葬送フリーレン~アフターオレオール~ 作:rvr75_raiden
■イントロダクション
■ 独自キャラクター(原作キャラクター以外に登場する主なキャラクター)
- シュタアル(Stahl) : シュタルクとフェルンの間に生まれた長男。15歳。まっすぐな性格の青紫の髪と三白眼が特徴の青年。出力不足で魔法はいまいちだが剣技と努力で補う。
- ティアフォート(Tiefrot):シュタルクとフェルンの間に生まれた長女でシュタアルの妹。14歳。赤い髪と真紅の瞳を持つ。魔法の才能は母譲りの天才。
- アルヴィラ(Alvira):ヴィアベルとエーレの娘。14歳。ブラウンの緩やかなウェーブのかかった髪の少女。すこしプライドが高く素直ではない(かった?)女の子。ティアフォートと相性がいいんだか悪いんだか。
- ルーエ(Ruhe):フェルンの教え子兼仕事上の秘書。19歳。黒髪ロングヘアと黒い瞳を持ち、師匠ゆずりの冷静な性格のようで内面は激情家。魔族の呪いを受けておりシュタルクとフェルンに救われた過去を持つ。
- エリシア(Elyssia):シュタルクとフェルンの間に生まれた次女でシュタアルの妹。10歳。感情豊かで素直な幼い頃のフェルンそっくりな女の子。
■ 前回までのあらすじ
北壁の街からクレ地方の収穫祭にやってきたアルヴィラは、ティアフォートやシュタアルたちと交流を深めながらも、慣れない土地や家族の温かさに触れる。
交流の末、徐々に広がっていく彼女の世界。歳の近い二人の兄妹との絆。
そんな中、アルヴィラは森で見つかった病気のうさぎや黒い枯れ葉をきっかけに、街の周辺に不穏な腐敗の気配が広がっていることに気づく。
自分を暖かく迎えてくれた人たちへの恩義のため、平和な収穫祭を迎えるため。
一人、森に入ったアルヴィラは、強力な魔物に襲われてしまう。
アルヴィラは背負った想いと覚悟を胸に戦いを挑むが、魔物は彼女の隙を突きその魔の手を伸ばすのだった。
■蒼の衝撃
「ッッ! しまった!熱っ!!」
ジュッという音と共に強烈な熱を肩口に感じ思わず叫び体を捻るが、動くことが出来ない。
「これは……!!」
意識が飛んだ瞬間、ツルに捕まり、取り込まれてしまった!?
魔法使いの力では動くことがままならないくらいに締め付けられている。
「舐めないでくださる!!周辺ごとすべて燃やして――ああッ!!」
魔力を高めようとした瞬間、肩口に刺さったツルが激しく動き、何かをアルヴィラの中から取り出そうとする。
「生成した魔力を――奪おうというの……?ぐ……」
魔法を使おうとすると、魔力を吸おうとツルが傷口へと襲いかかる。
そして……全身に感じるこの違和感と、寒気。これは――
「腐敗……の魔法で全身を侵食しようと……早く抜け出さないと!」
このままで、街を救うどころか、全てを奪われてしまう……
✧ ✧ ✧ ✧
「ティア!!これは!?」
森の雰囲気が変わった。黒ずんだ木々はまるで行きている感じがしない。
英雄譚によく出てくる魔物の世界。あるのかどうかは不明だが、そこに描かれる不安な気配のする景色に似ている。
「アルヴィラが言っていた、腐敗の侵食……?いつの間にこんなにも。魔力を感じさせないから気配すら……」
「つまりは……?」
「兄様、わかりませんか。黒くなった木々は生気を感じさせません。おそらく、生命活動を支える魔力すら奪いつくされて腐敗しつくしている……触らないほうが良いですよ」
ティアフォートに言われてシュタアルは黒くなった木に触れるのを止めた。
「浄化の魔法は……?」
木の一部に女神の魔法、浄化の洗礼を浴びせる。
幹は通常の色を取り戻しながらも――その場で崩れ落ちた。
「こんな事が……」
「思ったより不味そうです。アルヴィラを追いましょう兄様!」
✧ ✧ ✧ ✧
―― 体が焼けるように熱い。
辛うじて無事で居るのは彼女の母からもらったローブ。幾重にも呪や魔法に対する抵抗が施された彼女の宝物の一つ。
それが守ってくれている。だが……それでもローブの隙間から侵食は始まっている。
怖い……死ぬのが怖い。
「パパ……ママ……ごめんなさい」
いつだって守ってくれて……
小さく、凝り固まろうとしていた自分の背中を押してくれた優しい父と母。もう会えないのだろうか……
「シュタルク様、フェルン様……こんなご迷惑をかけるだなんて」
この地に暖かく迎えてくれた憧れの魔法使いと戦士の夫婦。もっと力になりたかった……
「シュタアルさん……」
いつも優しく微笑んでくれる。一人っ子のアルヴィラにも、優しくて楽しいお兄さんが出来たようで嬉しかった。
「ティアフォート……さん……」
その、燃えるような紅い髪と、引き込まれるような真紅の瞳……自分にない何かを持っている。それが、気に入らなくて……
魔物のツルは生命力と魔力を奪い尽くしたと判断したのか彼女の頭部を刺し貫こうと針のついたツルを構える。
「また……喧嘩でも良いから――話したかった――な――」
いよいよ、ツルが動き、頭蓋を刺し貫こうとした瞬間。
―― あんた!私のことどんだけ――!! ああもうっ!! ――
遠くでよく通る声が聞こえる。
「 ――
瞬間、届いた閃光が彼女を貫こうとしたツルを撃ち落とした。
「ティア……フォートさん……?!」
「兄様!! 私が状況を支えます。アルヴィラを!!」
こちらに飛翔してくるティアフォートの背後からさらに素早い速度で疾走する蒼い影。
「応!!」
飛び上がったその影にツルの触手が次々と襲いかかるが……
「させない!!」
ティアフォートの魔法がその全てを打ち抜き、叩き落とす。
―― 助けに来てくれた……?
―― また、私は……この2人に……?
「アルヴィラあああああ!」
シュタアルは叫びながら剣を取り出し、アルヴィラの体に巻き付くツタに切りかかった。
「ッッ!?」
一瞬緩みかけた隙に、さらに現れたツルが多重に巻き付いてしまう。そして――
「熱っ!? なんだ……」
「シュタアルさん、直接触ると、侵食の毒が!」
振り絞った声が思ったより大きかったのか、シュタアルは目を見開いて驚いた様子だった。
だが、彼はまるで無邪気な子どものようで……そして優しい笑顔で答える。
「―― なるほど。全部わかった!!」
そう言うとシュタアルはアルヴィラの体に巻き付いたツルを強く掴む。
手袋越しだが、その掌からはジュウジュウと音を立て、煙が上がり始める。肌が侵される音。
それにも構わず、シュタアルは「ちょっとごめんな」と言いながらアルヴィラとツルの隙間に剣を差し込んだ。
テコの原理で剣の取っ手を引き、内側から切り破ろうとする。
「シュタアルさん、駄目です!!あなたまで侵食されて――」
「俺は大丈夫だ!!アルヴィラだって痛いだろ!! そんなの、1秒でも早く抜け出そう!」
「シュタアルさん……でも……このままじゃ」
彼まで腐敗の毒に侵され、下手をすれば腕が壊死してしまう。負けてしまえば命を落としてしまう。
「任せろ!絶対に助ける!俺は負けない!」
「何を……根拠に……」
「アルヴィラの目は……負けたくないって!まだ戦えるって言ってる!」
―― 息が詰まった。
眼の前の少年は……アルヴィラの目はまだ勝利を掴む意思を捨てていないと、そう言っている。
北の地で、助けを叫んだあの日。自信の泣きそうな姿を見て助けてくれた彼が――そう叫んでいる。
「だったら!言ってくれ!」
「――私は……」
「アルヴィラはまだ……折れてないって!」
心の奥底に燃える物がある。
「……けられない――」
「そうしたら――きっと――俺は助けられる!」
過酷な北の地で、人の叶わぬ魔族と魔物から……営みを守り抜いてきた一族の血が叫んでいる。
「負けたくない!! こんなところで終われない!! だって私は――」
―― 私は北部戦線を長年守護する魔法使いヴィアベルとエーレの娘、強敵を前にして臆するいわれはありません!! ――
アルヴィラの叫びに少年の口角は不敵に上がる。待っていた言葉が期待の何倍にもなって返ってきたような。そんな歓喜の笑み。
「よっしゃぁ!なら出し惜しみなしの全開だ!!」
シュタアルがツルを掴んでいた左手。指先が徐々に黒ずみ始めていたのだが、それが輝き始めた。
「浄化の魔法……?」
「弱くても……1点集中すれば!!」
煙が上がっていたのは侵食していたからではなく、浄化していたのだ……それに気づいたアルヴィラは目を見開く。
「私の兄様は……ある種の馬鹿ですが、無能ではありません。」
未だに2人を襲おうとする触手と、ティア自身を攻撃しようとする触手を――
―― まるで舞うように撃ち落とし
―― 時には炎で燃やしながら
ティアフォートは強く宣言する。
「ぬあああああああああああッ!!」
シュタアルの左手の輝きは女神の魔法の浄化の輝き。一点集中し、侵食の毒が消え、巻き付いていたツルは苦しそうにしぼんでいった。
「今なら!!」
シュタアルは剣で巻き付いていたツルを切り裂いた。
そのままアルヴィラの手を掴んで一気に引き抜く。
「きゃっ」
持ち上げられたアルヴィラはお姫様抱っこの形で抱えられた。
「シュタ……アル……さん?」
下から覗くシュタアルの顔……切れ目の鋭い瞳……それはまるで ――
「よし、ティア!!頼んだ!!」
とか――考えていたアルヴィラだったが……突然、ガクンと姿勢を落とされ体を揺らされる
「えっ、なんですの?!ええええ?」
そおいっ!!という勢いでティアフォートの方向にぶん投げられた。
「なあああああ!!」
哀れ、兄に放り投げられ飛んでくるアルヴィラ。
ティアフォートは触手の迎撃を一時止めて、彼女を物理魔法で受け止めた。
「な……な……な……」
「……気の毒ですが、あれが兄様です」
「そんな……」
ティアフォートに地面に下ろされたアルヴィラはガックシと肩を落とした。
✧ ✧ ✧ ✧
ティアフォートがアルヴィラを受け取ったのを確認したシュタアルはすぐさま、襲いかかってくる触手に対応する。
背後や側面から襲いかかる触手を回避し、すぐさま切り落とす。
―― 切りがない ――
早く決着をつけないと……
「ティア!! 魔力が集中している場所を教えてくれ!!」
これに心臓のようなものがあるかわからないが……魔力が集中する点は、魔物にとってはたいてい何らかの器官となっている。
破壊すれば、おそらくは事態は進展する。
「兄様の経っている枝の丁度本幹の中央です!私が撃ち抜きます」
そう言ってティアフォートは杖を目標に向けて魔法を収束しはじめる。
「ティアフォートさん!駄目です、魔力を集中させると――」
「なっ!!」
その瞬間四方八方からツルがティアフォートに向かって凄まじい勢いで伸びてきた。
彼女はとっさの防御魔法でその攻撃を防ぐ。
「強い魔力に反応して、自動反撃して吸収しようとしてきます。今まで通り!出の早い魔法で――」
ティアフォートは多彩な少女だ。魔法に関することは大抵鼻歌まじりでこなしてしまう。
だが、彼女は母の速射には至れない。「普通の魔法使いに比べたら全然早い」というのはフリーレンの言葉だが
ティアフォートは母にまだこの点は全く追いつける気がしない事を把握している。
「今の反応だと撃ち抜く威力は……」
だが……
「だったから俺がやる!!」
シュタアルは巨木の魔物に斬りかかる。
――「お、綺麗に割れたじゃないか。やっぱり日々努力は無駄にならないな」
――「呼吸と力加減なんだな……」
木目に沿い――、インパクトの瞬間――、呼吸を吐き出し―― 、刃の突き刺さったその一瞬に全力で振り切る――
巨斧ではない剣による一撃。それでもシュタアルの一撃は巨木の幹の一部を大きく切り裂いた。
だが――木目に傷をつけても植物には決定打とならない。ツルはなおシュタアルめがけて飛んでくる。
「兄様!!」
「シュタアルさん!!」
剣を手放した左手。大きく切り抜かれた木目の傷に掌を当てる。
「――
遠距離の遠当てのできないシュタアルの奥の手。零距離貫通魔法。
距離も時間もすべて捨てて、手元の貫通威力に極振りした一撃。
もちろん、母やフリーレンのものにはそれでも威力で及ばない。だが――
「流石に痛いだろ――ぐあっ!!」
その巨木の幹が叫ぶように震え始める。
「兄様!!」
駆け出したティアフォートは落下するシュタアルを魔法で受け止めた。
無数のツルがシュタアルを襲ったのだ。
「わりい……」
「間抜けな兄様のフォローは私の仕事です!!」
「ありがとうだけど、言い方酷くない?」
ちょっと怒ってる様子にシュタアルはしょんぼりした顔で答える。
「兄様……誤魔化していますが……全身、侵食の火傷だらけですよね。自分で浄化して誤魔化しているみたいですが!!」
「2回言わなくても……、誤魔化してないよ……それより、アルヴィラ!!」
「はい……」
巨木は未だに混乱している様子だったためアルヴィラはシュタアルに駆け寄った。
「服脱いで!!」
「はい?」
突然の脱衣命令に目が点になる二人。
「―― 兄様……いつも言っていますよね。言動に――気をつけろと……次はその命はないと思え」
「何それ怖い!!痛い痛い!杖でぐりぐりするの止めて。腐敗の侵食の浄化だよ」
シュタアルの言葉の意図を理解したアルヴィラは胸をなでおろした。
理由はわかっても流石にこの場で脱ぐのはちょっと……
「私のローブは特別製です。服の下はそれほど問題ありませんので……」
「それでも腕とか、首筋とか…凄いことになってる。早く治療しないと!!」
よろよろと立ち寄ってくるシュタアルはアルヴィラの腕を掴んで治療を始める。
直接掴むのは本人曰く威力の問題らしい。真剣そのものな表情にはまったく他意を感じない。
―― このまま行くと……肌が露出したところ全部触られるのか……
と、若干赤くなりつつ……後ろにいるティアフォートの背後には紅い炎が上がっているのも感じつつ……治療は続いた。
■紅の衝動
「……これで……あと、その顔の火傷……を……」
腐敗の魔法で黒ずんでいた箇所は排除したが、触れられていた箇所の火傷はまだ治っていない。
『女の子の顔に痕が残らなくてよかった』そんな事にこだわる少年は、アルヴィラの頬に残る火傷に触れようとして
「シュタアルさん!!」
―― 魔力切れで倒れた。
「……魔力が尽きましたか。痕は帰ってから教会でどうぞ。くれぐれも兄様に頼まないよう」
「あなた、この状況でそんなことを気にします……?」
強い瞳で睨み返すその顔には「気にします!」と書いてある。
先程までの治療の様子が気に入らなかったようだ。
まあ、ローブから露出している箇所は少なかったとはいえ……恥ずかしかったのは事実。
「残る魔力を使って、あれを焼き尽くします。再生する隙すら与えず……だから、アルヴィラ、お願い」
「……」
「私を守ってくれる」
おそらく、まだ健在な魔物は魔力の高まりと収束を検知すると自動的に攻撃してくる。
それを防げというのだ。
「わかりましたわ……」
「おねがいね」
シュタアルの傍らに立ったティアフォートは瞳を閉じて集中し始める。
それと同時に無数のツルが大量に押し寄せてくる。アルヴィラは防御魔法で全体を包み込む。
残り魔力も少ない中で消費も大きいが、仕方ない。
魔力の高まりに比例してツルの攻撃は熾烈さを増す。
(なんて、恐ろしい才覚と魔力……)
数多くの魔族を屠った魔法使いフェルン。その娘の真紅の姫君……
悔しいが認めざるを得ない。間違いなく大陸屈指の魔法使いとなりうる器。
「……前のせ……お前……い……お前の所為……」
何かぶつぶつ言っているが……
「そう長くは……持ちません……早く終わらせて……くださいまし!」
「うっさい!もうすぐ構築出来る。全部ぶつけて塵芥にするイメージが!!」
想像以上に高まっていく強力な炎のイメージ。まるで彼女の紅い髪が炎であるかのようにゆらゆらと揺れる。
「まだ……ですの!? 防御障壁は負荷が大きい……!!」
「根性見せろ!枯れワカメ!まだあるでしょ、振り絞れる魔力」
彼女の心に何が渦巻いているのか口が悪い。だが……この事態の発破としては十分だった。
「はあああああああ!何言ってくれやがります!?このハバネロ女!
ええ!ええ!出してやりますとも!守ってやりますとも!私が!あなたを!恩に着なさいな!!」
「……上等よ!」
憎まれ口を叩きながらも二人の少女は笑う。
仲間を信じて全力を尽くせる。――それは……歓喜に満ちた喜びなのかもしれない――
✧ ✧ ✧ ✧
本当に腹が立った。迂闊だった自分も。ノコノコ一人で出ていったアルヴィラも。
自分以外を全力で救おうとする兄のお人好しにも。まあ最後のは改善のしようもない。
何故なら、否定する必要もないからだ。だが腹が立つものは仕方ない。
――だから
「終わりました」
「早くぶっ放してくださいまし!!」
両手に燃える魔法の炎はまさに彼女の名前にふさわしい真紅の揺らめき。
ティアフォートはその右手を引き。
「これは!私の兄様に、私の眼の前で散々攻撃を加えた分!!」
かざした右手の炎が巨木の周辺を燃やし始める。引き続いて左手をかざす。
「これは!アルヴィラを取り込み!腐敗に侵そうとした分!!」
左手の炎は幹の根元に転移し、巨木は下層部から燃え始める。
「そして――これは――」
一気に高まった彼女の魔力はその紅い髪を燃え盛るように逆立てる。
「兄様がアルヴィラをベタベタ触るって妙なものを見せられた!私の鬱憤だああああああああああ!!」
「――って、ええええ!!そっちッッ!?」
その彼女の叫びとともに凄まじい勢いで巨木は燃えはじめる。熱の高まりにより赤い炎は徐々に青くなっていく。
距離置いた、防御魔法越しにも感じる熱量。こんなもの、木でなくても大抵の生物は耐えられない。
「――あなたどれだけ……いやもう、いいですけど」
最後の花火とばかりに燃え上がった炎の柱は消え……残ったのは黒ずんだ、細い黒焦げの幹……というよりただの棒。
時間を置いてそれはパラパラと音を立てて崩れ去った。
「終わったぁぁぁぁぁ。ああスッキリした」
そのまま後ろに倒れてくるところをアルヴィラは受け止める。
「締まりませんわね」
「良いの!魔力足りなくて立てない。兄様を枕にしてしばらく休憩します!」
「……」
突っ込む気力も沸かないが……
「……助けに来てくれて……その……ありがとうございました」
「―― どういう心変わり?」
「いえ。信じきれず、軽率でした。あなた達を信じきれていなかった。
だけど……助けに来てくれました。あなた達が側にいると……背中を支えてくれると、信じられた時に強い力を感じ――」
「わかったわかった、もういいです。その恥ずかしい長話。後で父様と母様が聞いてくれますから」
そういって、寝転んだ彼女はアルヴィラと逆方向へ体を向けた。
「そうですか……」
その言葉の意味は、紅い髪の隙間から見える、赤くなった耳が物語っている。
✧ ✧ ✧ ✧
全部終わった。報告をして、収穫祭を迎える。それで全て丸く収まる。
そう思ったが……
「腐敗は……消えないのですね……」
黒ずんだ森は生気を感じさせないが、嫌な気配を放ち続けている……
森ごと、全部燃やすしかないのだろうか?そう思った時地面が激しく揺れはじめた
「今度はなんですの!?」
異変を感じたティアフォートも起き上がり、顔を上げる。
「まさか……」
―― 揺れの中心は巨木のあった根本
―― それを中心に地面が割れて
「なっ!!」
本体の巨大な顔と……無数の分体が地面から叫びを上げて現れたのだった。
■指導者の品格
「アルヴィラ!!残りの魔力は!?」
「殆どありません!あんな大きなもの駆逐するには……まだやりますの?」
ティアフォートは舌打ちをしながらも応える。
「やりません!……逃げる!」
「――悪くはない……不思議と魅力的な提案に聞こえます」
頬を伝う汗を流しながらアルヴィラも構える。
ここで果ててはならない。死にたくないから……だけではない。
それで得られるものはない。たくさんの迷惑もかかってしまう。だから――
いまは、生きて逃げ延びなければ――
「兄様が気を失ってくれて行幸でした。きっと一番反対しかねない」
『街と人を襲うなら、俺はここで退けない!』とかいい出します。と付け加えながらシュタアルを担ぐ。
「走れ!!」
彼女の言葉に一気に駆け出す。兄を抱えるティアフォートの重力補助をなけなしの魔力でアルヴィラがやりつつ。
ティアフォートは未だに襲ってくるツルを炎で燃やす。お互い示し合わさずに。何故かそうあれた。
だが……
「くっ!!」
人の鎧兵士を思わせる魔物の分体は彼女の退路に次々と現れる。
「地面から生えてくる……この黒ずんだ地面そのものが、テリトリーどころか体の一部ということですの?」
「幹じゃなくて……根が本体だったってことかしら……」
「どうします?」
ティアフォートは瞳を閉じてため息を付いた。
「……あまりやりたくありませんでしたが、仕方ありません」
「ティアフォートさん?」
魔物の分体が押し寄せてくる中、彼女は大きく息を吸い込む。
一体何をするつもりなのかと、息を呑んでアルヴィラは見つめる。
「―― 助けてええええええええええッ!! 父様ぁぁぁぁぁぁぁ! 母様ぁぁぁぁぁぁぁぁ!! フリーレン様ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」
「えっ?!」
彼女の叫びは救援を呼ぶ声。最初からそうすればよかったのでは!?そう思うが。
あまりやりたくないと言う彼女の言葉はなんとなくわかる気がした。
しかし、だからといって―― 押し寄せてくる魔物が止まるわけがない。
ありったけの魔力で救援が来るまで持たせる。アルヴィラがそう覚悟した瞬間――
―― 任せろ!!――
聞き覚えのある声と共に、耳に届く大地を割るような振動音。
「―― 閃 天 撃 !!――」
アルヴィラから見れば天にも登るような。地を割る閃光が分体の魔物を一気に薙ぎ払う。
ティアフォートとアルヴィラが立つ正面ギリギリまで届くその閃光は正面に一直線の通路を作る。
そして、こちらに向かってくる赤い荒波。それは周辺の分体をなぎ貼らないながら音速に近い速度でこちらにむかって。
「無事か!?ティアフォート!シュタアル!アルヴィラ!」
瞬時に反転したその赤い波が止まった瞬間。見えたのは今倒れている少年にも少し似ている、赤い背中。
「父様……いくらなんでも遅すぎです。作為すら感じます」
「え……あれ……?苦情?ティアの大好きな、お父さん来ましたよ?」
ティアフォートは腕を組んで大きくため息を付いた。
「私が飛ばした使い魔がメッセージを伝えてから。3人が駆けつけるのにそんな時間はかからないでしょう?
遠巻きに……見てましたよね?」
背中越しにもわかる。圧倒的な力を示して登場したにも関わらずダラダラと冷や汗をかく大陸の英雄シュタルク。
「あの……えーと……ティア聞いて。あれだよ。お父さんはすごく助けたかったんだよ?」
「知りません。収穫祭の日まで口聞いてあげません」
「そんなぁぁぁぁ! フェルーン、フリーレン!助けてぇ」
シュタルクが助けを求めたのは奥さんと、その師匠。
「――仕方ありませんね」
という声の元、上空から無数の光が降り注いだ。
光は残っていた魔物の分体を刺し貫き、滅ぼす。
そして降り立った二人の魔法使い。
「ティアフォート。お父さんを止めたのはお母さんです。あまり強く言わないように。
そして、これはあなた達に必要なことでした」
「そーですか。寝ている兄様にも言ってください」
親子のやり取りにやれやれとため息を付いたフリーレンはティアフォートに近づき頭を撫でる。
「ティアフォート。よくやった。型にとらわれない、魂のこもった、真髄に迫るいい魔法だったよ」
「もぉいいです!なんとかしてください!街の危機です!」
赤くなりながらも頬を膨らませてそっぽを向いたティアフォートにフリーレンは苦笑する。
「さて、フェルン。やろうか。この一帯全部片付けよう」
「承知しました。シュタルク様。すこしの間、3人を抱えてください」
フェルンの指示に頷いたシュタルクは、全く重さを感じさせない仕草でティアフォート達3人を掲げた。
「いったい……何を? この腐敗は女神の魔法を広域にかけて浄化しなければ……」
「アルヴィラ。これから起こること。他言無用とまでは言わないけど、あまり言いふらさないでほしいな。
そして、高みを目指すならよく覚えておくんだ。魔法はイメージの世界だ。
自ら限界は……その子がやってのけたように己の信念と想像力が破壊してくれる!!」
フリーレンとフェルンは背中合わせで魔力を高める。
「強い魔力は……っ!」
アルヴィラの叫びとともに現れた二人に迫る無数の触手は――
「大丈夫さ」
「なっ!!」
触手のツルは、彼女たちの周囲に飛ぶ蒼い魔法の蝶が防ぎ、焼き潰している。
「フェルン。準備はいい?行くよ?」
「はい。フリーレン様。問題ありません」
二人の魔法使いは、杖を天高く掲げる。
その姿は、青く輝く魔力とあわさり――
「……きれい」
「ここからだ。悪いが、ちょっと高めに飛ぶぞ。ティアフォート途中で浮遊させてくれるか?」
「……わかりました」
フリーレンとフェルンはその杖を同時に地面に突き立てた
「咲き誇れ――
その声と同時に、黒ずんだ腐敗した森に一気に広がる魔力により編まれた青い花と、青い蝶の飛び交う。
それは ―― 魔法の名前が示す通り。蒼穹の庭園。
「こ……れは……!? なんて……奇跡……」
腐敗にまみれていた森は次々と蒼い花と蝶の舞う庭園へと置き換わっていく。
女神の魔法でなければ浄化はできない。その限界を破壊するイメージ。
「奇跡じゃないさ。2人の心にあるものだ。それが折り重なり共鳴して。周囲と同調し、命の合意のもとに収束する。
―― そういう魔法らしい。判らんけど……」
腐敗の魔法を取り込んでかき消し、花の魔法の魔力が尽きた花が消えた後も、命が循環する。
セオリーも、何もかも無視した心象風景を作り出す魔法。
「――魔法はイメージの世界……これが……」
「ティアフォート。もう大丈夫だ。降りよう」
「わかりました」
✧ ✧ ✧ ✧
「フェルン、大丈夫か?」
3人を地面に降ろし、戦斧を取り出しながらシュタルクはフェルンに問いかける。
「農作業よりは楽です」
「まあ……毎年大変だよね、収穫作業……広いし。早く誰かに分譲したいなぁ……」
二人の夫婦はそんな軽口をいいながらも、中央で苦しげに叫び声を上げる本体の元へ向かう。
腐敗の大地が青の庭園に置き換わったことで、全ての根がかき消されたらしい。
移動すら叶わない。必死に腐敗の胞子を口から吐き出そうとしているが……
そのたびに蝶が周囲を舞い、腐敗を中和していく。
「一応の地主としては……森林を剥ぎ取った者を裁かなければならないし――」
そこには強いこだわりはないという様子なシュタルクだったが、一転して眼光が鋭く変化する。
その一瞬、空間を揺らすほどの威圧感が周囲に立ち込めた。
「―― お前は、子供たちを食おうとしたッッ!!」
シュタルクは戦斧を抱えて魔物へと迫る。
胞子の撒き散らしが無効と知った魔物は本体の一部を触手に変えてそれを遮ろうとしたが
「無駄です」
フェルンが手をかざすと、青い蝶は舞い踊り閃光となってそれを撃ち落とした。
「砕けろぉぉぉぉぉぉ!!」
―― シュタルクの一撃は、かつての失敗した薪割りのように
「終わりです」
―― その巨木の根の魔物を跡形もなく
「3人とも、お疲れ様。後は大人の仕事だ」
―― 粉々に砕いたのだった
✧ ✧ ✧ ✧
「シュタアル様……大丈夫ですか?」
目を覚ましたシュタアルが見たのは半分隠れた空。何に?なんだろう?
あと、後頭部に感じる柔らかさと暖かさ。
だが、聞こえる声だけはわかった。
「ルーエ姉さん?」
「はい」と、言う声と共に、2つの山脈から覗いたのは姉弟子の顔。
「俺は……?あれ……?農作業の後……。ッッ!! アルヴィラは!!」
色々と思い出したシュタアルは勢いよく起き上がる。
途中から状況がわからない。まだ戦闘中!? ――ではない?じゃあどうなった?
「アルヴィラ様とティア様はあちらです」
ルーエが指し示した方向を見ると、腰を抑えながら今日の残りの収穫作業を進める二人の少女。
「……どゆこと?」
✧ ✧ ✧ ✧
結局、穴の空いた農作業は残ったルーエと手伝いに来ていてくれた街の皆さんでなんとかしてくれた。
らしい――
魔力が回復して調子を戻した二人の少女は現在罰則として……シュタアルのヘルプなしで農作業中。
「……まあ、勝手に居なくなったからお仕置きは……甘んじて受けるけど。俺はどうすれば?」
「シュタアル様は罰として神父様が来るまで絶対安静です」
「何それ?」
それ罰則になる?という顔をしていると。
「シュタアル様に作業をさせても、ほぼ罰になりません。あなたのお父上と一緒で、本当に無意味で……まったく」
そう言ってルーエに頭を鷲掴みにされたシュタアルは再度膝の上に引き戻された。
「なにこれ?姉さん? あれ……?これなに動けない……」
「ようやく効いてきましたね。フリーレン様謹製の『体力が戻るまで脱力する魔法』です。
魔力抵抗も著しく落ちた今のシュタアル様にフリーレン様の魔法は逃れる術はありません」
「何それ怖い!やだ!本当に動けない!姉さん、頭撫でてないで魔法解いて!!」
「いつも落ち着きがないシュタアル様がこんなに大人しいなんて……新鮮です」
抵抗ができない。甘んじて受けるしかない――のか?なんだコレ?どういう状況?
体どころか思考すらも止まりそうになる中。
「大暴れしている間……全部、収穫の指揮と調整……更に裏で薦めている収穫祭の準備
取り回しをしてたのは誰だと思いますか?」
「……はい」
優しげとは言えない笑顔の姉に、逆らう事は無駄なのだと少年は確信した。
✧ ✧ ✧ ✧
「ふぬぬぬぬぬぬぬぬぬ」
「特殊な鳴き声を出してないで手を動かしてください。終わらないじゃないですか」
「だって!兄様が」
まあ、遠巻きに見て何も思わないところがない……とは言い切れないが……
ことの元凶となるアルヴィラには何も言えることはない。なんならティアフォートにすら申し訳が立たない。
二人に咎はなく、自身が全部がすべての罰則を負うと進言したが……
先方の家族会議の結果こうなった。「もう少し兄離れを覚えさせなければなりません」とフェルンがため息混じりにぼやいていたことを思い出す。
「個性ゆたかだと、フェルン様も大変でしょうね。」
「これ、持っていきますね」
「ありがとう、エリシアさん」
まだ10歳にならない少女は杖を掲げ、器用に複数の束を運んでいく。
「妹さんのほうが素直に働いていますわよ」
「私のせいじゃない」
「はいはい。私が悪かったですけど、どっちにしろ今日の仕事ですよここ」
まあ、罰則としては本当に甘い……戦地なら投獄されても仕方ないことなのに。
本当に。無事で……よかった……心から、アルヴィラはそう思った。
■未来の淑女
「悪いな。俺やエーレまで」
「何いってんだ。飲みたいから予定より早くきたんだろ」
「向こうの攻勢も割と早く片付いたからな」
という会話はヴィアベルとシュタルクという父親同士の会話。
あれからつつがなく、収穫の作業を終え。めでたく収穫祭は予定通り開かれた。
結局、魔物は退治したものの……あの騒ぎでは致し方なく収穫物の浄化を行った。
聖都の教会からの信用証までもらったのでなかなか手回しに苦労をさせられたのだが。無事に終わってよかった。
エアフォルク曰く……
『申し訳ありません……いえ、お願いです。2日休ませてください……必ず復帰しますので。本当に……』
という精悍な顔を崩して言ってきたので流石に休ませた。もう一日をおまけも付けて。
多分……どこかで休憩を取っているだろう。
「パパ!!」
「よお、アルヴィラ。活躍したらしいな」
「彼女のお陰で、厄介な問題が起きずに済んだよ。なあフェルン」
「はい。気配の薄く、作物に影響を及ぼす魔物でしたから。早期の対応が打てて助かりました」
アルヴィラとしては……独断専攻した件が内々のオシオキで済まされたので。若干冷や汗をかく。
なんせこちらに来る前、一度それで命を落としかけた……上で2回目。
ヴィアベルはさておき、エーレが知れば落雷は免れないだろう。
「お前のことだから一人で調査してまた迷惑かけてね―かなと……俺は予測したんだが?」
ヴィアベルはちらっとシュタルクを横目で見た。
「そ、そんな事なかったよ。ホウレンソウしてくれたよ」
「シュタルク様……」
父の尖すぎる推察とシュタルクのあまりの上ずった声にアルヴィラもジュースを吹き出しそうになる。
フェルンは額に手を当てて眉を寄せた。
「ヴィアベル様。こちらで置きたことはこちらの責任と管轄です。
全て事なきを得た上で、教育という面でも――」
「―― あー、いいよ。いい。目を見りゃわかる。いい経験したんだよな」
肩ひじをテーブルに付きながらガシガシと頭を撫でるヴィアベルにシュタルクは苦笑いをしながら頭を下げた。
「ほれ、シュタアルとティアフォートのところに行って来い。明日には帰るんだ。
言ったろ。青春ってやつは買ってでも経験しとけって」
「はい……では失礼します」
「面白い教育方針ですね。青春ですか」
「お前らもやったろ。こうして結婚して子供作ってるんだし」
「え、そういう意味!?」
「いろいろだよ……分かれ!一人じゃ経験できないこと全部だ。」
ヴィアベルの言葉にシュタルクとフェルンは顔を合わせてから吹き出した。
「そうですね。本質は一緒なのかもしれません……
不器用なあの子たちもあの子たちなりの青春を経験して、少し成長したのでしょう」
「こういうのを遠巻きに眺められるのは大人の特権ってやつだな。若え奴らの無軌道はいつも面白え」
ビールを片手に笑うヴィアベルの言葉にシュタルクは笑う。
「ヴィアベルらしい言い方だな。でも、わかる気はするよ」
「そうですね……」
夫婦が柔らかく笑うのを見たヴィアベルは「おお、そういえば」とばかりに思い出した話を切り出す。
「ものは相談だが……シュタアルを俺のところに5年ぐらい預ける気はねえか?
なんなら嫁も提供するぞ」
まだ諦めていないヴィアベルにフェルンはそのまま笑顔を崩さず
「駄目です」
「ダメか……いつぞやみたいに『どうぞ』とそっけなく言う可能性にかけたが」
「あのときと今では状況が違います。ダメなものは駄目です」
「わかった。また作戦考えてくるわ」
視線の先でエーレと一緒に娘とその友人二人が食事を取っている。その姿を愉快げに眺めるヴィアベル。
「やっぱり惜しいな」と呟く彼は、愉快そうに笑って白旗を上げた。
✧ ✧ ✧ ✧
翌日、街の宿泊施設で家族で泊まったアルヴィラ達は魔法協会の施設でゲートの準備をしていた。
「忘れ物はねえか? ゲート起動するから挨拶してこい」
「はい……」
「そんな顔するな。また会えるさ。ほれ行ってこい!」
背中を押すとアルヴィラは小走りでシュタルク達の一家の元へ向かった。
「シュタルク様、フェルン様、フリーレン様、滞在中はたくさんのご迷惑を……」
「アルヴィラ、こっちでの生活は楽しかった?」
「ええ、はい」
アルヴィラの答えにフリーレンは満足そうにしながらも
「じゃあ、そういうときはご迷惑じゃなくて「ありがとう」だけでいいんだ。
シュタルクとフェルンの欲しい言葉のそれぐらいだよ」
「フリーレン様が言ってしまいましたが……こちらでの生活が良い経験になったのであればそれだけで私達は満足です」
「……ッ!!はい。暖かく迎えていただいたこと。とても嬉しかったです。ありがとうございました」
深々と頭を下げる少女にシュタルクは
「ティア。今朝からソワソワしてたし、言いたいとこあるんだろ。父さんと母さん向こう言ってようか?」
「……」
ぷくっとふくれっ面の娘に、小さく苦笑いをしたシュタルクは。シュタアルの肩を叩いた。「あとは任せた」の合図。
「いっとくか、フェルン。俺達もヴィアベルとちょっと話しておこう」
「はい。そうですね」
という短いやり取りのあと、3人はヴィアベルとエーレの元へと向かった。
残されたのはアルヴィラとシュタアルとティアフォート。そしてティアフォートの手を握るエリシア。
「ティア姉さま……」
心配そうに、姉を見上がるエリシアの頭を撫でてティアフォートは小さくため息を付いた。
右手を越しに手を当て、左手の甲を口元に宛。
「まあ!私の実力は今回も見ていただいたとおりですし!向こうでもせいぜい精進してくださいな」
お嬢様笑いのようなことをはじめた妹にシュタアルは頭を抱える。
「ティア……おまえ……なんでそうなるの」
「本当に……そう思いますわ。あの日見た光景は決して忘れません」
「ぬ……」
乗ってくれないと私が馬鹿みたいじゃないかと表情を歪めるティアフォート。
それを見たアルヴィラは仕方ないと彼女と同じポーズを取った。
「ティアフォートさん。きっと今は魔法使いとしてあなたの方が格が上。
でもそれは未来を確定する話ではありません。私、地道な努力はあなたの100倍得意でして!
才覚にあぐらをかくようなら、数年先には私が先を行かせていただきます!」
「調子出てきたじゃない……いい度胸ね枯れワカメ!」
「ええ、いつでも勝負しに来ていただいても構いませんわハバネロ姫!美味しい紅茶を淹れて待っております」
「お茶菓子もつけていただけるのかしら!!」
「いいでしょう!」
額がぶつかりそうな距離感で謎の牽制をしはじめた二人。
エリシアがアワアワとし始めたのでシュタアルは肩を叩いて首を振った。
「こいつらのコミュニケーションなんだよ。よく分からないけど、最初からずっと、多分あの時からバランスが取れていたんだ」
「そうなんですか?」
「意訳すると『また一緒に遊びたいから、いつまでもお友達でいましょうね』ってかんじだろ」
シュタアルの説明にエリシアが「難しいです―」と応えた辺りで
「「言ってません!!」」と口を揃えて。言う辺りあながち間違ってはいないのだろう。
✧ ✧ ✧ ✧
「じゃあ、元気でな」
という短い挨拶でヴィアベルはゲートを超えていった。
それに続いてアルヴィラが潜ろうとした瞬間、彼女は立ち止まりシュタアルに声をかけた。
「忘れていました、シュタアルさん」
手をこまねく彼女のもとに寄っていくシュタアル。
「ありがとう――」
「えっ」
という短い言葉と共にシュタアルに飛びつくように、アルヴィラは彼の頬に――
「なぁぁぁぁぁぁぁぁ、枯れワカメぇぇぇぇ!!」というのはそれを目撃したティアフォートの叫び。
アルヴィラは「ホホホ」という仕草で口元を抑えつつ、
「シュタアルさん。あなたにとっては妹の友達ぐらいなんでしょうけど……3年後ぐらいには
『あの時、どうしてもっと声をかけなかっただろう』と後悔するぐらい素敵なレディになってみせます」
自身に満ちた少女の笑顔はとても魅力的で――
「では、ごきげんよう!!」
「あ、はい。ごきげんよう……」
呆然と頬を抑えながらシュタアルは立ち尽くすことしか出来なかった。
そんな兄の情けない姿を見て赤い髪を魔力で揺らす少女が一人。
「二度と来んなぁぁぁぁ!!」
というティアフォートの叫び声が部屋一面に響くことで。
北壁のお嬢様ことアルヴィラ来訪の騒動は幕を閉じたのであった。
~ 真紅のお姫様と北壁のお嬢様 後編 fin ~