

 

それに呼応するように子供の頃から持っているお守りのペンダントの中からピシリぃという音が聞こえた。

 

(声が……)

 

音と同時にティアフォートの喉に詰まっていた……声を殺していた何かが消えた。

 

ピリついた空気の中何かが気に食わなかったのか魔族の男は表情を変える。

 

「何だそりゃ?」

 

呼吸を整えたシュタアルは……右手にナイフを、左では刃に添えて魔族に向かってまっすぐに構えた。

 

「まあ、いいや。お前の都合は興味ねえよ」

 

そう言った魔族は手を上げてさらなる魔法で複数頭の岩の獣を作り出し自分の背後に並べる。

 

「どうせお前じゃ俺に勝てねえよ、そこのガキ置いて逃げたって良いんだぜ?」

 

魔族の男はからかうようにシュタアルを煽りながらそのうちの一体に攻撃を命じる。

だが、シュタアルは退くことなく一歩を踏み出した。

 

打たれ、殴られ、傷だらけで……

今にも倒れそうなのに、少年の歩みには淀みない覚悟を感じさせる。

 

「勝てなくたって……」

「あん?」

 

―― どんなにみっともなくても

 

「僕がお前に勝てなくたって、届かなくたって……」

 

―― どれだけ満身創痍でも

 

「僕がここを退いて良い理由になんてならない!」

 

―― その姿は、決して折れることのない

 

「ティアフォートには……」

 

―― 真名の示す鋼の剣

 

「手を出させない!」

 

その言葉とともにシュタアルの放った一撃は……

なけなしの魔力でナイフを硬化させて、その小さな体の中に秘められた全身全霊を預けた刺突の一撃。

シュタアルへの攻撃の合間を突かれた岩の獣の胴にそれは深く突き刺さリ身体にヒビが入った。

 

「なんだぁ……」

 

子供が放った一撃が自分のゴーレムを傷つけることなどありはしないとタカを括っていた魔族の男の表情は歪む。

 

シュタアルのその姿から……その背中から……ティアフォートは目を離すことが出来なかった。

 

「兄……様……」

 

自身を必ず守るという言葉に心臓の鼓動が跳ね上がる。

産まれてから初めて感じた情動。これをなんと表現して良いのか今のティアフォートには判らない。

 

兄に対して何もしてこれなかった自分が、シュタアルにとっては生命を賭せるほどに大切なのだと彼は叫んでいる。

 

これに答えられる感情が自分にもあったのだと……早鐘のように打つ鼓動の中にあるのだと、今この瞬間に気付いてしまった。

 

――『シュタアルは……いつもあなたを守ってくれている優しいお兄ちゃんですよ』

 

そうだ……そうだったんだ。いつも、どんなときでも自分が一人で孤独でいないのは……

今日のような日にも無事でいられるのは……父と母がいたからだけではない。

 

いつも寄り添ってくれる人がいたから……

傍で見守ってくれる人がいたから……

それが如何ほどに大切だったのか。愛おしいものだったのか今この瞬間に思い知った。

 

一方で、魔族はどういう返答を期待したのか……だが今のシュタアルの言葉が気に食わなかったのは目に見えて明らかだった。

 

「あっそ。じゃあ食いやすいひき肉になれ」

 

片手上げると同時に岩の獣たちはシュタアルに飛びかかってきた。

(だめだ……助からない。やっとわかったのに……こんなところで失いたくない)

 

自然に声が出た。叫んでいた。

 

「まって!! まって、兄様!!」

 

――― 私を一人にしないで!! ―――

 

ティアフォートがそう叫んだことに驚いたシュタアルは一瞬振り返り、ティアフォートの顔を見て

 

「ごめんな、頼りない兄ちゃんで」と呟いて、彼は笑った。

 

✧ ✧ ✧ ✧

 

「シュタアル兄さま、どうなっちゃうんですか?!

死んじゃうんですか?」

 

と、青い顔で聞いてきたエリシア。

 

「夕食後にあなたのチェスの相手してくれたのはどこの誰?」

「……そうでした」

 

ちなみに、無意識に盤面の最終局面まで見えてしまうエリシアは、家族内で対戦のテーブルゲームはほぼ無敵だ。

チェスでは正直今はもう誰も勝てない。そんな状況でも相手をしてくれるのはシュタアルだけだったりするが……

当たり前のように惨敗して膝を屈している姿は割と日常茶飯事的にみる光景だったりする。

 

それはともかく、相変わらずコロコロと表情の変わるエリシアに苦笑しつつ……

 

「他に何かコメントある?」 と聞いてみたら

姿勢を正して「続き……早く!」と急かしてきた。

 

そんな姿に「まあそうよね」とティアフォートは笑った。

 

■孤独を救うモノのお話


 

許せなかった。大切なものを奪おうとするものが。

許せなかった。己の価値を軽く見て大切にしないものが。

許せなかった。何より、大切なものの意味を理解できていなかった愚かな自分が。力を過信してこんな事態に大切な人を巻き込んでしまったことが。

 

―― 良いかいティアフォート。魔法はある程度の方式がありつつも最終的にはイメージの世界だ。

 

「兄様に……!」

「あ?」

 

―― 方式、定型の基礎、決まった物があるのは魔法のイメージを固着し制御し易くするためだ。

 

「手を……!」

「ティア!?」

 

―― 君自身が望む結果を強く願うんだ。それが出来る姿を想像し、体の奥底にある力をそれに向かって解き放てば望む魔法は力を成して答えてくれる。

 

「だすなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

大切な人を護りたい。

今このときだけで良い。

誰だって良い。

その力を私にください。

 

ただそれだけを願って、自分にできる最大の魔力を解き放つ。

心の奥底にあるイメージ。紅く紅く燃え盛る炎。

 

ティアフォートの体から波紋のように広がる魔力が空気を震わせ、赤い髪が風も無いのに舞い上がる。

指先から溢れ出した炎は、最初は小さな火の粒だったが、瞬く間に渦を巻き、彼女の意志に応えるように咆哮を上げながら天へと伸びていく。

熱は彼女の激情そのものを形にしたかのようだった。

 

「な……このガキ!!」

 

ティアフォートの魔力は炎の本流となって獣型のゴーレムたちを押し戻した。

 

「ぐああああああああ」

 

その炎の渦に巻き込まれた魔族は悲鳴を上げる。

体の中にある魔力の限りで焼き尽くそうと懸命に絞り出した。

 

「燃えつきろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ」

 

ペンダントの中からパキパキと何かが砕ける音がする。

 

「ああああああああああああ!」

 

最後の最後の一欠片の魔力全てを噴出して魔族を包んだ炎に集中する。

その瞬間。

 

―― パリィィィン ――

 

という音と共に放出された魔力が一気に収束して炎の渦はより高く舞い上がった。

 

「もう……無理……」

 

全ての魔力を使い果たしたティアフォートは膝をついた。

これで駄目ならもう打つ手はない。

 

「ティア!!」

 

倒れる寸前でシュタアルが支えてくれた。

 

「良かった……兄様が……無事で……」

「お前……」

「丘が、全部燃えちゃった……」

 

ティアの魔法で辺り一帯は黒焦げの焦土と化している。

 

「ああ、花なら……」

 

そう言ってシュタアルはポケットの中から探していた花を取り出した。

 

「見つけてくれていたのですね」

「ギリギリね。さあ、急いで帰ろう」

「はい……」

 

良かった。これで全部解決する。家に帰って、薬を作れば母様も元気になる。

そう安堵をした瞬間だった。

 

「……ふざけるなよ人間のクソガキども」

「ッッ!!」

 

終わっていない!そう思った瞬間のシュタアルの行動は早かった。

立ち上がり、声の元とティアフォートとの間で構える。

 

「くたばれよ!!」

 

その声とともに地面が激しく揺れる。シュタアルの足元から砂煙を巻き上げながら岩が隆起した。

一瞬のうちに形を成した巨大な岩のゴーレムが、石の拳を振り上げる。身を守る間もない少年へと容赦なく。

 

「がはっ——」

 

肺の中の空気が一気に押し出される鈍い音。シュタアルの小さな体が宙に舞い上がり、血の混じった唾液が空中に散る。

 

「兄様ッ!!」

 

ティアフォートの悲鳴が響く中、魔族は笑みを浮かべ、二度目の攻撃を命じた。落下するシュタアルの身体めがけて、もう一体のゴーレムが岩の腕を振り下ろす。激しい衝撃と共に、防御する術もない少年の体が砲弾のように吹き飛び、遠くの岩場に叩きつけられた。

 

砕ける岩の音と、倒れ込む肉体の鈍い音が、ティアフォートの心臓を締め付けた。

 

「もうこだわらねえ。ぶっ殺してそのまま食ってやる」

 

全身が焦げて元の姿の印象もないぐちゃぐちゃな肌になった魔族が激怒の表情をあらわに地中から出て来て叫ぶ。

 

岩のゴーレムを3体並べた魔族は今度こそ遊びもなくこちらを狙おうとしている。

倒れた兄は意識が戻らない。自分にももう残りの魔力がない。

 

(打つ手がない……もう駄目だ……!)

 

産まれてきたばかりの気持ちを……想いを……大切なものを抱えて

終わりたくない……

 

だけど……もう……

 

✧ ✧ ✧ ✧

 

「そこまでにしていただきましょう」

 

壮年の特有の少し低い、だが、よく通る澄んだ声が響いた。

 

「あん?

 なんだ?ゴーレムが動かねぇ」

 

丘につながる森の暗がりからゆっくりと、しかし頭を揺らさぬ上品な足取りでやってきたのは……ライニだった。

 

「シュタアル様、ティアフォート様。ご無事ですか?」

「ライニ様……、兄様が吹き飛ばされて、返事がなくて」

 

ティアフォートが指した方向にいるシュタアルの元にライニは駆けつける。

「どうやら。気を失っておられるようです。呼吸はしておりますのでひとまず安心を」

 

命に別状はないらしいことにまずは胸を撫で下ろす。

 

ライニは倒れたシュタアルの顔に手を当てた。

 

「ティアフォート様を……妹君を命懸けでお守りするその精神、その胆力、お見事で御座います。

 シュタアル様はまだ幼少のみぎり、未だ力は弱く技術も拙い……ですがその高潔な精神。

今は亡き、オルデン家先代の大旦那様の騎士道精神に通ずる魂を感じます」

 

スクッと立ち上がったライニは鋭い眼光で魔族に向き直った。

 

「さて、あなたですか、シュタアル様とティアフォート様に手を下した不届き者は」

「なんだババア!割り込んできやがっ……うぉ」

 

静止状態で動けなかった足元のゴーレムが突然動き出したため一瞬バランスを崩す。

その魔族の姿を見てライニは「フッ」と笑った。

 

「馬鹿にしてんのかこのババア!!」

それがよほど気に食わなかったのか魔族は岩のゴーレムで一斉にライニへの襲撃を命じる。

 

「ライニ様ッ!!」

 

一般の女性が岩の巨大ゴーレムの攻撃を喰らえば跡形も残らない。そう思ってティアフォートは叫ぶ。

 

「北側諸国を数百年護り続けた3大騎士の名門、オルデン家の屋敷を守ってきた人間が魔族の駆るゴーレム程度どうして屈しましょうか?」

 

「はあ?何でだ。ゴーレム共、なぜ動かない!!クソ!」

 

よくよく見るとゴーレムの体中を細い線が巻き付いている。

 

「昔から僅かながらに魔法が使えまして、小さなものを操作する程度のものでしたが……それでも訓練して極めれば」

 

彼女の袖の隙間から出された糸は周囲の岩や樹木など様々なものにくくりつけられてゴーレムの体を縛り付けている。

 

「特性のミスリルで編み込まれた細いワイヤーです。これだけの数が束ねられるとその様な巨体でも動くことはまかりなりません。そして――」

 

ライニはその両腕を交差してから勢いよくワイヤーを引く。

 

「やはり、この手の硬質なものは可動部分が脆いですね」

 

鋭い笑みを魔族に向けたままのライニの言葉とともにゴーレムの腕が大きな音を出して地面へと落ちた。

ワイヤーによる締め上げと、微細な振動による合せ技。片方の腕が落ちたゴーレムはバランスを崩す。

 

「この程度で俺に勝てると――」

 

苛立ちに満ちた魔族はライニに向かって吠えるが、彼女はなんのことはない表情で受け流す。

 

「ええ、この老いぼれではあなたを滅することは叶わぬでしょう。

 ですので本日はあなたがたの天敵を二人お呼びしております。ご覚悟は良いですか?」

 

「はあ?」

 

そう言った瞬間、ティアフォートに聞き覚えのある声が聞こえた。

 

――「見事だ。ライニさん。後は任せろ」

 

心に響く、懐かしい……温かい……声が聞こえた。

ゴーレムと対峙していたライニは「かしこまりました」と言って糸を全て回収しながら後ろに跳ぶ。

 

紅い、烈風の様なものが並んだゴーレムの横一線に通り過ぎたのはそれと同時だった。

 

まるで衝撃波が遅れてくるように通り過ぎた後からバキバキと音を立てて次々と崩れ去るゴーレム。

 

「父……様……」

 

その烈風の止まった先にいるのは戦斧を振り下ろした父シュタルクだった。

 

「待たせたな、ティアフォート」

「はい……はい……父様……」

 

その聞き慣れた声に、安堵で涙が流れそうになった。

 

シュタルクを見た魔族は新たな襲撃者と砕かれたゴーレムに憤慨する。

 

「なんだ!まだ増えるのか?クソっ!俺のゴーレムを!」

「俺のこと知らないってことは割と若いやつか?」

「はあ?何を言って……」

 

という言葉を聞く前にシュタルクは指で上空を指していた。

 

「あん?」

「上空。俺より怖いやつが降りてくるから気をつけろ」

 

そう言われて見上げた空には揺れる銀髪と長い耳の……

一見しただけで判る。怒りに満ちた魔力は到底自分が叶うそれではない。

 

「――普段は魔力をおさえてるんだけど……駄目だね。こうも腹立たしいと、抑えが効きづらい」

 

表情は、まるでゴミを見るかのようにとても冷たい目をしているのに、その背後にただよう魔力は業火のように燃え盛っている。

 

「消し去る前に少しぐらい、あの子達が味わった想いの倍ぐらいは恐怖に歪む顔を見ないと駄目みたいだ」

 

そう言ってこの世界で最も多くの魔族を屠った伝説の魔法使い、葬送のフリーレンは舞い降りた。

 

■未来の私へと紡ぐ物語


 

「兄様!兄様!兄様!」

 

フリーレンが魔族を屠った後、ティアフォートは急いでシュタアルの元に駆けつけた。

シュタアルはライニに介抱されてまだ目を覚ましてはいなかったが取り立てて問題はないというのがライニから知らされた言葉。

 

「良かった……無事で」

 

安堵で膝から脱力してぺたんとその場に崩れ落ちる。

それと同時に眠る兄は自分を守るためにこんな状態になったことを思い出した。

 

「ごめんなさい……兄様……、ごめんなさい……ごめんなさい……」

 

見下していた事。生意気を言ったこと。無理を言ったこと。

傲っていた。舐めていた。力を過信していた。

そんな愚かさが、大切だったはずの人を傷つけてしまった。

 

ただただ、ごめんなさいという言葉がでてくる。

 

「ティアフォート。違うよ。シュタアルはそんな言葉を望んでいない」

「フリーレン様……」

 

フリーレンはティアフォートの肩を叩いて語りかけてくる。

 

「守ってくれたシュタアルにかけるべき言葉は謝罪じゃない」

「でも、私が悪くて……兄様が」

「そんな事、シュタアルは怒ってないし、きっと今後もシュタアルは怒らないよ」

「けど……どう言ったら……」

 

命を賭ける覚悟すらした兄に一体どうすれば報いれるのか?

 

「簡単だよ。笑顔で『ありがとう』って言ってあげて。待っているはずだよ。

 シュタアルは、その言葉を待っている。この子はそういう子だ。そのためにいつも頑張っている」

 

「……兄様」

 

そうだ。愚かだと侮っていた兄は……愚かしいほどに純真で、純粋でただまっすぐな気持ちで守ろうとしてくれた。

いつだって笑顔を見せれば嬉しそうに一緒に笑ってくれた。泣きそうな時に手を差し伸べてくれた。

孤独にならないようにずっと傍にいてくれた。そういう人だ。

 

そうしていると……

 

「ん……」

 

シュタアルの意識が僅かながらに戻ってきた。

 

「兄様!!」

「シュタアル!!」

 

覗き込んできたティアフォートの顔に手を当て、頬に垂れる髪をかき分けながらも

「ティ……ア……?大丈夫……か……?怪我……ないか?」

「はい……はい……はい!!」

「ティアは……可愛い……女の子だから……跡になる怪我……なくて……よかった」

「兄様……何を……いえ。兄様、守ってくださってありがとうございます……」

「どうしたんだよ……珍しいな……」

 

―― どうしてだろう

 

「いつも遊んでくれてありがとうございます……」

 

―― どんなときも冷静に己を律せるつもりだったのに

 

「泣きそうな時に手を差し伸べてくれてありがとうございます……」

 

―― 今はどうしても……

 

「いつも傍にいてくれてありがとうございます……」

 

―― こぼれ落ちる涙が止まらない

 

「ティア……?」

 

シュタアルは初めて見たものを驚くような顔をしていた

 

「私の…………大好きな兄様になってくれて……ありがとう……」

 

涙に滲む視界の中で、ティアフォートは兄の表情を捉えた。

シュタアルの顔に、驚きと喜びが混ざり合い、それから満足感に満ちた穏やかな微笑みへと変わっていく。

その瞳は、疲れとともに少しずつ閉じられていった。

 

「はは……ティアがそんな事言うなんて……夢……かな―――」

 

一時的な意識の覚醒だったのか、そう言ってシュタアルは再び意識を失ってしまった。

 

「帰りましょう兄様。今まで兄様がくれたもの、これからはしっかり返しますから。

 だから……私達の家に帰って……ちゃんとやり直しましょう。

 新しい妹も加えて……私達きっと世界で一番仲の良い兄妹になれるから……だから……」

 

消え入りそうな声の中、大きくて温かい手がティアフォートの頭を包んだ。

 

「よく言えたな。それでこそフェルンの娘だ」

 

そう言いながら暖かく笑う父シュタルク。

 

「父様の娘ですよ」

 

と苦笑いで返したら「たしかにそうだな」と父は笑った。

 

✧ ✧ ✧ ✧

 

「ティア姉さまとシュタアル兄さまはそうして今の感じになったんですね」

「楽しかった?」

「はい、ティア姉さまの知らなかったこといっぱい知れて良かったです」

「そう……」

 

それはさておきとエリシアは腕を組んで考え込む。

 

「お薬の件と勝手に家を出ちゃった件って結局どうなったんですか?」

「薬は……結論から言うと要らなかったかな。

 ちょっと風邪をひいていただけみたいで……

 そもそも妊娠中に妙な薬飲ませちゃ駄目ってお医者様から釘刺されて」

「なるほど……」

「家を勝手に出ちゃった件は、兄様が回復してから呼び出されて……ありえないぐらい怒られた」

「ですよね……」

 

これに関しては当然ではある。

結局、この事態は隠蔽で置いたはずの兄の書き置きでバレていた。

普通に考えて、街に行くために書き置きをするはずがない。

二人共おらず、妙な書き置き……となると庭に僅かに残った足跡を調べると……だそうだ。

 

母のフェルンからは

「こんな時期に、心労で寿命縮むかと思いました」と言われた。

 

あの場に3人が助けに入ってくれたのは……

シュタルクとフリーレン、ライニで捜索に出た結果、妙な魔力を検知したすぐ後に凄まじい魔力と火柱が上がり……何かあったなと駆けつけてくれたからだった。

 

「でも、シュタアル兄さまは昔から変わらないです」

「そうね、兄様は昔から一貫して兄様だわ。良くも悪くも」

「悪い所あるんですか?」

「まあ、良いところはいっぱいあるけど……悪いところもいっぱいあるかな」

「例えば?」

「助けられた側の感情無視するところ」

 

そう、兄はそういうところを何故か考慮しない。わざとやっているのかと一時期確認していたがマジボケしてくれた。

本当に考慮の範疇外……というか自己評価が低くて他人にどう想われているのか理解してない。

 

通っている学舎の中でもそれ系でティアフォートが握り潰したトラブルは1件や2件ではない。

 

「そういうところは……あるかもしれませんね」

 

エリシアは苦笑いで答えた。

こんな年端も行かぬ妹にもそう思われるのはどうなんだ兄様?

 

まあ、なんやかんやとそっち方面に対しての兄は結構移り気なのだが……

どうも、兄の好みの傾向としては自分と同年代以上で背中を任せられるぐらいに強くしっかりした女性が好みのようだ。

幼い頃の対象の第1号はフリーレンだったらしい。当たり前の様に撃沈した。

それが起因なのかその手の話題を大っぴらに語ろうとはしないが……今は誰のことがとか言われるとだいたい予想はつく。

 

整った顔立ちと黒くたなびくストレートの長い髪、無駄な肉が全くないのに凹凸に富むメリハリの効いた身体。

自分たちの指導もできるぐらいの実力、冷静な判断力、高い実務能力を持つ姉弟子を見る目は憧れのそれだろう。

 

本当に腹立たしいほど判りやすい。

方向性に若干のマザコンさを感じなくもないが……数年経てばまた変わるだろう。

自分は……粛々と経緯を見守り……割って入るべき時に介入していくだけだ。

 

どんな想いがそこに合っても、兄は兄、妹は妹。

 

だが腹が立つものはどうしたって仕方ない。

だから………妹として甘えられる限りは甘えて行くのだ。そう、決めている。

 

✧ ✧ ✧ ✧

 

とまあ、言いたいことはだいたい言い切ったのでティアフォートはパンと手を叩いた。

 

「さて、これで私のお話はおしまい。今日はもう遅いから寝ましょう」

ティアフォートはそう言うと「はあーい」と答えるエリシアの頭を撫でてから手元で光らせていた光源の魔法を消した。

 

エリシアは一緒のベッドの中に入りながらティアフォートに話しかけてくる。

「ティア姉さま。ありがとうございます」

「お話のこと?」

「それもありますけど、違います。お姉ちゃんになってくれたことです。

 ティア姉さまとシュタアル兄さまがいてくれるから、毎日が楽しくて幸せです。

 これからもずっと……こうしていられたらなって……、私も……」

 

徐々に微睡むエリシアの頭を撫でながらティアフォートはしみじみと思う。

妹が生まれる前に大切なことに気付けてよかった。愛せてよかった。

 

守れる自分になれてよかった。

 

「おやすみエリシア……明日も……健やかな……日を……私と……兄様といっしょに……」

 

エリシアの幼い少女特有の体温を感じながらティアフォートもまたまどろみの中に落ちていく。

 

✧ ✧ ✧ ✧

 

「2人とも寝た?」

「はい」

 

部屋の様子を覗き見たフェルンにシュタルクが問いかける。

続けて見てみると可愛い寝息を立てて二人の娘が抱き合って寝ていた。

 

「本当に仲が良いな……ずっと見てられる」

「後で嫌われますよ。さあ行きましょう」

「ゔ……」

 

そう言いながら扉を閉めて後に夫の耳をつまみつつその場を去るフェルン。

 

「いたたた。行くからちょっと待って!」

 

と、シュタルクは後に続いた。

 

本当に、ティアフォートは家族と兄妹を大切にする娘に育ってくれた。

変わったのは彼女の語った一件以降だ。

 

あれから彼女はシュタアルを「兄様」と呼び、追いかけ回している。

エリシアが産まれてからはなんだかんだと親顔負けに溺愛している。

 

「素直じゃ無いところと、愛情深すぎるところは本当にそっくりだな」

「何か言いましたか?」

「いえ、何も……

今日はこのまま俺たちも休む?」

 

シュタルクがフェルンにそう聞くと彼女は一瞬考えるように固まり……

 

「シュタルク様の判断にお任せします。

どうしたいですか?」

「ええぇ、俺ぇ〜?」

 

こっちに丸投げしてきた。

なんか答えに納得できなかったら自分が悪いみたいになるじゃないか……

 

と思いつつ。フェルンらしいなと思いなからシュタルクはフェルンと寝室に入る。

 

「何にしたって、明日も子供達が笑って暮らせるように頑張るだけだ」

 

片手で頭をかきなからそう答えるシュタルクを見たフェルンはベッドの方へと向かいながらも

 

「そうですね……」と言って優しげに微笑んだのだった。

 

〜 小さな真紅のお姫様 fin〜

 




ご意見等はコメント欄かマシュマロまたはXまで。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。