葬送フリーレン~アフターオレオール~   作:rvr75_raiden

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ある日家族の絵を書いてきてくれたシュタルクとフェルンの末の子のエリシア。
そこには、両親のシュタルクとフェルンと、兄と姉のシュタアルとティアフォート、そしてエリシアとフリーレンが手を繋ぐ姿が描かれていた。
フリーレンはその絵を見てエリシアに「上手に描けたね」と褒める一方でふと思う。
そう言えば、写真撮った事無いな…と

「シュタルク、フェルン。みんなで写真撮ろう」

記憶だけでなく形に遺したい。100年経っても色褪せぬ思い出――
という話。


居間に飾るものじゃないの、家族写真って? ~Captured Moments: A Family Portrait in Magic~

■かつての約束


 

今でも目を瞑ればありありとあの日の事を思い出せる。

 

―― 『シュタルク様と一緒に、沢山家族を作りたいと思っています』

―― 『へ、へえ……』

 

シュタルクとフェルンが夫婦になる少し前にフェルンがフリーレンにしてくれた約束。

 

―― 『いずれ産まれくる子供達に伝えたいのです。フリーレン様という凄い魔法使いがいる事を、優しい魔法使いがいる事を』

―― 『……』

―― 『きっとその子達が次の世代に語り継いでくれます。そして、フリーレン様を1人きりにしない未来を作りたいのです』

 

程なくした後、フェルンはシュタルクと結婚した。彼と共に子供を授かり。彼女の静かな野望に向けて『家族』というものが形成される。

 

あの日、漠然とイメージしていた『家族』という集合体。フリーレンとフェルンとシュタルクのパーティーの延長線上にあると思っていたもの。

 

今はフリーレンの膝を枕にスヤスヤと眠っている女の子。幼い頃のフェルンによく似た末の妹エリシア。

そのエリシアの頬を飽きもせずにふにふに触り続ける子。父親譲りの赤い髪と真紅の瞳を持つティアフォート。

 

そして今この場にはいないが……

近隣に出たという魔物の駆除に向かったシュタルクに同行している長男シュタアル。

 

シュタルクとフェルンの作り出したそんな『家族』というもの。

その中で悠久の時を生きるエルフ。そして魔王を討った勇者パーティの伝説の魔法使いフリーレンは今を生きている。

 

■青空のブループリント


 

「フリーレン様、見てください!」

「ん、どうしたの。エリシア?」

 

最近、フェルンに買ってもらったクレヨンなどの画材で絵を描くことにご執心なエリシア。

今年で8歳になる末娘は暇を見てはいつも何かを描いている。

普段は姉のティアフォートに見せたりしつつ、褒めてもらったりしているのだけれど。

今日はそうではないようだ。

 

ちなみに、ティアフォートはその年齢に不釣り合いなほどに絵がうまい……

「兄様の顔なら目を瞑って描けます」と豪語していたので試させたら本当に描いてきた。

写実的とは言わないが、不思議と美化もしすぎず、特徴を捉えたわかりやすい絵だった。

 

そんな感じの姉に教わりながらエリシアもエリシアなりに日々色々学んでいる。

 

「これ、見てください!」

「どれどれ」

 

そこに描かれていたのは複数人の絵。

みんな手を繋いでいることと、笑顔であること、髪の色などから皆の絵だとわかる。

真ん中にいる、銀髪で2つのお下げ髪の人物は……おそらく自分であろう。

 

「上手に描けたね」

「はい。頑張りました」

「よしよしよし」

 

フェルンの幼い頃と違い、定位置とばかりに膝の上に座ってくる。

いや、フェルンも本当の親にはこれぐらい甘えていたのかもしれないが。

 

青空の下、家族全員が並ぶ絵。

膝の上で「これはですね~」と細かい部分の説明をしてくれるエリシア。

彼女の話を聞いていると仕事を終えたらしいシュタルクが帰ってきた。

 

「お父さま!おかえりなさい」

 

フリーレンの膝の上から立ち上がり、シュタルクに飛びつくエリシア。

 

「お、どうしたんだ?」

「エリシアがみんなの絵を書いてくれたんだよ」

 

フリーレンが手に持っている画用紙をシュタルクの方へと向けた。

 

「えー。お父さんも見せてもらってもいい?」

「はい、どうぞ」

 

フリーレンから手渡された画用紙を取ってシュタルクに見せてくれる。

受け取ったシュタルクは感慨深げに娘の書いた絵を眺める。

 

「上手にいっぱい描いたな。みんな居る力作だ。さすがフェルンの娘」

「お父さまの娘ですっ」

 

こういうときにぷく―っと膨れるのは多分フェルンの真似。

「そうだった」と言いながらシュタルクはエリシアの頭を撫でた。

 

「ところでフリーレン。さっきから考え込むようなポーズでどうしたんだ?」

 

エリシアを可愛がるシュタルクを見たまま固まったフリーレン。

彼女の様子が気になったのでシュタルクは理由を聞いてみる。

 

フリーレンは「うーむ」というポーズのまま答えた。

 

「いや、エリシアの絵は額縁に入れて私の部屋に飾るとして」

「すげぇワガママ決定事項だな。フェルンと喧嘩しないでね」

「ちょっと恥ずかしいです……」

 

シュタルクのコメントを無視したフリーレンが指し示した箇所。

それは居間の中央の暖炉の上。そこには、街で買ってきた小物や飾りつけのアクセサリが並んでいる。

旅の間はそういうものをあまり買い集めなかったシュタルクとフェルン。

だが、家庭と家を持ってからはちょっとした物を記念に残すようになった。そういった結果のものだ。

 

そのスペースをフリーレンは凝視する。

 

「エリシアの絵を見てふと思ったんだけど……

 一般家屋でよく見る印象で、なんとなくだけどさ……」

 

いつもフリーレンはスパスパと物事を決断する。そんな彼女にしては歯切れが悪い。

 

―― 居間に飾るものじゃないの、家族写真って?

 

こちらを振り向く事なく呟いたフリーレン。

 

「あー、なるほど」

 

確かに……とシュタルクはフリーレンの言葉に相槌を打った。

 

どうやら、フリーレンなりの家族の風景への憧れ……

いわゆる青写真というものがあるのだ。

悠久の時を生きる彼女だからこそ残したいカタチある物 ――

 

「そうだな。そういうのは、あっていいかもしれない」

 

シュタルクの肯定の言葉に振り向いたフリーレンは微笑みながら。

 

「でしょ」

 

と短く返事を返した。

 

■娘の察しが良すぎる夜


 

「―― って、フリーレンが」

「……そんな事を仰っていたのですか」

 

そう返したのは隣でベッドに横たわるフェルン。

そしてシュタルクも向かい合う形で同様に横たわっている。

 

普段は間にエリシアを配置して真ん中寄りな川の字で抱きしめて寝ている。

しかし、本日エリシアはティアフォートの布団に潜り込んで寝てしまった。

時々、ティアフォートは寝るときにエリシアを連れて行くのだ。

 

「今日は姉様と一緒に寝ましょうねー」

 

と、夜にフェルンの顔を観察し、突然宣言して手を繋いで寝室へ行く。

娘なりの気の使い方だとすると察しが良すぎて怖い。ナニが起こるか理解しているのだろうか?

 

当人いわく。

「エリシアのモチモチのほっぺたを堪能しないと寝られない夜があるのです」

だそうだ。シュタルクとしては純粋にそういう理由であって欲しい。

とはいえ、少し寒い日なので、お互い頬を寄せ合って寝ている姿は確かに可愛かった。

 

とにかくそんな理由。だから本日はフェルンとふたりきりだった。

で、実はベッドに入ってからもう2時間ほど経っている。

 

明日も仕事あるんだけどな~~

と、お互い思いながらも、ついつい。ついうっかり。指先が触れ合ったが最後。

 

身体の中に分け合いたい熱があって――

 

それを……夫婦生活で培った方法で共有して――

 

気がつけば着ていたはずの着衣は全てベッドの隅――

 

一緒にいろいろしたので汗もかいた。そんなフェルンはどうやら体が冷え始めた様子。

お互い地肌の触れる状態。フェルンは地の体温の高いシュタルクの腕の中にもぞもぞと入ってくる。

そうしながら、体をくっつけて幸せそうに暖を取るフェルンに今日のフリーレンの話を説明したのだ。

 

「――確かに。フリーレン様の趣味で投影の魔法の映像は残ってますけど。

 写真はあまり撮りませんね」

 

二人が結婚する前、フリーレンは見た映像を魔法陣に記録する魔法を開発した。

第一号映像はシュタルクがフェルンに告白する映像となっている。

 

『アイゼンに見せてあげようと思って作った』

 

悪びれもなくそう言った我が家のエルフ様。

その第1号サンプルの扱いに関しては本当に色々あった。

思い出すだけで恥ずかしすぎて辛い……

 

おかげさまでシュタルクとフェルンがどういう経緯でこうなったか。

主だった知り合いの偉い人は大体知っている。

 

―― 閑話休題

 

写真の魔法というのは写真用の台紙に魔法で像を投写するものだ。

思い出の品にペンダントなどの中に飾ったりする。

ザインの親友の写真やフェルンのご両親の写真もそういうやつだ。

魔法の習得はそこまででもないが、サイズが大きいときれいに写す難易度と台紙が中々に高い。

 

「贅沢品……というほどでもないですけど。そういうのは大切なことかもしれませんね」

 

庶民で手の届かないもの……というほどにはならないが。

明日のパンと写真の台紙どっちが大事と言われると……

写真となるのは人生数度ぐらいといった感じになる。

 

「結婚式に撮られた写真は結構あるけど……」

「それはそれ、これはこれです。まだ子供達がいません。

 フリーレン様が欲しがっているのはそういうことだと思います」

 

なるほど。そう言えばエリシアの描いてくれた絵を随分気に入っていた。

 

「あと、その時のものは……大半が誓いのキスの写真です……」

「あれは参加者とザインの悪意を感じる……」

 

徐々にまどろんできたのか、フェルンの寝息がだんだん深くなっていく。

 

(運動した後だしね……)

 

シュタルクの腕の中で、彼女の体温がゆっくりと安定していくのを感じながら、

明日、少し大きめの台紙と写真立てについて、店とか工房とか色々聞いてくるか――

 

明日の予定をぼんやり考えながら、シュタルクも胸の中で寝息をつくフェルンの髪に顔を埋めながら眠りについた。

 

■素敵な写真立てを求めて


 

翌日、シュタルクは街の雑貨店に立ち寄っていた。

 

「色々あるんですね。いろんな街から仕入れ出来るようにした結果でしょうか」

 

昼休みの時間を利用してなのでフェルンも一緒に。

 

「どういうのが良いかな?」

「飾りつけ的に良いもの……というのも重要ですが。せめて数百年持つものがいいですね」

 

という妻の言葉にギョッとするが、彼女は真面目そのもの。

よくよく考えると理由はすぐに思いついた。そりゃそうか、と納得する。

 

これはフリーレンとの共通の思い出にするものなのだ。

数十年でだめになったらそりゃだめだろう。

とはいえ……

 

「鋼鉄製?」

「錆びます」

「木製?」

「痛むと思います」

「黄金製だ!」

「尋常じゃない価格ですよ。あと、それ居間に飾りたいですか?」

「あー……。家族写真飾るのには落ち着かないな」

 

フェルンは銅で出来た写真立てを手にとって形を確かめている。

 

「できるだけ持ちの良いものを選んで……後はフリーレン様に任せましょう。案外長期スパンのルーチンワークはやってくれます」

「まあ、たしかにそうか……

 一度、ティシュレーの爺さんに聞いてみよう。ドワーフだし、持ちの良いものは知ってるかも」

 

そろそろ時間だと二人して立ち上がる。

雑貨店の店主には軽く説明をしてみたのだが。

「流石にフリーレン様の思い出に寄り添えるものはおいてないですねー。なんせ雑貨店ですから」と苦笑いをしていた。

 

✧ ✧ ✧ ✧

 

夕暮れ時。仕事も早めに切り上げた二人は帰り際に工房に立ち寄ることにした。

 

「じいさーん。まだやってる?」

「父さん、と母さん?」

 

そこにいたのは見覚えのある青紫の外ハネした髪と三白眼の瞳の少年。

いや、目つきはほぼ父親と同じなのだが。

 

「なんじゃ、夫婦揃って。取り立てか?」

「違うよ。そんな事した試し無いでしょ」

 

ちなみに、工房の維持費は半分は街の予算で立てていたりはする。もう半分は彼らの商売の範疇だ。

街の公共施設の建設に関しては彼らの協力の下でやっている。いわゆる街壁や道、水路とか、街のインフラに関するものだ。

 

「シュタアルは何しに来ているんだ?」

「いや……なんでもない……」

「??」

 

なんかあったの?という顔でティシュレーを見たら彼はにやりと笑った。

 

「えー、おい、聞いてやれシュタルク。

 こいつ、モジモジしながら何言ったと思う? お前が持ってる戦斧みたいな相棒が欲しいってよ!

 フェルン、赤飯たいていやれ!お前の息子はそういう年頃になったんだ」

「ちょ……やめてよ!! なんで言うの!!」

 

シュタアルは顔を赤くしながらワタワタと慌てて遮ろうとするが。時すでに遅し。全部聞いてしまった。

 

「シュタアル……お前……」

「……御赤飯……炊きますね」

 

目元をこすりながらのシュタルクと、

口元を両手で抑えたフェルンが其々に感想を述べる。

 

「ねえ、ちょっと! なんか凄いこと起きた風に言うの、やめて!!」

 

が、シュタアルのお気には召さなかったらしい。

 

「愛されとるのー」

「おちょくられてんの!」

 

シュタアルの剣幕にやれやれという様子のティシュレー。

 

「そういうやつを愛されとると言うんだ」

「どういう愛だよ」

「お前に毛が生えるようになった頃になんとなく分かる」

「……今のがめちゃくちゃおちょくられた一言なのは判るよ」

 

隣でくすくすとフェルンが笑っている。

服が透けて見える魔法を我が子に使ってなければいいのだが……

 

風呂で見ているシュタルクとしてはその件は何も言うまいと口を閉じた。

 

「まあ、そういうものに興味を持つのも悪いことじゃないよな。

 最近エアフォルクと一緒に訓練始めたし」

「もうその話はいいだろ!注文取ってたわけじゃないんだから!」

「ははは、ごめんなー」

 

そんなシュタアルをヒョイと抱き上げると椅子に座ったフェルンが両手を差し出してきた。

無言で渡すとフェルンはそのまま膝の上に載せた。あまり大きく表情に出さないがフェルンが満足気であることは判る。

一方のシュタアルは何も言わなくなったが憮然とした表情を見せる。

 

「ティシュレー様、それで今日訪れた要件なんですが――」

「その状態でごく真面目に切り出すんだ……」

 

とまあ、いろいろ余談があったが、写真の話の経緯をティシュレーに説明した。

 

✧ ✧ ✧ ✧

 

「あー、エリシアの描いた絵か」

 

なるほど。という感じのコメントをするシュタアルはフェルンの膝の上。

 

「あのエルフの思い出の品にのう……

 そこのシュタアルの孫の毛が生える頃でも健在って感じの材質か?」

「やめろよその話……」

 

若干、いやかなり、街の権力者の前でするには本来は不敬な話ではあるのだが……

フェルンは特に何も想うところもなく受け流しながら返事をする。

 

「はい、この子の孫ができるような頃でも健在なものがあると良いなと」

「何人出来るんじゃろうな~こいつの孫……」

「シュタルク様の血筋なので心配いりません」

 

噛み合ってるのか合ってないのかわからない会話。

眉をひそめてシュタアルは父の方を向いて問いかける。

 

「ねえ、今なんか失礼なこと言われてない?父さん?流して大丈夫かな?」

「うん、シュタアルはありのままでいいんだ」

 

が、フェルンの言葉の意図が測りかねたシュタルクも適当に流すことにした。

 

「ミスリルとか魔法鉱石で作るか……大理石じゃな……

 前者は値が張る。後者は……ひび割れには少々弱いが、加工技術で補強はできる」

「なるほど……」

 

写真入れは正直技術でどうにでもなると考えるティシュレーは、もう一つの気になる点について質問する。

 

「つーか、写真の本体の方は大丈夫なのか?」

 

写真を写す台紙はできるだけ目の細かい高級紙が用いられる。

だが、実は紙の方は保管さえ問題がなければ案外持ちが良い。

太古の魔導書が健在なのも、それが理由だ。

 

「フリーレン様が、従来の魔法より長期転写に向いた方式と……

 他の人でも発動可能な魔法陣の開発を最近しています」

 

強いて問題があるとするなら、魔法で転写した色の方。

それは、フリーレンがどうにかするだろうという算段。

 

「そのへんはいいところから仕入れてくれ。

 今の工房だとそういうのは作っとらんからな」

 

そこまで聞いたシュタルクは「よし」と言って膝を叩いて立ち上がる。

 

「判ったよ爺さん。じゃあ、写真立て任せてもいいか?

 金額分かったら言ってくれ。俺宛で」

「お前個人か?」

「俺とフェルンのへそくり。まあ、家族用だからな」

「わかったわかった。やっとく。いい加減今日は店じまいだ。

 帰れ帰れ。さっさと家で夕飯の準備しろ」

 

しっし、と手を振るティシュレーを後にして夫婦は笑って工房を後にした。

ちなみにシュタアルはシュタルクに肩車されて帰ることになった。

 

「何でだよ……」

「いいじゃん。お父さんらしいことやらせてくれよ」

「御赤飯作りましょうね」

「……その話もういいから!ティアがまた余計なこと言い出すから!」

 

シュタアルの必死の訴えもあり、その日の夕飯の赤飯化は防げたらしい。

 

■思い出は色鮮やかに


 

夕食後のティータイムはフリーレンのお楽しみの時間でもある。

参加者はまちまちだ。大体はフェルンとティアフォート。

夕食の場に参加したときはここに教え子のルーエやお手伝いのライニが加わる。

 

エリシアはこの時間はシュタアルとなにかゲームで遊んでいるので案外参加しない。

シュタアルが両膝と両腕を床につき声にならぬ声を上げるのはいつもの風景。

無意識下で盤面の先を『視て』しまうエリシアに彼が勝てる日は来るのだろうか……

 

今日は……シュタルクとフェルンだ。

何にしてもその日の事を振り返り味わう大切な時間。

 

「なんか、家族写真の準備……シュタルクとフェルンが始めたって」

「耳ざといな」

「ごめんね、突然変なこと言って」

 

ティーカップをソーサーに置きながら上品に微笑みながらの言葉。

 

「どうしたんですか?フリーレン様にしては殊勝な言葉ですね」

「うーん。シュタルクとフェルンも今は昔ほどの自由人でもないでしょ」

 

フリーレンの身も蓋もない言い方にシュタルクは思わずしょんぼり顔で答える。

 

「自由人っていい方やめてよ。あのときは冒険者でしょ」

「似たような物でしょ。私は確実にそう」

「生きる伝説の魔法使いは自由人ですか。羨ましいですね」

「そうでもないさ。何にしても、限られた自由の効く時間で私のワガママ聞いてくれたこと。感謝したいって」

 

フェルンはクスッと笑いながら空になったフリーレンのティーカップに紅茶を注ぐ。

 

「では『ごめんね』ではなくて『ありがとう』でしょう。最近フリーレン様が子供達にいつも言っています」

「そうだった」

 

それにと言いながらフェルンは続ける。

 

「私達のわがままに数百年付き合ってくださるのですよね。フリーレン様。

 だったらこんな事、ワガママのうちに入りませんよ。おまけの範疇のサービスです」

 

そう言い切るフェルンにフリーレンは目を丸くした後に「そうだね」と言って笑う。

 

✧ ✧ ✧ ✧

 

シュタルクとフェルンから今日の一連の話を聞いたフリーレンは「そっか」と答えた。

 

「そんな重く考えなくても、フレームがだめになったら私がなんとかするよ。

 写真の方も復元は私がなんとかするし」

「そうですか?」とフェルンは苦笑いを見せる。

 

「フリーレン様、そんなに気を使えますか?」

「む、言ったな。フェルンの子供の頃から誕生日のお祝いを一度だってスルーしたことないでしょ

 今はシュタルクや子供達もいるし、何なら二人の教え子にだってお祝いするぐらいの気遣いさんだよ」

「はい、それには感謝していますよ。

 長持ちするようにしたいのは私達なりのフリーレン様への感謝の気持ちです。

 ずっと残っていられるようにと」

 

フェルンの言葉にフリーレンはくすっと笑ってから紅茶を飲んだ。

その笑顔にいったいどんな想いが乗っているんだろうなとシュタルクは考えてしまう。

昔はそんな事思いもしなかったが、フェルンと一緒になった今ただひたすらに願う。

 

あとに残る者たち、フリーレンやシュタアルやティアフォート、エリシア、エアフォルク達。

未来ある者たちにたくさんのものを残してあげたい。

今が幸せであるほどに、100年先も200年先も。

この場所や、生きる術や、たくさんの人とのつながり。

可能な限り盤石にしていくのが残りの人生の使い道だとも今は思える。

 

「……シュタルクが殊勝なこと考えてそうな顔している」

「え……?」

「シュタルク様、あまり難しい事考えると夜寝れなくなりますよ?」

 

フリーレンの言葉に続いてフェルンが心配そうに片頬を手で撫でてきた。

 

「……二人してちょっと失礼すぎない?」

「そうだね。シュタルクもすっかりお父さんの顔が板についたし」

「私にとってはいつもどおりのシュタルク様ですけど。でも出会った頃に比べると頼りがいは随分と」

 

シュタルクは両手を上げて一度まいったのポーズを取ってから、咳払いをして仕切り直す。

 

「とにかく、フレームの方は爺さんに作ってもらう様にお願いした。

 最近やり始めた写真の魔法の改定の方はどうなんだ、フリーレン」

 

シュタルクの言葉にフリーレンは腕を組んで「よくぞ聞いてくれた」と言いたげだ。

 

「ふふふ。今回はすごいよ。新しい写真の魔法はなんとーー」

 

フェルンは興味深げにフリーレンの言葉に耳を傾ける。

魔法使いだからやはり気になるものなのだろうか。

 

「なんと、色がくっきり付く!」

「お、おう……?それってすごいの?」

 

というシュタルクの言葉にフリーレンは「むっ」と眉を寄せる。

その様子にフェルンは苦笑しながら補足した。

 

「はい、なんだかフリに対してなんとなく地味ですが。結構凄いことです」

 

彼女はいつも持っている両親の写真をシュタルクに見せてくれた。

魔法の光で淡く光るフェルンとご両親の家族写真だ。

 

「なるほど……、今までの写真はちょっと色が淡いのか……?」

 

結構綺麗に写っている気もするけど。

 

「目に見える色の再現とはいかないね。そこをより美しく。

 二人の結婚式のときに作っとけばよかったな」

 

残された写真のことを思うとシュタルクはうんざりした顔になる。

 

「いや、恥ずかしいからあれ……」

 

ちなみに寝室とか目に付くところに飾ったのは二人で並んで撮ったもの。

オルデン卿が、必ず後で必要になるからそういうのも撮っておけと促された。

自分達用とオルデン卿が持って帰るように撮った一枚。

 

今考えると大変ためになるアドバイスだった。

他は全部角度違いの誓いのキスのワンシーンなので……フェルンが何処かに保管している。

 

「当日の出来を期待していてよ」

 

嬉しそうに笑うフリーレン。やはり魔法に関わる事で何かをするのは楽しいのであろう。

 

「まあ、フリーレンが幸せそうなら何よりだよ」

 

というシュタルクの言葉で夜のティータイムはお開きになった。

 

✧ ✧ ✧ ✧

 

寝室ではシュタルクとフェルンの真ん中にスースーとかわいい寝息を立てているのは幼いエリシア。

今夜も連れ去ろうとしたティアフォートからフェルンが奪い返したものだ。

寝る前にシュタルクと何かしないと気が済まない日もあれば、子供をハグしないと気が済まない日もある。

実に難しい。

 

「フリーレン様があんなに楽しみにしてくれるのを見ると私達も嬉しいですね」

「まあ、フリーレンは写真の件に限らず割と日々楽しそうに生きてるけどな」

 

彼女はそうですねと言いながらも付け加える。

 

「フリーレン様が積極的にそれを維持しようとしてくれることが嬉しいのです」

「まあ、たしかにそうか。昔は退屈するとすぐにふらっと居なくなったりしたからな……」

 

感慨深げにシュタルクが答えると、フェルンはくすくすと笑った。

 

「……お天気が良い日に撮りましょう」

 

というフェルンに同意してから、娘の頭を撫でつつもシュタルクは眠りについた。

 

■週末は晴れると思います


 

それから数日後、写真転写用の台紙数枚が届いた。

 

「フェルン先生。此方です」

「ありがとうルーエ」

 

つややかな漆黒のロングヘアーと黒の瞳の少女。昨年渡した仕事着の胸元が少々きつそうになってきたのは歳頃故か。

魔族被害地から引き取ってから7年目。現在ではフェルンの教え子でもあり、仕事上の片腕でもあるルーエ。

 

「ティア様から聞きました。ご家族で写真を撮られると」

 

「ええ、そうなんです」と嬉しそうに笑う師の姿に、ルーエは遅れて微笑む。

 

「良いですね。家族の思い出は何事にも代えられません……」

「あなたも、どうですか?明日の休日に。エリシアの予想だと良い天気だと」

 

フェルンの突然の誘いにきょとんとしてしまう。

 

「私も……ですか?しかしご家族の……」

「ルーエは私の教え子ですから、実質私の娘のようなものじゃないですか」

 

何の気なしにそんな事を言ってくるので、冷静な表情を維持できず赤面して顔を伏せる。

「急に……そんなふうに言われると照れますね……」

「いつも、それとなくシュタアルの面倒を見てくれている事も、感謝していますよ」

 

というフェルンの一言にルーエはより朱くなる。

「い、いえ……べつにシュタアル様の事は……」

若干うろたえるルーエを一瞥したフェルンは落ち着いた様子。

 

「ルーエみたいなお姉さんがいてくれると、私も安心します」

 

ピタッと止まったルーエだったが、咳払いをした後、落ち着いた様子を見せた。

 

「……そういうことですか。はい……

 ――いえ、そうではなく。その。兄も一緒に伺っても?」

「もちろん。エアフォルクもつれて」

 

その言葉を聞いたルーエは嬉しそうに「はい」と頷く。

 

「兄と話してきます」とエアフォルクの居る執務室へ駆け出した。

 

「さて……」

 

残ったフェルンは頬に手を当て、ルーエと会話した笑顔のまま呟く。

若干目は笑っていないのだが……

 

「――シュタアルと……ついでにシュタルク様は。

 少し、紳士の取るべき立ち振舞いについての指導が必要ですね――」

 

どう言えば、伝わるものやらと考えつつ。フェルンは今日の仕事の残りを片付け始めた。

 

✧ ✧ ✧ ✧

 

「兄さん!!」

 

ドアのノックの返事を聞かないままに部屋の扉が開く。

 

部屋の中にいたのはルーエと同様に黒の髪と瞳の男性、彼女の実兄であるエアフォルク。

彼は現在シュタルクに師事しており。仕事面でも彼を支えている。

 

「何を焦っているか知らないが、ドアをノックしたのならせめて返事を待つんだルーエ……

 先々、思春期のシュタアルに同じことをしたら中々の事故が発生しかねない」

 

と、入室と同時に帰ってきたのはちょっとした説教の言葉。

相変わらず何を言っているのか……いや、返事を待たなかったのはルーエの落ち度であるためそこは謝罪した。

 

「実は先程――」

 

早速、先の話を伝えよう。息巻いて説明しようとしたが、兄の顔に浮かんだのは苦笑だった。

 

「写真の件ならシュタルク様から伺っている。そうだな、私も参加させてもら――こらこら、拗ねるんじゃない」

「――拗ねていません」

 

頬を膨らませてしまうのは、おそらく師の癖が伝染ったからか。

 

「そうしていると、今年で18歳になるのが嘘みたいだねルーエ」

「大きなお世話です!」

 

ルーエは昨年からフェルンの仕事を本格的に手伝っている。そういう意味で大人の仲間入りした気でいた。

 

だが、兄エアフォルクはまだルーエを子供扱いする節がある。

実際5年ほど歳の離れた兄妹ではあるので、致し方ない部分はあるのだが。

 

「……家族写真をまた撮ることになるなんて、思いもしなかったな」

 

エアフォルクは窓の外を眺めて少しだけ笑いながら、しみじみと呟いた。

 

✧ ✧ ✧ ✧

 

とまあ。そんな感じで集合人数を増やしつつ日々は過ぎていく。

 

「爺さん。フレーム完成したって?」

 

ティシュレーから完成の連絡を受けたシュタアルは工房の扉を開いた。

 

「はええな、おい」

「今週末に写真撮るしね。爺さんも来る?」

 

何の気なしに聞いてみるとヒゲをガリガリと掻きながら

 

「儂を誘う前にアイゼンを誘え」

 

そっぽを向いて、答えるティシュレー

 

「流石にフリーレンが連絡入れているよ。師匠は絶対来るだろうから心配しなくていいよ」

「ふん、まあ、暇だったら行ってやる」

 

言ったところで、撮影場所はかつてフェルンに告白した場所。戦士たちの石碑の近くにある見晴らしの良い丘。

ここからは目と鼻の先。工房を出ればすぐそこって場所だ。

 

「ちょっと降りてくるだけじゃん」

「だから暇だったら行ってやると言っとろうが。

 写真入れのフレームはいくつか作ってやった。料金は受け取っとるから持っていけ」

 

そう言ってティシュレーは店の中から3つほど丁寧に布に包まれた写真入れを渡してくれた。

そのうちの一つの布を丁寧に開くと大理石と接合部分に独特の輝きを持つ金属……これは……

 

「え?オリハルコン?」

「合金だ。長持ちするようにしただけだ。武器に仕込むほどの量は入っとらん」

「手に入れるの大変だったろ。ありがとうな」

 

シュタルクが頭を下げるとティシュレーは「やめんか」とぼやいた。

 

「本命は別のことだ。この地に残った戦士の鋼に魂を吹き込む素材だからな。

 いずれ必要になる。将来に対する投資だ」

「投資って……ああ。本当に作ってくれるんだな。それこそ……ありがとう」

「こいつを鍛えるのは割と力がいる。お前も打ちに来い。お前の倅のことだろう」

 

大切な事をそっけなく伝える老ドワーフの言葉にシュタルクは苦笑する。

この地で没した戦士たちの石碑の材料にした武具。その中で状態の良いものを一部彼らは保管していた。

その時は何故と思っていたが、今なら判る。受け継ぐべき魂と受け継がれる想いがある。

それは戦士にとってはとても大切なことなんだろう。

 

「そうだな。手伝いに来るよ。きっと必要になる。俺が出来ること、何でもやってやりたいんだ」

「ああ」

 

そろそろ、昼の休み時間も終わるためシュタルクは工房のドアを開ける。

 

「じゃあ、爺さんも来てくれよなー」

「ああ、暇だったらな――」

 

相変わらずの言いようだが、こういう時、彼は必ず来てくれるだろう。

 

「なんか――フリーレンのためと言ってたけどちょっと楽しみになってきたな」

 

こういう思い出作りは時々やっても良いかもしれない。

そう思いながら工房を後にして、仕事場の領主館へと向かった。

 

■本日ハ晴天ナリ


 

その日は朝から程よい陽気で雲一つない天気。

 

「お母さま、フリーレンさま、晴れました!!」

 

フェルンとフリーレンの手を引きながら出発を促すのは満面の笑みのエリシア。

日頃はティアフォートのお下がりを着ることも多いのだが今日はおニューの服装。

というのも、姉のティアフォートが絶対に新品にしろと言うので先日一緒に買ってきたものだ。

 

「エリシアの予報の精度はさすがですね」

そんなエリシアの頭を撫でてからドアを開けて外へ出る。

 

「なんか、私がちょっと言い出したことだけど大事になってごめんね」

「フリーレン様」

 

ちょっとだけ眉を寄せてフリーレンを見るフェルン。

 

「あーー。うん。段取り付けてくれてありがとう。嬉しいよ、フェルン。あとシュタルクも」

「はい。どういたしまして」

 

「よろしい」とばかりに笑顔に変わったフェルンはエリシアとフリーレンの手を握りながら外へ出た。

 

「母様、ああいうところ譲りませんよね。らしいといえばらしいですけど」

「俺は良いと思うけどな。ごめんじゃなくてありがとうって返すの。言ったのフリーレンだけど」

 

シュタルクの後ろからティアフォートとシュタアルが続いた。

 

「エリシアとフリーレン様に母様を取られた父様のエスコート。私と兄様がして差し上げても良くってですよ」

 

ティアフォートは含みのある笑顔でポーズを付けてシュタルクに手を差し伸べてくる。

 

「え、本当に? 二人がエスコートしてくれるの?

 お父さん嬉しいッッ……」

 

半分ジョークだったのか思いの外、重い反応にティアフォートは一瞬固まる。

が、小さく苦笑いと嘆息をしてから父の手を握った。

 

「ほら、兄様も」

「ええ……俺も?」

 

嬉しそうに手を差し出してきた父の手を睨むシュタアル。

徐々にしょんぼりに変わりそうな父の様子に慌てたのか

 

「ああ、もう判ったよ……」

 

と言って、ティアフォートと逆側の手を握った。

 

「両手に花だなー」と満足げな父に「俺男だから意味違うくない?」とついつい突っ込んでしまうが。

ゴツゴツしているけど母とは異なる温かい手の感触に、まあ良いかと歩き出した。

 

✧ ✧ ✧ ✧

 

「フリーレン様!フェルン先生!」

 

先に到着していたのは黒髪の教え子の兄妹。

 

「ルーエとエアフォルクはもう来てたんだね」

「お招きいただきありがとうございます。エリシア様も今日は可愛いお洋服ですね」

 

ルーエが小さく手を開くと、表情を明るくしたエリシアは彼女にポスっと飛びついた。

 

「新しいものを買ってもらいました!」

「はい、可憐でいらっしゃいます」

 

そんな妹の様子を見てからフリーレンとフェルンに向き直ったエアフォルク。

 

「シュタルク様は……ああ、あちらから。おや……」

「ええ、シュタアルとティアと一緒に」

「珍しいですね、今の二人が父親に甘えるなんて」

 

エアフォルクの言葉に口元に手を当ててフェルンは笑う。

 

「甘えているのは、どちらでしょうね」

 

シュタルクは昔から子供好きだが、シュタアルとティアフォートは難しい歳だ。

家に帰ると飛びついてくれる事は流石になくなった。

 

幸せそうな師のシュタルク、こそばゆそうな微妙顔の弟弟子シュタアル。

ティアフォートはいつも通りではあるが、彼女の場合は父と兄の様子を見て楽しんでいる節すらある。

 

「案外、今の歳頃だからこそお二人が近くにいるのは大切だと俺は思いますよ。

 おっと……失言でしたでしょうか?」

「いえ、私はその頃はずっとフリーレン様が傍にいてくださいました。

 親としては不器用でしたけど。わかりますよ」

「悪かったね……私も初めてだったから何が正解か判らなかったんだよ」

 

フリーレンはちょっと拗ねた仕草をする。

まあ、相手が初めての子育てでフェルンというのは難易度が高いのか低いのか。

 

✧ ✧ ✧ ✧

 

「師匠に、爺さん」

「ご無沙汰しております。お祖父様」

「シュタアルもティアフォートもまた大きくなったな。子どもの成長はあっという間だ」

 

工房のドアが開き出てきたドワーフは二人。アイゼンとティシュレーがともに出てきた。

 

「ついさっき到着した。母屋の方には人の気配がなかったから工房に立ち寄った」

「フン……」

「こいつがソワソワしてドアの前でウロウロしていたから連れてきたぞ」

 

写真撮影されてやっても良いんだからね!という顔をしたティシュレーにシュタルクは笑う。

 

「爺さんもありがとうな。フリーレンも喜ぶよ」

「さっさと済ませるぞ。仕事があるんだ」

 

さっさと終わらせるぞと促すティシュレーにアイゼンは顎髭をかきつつ返答する。

 

「このあと飲むって話じゃなかったか?」

「うるせーわい」

「はは、師匠もせっかく来たんだから今日はゆっくりしていってくれよ。

 シュタアルも最近身につけた技とか見て欲しいよな」

 

「……まあそりゃ。爺ちゃん見ていってくれる?」

「もちろんだ」

 

表面上は分かりづらいが、孫にお願いされると誰より喜ぶアイゼン。

心做しか、声のトーンが上がったとこに気づいたシュタルクは苦笑した。

 

「じゃあ、行こうぜ。あっちでみんな待ってる」

 

✧ ✧ ✧ ✧

 

「では、まずフリーレン様のご希望に沿い、シュタルク様とフェルン様とご家族のみの写真を撮ります。

 その後、私がフリーレン様の発動式の魔法を使って全員を撮りますので並んでください」

 

指揮を取るのは、元オルデン家のメイド長兼御庭番をしていたライニ。

現在は仕事中のシュタルクとフェルンに代わり家の事……

だけではなく子供達の勉強から戦闘基礎技術や街の催事の指揮など活躍は多岐にわたる。

 

「ライニさんは映らないの?」

「いえ、これは私の仕事ですので」

 

シュタルクの素朴な疑問に毅然と答えるライニ。

そこに割って入ったのはフリーレン。

 

「みんなは皆だ。全員写ろう。私がゴーレムに台紙と発動用の魔法陣もたせるから……

 フェルンなら発動させられる?」

「わかりました」

「よし、じゃあそうしよう」

 

フリーレンの言葉にライニは苦笑いをしてから了承した。

 

「相変わらず、貴族のような立場の慣習とは縁遠い地ですね……」

 

そう言ってライニはフリーレンに台紙を手渡した。

 

✧ ✧ ✧ ✧

 

ティアフォートとエリシアはそれぞれシュタルクとフェルンの膝の上に乗り。

シュタアルは二人に挟まれる形。

 

「撮るよー。1たす1はー?」

「いや古いよ……」

 

写真の魔法で構えるフリーレンはにこやかに笑顔を促す。

シュタルクはちょっと苦笑いになってしまったが「にー」といい顔で答えるのはシュタアル。

 

こういう素直なところはなんというか……

頭を撫で回したくなるが、それをすると嫌がられるのでぐっと堪える。

 

そんな父の悩みを知ってか知らずか、胸元に座るティアフォートは

「別に良いと思いますけどね」と小さく呟いた。

 

「よし、撮れた。徐々に色が乗ってくるから保管しておいて」

「わかりました」

 

フリーレンから写真の台紙を渡されたライニは箱の中にそれをしまい込んだ。

 

「じゃあみんなの分を撮ろうか。並んでー。私はゴーレムのセッティングを……角度とかが重要だからね」

 

フリーレンに言われて全員が思い思いに並び始める。

「フェルン先生、シュタルク様はもう少し寄ってください。シュタアル様はこっち」

「ちょっ、姉さん?」

ルーエはシュタルクとフェルンの間を詰めさせつつ、シュタアルを立たせて胸元まで引き寄せる。

 

「……これなら全員入るかな?」

 

正面では作成したゴーレムに台紙と魔法陣をもたせたフリーレンが頭をひねっている。

 

✧ ✧ ✧ ✧

 

「フリーレン、楽しんでそうで良かったな」

「はい。準備した甲斐がありました」

 

よし!と声を上げたフリーレン。どうやら準備ができたらしい。

此方に向かって来る。

 

そのままシュタルクとフェルンの正面の間に座った。

 

「エリシアとティアフォートはフリーレン様の隣に」

 

フェルンがそう促すと二人は頷いてから膝から降りてフリーレンの隣に座った。

 

「じゃあ、フェルン。ゴーレムの位置は固定しているから。

 撮影の発動よろしく」

 

いつもは冷静なフリーレンが、今日はいつになくはしゃいでいる。

フェルンにはそれがとても嬉しい。

 

―― 時間というものはいつも彼女の味方で……

 

「では行きますよ」

 

―― それは、時として彼女と他者との間に溝を作る

 

「ゴーレムの方を向いてください」

 

―― 昔は心を凍らせる事で平静でいた師は、全力で思い出を作り続ける生き方へと変えた。

 

「それでは、合図で笑顔をお願いします。3――2――」

 

―― だからこそ、私達がその人生に寄り添える絆を育み続ける。

 

「1――」

そして、フェルンは指を鳴らし魔法を発動した。

 

―― それがフェルンとシュタルクの出来る彼女への最大限の感謝であると信じて。

 

✧ ✧ ✧ ✧

 

大理石と青く光る金属フレームの写真立てが2つ並んでいる。

 

それを眺めているフリーレンにフェルンは声をかけた。

 

「気に入っていただけましたか、フリーレン様」

「いい色で映ったなって」

 

フレームに入っているのはシュタルクとフェルンと子どもたちが映った写真。

そして、この地域に住んでいる縁者たちで撮った集合写真。

 

「ご満足いただけたなら幸いです」

「1000年ぐらい飾りたい」

「さすがに家屋のほうが限界ですよ」

 

何でもかんでもフリーレンの時間と同等とはいかない。

 

「家の主に時々建て替えさせるさ。直近はシュタアルかな?

 誰と一緒になるのかは……まあ知らないけど」

「どうでしょうね……」

 

フェルンの子供達の将来は流石にまだわからないが……

 

「シュタアル兄さまのこと大好きな人はいっぱい居るから大丈夫ですよ」

 

というのはフェルンの膝の上にいたエリシアの言葉。

 

「そうだね。あの子はそういう意味では……妙な人生をひた歩いている」

「3人ぐらいの女の人に引っ張り回されているシュタアル兄さまの夢をよく見ます」

 

と言ったエリシアはフェルンの入れてくれたホットミルクを飲み始めた。

 

「「……」」

 

エリシアは……不思議と時々未来のことを突然予言して言い当てることがある。

何由来の能力かはわからない。ただ、時間的に近い予測ほど、よく当たる。

そして、遠い未来の話ほど的中率は下がっていく。

 

シュタアルがお嫁さんをもらう日などはずいぶん先の話だ。

ゆえに的中率も全くわからない。

 

だが――

 

「エリシア、その夢の中で、私やフェルンやシュタルクは、幸せそうだった?」

 

フリーレンの質問にエリシアは人差し指を口元に当てて、うーんとなにかを思い出す様に考え始める。

ぱっと、何かを思い出したように目を開いたエリシアは「はい!」と答えた。

 

「お父さまも、お母さまも、フリーレン様もみんな赤ちゃんのお世話をして幸せそうでした!!」

「お絵描きして説明します」と言ってフェルンの膝から降りたエリシアはパタパタと自室に戻っていった。

 

「フェルン、今の話どう思う?」

「わかりません」

「だよね」

 

フェルンは写真立てを見ながら微笑む。

 

「あの子達が何を成すのかわかりません。でも……明るい未来ならいいですね」

 

シュタアルやティアフォート、ルーエ達がシュタルクとフェルンの後に続き、どのような未来を描くのかはフリーレンにもわからない。

 

――それでも

 

「未来はいつだって――

 わからなくて――

 希望に向かって――

 前に進むぐらいがちょうどいい――」

 

そう言ってフリーレンはフェルンに笑いかける。

 

―― そうでしょ、フェルン?

 

こうして家族写真にまつわる物語は幕を閉じるのだった。

 

~ 居間に飾るものじゃないの、家族写真って? fin ~




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