葬送フリーレン~アフターオレオール~ 作:rvr75_raiden
ということでシュタアル達が北部戦線からクレ地方に帰る際、ヴィアベルさんちの娘さんがクレ地方の収穫祭に遊びに来るお話
■イントロダクション
■ 独自キャラクター(原作キャラクター以外に登場する主なキャラクター)
- シュタアル(Stahl) : 主人公。シュタルクとフェルンの間に生まれた長男。15歳。まっすぐな性格の青紫の髪のと三白眼が特徴の青年。出力不足で魔法はいまいちだが剣技と努力で補う。
- ティアフォート(Tiefrot):シュタルクとフェルンの間に生まれた長女でシュタアルの妹。14歳。赤い髪と真紅の瞳を持つ。魔法の才能は母譲りの天才。
- アルヴィラ(Alvira):ヴィアベルとエーレの娘。14歳。ブラウンの緩やかなウェーブのかかった髪の少女。すこしプライドの高く素直ではない(かった?)女の子。ティアフォートと相性がいいんだか悪いんだか。
- ルーエ(Ruhe):フェルンの教え子兼仕事上の秘書。19歳。黒髪ロングヘアと黒い瞳を持ち、師匠ゆずりの冷静な性格のようで内面は激情家。魔族の呪いを受けておりシュタルクとフェルンに救われた過去を持つ。
■真の出会いは戦場で
「大丈夫? えーっと、アルヴィラさんだっけ?」
身の丈5メートルほどあったはずの獣型の魔物。既に絶命しており徐々に灰化現象が起きている。
その魔物の頭の上には黒い戦闘用の独特のスーツを着た少年。彼は魔物の頭に刺さった剣を引き抜いた後、前に降り立ち言い放った言葉がそれ。
目を疑った。一つだけ年上、自分とそこまで変わらない。まだ、子供と言っても差し支えない少年。
彼はものすごい勢いで落下して一撃のもとに魔物を斬り伏せたのだ。
そう、ついさっきまで自分を食い殺そうと大口を開けていた魔物をーー
✧ ✧ ✧ ✧
時は遡ること一週間ほど前。
北部戦線は毎年周期的に訪れる魔物の大量発生に備えていたのだが……
父のヴィアベルが「今回の秘密兵器だ」と言って連れてきた者。それは自分と歳の変わらない二人の子供とエルフの魔法使いだった。
「どうも……父シュタルクと、母フェルンの名代で来ました。俺がシュタアルで、こっちの赤い髪が妹のティアフォートです。
あと、保護者のフリーレン」
すこし目つきの悪い三白眼に青紫色の所々外ハネした髪の少年。あとは赤い髪と真紅の瞳の少女。
兄を名乗る少年は緊張気味だったが、妹の方は何食わぬ顔で済ましながら、スカートを僅かに上げて優雅に挨拶をした。
エルフの魔法使いは話に聞いたことがある。中央諸国に身を寄せる高名な魔法使いだ。
そしてその弟子、1級魔法使いフェルン。彼らの母親。
紫色の長い髪をはためかせ、凶悪な魔族を何体も屠ったという美しさと強さを兼ね持った憧れの魔法使い……は仕事で来れないのだとか。
(でも、なんでこんな……子供を……?)
自分は高名な一級魔法使いを両親に持つ、一流と言って差し支えない魔法使い。子供の頃から父を手伝い、
魔物や、魔族とだって対峙したことがある。高い資質と同年代とは比べるまでもない実践経験。
そんな自分に追いつける者など居ない――とその時は思っていた。
✧ ✧ ✧ ✧
だが転機は訪れる。
ほんの油断。父が期待する少年少女の前で成果を焦った、ほんのわずかな油断。
大挙した魔物に押し出され、障壁ごと噛み砕かれ、本隊と分断された。
父であるヴィアベルの指示に背き先行してしまったのが全ての過ちだった。
目の前に立ちはだかるのは、今まで相手をしたこともない巨大な狼型の魔物。
腐臭を漂わせ、地を揺らしながら、ゆっくりと距離を詰めてくる。
手持ちの魔法ではまるで歯が立たない。殺しきれない。攻撃を防ぎきれない。
―― もう、駄目だ。
震える手で杖を握りしめる。魔力が霧散していく感覚。本能的な恐怖が思考を麻痺させる。
「……パパ……ママ……ごめんなさい……」
一流の魔法使いである両親の名に、こんな形で泥を塗ってしまうなんて。
こちらが抵抗する術を失ったと確信したのか、魔物は歓喜するように喉を鳴らし、巨大な顎を開いた。
「―― いや……いやだ……っ」
涙で視界が滲む。目の前に広がるのは、獲物を決して逃さないための、何重にも重なった鋭い牙。
―― あんなもので噛み砕かれたら……もう……
痛いのだろうか。それとも、何も感じないのだろうか。
絶命するまでに、どれほどの苦しみを味わうのだろう。
そう思った瞬間、父と母の顔が脳裏をよぎった。
「―― 死にたくない……パパぁ!ママぁ!!」
誇り高く、気高くあれ。どんなときも一流の立ち振る舞いをしろと、そう教えられてきたのに。
「誰か助けてぇ!!」
最後に振り絞って出たのは、プライドを捨てた、ただの少女の悲痛な叫びだった。
そんな声も虚しく響くだけだと思った、その瞬間――
「―― 任せろぉぉぉぉ!!」
空から降ってきたのは、いつか聞いた少年の声。
声は凄まじい速度で上空から迫ってくる。少年は魔物が対応するより先にその首に刃を叩きつけた。
背後から首筋を切りつけた刃を振り切り、両手で握った剣を勢いよく頭上に突き刺す。
骨を砕き、肉に突き刺す鈍い音。魔物の巨体は地面に叩きつけられ、地響きが起こった。
先程まで歓喜の声をあげていた魔物は、甲高い断末魔の悲鳴を上げた。
その悲鳴のために開いた口から、消化液と体液が正面にいたアルヴィラの方向へと飛ぶ。
「―― 伏せて!」
背後から聞こえた凛とした声とともに、誰かにぐっと頭を押さえつけられた。
視界の端に映ったのは、自分の物ではない、見慣れぬ魔法使いの杖。
瞬間的に起動した防御障壁に、魔物の体液が降りかかり、ジュッと音を立てて蒸発した。
「兄様……駆除はもう少し計画的に。酸性の体液だったら救うどころじゃありませんでしたよ」
「うっ……でも、お前が後から来るのが見えてたし。なんとかしてくれるだろって」
助かったのだと呆然とする中で聞こえてくる、件の兄妹のどこか呑気なやり取り。
「……まあ。兄様の行動を先読みしてフォローするのは私の役目ですから」
「とりあえず、無事で何よりだ」
そう言って、少年は魔物の骸から剣を引き抜き、軽やかに地面に降り立つ。
「大丈夫? えーっと、アルヴィラさんだっけ?」
ゆっくりと差し伸べられた掌は……
―― 『ったく、大丈夫か?アルヴィラ?』
不意に、ぶっきらぼうで、けれどいつも自分を救ってくれた父の姿と重なって見えた。
「は……はい……」
父のものよりずっと小さいその手を、アルヴィラはただ見つめることしかできなかった。
✧ ✧ ✧ ✧
「二人とも無事―?
アルヴィラは見つかった?」
確認の声と同時に降りてきたのは銀髪のエルフ。葬送のフリーレン。
先行した二人の兄妹に続き追ってきてくれたらしい。
「どうやら……大きな怪我はないみたいだね。良かった。ヴィアベルが珍しく焦ってたよ
あんな迂闊なことをする娘じゃないって」
「いえ……あの……はい……ごめんなさい。フリーレン様」
完全に自分の落ち度で不手際だった。
大人しく謝ると後ろで紅い髪の少女は「ふん」と言った感じで嘆息していた。
少々鼻につく態度に口元がひくつき、歪んでしまう。
「私に謝罪じゃなくて、お礼をシュタアルとティアフォートに言ってあげて。
シュタアルはヴィアベルに君を必ず助けると約束して単身で……後ろからティアフォートと私がついてきたけど。
まあ、とにかく。真っ先に飛び出していったんだよ」
フリーレンの言う少年……シュタアルの方を視るとかれはきょとんとしてから笑った。
「アルヴィラ――さんは女の子だし、顔に痕になるような怪我がなくてよかった――痛ぁ!なんだよ!!」
後ろから杖で頭を突かれたシュタアルは振り向いて抗議の声を上げる。
「兄様。日頃から母様やルーエが口を酸っぱくして言っていますよね。女性に対する言葉を選びなさいと。
妹と同年代なら妹みたいな感覚で接していいとか愚かな事考えてませんか?」
ティアフォートの言葉にシュタアルはアルヴィラの方を向いて気まずそうな表情で話しかけてくる。
「え……なんか、失礼だった……?」
「いえ……あの……私……その……助けていただいて……ありがとうございました。シュタアルさんは何も……失礼なことは仰っておりません……」
そういうとシュタアルは嬉しそうにニッコリと笑った。
それは―― 純粋に誰かの助けになったのが嬉しい……そう言った笑顔に見えた。
「そ、そう……?じゃあ……よかったよ――って、痛ぁ!!なんなの!?」
「いえ、兄様の足にハエが止まっておりました。
なにか踏んだのではありませんか?」
「んなわけあるか!よしんばいたとしても蹴るな!」
そんな兄妹の騒がしいやり取りにアルヴィラはつい吹き出してしまった。
「どうしたの?」
「……いえ、仲がよろしいのですねと。こんなお兄様。羨ましいですね、ティアフォートさん」
「――ええ、騒がしいだけの兄ですが……シスコンと言っても差し支えない程度に妹想いの兄ですので」
「いや、差し支えあるよ。変な属性付加するな」
前方ではフリーレンが「仲良くなったみたいで良かったよ」と満足気に笑っていた。
―― 北壁のお嬢様と呼ばれる少女アルヴィラがクレ地方から来た妙な兄弟の名を覚え、存在を知り。
……強く意識し始めたのはそのような日の出来事が始まりだ。
■真の戦場はティーテーブルで
それから2週間ほどが経った頃、先行してフリーレンが帰る日になった。
その出迎えに出た父が、その家に帰った時にアルヴィラに言った言葉。
「アルヴィラ。折角だ。あの二人と一緒にクレ地方に行ってこい」
「……何故です?」
唐突な、遠征の命令だった。
「エーレも了承済みだ。社会見学してこい」
「いえ、でも、ここの戦線の防衛は……」
そういうと、父はやれやれという表情をしてからニヤリと笑う。
他人から見るとちょっと怖い笑顔らしいが本当に他意はなく普通の笑顔だ。
「おまえ、まだ14歳だぞ。正規の兵士じゃねぇんだ。素直に勉強出来るときにしとけって」
「私は……中等の勉学であれば既に就学済みです!試験もクリアしました」
「そういう意味じゃねえだよな……」
ちょっとため息を付いたヴィアベルはやれやれと近寄ってきてからアルヴィラの頭を撫でる。
「シュタアル、来週には返っちまうし。暫くは会えねーぞ。
転移ゲートがあるから移動はできるが……あれも使いたい放題ってわけじゃない。場所も限られてるしな」
「………でも」
ここから近いゲートは帝国領の近くにある協会の設備だ。実は場所は公にはなっていない。
「ここ最近、お前は目に見えて楽しそうだったからな」
「それは……そうかもしれませんけど……」
ヴィアベルは少し屈んでアルヴィラに視線を合わせる。
「まあ、青春ってのは買ってでもやっておけ。
俺が今の地位についたのはまじでそんな理由だ。案外原動力になる」
「青春って……」
「それも社会勉強だ」
というわけでクレ地方域が決まってしまった。
期間は彼らの帰省から収穫祭が終わる一週間ほどの期間。
シュタルク様とフェルン様の家に来客で泊まらせていただけるということだ。
「そこまで……言うなら……行って……きます」
「ああ、楽しんでこい!」
✧ ✧ ✧ ✧
「ちょっと、シュタアルさんに聞いてきます!」
ドアを開けて彼らへ事情を聞きに行った娘を見送ったあと。静かに見守っていたエーレが話しかけてきた。
「いいの? 行かせて。しかも。男の子の家に」
「あん? 良いんだよ。未来への投資だ。今の内に打てる手は打っておいて損はない」
「何それ? 父親として酷くない?」
「止めねえ母親が何いってんだよ」
エーレは両脇に手をおいてやれやれという様子で答える。
「あんな顔されたら……止めれないでしょ」
エーレの言葉にヴィアベルはニヤッと笑った。
「つまりはそういうことだ。最後は当人たちの努力次第だよ。
だが、キッカケと機会は親が作ってやっても良い。誰かに似て素直じゃね―からなアイツ」
「うっさい」
脇腹に肘鉄を入れてくる妻の肩にヴィアベルは腕を伸ばす。
「まあ、閉じこもってるよりかはいい経験にはなるだろうよ」
「ほんと、妙な気だけは回るよね」
呆れるように突っ込む妻にヴィアベルは「ほっとけ」と言いながら娘の姿を見送った。
✧ ✧ ✧ ✧
さて、なんでこうなってしまったのか。
眼の前には、折角淹れてきた紅茶を前に無言の同い年の少女。真紅の髪の印象的なティアフォート。
その正面には同様の仕草のアルヴィラ。
お茶菓子にはお互い手を付けていない。
「……兄様になんの用です?」
「……なにか用事でもないとお茶菓子も出してはいけないのかしら?」
「……なんの用もなしに茶菓子を出す手合ではないでしょう」
ちなみにシュタアルは外で日課のトレーニングとばかりにはランニングと素振りの最中。
おそらく暫くは帰ってこない。
読書をしながら部屋でも待っていたティアフォートのもとにやってきたアルヴィラの第一声。
『シュタアルさん! お茶を! 一緒にいかがでしょうか!?』
というもの。ノックとともに部屋に響く若干色づいたアルヴィラの声。
『あん?』
それを聞いて思わず、座った声で答えてしまったティアフォート。
お互いに、こいつか……という表情でお見合いした結果。
『……ええ、折角淹れていただいたのですから……いただきましょう』
『……お砂糖は……必要ですの?』
そんな感じで妙なお茶会が始まった。
「では、兄に用事はないと。さっさと飲み干して帰っていただきましょうか」
「そういう意味ではありません!! 私がシュタアルさんに会いに来る事が特異な事情にするのやめていただけます?!
用事がなくても会いに来ても構わないでしょうという意味です!!」
「同年代の私を差し置き、そんな猫の撫でるような声で兄を誘いに?」
ティアフォートは終始含みのある言い方で牽制してくる。
アルヴィラも一度深呼吸をしてから反撃の構え。
「……猫の撫でるような声ではありません。これが優雅な淑女の佇まいです。
私達、せっかく同年代なのですから、もう少し仲良くしても良いのではありません?」
「ええ、そうですね。では淑女同士、 ”私” と仲良くいたしましょう? 兄様は不要ですよね!」
表情に出さずとも、心のなかではお互いに分かっている。
『ぐぬぬぬぬ』と額を合わせて睨み合うぐらいの気持ちで構えざるを得ない。
―― こいつは……敵だ……
―― とにかく気に食わない!!
なんとなく……そう思えてしまう。
「お前ら……何してんの?」
訓練から戻り、汗を流したあとのシュタアルが見たのは険悪な表情で
今にも撃ち合いそうな少女たちのお茶会。
「兄様!!猫の毛ほども関係ないのですっこんでいただけますか?」
「シュタアルさん、すこし黙っていてただけますか?」
「お……おう……。部屋の中でぶっ放さないでね。特にティアフォート。ここ借り部屋だからな」
こわ……と口にしながら部屋を出たシュタアルは食堂へ向かうことにした。
ちなみにそこでヴィアベルに出会ってちょっと人生相談したりするがそれは別の話。
✧ ✧ ✧ ✧
シュタアルが戻った時、部屋はそれほど荒れてはいなかったのだが。
二人の少女は髪がちょいちょい焦げた状態だった。
とりあえずなんでこんなことに?という事情を聞いたところ。
「クレ地方に、遊びに……ああヴィアベル先生から聞いてるよ」
「……ふんッ」
「ティア!!」
頬をムッスーとふくらませるのは母や妹達、そして母の教え子のルーエ姉さんにも伝染っているのだが……
まあ、とにかく母に連なる人達がよくやる仕草だ。
荒ぶる『私納得してません』の構えというやつ。
「はい……社会勉強だとパパ……いえ父が……」
言い直す必要あったか?上品に振る舞うのって大変だなぁとか思いつつ。
「言ったところで田舎街の急作りな収穫祭だよ。
ちょっと前から突然はじめたものだし伝統的な風習でもないから肩肘張らずに遊びに来てよ。
きっと父さんや母さんも歓迎してくれる」
そう言って、シュタアルが笑って答えるとアルヴィラはパアアアと表情を輝かせる。
ちなみに、隣に座っていたティアフォートがさっきからシュタアルの足をゲシゲシ蹴っている。
もう、何なのこの妹と、思わなくもないが……
日頃の行動を思うと憎みきれないのも事実。理由は後で聞くとして今は耐えることにした。
■一路中央諸国クレ地方へ
「兄様。ヴィアベル先生のときも言いましたが……私は反対です」
「いや、もう母さんからOKの返事もらってるのに断れるかよ」
というのはアルヴィラも自室へと帰っていったあとの会話。
「いえ、断る必要はありません。様々な面から考えて、彼女にクレ地方へと来ていただくことに利は多いでしょう」
「じゃあ、良いじゃん」
「はい、ですから。
兄様は、嫌がる妹の手を強引に押しのけて、正論で覆いかぶさり、正論で妹を貫き意見を通そうというのです」
また始まった妹のよくわからん言説。あーという、なんとも言えない顔で。とりあえず受け答えする。
「まじで何言ってんのお前?」
「つまり、私は嫌だということです。他意はありません」
「頼むから仲良くしてよ……お前たちが喧嘩する理由が全然わかんない」
その言葉にティアフォートは一瞬かまった後、表情も変えずに「わかりました」と頷いた。
「この件はルーエに報告します」
「なんでだよ!姉さん関係ないだろ!」
「後ろめたいことがないなら特に問題ないはずです」
後ろめたいことは何も無い……はず……はずだけど、ルーエが笑って見逃してくれるイメージが不思議と沸かない。
「ぐっ……とりあえず、お前の要求を聞こうじゃないか……」
なので火傷する前にお兄ちゃんは白旗を上げることにした。何も戦ってないはずだったのに。
✧ ✧ ✧ ✧
それからおおよそ一週間後。魔物発生の周期も落ち着きを取り戻した。
ようやく、シュタアルとティアフォートの帰還の準備が整った日のこと。
北側の転移ゲートの場所までヴィアベル達で見送る事になっており、馬車に荷物を積んでいる。
「しかし、シュタアル。本当に助かったぜ。
ただでさえ層が薄くなりやすい前衛を、よくあそこまでこなしてくれた。
シュタルクとフェルンとフリーレンに育てられたってのは伊達じゃねーな」
「いえ……俺もいろいろ勉強になりました」
ヴィアベルは「ところで」と小声を出しながらシュタアルの肩に腕をかけてくる。
「お前が良いなら、将来ここで働かねぇか? 待遇は保証するぜ」
「悪い顔して何いってんですか……先生。つか待遇って言っても――」
正直、この地に勤めるということはそれほど楽な生き方は出来ない。
北部は魔物や魔族の発生しやすい土地であり、ここは防衛ラインだ。
近年人同士の争いは減ったとはいえ相応に過酷な地。
それでもここを守るヴィアベル達。それは己の故郷と大切な人々を守るためだろう。
言わんとしていることは、概ね分かる。だが、シュタアルとしてはしかしてだ。
「うーん。そうだな、可愛いお嫁さんぐらいは多分用意してやれるぞ。
嫁さんをちゃんと可愛がってくれるなら他に囲っても俺は文句は言わねぇ。子供は多いほうが良い」
「……いや、何を言ってんの?」
そんな事を言いはじめたヴィアベルの背後で彼の裾を引っ張る存在。
奥さんのエーレと娘のアルヴィラ、そして赤の他人なティアフォート。
「ヴィ……あなた……ちょっとお話が……。ごめんなさいねシュタアル君。気にしないでね」
「パパ……いらない気を回さないでと何度も……」
「ヴィアベル先生……兄様は単純なのでそういう事を吹き込まれては困ります」
「お、おう……」と答えたところで3人に引きずられて連れて行かれるヴィアベル。
ティアフォートは違うだろと思わなくもないシュタアルだったが。
「代表者って大変なんだな」
人材の確保や街の未来まで責任を持って考えなければならない。
クレ地方の領地運営をしている父シュタルクと母のフェルンもそうなのだろうか。
そんな事を考えつつ、一人荷台の整理を勧めていると10分後にヴィアベルが帰ってきた。
「わりいな、余計な心配を掛けさせちまった」
「正直、心配って言うほどの心配はしていませんが……。とりあえず、ウチの妹までもがすいません」
「……手厳しいじゃねぇか」
にやりと笑うヴィアベルにシュタアルはため息をついた
「―― 手伝えることがあるなら。いつだって声をかけてください。
でも、やっぱり故郷を捨ててここに根を張るのは……まだちょっと決断できません。
ヴィアベル先生もそうだから今こうして戦ってるんでしょう?」
それを聞いたヴィアベルはシュタアルの頭をガシガシと撫でた
「やっぱ惜しいな。お前の両親がエンデから出たあと勧誘しておくべきだったぜ」
「……父に言っておきます」
「笑うだろうよ」
「そうかもしれませんね」
ちなみにティアフォートとアルヴィラは程なくして荷物整理に戻ってきた。
何故か服が煤けており、頭にたんこぶを作っていた。
エーレ先生は「シュタアル君。向こうでもアルヴィラの事をお願いね」と苦笑いをしていた。
✧ ✧ ✧ ✧
北部の転移ゲートは帝国領の境界線上にある協会の隠された封印した施設の中にある。
ヴィアベルは自分の街に置きたがったが、安全面の観点から却下されたらしい。
北部の街を襲うのは魔物だけではない。魔族の存在を考慮しなければならないのだ。
「おし、起動完了だ。具合は判るな」
「はい。昔使ったことがあってなんとなくは。
ああ、そういえば、急に飛び込んで――それで向こう側で……あれ?何だっけ」
―― 一瞬思い出しそうになった
―― ブロンドの髪と、柔らかな感触
―― 羽の舞う純白の翼と腹部を貫かれるような感覚
「なんだ?」
「あ、いえ、慌てて飛び込むと転移先で転ぶっていう――」
シュタアルの言葉を聞いたティアフォートとアルヴィラはクスッと笑っていた。
「ゲートに飛び込むなんて、シュタアルさんも男の子なんですね」
「そんな間抜けなことをするのは兄様ぐらいです」
「うるさいな……そういうのじゃないんだよ……」
ゲートの起動を確認したヴィアベルが手で陣の方へいざなう。
「じゃあ、帰りは準備でき次第俺もそっちに迎えに行くから楽しんでこい」
「わかりました」
目線が合う程度にかがんだヴィアベルに抱きついたアルヴィラは頬にキスをする。
隣にいるエーレにも同様に。何となくこの家族のあり様を見た気がする。
「―― 兄様は父様と母様にできます?ああいうの」
「無理……」
その言葉を聞いたティアフォートは鼻で笑う。
「母様はさておき、父様は泣きますよ」
「いや、んなわけ無いだろ」
「兄様は分かってるようで分かってませんね」
私達は先に行ってますよ!とヴィアベル達に声をかけたティアフォート。
「お、おい、ティア?」
彼女はシュタアルの手を引いてためらうことなくゲートの中に入った。
向こう側では紫の髪をたなびかせた母と赤い髪の父が笑顔で待っているのだろう。
■実りの地
転移で乗り越えた先。
クレ地方にある唯一の協会の施設。協会の初等・中等魔法学校の学舎。
「お帰りなさい」
この世界の誰よりも見覚えのある紫の長い髪。母のフェルンは開口一番の言葉を掛ける。
「……ただいま。母さん」
笑顔で返した瞬間に突然感じる力強い感触。
「シュタアル!ティア! 無事か、怪我はないか?元気だったか?」
子供達の姿を視るやいなやの勢いで抱きついてきたのは父シュタルク。
「父さん……苦しい……」
「どうです、兄様?」
「降参だ。お前が正しい……」
シュタアルが白旗を上げたのを見たティアフォート。
彼女はフフンとドヤ顔を披露してから父の背中に手を回した。
「無事に仕事も終えたみたいだね」
「シュタアル兄さま!ティア姉さま!」
フリーレンと手を繋いで来ていたらしい末の妹エリシア。
彼女は母フェルンと同じ髪色をなびかせて、そのまま二人の元へ飛びついてきた。
なんか父親と子供たちのスクラム状態となってしまったが……
「さみしかったですぅぅぅぅぅ」
「ごめんねエリシア。暫くは家にいるからいっぱいお話ししましょうね」
「はい……はい!!」
後ろから近づいてくるフリーレンにシュタアルは向き直ろうとしたがシュタルクが離してくれない。
「褒めてあげて、二人がいないどころか、シュタルクとフェルンも不在な中を留守番してたんだから」
「……」
フリーレンの言葉にエリシアは特にコメントしなかったが、無言で力を強めてくるのでその気持はさもありなんだろう。
「留守番しててくれてありがとうエリシア」
シュタアルの言葉にしがみつく力をより強めてくるエリシア。よほど寂しがらせてしまったのだろうか。
「あとは――」
フリーレンは再度ゲートに向き直る。
「あのぉ……お初にお目にかかります……」
そこに佇んでいたのは、ブラウンの緩やかなカーブがかった髪の少女。
転移した先に広がっていた光景。それは先程まで自分たちの家族がそうであったような団らんの光景で呆気にとられてしまっている。
「ようこそ。中央諸国クレ地方の私達の街へ ――」
「は―― はい―― 改めて、お願い申し上げます!」
✧ ✧ ✧ ✧
居間に移動して、フェルンから聞かされる滞在中のこと。
「ヴィアベル様とエーレ様から伺っています。とても優秀な娘なのでいろいろ学ばせてほしいと」
眼の前で泊まる部屋を説明するのはアルヴィラが憧れてきた大陸有数の魔法使い。フェルン。
父と母が余計な事を言っていないのか心配になってしまうが……
「この期間中、食客として歓迎します。なんでも言ってください」
「いえ、あの、無名の小娘ですので……ただの留学生として、おねがいしまひゅ……いえ、お願いします」
憧れの魔法使い。1級魔法使い最年少ホルダー。大魔族クラスの魔族を狩った数で言えば現在の人類屈指。
強いて言うならあの紅いヤツの母親という点以外にアルヴィラからは見れば非の打ち所のない人物。
「ティアフォートがあんなに楽しそうに同年代の女の子と話しているの初めてみたわ。仲良くしてあげて」
「は、はあ……努力いたしますわ……」
宿泊する部屋に関してティアフォートとちらほら口論をしていたのだが見られていたらしい。
あれで、楽しそうって、あの真紅のハバネロ……普段いったいどんな生活をしているんだ?
と思わなくもないがアルヴィラはひとまず頷くことにした。
「ところで……シュタアルさんはどちらへ? 先程からお見かけしませんけれど」
アルヴィラはキョロキョロと周りを見回し、気になったことを質問する。
さっきから……いない。
「ああ、シュタアルなら暫く知り合いの家で泊まると言っていました。
準備をすると。向かいに建物がありましたよね? あちらです」
特に表情も崩すことなくフェルンが答えたのでアルヴィラはあっけに取られる。
「ええと……どうしてでしょうか?」
「まあ、あの子も歳頃の男の子ですから。気を使ったのかもしれません」
デリカシー的な話だろうか?
北壁の戦線にいた頃を考えると、自宅から出る程極端なことはしないように見えたのだが……
アルヴィラは訝しみながらも窓の外に見える別邸?のような建物を見た。
✧ ✧ ✧ ✧
『女の子泊まるし、気を使わせても何だから、ライニさんのところに泊まるよ』
といって、OKの声を聞くやいなや、まとめていた荷物を手に持ち家を出た。
幼い頃からお世話になっているお手伝い兼、戦闘技術の師匠のライニさんの家に向かう。
要するにティアフォートの要求に対する答えである。
『アルヴィラがいる間は家で寝ないこと』
なんでやねんと思うが、妹が絶対条件としてきた。まあ、要求としては簡単な方だ。
反発して変なことを言い出す前に程よく言うことを聞いておくのは兄の処世術だ。
「ただいまー」
勝手知ったる、ある種の祖母の家……という感覚でドアを開ける。
「あら、おかえりなさいませ。シュタアル様」
「ん? あれ……?」
想定したより……声が若い。いや、というより、聞いた事がありすぎる声。
「ライニ様はフォーリヒからご子息夫婦がお孫様を連れて来ておりまして。街の宿泊施設で泊まられるようです」
「へ……?ルーエ姉さん?」
なんでだろう……?
眼の前にいるのは見慣れたお手伝いのライニさんではなく
黒いロングヘア、黒い瞳が特徴的な母の教え子……と言うか姉弟子のルーエがそこにいる。
「あの、ルーエ姉さん……は……なんでライニさんの家に来ているの?」
何故か普段しない服装で……
「ライニ様からシュタアル様のお世話をお願いしますと。”これ” もそういう時に着るものだと」
―― エプロンドレス……いわゆるライニさんお手製の自作のメイド服……?
―― 着る人で随分印象変わるんだなぁ……いや、そうじゃない!
―― そもそも、ちょっとサイズが……胸パツパツじゃん!
「違う!そうじゃない!!」
「何がですか?」
「いや……なんでもない……あーえっと……姉さんも泊まるの?」
「はい。夕食はシュタルク様とフェルン先生の本邸でお食事と伺っていますが。それ以外は私が」
そっかー、息子ご夫婦が来てるならライニさん不在は仕方ない。
で、ルーエ姉さんが代理でやってきたのね。泊まりで。
―― なんでだ!?落ち着けるか!!
初めて着たらしいエプロンドレスに上機嫌な姉弟子を傍目に、心の中で叫ぶ。
そんな折、ふとテーブルの上で目についたのは折りたたまれた自分宛てと思われる手紙。
開くと中身には
『そろそろ、「お世継ぎを作る」という概念をご理解くださいシュタアル様』
とだけ書かれていた。
「―― あのババアぁぁ!!」
「こら、汚い言葉はいけませんよシュタアル様」
エプロンドレス姿のまま人差し指を立てて「メッ!」としてくるルーエ。
結局この状況は何なんだと自問自答しつつ。
夕食に行くときは普段の服に着替えてくれと頼み込むのだった。
✧ ✧ ✧ ✧
「いい子じゃないか。なんとなく応対の端々にヴィアベルが育てたって感じがする」
シュタルクは荷物を置きに部屋に向かったアルヴィラを見ながら印象を語る。
「そうですね。気遣いのできるいい娘です。
ティアフォートの刺激になると良いんですけど……」
「刺激にはなるだろうけど……あの子が我を曲げるのは難しそうだな」
ティアフォートは見た目より遥かに聡い子だ。
普段の振る舞いもかなり計算ずくでやっている部分はある。
それゆえに他者から学ぶという機会になかなか恵まれないのも事実。
ティアが一定の尊敬と学びの元としているのは師であるフリーレンとフェルン、姉弟子のルーエぐらいだ。
シュタルクから視ると、実に偏よってるなと。いずれも一流で信頼できる人間ではあるのだけれど。
「性格がなぁ……」
「なにか言いましたか?」
「いえ何も……」
冷や汗をかいて誤魔化したが、フェルンの目には「言いたいことは把握しているから今夜覚悟しろ」と書いてある。
「どういう化学変化が起きるかはわかりませんが……
極端に身内贔屓なあのティアフォートが実力の拮抗した友達を作る。親としては強く願わずにいられません」
「そうだな。それは確かに」
人見知りではないのだが、言葉巧みに一定距離を死守する気難しい子だ。
そういう人物がひとりでもいて欲しい。
「なるようになるかなぁ」
「そうですね。あの子達が最適な答えを出せるよう、私達は私達のやり方で場と機会を与えるだけです」
なるほど、とシュタルクが答えるとフェルンは母親らしい表情で笑った。
■借りてきた子猫の晩餐会
「フェルン先生、残りの下処理は私がしますので、火を通すものをお願いします」
「わかりました」
一息ついた後に居間に顔を出したアルヴィラが見たのは、エプロンを付けたフェルンと……知らない黒髪のメイド服の女性。
二人共手慣れた手つきで調理を進めている。
ちなみに男性陣……シュタルクとシュタアルもジャガイモの皮を剥いている。
「お二人共料理されるんですね」
「ん……珍しいかな?」
「いえ、そんな事は……パパ……父も時々調理場に立ちます。荒っぽい料理が出ますけど」
アルヴィラの苦笑しながらの回答にシュタルクは感慨深そうに笑う。
「ヴィアベルらしいな。目に浮かぶ」
「シュタアルさんもお料理されるのですか?」
ん?と、手を止めたシュタアルはアルヴィラに顔を向ける。
「フリーレンに連れ出されて野営とかするからね。
まあ、父さんと俺が作れるのは……ヴィアベル先生とそう変わんないよ」
アルヴィラも一応母から手ほどきは受けているが……
土地柄上……、粗雑な男性を視る機会が多かった彼女としてはシュタアルが器用にじゃがいもを剥く姿は少し珍しい。
「ご立派なことだと思いますよ……
ですが、見た感じ……あまりお二人の手を必要としないようですが……」
「「うぐっ……」」
アルヴィラがちらっと視界に入れた厨房。フェルンともう一人の女性が阿吽の呼吸で調理を進めている。
しかも、魔法で操作しているのか、いくつか包丁がひとりでに動いている。
認識の拡張と精密な魔力操作を必要とする事象……と思う。
当人は別のことをしながら、非同期に別の作業をするために操る……少なくともアルヴィラには出来ない。
変なところで格の違いを見せつけられる。
「まあ、今はできるだけフェルンに無理させたくなくてね」
「……そうなんですか?」
というのはシュタルクの言葉。
フェルン様はどこか身体を悪くされているのだろうか?とも思ったが……そんな様子もない。
「奥様想いでいらっしゃるんですね」と返すと「はは、そんな感じかな」と苦笑された。
しかし、あの黒髪の人はだれだろう……? 衣装からすると、この家の雇われメイド?
と訝しんだ目で時々その人物を視線で追っていると。
こちらを見て笑顔で会釈してきた。
―― 気づかれた。思ったより鋭い。
「アルヴィラ様ですね。こんにちは。私はフェルン先生のもとで魔法を学びながらお仕事のお手伝いをしております。ルーエと申します」
「え……北部の……北壁の街からやってきました。――1級魔法使いヴィアベルとエーレの娘の……アルヴィラと申します。
……あの、どうしてメイド服を?」
ぐっ!!と横からうろたえるような声が聞こえて振り向くとシュタアルが心臓あたりを押さえていた。何故……
その様子を見て口元を手で抑えているルーエはクスクスと笑っている。
「私の恩師の一人からしばらくこれを着ているように命じられたのです。意外と着る機会がないものですから」
「はあ……」
シュタアルが何故か明後日の方向を見続けているのにちょっと引っかかりを覚えつつ……
「……私もお手伝いできることはありますか?」
とりあえず、座して待つのだけは辞退することにした。
✧ ✧ ✧ ✧
「なんで……?」
「あなたが、暇そうにしているだろうから……ということですわ」
「注文の品の受取なんて、一人で行けるでしょう」
母フェルンの指示ということで渋々とフリーレンの書斎から出てきた紅い髪の少女。
「ティア姉さま行くなら私も行きます!」と小さな妹のエリシアも彼女の後ろ控えている。
「私、今日来たばかりなんですけれど」
「地図を描いて渡しましょうか?」
無論そんな応対をすれば彼女の母から大目玉を食うだろうからおそらく牽制。
「それで受け取るものとは?」
「……お肉と……少量のお酒と、りんごとオレンジジュース。あとケーキってところでしょうか?」
そのラインナップを聞いたエリシアは目を輝かせる。
「ティア姉さま!本当ですか?」
「ええ、楽しみね。エリシア」
頭を撫でられると無意識に手が置かれた方向へぐいーと寄っていく姿は子猫を想起させて可愛らしい。
「誰か、お誕生日なのですか?」
「……どうかしらね」
アルヴィラの素朴な疑問にすっとぼけた様子でティアフォートは答えた。
彼女は小さな声で「サプライズにする意味もないのでしょうけど、母様はまったく」と呟いた。
「??」
家族も多いのでなにかあるのだろう。ひとまずは納得することにしてアルヴィラは歩き出した。
✧ ✧ ✧ ✧
『ようこそ、アルヴィラ様』
居間に吊るされた垂れ幕にはそう描かれていた。
クレヨンで書かれたと思われる可愛らしい文字。
あとは綺麗な花の飾りつけなどがところどころ。
「え……?」
唖然とするアルヴィラ。そして隣で顔に手を当てて頭痛が痛い様子のティアフォート。
「素敵ですー」と笑顔でパタパタと居間に向かうのはエリシア。
彼女はシュタルクに飛びついて、そのまま持ち上げられて膝の上に座った。
おそらく、あの垂れ幕の文字を書いたのはエリシアなのだろう。
「お帰りなさい。ティア、アルヴィラさん」
「あのフェルン様……これは……?」
聞かなくても判る。判るけど聞かずにはいられない。
「折角来ていただいたのです。みんなで歓迎しようと思いまして」
なんとも言えない顔をしているのはティアフォート。
嫌がっていると言うよりかは恥ずかしさが先立っているという様子。
「はしゃぎすぎです、母様……人が滅多にこない田舎家族みたいじゃないですか」
「むしろ、そのとおりでは?」
「ッ――――!!」
そういえば、北壁がある街でシュタアルとティアフォートを迎えようとしていた父のヴィアベルもなにかしようとしていた。
フリーレンが引き連れた3名が道すがらのダンジョンに突撃し、行方不明騒動が発生して有耶無耶になったが。
まあ、来客にソワソワする父を見ているとちょっと恥ずかしかった気持ちは判る。
ティアフォートのムズ痒そうな様子に覚えのあったアルヴィラはその様子を見てくすっと笑う。
ちょっと小馬鹿にされたように感じたのか、プクーと頬を膨らませた彼女は
「もう良いです!兄様!喉が渇きました!」
「小間使いか!判ったよ。アルヴィラも買い物付き合ってくれてありがとうな」
グラスに水を入れてティアフォートに渡すシュタアル。同時に彼は笑顔を向けてきた。
「いえ……こんな準備をして頂いていたなんて」
「向こうだとお世話になったからね。いっぱいお返ししないと」
「そんな事は……」
彼らの扱いは活躍相応のものだ。未成年故に雇用する形ではなくヴィアベルの下で修行の一環という体だった。
それでも、大人の比ではない相当数の魔物を駆除している。それこそアルヴィラが嫉妬を覚える程度に。
「あとは……収穫祭のお仕事も手伝ってほしいなって」
「魔法使いは何人いても困らないからな―」
申し訳無さそうに言ってくるシュタアルの後ろで、エリシアを膝に乗せたシュタルクが割って入る。
稔った作物の収穫は重労働だ。とはいえ運搬の一部などは魔法で省力化出来る。
コップを手にしたティアフォートやちょっと嫌そうにしているのは彼女らしい。
「はい。お任せください。お役に立ってみせます」
何にしても歓迎してもらった分、全力で返すべきだ。
双方向の感謝で世界は回っている。顔つきの悪い父と一緒に母も言っていた。
■収穫の季節
「ふう……」
手ぬぐいで汗を拭いながら農夫のような姿の領主シュタルク。彼は街の人々と共に収穫のために地道に刈り取りの作業をしている。
「こちら運びますよ」
刈り取った麦を縛って魔法で荷台へと運んでいるのは妻のフェルン。
アルヴィラはそんな領主夫婦の様子を遠目に見ていた。
「あの……質問が」
「何でしょう」
搬入と運搬、人の配置の指揮を取っているのは黒髪のルーエという人物。
昨日の歓迎会でも一緒にいたメイド姿の女性……だが今日はそうではないらしい。
一旦は彼女の指示に従ってほしいということで隣で細かな作業を手伝っている。
作物のチェックだ。
「シュタルク様とフェルン様……領主様なんですよね?」
「はい」
「収穫の……ってやるものなんですか?」
「いいえ。普通はやりません。――そちらの作物は出荷倉庫へ、グラナト領へと運搬します」
淡々と仕事をこなしながらも答える彼女は、はたから見ると少し冷たい印象にも思える。
そういう人物ではないというのは……昨晩判っている。あの紅い少女が親愛と同じ量だけ警戒もしている人物……の様だ。
理由は判らなくもないがアルヴィラとしては慎重に観察せざるを得ない。
「良いんですか?」
「良くはありませんね……現在進行系で兄が机の前で目を回しています」
どうやら、領主不在の間の仕事は別で代行している人がいるらしい。
「そもそも、農地の主がやるべき仕事なのではありませんか?どうしてお二人が?」
「この一帯の農地の主があのお二人だからですよ」
「は?」
領主としての広い農地の主もしているという意味だろうか?だが現実的ではない。
領主は領地の運営をしていると農夫のようなことはしている暇はない。
「自営の農民が収穫して税として収穫物の一部を預かるべきでは?という顔をしていますね。
ご尤もです。それはあなたがしっかり勉強している証拠だと思います」
指導するような口ぶりに少しムッとしたが……考えが及んでいないのも事実なので黙って言葉を聞く。
「ここはまだ開拓したての土地です。数年前まで荒れ地でした。コレを自営の農民に任せるのは愚策です。
公共事業として立ち上げ、少しずつ農地を作り上げてきたのです」
「……資金源は?」
「借金ですよ。グラナト伯爵とオルデン家にはかなりの額の。無利子無担保なのはお二人の功績と縁があってこそですね。
だから領地運営はしっかりしてほしいのですけれど……」
困ったものだ。口ぶりはそう言っているけど顔は嗤っている。
「全く持ってノンビリ屋の主達ですが……私達が返済しきってみせましょう――」
それはとても美しいと思える笑顔。だがその中に顔に少し獰猛さ……が混ざった嗤いにも見えた。
ただの冷静な主の秘書……と言う訳ではないらしい。アルヴィラは息を呑みながら眼の前の人物の評価を少し修正する。
「私がこんな事聞いても良いのですか?」
「構いません。この程度のことは地の大抵の人間が知っています。だから全員がこの地に還元するために懸命に働いています。
……誰もが、返したいのでしょうね。平和に過ごせる恩義と幸せな生活の対価を」
その価値をアルヴィラは知っている。北壁で戦う理由そのものだ。
誰もが平穏に過ごしたい。だから懸命に戦い、強くなることを望むのだ。
「何にしても、領地運営そっちのけではありますが……
こうしてお二人が汗を流して仕事をする姿を見せる事で得られることもあります」
「はあ……」
「作物の実りはそれだけでも喜ばしいことですが……その作業は重労働です。
それでも、街の住人たちが喜び作業をしてくれているのは……やはりあのお二人があってこそだと私は思います」
魔族の討伐の最前線で指揮を取りながらも戦う父と母をふと思い出した。
それはリスクではあったが、それでもあの過酷の一時に立ち上がる勇気をくれる。
「そういうことも……あるかもしれませんね」
遠方から訪れた少女は眼の前の土地の実態を見てそう呟く。
✧ ✧ ✧ ✧
収穫と領地運営事情はあるにしても、アルヴィラ的に気になることを確認する。
「ところでシュタアルさんとティアフォートさんは?」
「お二人は見張りです。ティア様は……この手の作業を非常に嫌がるので。シュタアル様はその付添です」
なるほど、あの紅いヤツは嫌がりそうだ。
「もう少しお手伝いをしたら私もそちらに合流してもいいですか?」
「構いませんよ」
アルヴィラの質問にルーエは笑顔で答える。
「ところで――」
ついでに……ちょっと気になったことを。
「ルーエさんは……シュタアルさんのお姉さん?なのですか?」
「……はい、姉弟子と弟弟子という関係です」
いま……、何かはぐらかされたような感じがした。
「――なるほど……姉弟のような関係ですか?」
「……はい。同門の姉弟子と弟弟子です」
「……そうですか」
「……はい。そうです」
なんだろうか?頑として譲らない何かを感じる。
あの紅いのが彼女に対して決して警戒を解かない事をアルヴィラはふと思い出した。
「シュタアル様は、弟弟子ですよ」
にこりとした彼女の笑顔は……視るべき人が見えればとても魅惑的なのだろう。
✧ ✧ ✧ ✧
地図を見ながら、何かを話し合っている青紫色と紅い髪は傍目にはわかりやすい。
「シュタアルさーん!」
姿を確認したアルヴィラは小走りで彼らのもとに駆け寄る。
「お、どうしたの?
姉さんといっしょに運搬管理してなかったっけ?」
「はい。今日は色々見て回ろうと思いまして。お二人のお仕事も見学させていただく了承を得てきました」
「そっか。じゃあ、一緒に見回る?」
手を差し伸べるように差し出しながら誘ってくるシュタアルと彼の脇腹を肘鉄で差し込むティアフォート。
「はい。よろしくお願いしますわ」
嬉しそうに笑うアルヴィラは二人に並んで歩き出した。
✧ ✧ ✧ ✧
「魔物は出るのですか?」
問いかけられた素朴な疑問。アルヴィラの住まう北側諸国の更に北端。魔族と魔物が多い地域であり、街壁や結界がなければ生活もままならない。
中央諸国は比較的安全とは言われているが……実態はよくわからないのであろう。
「出ない……なんてことはないね。駆除はしてもある程度移り住んでくるやつもいるし……
あと、北側もそうだろうけど、魔物だけじゃないしさ」
「ああ……たしかにそうですね」
豊かな地域ができればどうしても、それを狙う者も現れる。
「こうして、私達が見回ることで抑止力にはなります。
無論、小僧と小娘と舐めてかかってくるものは人だろうが魔物だろうが鉄槌を下しますが」
ずっと黙っていたティアフォートが人差し指を立てながら補足する。
それを聞いたアルヴィラは苦笑した様子で答えた。
「貴方らしいですわね」
「……どういう意味ですか?」
「俺挟んで喧嘩しないで……」
険悪なのか賑やかなのか……しかし、流石にシュタアルにもわかる。
ちょっと敵意むき出し気味だが、妹が家族外の他者をこんなに意識するのは珍しい。
学舎でも必要なコミュニケーションは取るが、とにかくドライな行動の多い彼女。
究極のファミリーファースト。仲良くしたそうな娘達も傍目にはいるのだけれど
「ティアちゃんはそうだよね」という理解が先立ってしまっている。
にらみ合いを止めた二人はシュタアルを挟んで元の位置に戻るが……
「なあ、ティア……歩きにくい……」
「いつもこんな感じでしょう?」
「いや、しないだろ……」
頬を膨らませたままのティアフォートは元の位置に戻るついでに腕を組んできた。
あえて触れると面倒なので言わないが、こういうときに成長中の胸を押し付けてくる。
武器になるサイズだと自覚していそうで実に厄介。
「どう?」とばかりにフフンという顔でアルヴィラに笑いかけると彼女の眉が露骨にひそめられる。
「しゅ、しゅ、シュタアル……さん、私も……お手を……」
「対抗しなくて良い!! ティアも離せ。両手塞がったらなんか出たときに二人を守れないだろ!!」
ティアフォートは機嫌を悪くしそうだが、シュタアルは無理やり手を引っこ抜く。
まあ、ダメなものはダメだし、危ないものは危ない。
「あっ……むぅーーー」
「むぅじゃないよ。街の外だし、整備されてない道で油断は本当に危険だから!」
と、しばらくはそんな様子で賑やかな見回り珍道中は続いた。
✧ ✧ ✧ ✧
見回りの折り返し地点。小高い丘の上まで昇った辺り。
街の逆サイドには森が広がっている未開拓地。ある程度管理はしても、不必要に森を切り開かないことも重要なことではある。
「畑だけでもそれなりの面積ですけど、二人で見回りを?」
「流石に、他にもいるよ。もともと冒険者だった人達も街に住んでるからね。
希望してくれる人もいるから場所とタイミングのローテションとかも組んで」
計画はほとんど兄さんと姉さんが考えてるけど……と小声で補足しつつ。
「そうなのですね……北側だと寒冷で危険地帯も多いから作物は取れないこともないですけど輸入が多いですから……新鮮な光景です」
「まあ、ああいう場所があるからこそ平和に暮らせてる地域もあるから。持ちつ持たれつじゃないかな?」
「そういっていただけると――あら……?」
表情を変えて顔を上げたアルヴィラ。
ふと感じたのは
―― ゾクっ ――
という悪寒。
「どうかしたの?」
感じ慣れた背中がざわめく感じ。魔物討伐のときに感じる嫌な気配が小さくかすかだが……
「……少し、覚えのある気配が……いえ、気の所為だったかもしれません。すいません話を中断して」
「そう? 森も近いからいろんな気配も混ざるだろうし……何かいるのかな?
父さんと母さんやフリーレンも、そういう直感って大事にしろって言うし……気付いた事があれば何でも言ってくれよ」
「承知しましたわ」
アルヴィラが答えるとシュタアルは満足そうに頷いた。
「兄様。そろそろ戻りましょう。交代の時間にもなりますし……多少は収穫の手伝いもしないと母様に怒られますよ」
「……嫌がったのお前だろ」
「覚えていませんね……」
相変わらずのやり取りに苦笑しながらも、ひとまずは作業地点に戻ることにした。
――カサッ ――
そんな折、足元で聞こえた小さな異音。何かを踏んだ。
屈んでそれを確かめたアルヴィラの目に映ったのは――
「黒い……枯れ葉……どうして?」
■労働の後に少女は想ふ
作業を終え、日も沈みそうな頃合い。
街の広場に人だかりができて賑わっている。
「今日もみんな、お疲れ様でしたーー!」
というシュタルクの声に作業をしていた者達が一斉に酒の満たされた杯を掲げて声を上げる。
「お疲れ様です。シュタルク様。麦茶で良いんですか?」
「ありがとフェルン。いや、流石に明日もあるし……」
シュタルクの声にフェルンが苦笑いをしながら「そうですね」と同意した。
流石に、翌日二日酔いで力が出ないという状況になる訳には行かない。
「シュタルクとフェルンの分は私が飲んであげるから、安心して休んでいてね」
というのは先程から人だかりの中央にいる我が家のエルフ様。
人とよく関わり笑うようになった。皆もそれを理解し彼女を敬愛し……
「ほぼマスコットですよね。エリシアといっしょにいると」
「まあ、そうね……。良いんじゃないかな。みんな喜んでるし」
エリシアと手をつなぎ、末の娘の面倒を見ているのか面倒を見られているのか。
半々と言ったところだがあれはあれで安心出来るのでまあよしとしている。
そうしていると、見覚えのある姿の3人がやってきた。
「父さん!母さん!お疲れ様」
「シュタアル。お疲れさん。いろいろありがとうな。アルヴィラもどうだった?
ヴィアベルからは何でも手伝わせてやってくれって言われていたけど」
近づいてきたシュタアルの頭を撫でようとすると彼はシュタルクの腕を受け止めてそれを遮る。
謎の攻防をしている親子をみてアルヴィラは苦笑いしつつ。
「はい、お勉強させていただいております。北の地では作物が育ちにくいので新鮮です。
お役に立ってみせますので何でも言ってください」
✧ ✧ ✧ ✧
嬉しそうに報告する彼女の様子を見ているティアフォートの背中がぽんと押された。
「仲良くなれましたか?」
「母様……はい、私どんな人とも友好的にやっていますよ」
相変わらずの娘の様子にフェルンは苦笑する。
「成果は今一歩……というところですか。ヤマアラシのジレンマってお話は知っている?」
「――何が言いたいのか……皆目検討が」
「ティアは優しい女の子で、ヤマアラシではないのだから……もっと近寄れるでしょう。という話です。
あの娘がいい子であることは理屈では理解できてしまっているのでしょう?
それに、シュタアルも関わる人が増えたぐらいで妹を軽視しないなんて元からわかってるでしょ?」
母の言葉に言い返せずにティアフォートは頬を膨らませる。
「感情が許さない事は、お母さんも覚えがあります。それは若さの証拠でもあるけど。
少しだけ勇気を出して手を広げてみて。世界は広がるわ」
普段表情を見せない少女にしては珍しく頬を赤くしながら「はい……」と答えた様子をみてフェルンは満足げに微笑んだ。
✧ ✧ ✧ ✧
「森の方に怪しい気配……か……」
アルヴィラが感じたものの話をシュタアルといっしょに聞いたシュタルクは腕を組んで考える。
「それは、丘向こうの森のほうから?」
「はい……一瞬だったのでちょっと自信はないですけど」
シュタアルがそういうのは報告しておこうと勧めるため、シュタルクに連絡することにした。
「作業を中断するぐらいの危険度は感じたか?シュタアルの直感で良い」
「いや、そういうのはなかった」
「そうか……」といってシュタルクは口元に手を当てて考える。
「明日からしばらく、街のみんなには違う方面の収穫作業をやってもらおう。
継続的に調査勧めながらで……危なそうなところは俺とフェルンと、他緊急時に動ける人間で対応しよう。
ルーエ悪いけど調節頼めるか?」
「わかりました。配置計画を見直しておきます」
話を聞いていたルーエは肯定の声を返した。
「ごめんな……こんな時間に」
「構いませんよ。そういう季節です。あと、未だに領主館で机に張り付いている兄さんにもいたわりの言葉をお願いします」
「後で言っとく。ほんとーーに助かってる」
しみじみと答えるシュタルク。
「父さんこの時期はデスクワークしなくて済むってちょっと嬉しそうにしてるんだよね」
「そうなのですか?」
小声で補足するシュタアルの言葉に、まあという様子でアルヴィラは笑った。
「こら、でたらめなことを言わないで」
コツンと頭に落ちてきた拳。
「母さん?」
「たしかにシュタルク様は書類仕事を苦手としています。だからといって決して逃げたりしていませんよ」
フェルンの一言にシュタルクは「うぐっ」と唸り、胸のあたりを掴んでから「ごめん……エアフォルク……」とぼやいた。
「まあ……とにかく。その話はこっちでなんとかするから。気負わず楽しんでくれ。
ほれ、飯食ってこい!あっちにフリーレンとエリシアもいるから」
シュタルクの指さした先にいたエリシアは兄と姉の姿を見て大きく手を振っている。
「わかった。ティアフォート、アルヴィラ。行こうか」
「ちょっと……兄様!」
「シュタアルさん?」
二人の少女の手を引いて進むシュタアルの姿を見届けたシュタルク。
「親の目の届かない所でも、子供って育っていくものだな」
「今更何を言っているのですか……」
自然な所作で隣に座ってきたフェルン。
「あの子達が自由に育てるように頑張っているのはシュタルク様でしょう」
「まあ、そっか……そうかも。ところでフェルンさっきの話どう思う?」
さっきというのはアルヴィラの報告の話。さて、とフェルンは答える。
「なにもない……と考えるのは愚策でしょうね。結果が徒労だとしても安全の確保に貴賤はありません」
「だよな……子供達が笑ってられるように、お父さんとして明日も頑張るかー」
伸びをしながら立ち上がったシュタルクに付き添うように。
「私も手伝いますから」
と、フェルンも一緒に立ち上がった。
✧ ✧ ✧ ✧
その夜。アルヴィラは割り当てられた寝室で手帳に今日の出来事を書き留める。
少しはしたなかったかなとも思いつつ、ベッドで横たわりながら。
「……楽しかったな」
北側の状況を放置して外に出るなんてことあまり考えてこなかったが……
知識として知っているようなことでも、実際に見るのは全く違うし、経験は何にも代えがたい。
誰もが温かに迎えてくれる幸せ。コレがこの土地を治める二人の英雄が作り上げたいものなのだろう。
「収穫、たくさん採れると良いな」
明日は自分も収穫作業のお手伝いをする予定だ。
一緒にやるぞと紅いやつにも約束を取り付けた。
渋々。本当に渋々という顔で了承してくれた様子だった。
―― 『黒い……枯れ葉……どうして?』
しかし心に引っかかるのは今日の出来事。黒ずんだ一枚の枯れ葉……あれは何だったのだろう。
むかし、北の国でも一時期起きたことがあるような……
―― 海で取れる魚や小動物が黒くなって、毒気と瘴気を放って食料が……
「何だった……け――」
―― 『だめだ、これは全部焼け!食ったら感染して死人が出るぞ!』
あまり良くないことが起きた時に見た気がする。
―― 『撒き散らしたやつがいる、絶対に仕留めるぞ』
最後は父がなんとかして事なきを得た出来事……
思い出そうとするほど、今日の疲れでどんどん眠気が押し寄せて ――
少女の意識はまどろみに落ちてその日は終わりを告げるのだった。
~ 真紅のお姫様と北壁のお嬢様 前 to be continued ~