葬送フリーレン~アフターオレオール~   作:rvr75_raiden

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■前回までのあらすじ


旅が終わり、互いの気持ちを確かめたフェルンとシュタルク。
そして二人の人生に寄り添うことを決めたフリーレン。
彼らは戦士の村の再建をしつつの生活を始める。
そんな彼らの元へと報告に戻らない事にしびれを切らしたアイゼンが戦士の村の跡地を訪れから物語は始まる。

ーー『お前が選び、掴んだその手を離すことなく握り続けることが本当の戦士の戦いだ』

再会したアイゼンは2人の態度に関係性を察し、シュタルクへと戦士の覚悟を告げた。

村の復興の支援、伝えられた言葉。
フェルンはアイゼンの姿勢に親としての深い愛情を感じ取る。
そしてアイゼンは自身の役割の終わりを告げる。フェルンはそんな不器用な義父へ、旅の道中シュタルクも親同様に想っていた事を伝えるのだった。

ーー『もう少し長生きをして、いずれ産まれる孫の顔が見たくなった』

フェルンの言葉を聞いたアイゼンは新たな夢を彼女に託す。
その希望を胸にアイゼンは自身の家に帰るのだった。

アイゼンが帰った数日後。
フリーレンは、一時村を離れていた理由を口にする。

それは、クレ地方の戦士の村が今後シュタルクを代表者とする自治領として再編していく事。彼女と領主達の間でその事を決めてきたという爆弾発言だった。




名君集えば芽吹きも近く

■衝撃覚めやらぬ夕餉の後


 

中央諸国クレ地方、"元"戦士の村の跡地

 

フリーレン一行が訪れた時に比べると随分と整理は進んだ。しかし、今もなお廃墟になった瓦礫の家々が並ぶ地である。

 

そこへシュタルクの親代わりでもある戦士アイゼンが来訪した数日後。

当のアイゼンから手紙を受け取った日。

フリーレンがポロリと漏らした爆誕発言。

 

"大魔族を討伐した英雄の住まう地として自治領にすれば支援が捗る"

 

その衝撃覚めやらぬ日の夕餉のあと、フェルンは改めてフリーレンから説明を求めることにした。

 

「フリーレン様。今朝の件ですが、この一帯を自治領にするという話。

 事の経緯から一通り説明していただけると」

「やっぱり説明いるかな? 結果はあまり変わらないと思うけど」

「いえ、経緯や状況の理解は今後のために重要です。シュタルク様なんて事態が飲み込めず、まだ帰ってきてません」

 

シュタルクは領地代表者の件が未だ受け止めきれず「うぅ……俺には無理だよう」とショボくれている。

そんな彼は先程フェルンに頭を鷲掴みにされて、強制膝枕の上、頭撫で回しの刑に処されている最中である。

 

その愛弟子の姿にフリーレン僅かに呆れつつ。

「なんて言うか、二人はもっと我儘に生きて欲しいと言ったのは私だけど。最近のフェルンは欲求に対してちょっと開き直ったよね」

「そう見えますか?」

 

膝枕状態のシュタルクを撫で回しているフェルンはフリーレンの言葉に小首をかしげる。

 

「まぁ、楽しそうで何よりだよ。きっとハイターも天国で喜んでると思うよ……」

 

件の僧侶は晩年を聖人君子のように振る舞っていた。だが、冒険を共にしていた時の彼は、良くいえば幸せになることに前向きで悪くいえば欲に素直な生臭坊主である。

フェルンが満足気なのでおそらく問題ないだろう。と、古き友へと祈りを捧げる。

 

「さて、どこから説明しようか?」

 

そう言いながらフリーレンはその日のことを思い出す。

 

■エルフの魔法使いは聖都に手続きへ


 

街道外れの小高い丘の頂上、少し大き目の杉の木の近くに光が収束する。

そのまま強い光となって輝いたあと、ストっと何もなかった所から着地したのは銀髪のエルフのフリーレンだ。

 

「精度は、まあまあかな

 ここまで分析してやっと視界に入る範囲内なら成功するようになったな」

 

以前、女神の石櫃から過去に飛んだ先にいた魔族。

残影のツァルトが使ってみせた人類の魔法史に全く存在しない魔法。

空間転移魔法。してやられてしまったことが実は悔しかったフリーレンは密かに分析し自力でそれっぽいことを再現出来ないかとコツコツと研究を続けていた。

 

結果的には限定的に真似事レベルで出来るようになった。

限定的というのは、現状ではまず自分しか移動できない。合わせて持っていけるものは身につけているレベルで体に密着したものだけだ。

これは自分の一部として認識できるか否かがキーになっている。例えば、体の一部として認識し辛いカバンなどは魔法発動時に中身をその場に置いて転移してしまう。

あとは、自分の認識できる場所にしか移動できない。要するに見えなくてどうなっているかわからない場所には移動できない。

 

結論としては手ぶらで見晴らしの良い場所を転移し続ければ、1人であれば割と早い移動が実現できそう……というのが現在の研究成果である。

誠に遺憾ながら、残影のツァルトがやってのけたレベルのことはまだフリーレンには実現出来ない。

という事で必要なものは懐に入れた状態で大荷物を持たずに人目の付かない経路で移動中である。

 

今回は実験も兼ねつつ、復興中の村のことを中央諸国側に状況を報告することだ。

村を復興しようとしている事、人手や資材が全く足りない事、あとはおそらくまだ居るであろう、襲撃から逃げ延びた一般の村人たちの探索依頼だ。

時間が経っているため、帰ってこいと言うつもりはないが、村を復興させようとしている事を伝えてあげたい。

他ならぬシュタルクのためにでもである。

 

何度かの空間転移魔法の末、目的地である聖都が見えてきた。大きな城と並び立つ教会の本部があり、中央諸国でも最大規模の都市と言える街だ。

 

「未公開魔法で移動はここまでかな。ここからは普通に飛んでいこう」

 

そう言ってフリーレンは入場門まで飛行魔法による移動を始めた。

 

聖都の入場門の前。流石に大きな都市なので人の出入りが多い。

街の中に入るためには手続きが必要になるため、今暫く時間がかかりそうだ。

 

(ま、しょうがないか……)と嘆息しながら列に並ぼうとした時

 

「そこにいるのはフリーレンか?」

聞き覚えのある声のある方向を向いた所、そこには馬車の窓から顔をのぞかせたグラナト伯爵がいた。

 

✧ ✧ ✧ ✧

 

「街への入場の手続きと馬車移動は大変助かるのですが、グラナト伯爵本日はどのようなご用向きでこちらに?」

「前にも言ったが、やりづらいから喋り方はタメ口なり好きにしてくれ。

 明日、北側諸国や中央諸国の主だった領主が集まる会合がここで開かれる。

 開催理由は……まぁ、お前もあまり他人事ではない話なんだが、こんな馬車の中でなんだ、後で話そう」

「そう、わかった」

 

中央諸国だけではなく北側諸国からも集めるとなるとかなりの大きな会合である。

 

「ところでフリーレン、お前の方はどうなのだ。今日は連れも居ないようだが」

「今日は1人だけだよ。ちょっとした申請をするためにね」

「そうか、中央の議会所には儂のここでの執務室が用意されている。

 お前の都合が問題ないならそこで詳しく聞かせてくれ。持ってきた来客用の茶菓子ぐらいなら出せる」

 

今の申請を一般人名目で申請を通しに行くよりかはグラナト伯爵のような者を通す方が話も早そうだ。

少々利己的ではあるが、フリーレンはグラナト伯爵達領主の都合に付き合ってみることに決め

「わかったよ」

そう答えて馬車に揺られながら目的の建物へと移動することにした。

 

■変わりゆく時代と備え


 

聖都の中央議会所、出席する領主達にはそれぞれ部屋が与えられている。

ここはグラナト伯爵に割り当てられた部屋だ。

 

「どうぞ」

グラナト伯爵に同行していた執事が手慣れた手付きで紅茶を入れてフリーレンと伯爵の前に用意する。

グラナト伯爵は礼を伝えた後、話をするからと執事に休憩を言い渡した。

 

「さて、まずは開催の理由だったな」

グラナト伯爵は机に肘をつき、合わせた両手に顎を当てながらフリーレンに向き直る。

フリーレンは慣れた手付きで紅茶を飲みながら「そうだね」と答えた。

 

「ここに各地の領主が集まっているのは、他でもない。近年急激に変わった情勢に対応するための相談だ。

 先も言ったがフリーレン、正直な所お前は他人事ではない話でもある」

 

「どういう事?」

「お前たちはグラナト領で断頭台のアウラを討った事を皮切りに、各地で数多くの魔族と戦いそれを撃破しているだろう。

 それこそ勇者一行の魔王討伐と引けを取らないぐらいの勢いで」

「まぁ、結果論的にはそうなるかな。意図した結果ではないのだけど」

 

なんということもない。そんなふうにも取れる口調でフリーレンは紅茶のティーカップをソーサーに置きながら答えた。

 

「血塗られし軍神リヴァーレ、終わりの聖女トートを始めとする大魔族もその中に含まれている。

 こいつらは長年人類に絶大な被害を出してきたような連中だ。そいつらが突然いなくなったことで一時的にとはいえ、突然魔族による被害が大きく減った」

 

問題があると聞いたがグラナト伯爵の口から出てきた吉報のような報告にフリーレンは首を傾げる。

「だったら、それはいいことじゃない?」

 

「短期的にはその通りだ。だがしかし、人類とは愚かなものでな、それだけでは済まない。

 魔族に向けていた戦力が方向性を見失いつつあり、北側は北壁の戦線が徐々に国同士でピリ付き始めている」

 

「……」

フリーレンは言葉を返すことなく紅茶に口をつける。

 

「人同士で争いで戦場と死体が増えれば。また魔物や魔族の餌が増え、奴らが再び力をつける。悪夢のような連鎖だ」

 

グラナト伯爵の言葉にフリーレンは紅茶のカップをテーブルに置いてため息をつく。

 

「じゃあ、放っておけばよかったとでも言うの?」

「そうは言ってない。そうだな、今はかつてないぐらいに魔族被害の影響が減っている。

 ただ、人類側がそれを受け入れるだけの準備が整っていない。方向を間違えればまた別の火種が燻る。

 そのために儂らは手を取り合わなければならん。今回はそのための会議だ」

 

南側諸国は昔から魔族の影響が少なく人同士の争いが絶えない。フェルンが孤児になったのもそのせいだ。

魔族の不在によりその戦火が更に広がる可能性。魔族と戦い続けてきたフリーレンとしてはあまり考えないようにしていた事だ。

所詮は人同士の勝手な選択の末の出来事。自分には関係がない――だが、フェルンとシュタルクとその未来と共に生きると決めた今は……

 

「まぁ、そう暗い顔をするな。今は少なくとも魔族の被害が減ったことを喜んでも良い時期だ。戦争も明日から始まるという訳ではない。

 忌々しいが、かつてリュグナー達が言っていたな『我々には言葉がある』と。人同士の出来事だからまだ話す余地がある」

「そう……かもしれないね」

 

今までは話の通じない相手と戦い過ぎた。今度は言葉を尽くせば判り会えるはずだろうと、その言葉にフリーレンは少し救われた気がした。

 

「領地を持つ貴族も考えていることは十人十色で一枚岩ではない。貴族の中でも信頼出来る出来ないも半々だ。

 今は一人でも多くの馬鹿な争いを止める味方を付ける下準備期間と言ったところだ」

「そうか……平和を望む人が1人でも多いといいね」

「まあ誰も殺し合い自体を望んでは居ない。だから難しい」

 

グラナト伯爵は言うべきことをいい切ったのかテーブルの上の紅茶を少し飲んでから話題を切り抱えてきた。

 

「それで、フリーレン。そちらの用事は何だ?」

「そういえば、その話をしないとね………」

 

そう言って、フリーレンは持ってきていた一冊の本のページを開く

 

「そうだな。とりあえずコレを見てもらえるかな」

 

そのページに書かれている魔法陣に手を当てて魔力を通す。

 

陣から出た光は収束し、水晶のような球体となりその中に像が浮かび上がってくる。

その像の中にはシュタルクとフェルンの姿が目視でわかるようになった時

 

『いいえ!シュタルク様は判っていません!』

 

というフェルンの声が部屋に鳴り渡った。

 

■インフルエンサー


 

「フリーレン様、ちょっと待ってください」

 

フェルンはフリーレンの目の前に右手を差し出しストップのポーズを取る。

 

「え?なに?」

「まさか、見せたのですか?勝手に?グラナト伯爵に?」

 

そう問うフェルンの目つきは氷点下のごとく冷え切った視線となっている。

 

「えっ、あー、説明するより見てもらったほうが状況伝わるかなって……」

 

フリーレンがあの魔法を開発してから若干嫌な予感はしていた。

まさか知り合いへの状況説明にあの一幕を見せていたなんて……

 

「え、どういう事?」

 

フリーレンの開発した魔法のことを知らないシュタルクが状況を飲み込めず質問を挟む。

 

「フリーレン様が先日開発した魔法は記憶した光景を映像として陣に埋め込んで他人に見せるための光の魔法として投影することが可能なんです。動く写真の様に」

「なにそれ、めちゃくちゃ凄くない?」

「フリーレン様がその魔法の試作第一号として保存した光景はこの村に来た時の日、シュタルク様と私との夜の一連の出来事です」

 

夜の出来事と言われると若干卑猥に聞こえちゃうな……とか考えつつ、シュタルクは記憶をたどる。

 

――そう確か自分は、この村に残る決意をしてフリーレンとフェルンと別れる事を告げた後、いろいろ話し合って――――

 

「……フェルンに告白した話じゃねえか!!」

 

シュタルクのストレートな言い様に一瞬怯んだフェルンだったが咳払いをしてから「まぁ、つまりそういう事です」と付け加える。

 

「ふ、フリーレン!見せたの?それを、伯爵に!?」

「見せたね」

 

シュタルクはフリーレンの肯定に一瞬固まったが

「ああああ、何なのそれ!死にたい!いっそ殺して」

知り合いの、しかもかなりお偉い人にあの様子を見られたという羞恥にそのまま頭を抱えてゴロゴロ転がりだす。

 

フェルンも気持ちは同じだが、シュタルクの狼狽える様を見て逆に冷静になった。

「フリーレン様、アイゼン様に見せたいという条件付きで見逃していましたが、勝手に誰かに見せるのは許容しかねます。

 次に誰かに見せるようなことがあれば、その本燃やしますよ」

「う、うん・・・」

 

その目は本気だ……己の弟子の迫力にひるみつつフリーレンは大人しく頷いた。

 

■突然見せられた映像が尊いという話


 

フリーレンから見せられた映像を無言で鑑賞したグラナト伯爵は、立ち上がり窓の方まで歩いてから何をするでもなくまた執務机の前に戻ってきてから少しの間ウロウロした後、再度椅子に座る。

そのまま右手で目を覆った状態で天井を仰ぎながら一言ぼやいた。

 

「―――尊い……」

「……どういう意味?」

 

突然の奇行にフリーレンが思わず突っ込む。

 

「……すまない。取り乱した。つまり、お前の連れだった小ぞ……いや、シュタルクとフェルンが……

 まぁその何だ。いい仲になったということか」

 

何か言いにくい部分があったのかはフリーレンとしては謎だが「まぁ、そういうことだね」と肯定する。

 

「で、シュタルクが言っていた村は、出身であるクレ地方にある戦士の村の跡地のことだね」

「なるほど、お前がここに来たのはその村の復興の支援を国に申請しに来た……といったところか?」

「話が早くて助かるよ。礼もするので、可能ならグラナト伯爵からも口添えもお願いしたい」

 

その時、ドアの方からノックする音が聞こえた。

 

「旦那様。来客でございます」

「ほう、誰だ?」

「フォーリヒから代表で来られた3大騎士のオルデン卿でございます」

「オルデン卿……? そんな人物がこんな時間に何用だ? まあいい、通せ」

「かしこまりました」

 

グラナト家の執事がそう言って通してきたのは隻眼で長身の、シュタルクとよく似た髪色の騎士。

 

「お初にお目にかかる、グラナト伯爵。そしてフリーレン、久しいな、やはりここに居たか」

「オルデン卿……どのようなご用向でこちらに?」

「隣の部屋を割り当てられていてな。こちらに顔見知りが入るのを見かけた事と、隣から聞き覚えのある声が聞こえたものでな」

「あーー……聞こえちゃったかぁ」

 

あちゃー。といった反応をしたフリーレンとその意図が分からず「どういう事だ?」とグラナト伯爵が問う。

 

「さっきの投影魔法。映像は光の魔法を使っているけど、音の方はそう聞こえているように錯覚させる精神制御魔法に近いんだよね」

 

音を鳴らそうにもいかんせん振動させるものも陣を描いた本の台紙ぐらいしかないし、正直音質も悪かったため音を鳴らすことを完全に諦めたのだ。

その結果、直接音を錯覚させてしまえば概ね問題なかろうと思っていたのだが、1つ欠点があり、人によっては近くに来るだけで音だけ拾ってしまうのだ。

 

「なるほど、これはご迷惑をおかけした。謝罪しよう」

「いや……先程も言った通り。懐かしい声が聞こえたと思ったのだ」

 

あたりを見回すその視線はここには居ない人物を探すかの様だった。

 

「今日は私一人だよ。シュタルクは戦士の村の跡地にいるよ」

「……そうか」

 

オルデン卿のその様子を見たグラナト伯爵はある程度察しがついたようだった

 

「オルデン家はそういえば、戦士の村の縁者であったか。

 関係者であれば、先程のものを見てもらったほうが早いのではないか?」

「そうだね」

 

■さっき言いましたよね


 

「待ってください、フリーレン様……、さっき言いましたよね。次があったらその本燃やしますよって」

「待って、1回目で殆ど聞かれてたし実質ノーカンだって。落ち着いて。その杖をしまって」

 

凍てついた視線を向けるフェルンにあわてて弁明する。

 

その裏で新たな事実に打ち震えるシュタルク

 

「オルデン卿にまで見られたのか……、ははは……」

 

「まぁ、二人共聞いてよ。二人に知ってもらったのは絶対無駄じゃないって。聞いてから判断しよう?ね」

 

フリーレンの言葉に納得がいった訳では無いが、木造の小屋の中で火の魔法を使って本を燃やすとまあまあの惨事になるのでフェルンは一度杖を仕舞う。

 

「フリーレン様。今後、その本の内容は定期的にチェックさせていただきます。

 内容次第では本当に燃やしますよ」

「はい……」

 

こういう時のフェルンには絶対に勝てない。大人しく従うことにして再度頷くフリーレンだった。

 

✧ ✧ ✧ ✧

 

無言で一連の内容を見終えたオルデン卿はテーブルを挟んで、フリーレンの向かいの来客用の長椅子にもたれかかり、先程のグラナト伯爵と似たような片手で目を覆いつつ天井を仰ぐようなポーズを取る。

 

「――尊い……」

「流行ってるの、それ?」

 

そう言うと、オルデン卿は姿勢を正し直し、何事もなかったかのようないつもの表情に戻った。

 

「取り乱し、失礼した」

 

取り乱したかと言われると随分静かなものだが、らしくない行動ではある。

 

「そうか、シュタルクが……そうか……」

 

しかし、グラナト伯爵が見る限りオルデン卿は表情こそ表に出さずとも複雑な感情があると見える。

 

「差支えなければだが、オルデン卿はフリーレン達と何か関わり合いが?」

「フォーリヒの近くに立ち寄ってもらった時に、魔族との戦いで死んだ倅の代わりにシュタルクに舞踏会に出てもらった。顔立ちや姿がよく似ていたのでな。

 相手の娘……フェルンには舞踏会のダンスのパートナーをしてもらった」

 

そんなオルデン卿の言葉にグラナト伯爵は目を丸くして驚いた表情を見せてから何かを思い出すように窓の外に視線を向けて薄く笑った。

 

「そうか、このような時代だ、様々な事情はあろう。しかし、縁とは不思議なものだな」

 

リュグナーに捕らえられたあの日、助けに来た少年の姿を見た時、アウラとの戦いで失った我が子と見違えた。

到底似ても似つかない顔だったが……それでも関わり、救われた縁に、他人事だとは思えない気持ちはグラナト伯爵にもわかる。

あの日まだ若造だった二人が成長し、一歩踏み出そうとしている。恩義を受けた大人である自分たちが出来ることは何なのか。

 

改めてフリーレンに向き直り、グラナト伯爵はゆっくりと口を開く。

 

「フリーレン、儂らより長く生きるお前に言った所で仕方ないかもしれないが……

 この世界は未だ誰にも等しく厳しくあり残酷だ。

 魔王を倒してこれだけ時間が経ってもなお、魔物や魔族の脅威は消え切らない。分かり会えない人も争い、貧困に喘ぎ苦しむ者もまだ多い。

 それでも儂は願ってやまないのだ。幸せをつかもうとする若者たちの未来は幸福であるべきだと、明るい明日を見せてやりたいと」

 

そう語る、グラナト伯爵の言葉を聞きながらフリーレンは目の前の紅茶に視線を落とす。

 

「そう……」

 

彼らは魔族に家族や多くの信頼おける部下を奪われた人間だ。

それでもなお、他者の幸せが願える事は彼が長年領主として民からも愛されている理由であろう。

 

「だからな、そう……儂は嬉しいのだろうな。

 あの日、断頭台のアウラやリュグナー達から街を守るために命がけで戦ってくれた二人が、

 あの時は未熟な小僧と小娘だと思っていたシュタルクとフェルンが今では、大陸を代表とする英雄となり、大人になり、幸せを掴むために共に歩もうとしている……

 こんなに嬉しいことはない」

 

黙って話を聞いていたオルデン卿は目をつむりグラナト伯爵の言葉を聞いてわずかに頷きながら満足気に笑っている。

 

「グラナト領のご飯が、美味しかった理由がわかった気がするよ」

「どういう事だ?」

「アイゼンの受け売りだけど。食べ物が美味しい街は平和でいい街だって。

 平和でいい街は、優れた領主にしか成し得ない。だからあの時、断頭台のアウラを撃ってよかった」

 

不器用なフリーレンの言いようにグラナト伯爵は表情を崩し少し嘆息するが、満足はしたのであろう。

 

「そうか。悠久の時を生きる伝説の勇者パーティーのエルフの魔法使いに言われると少々こそばゆいな」

「悠久の時を生きて世界を見てきたから言うんだよ」

 

フリーレンの言葉にグラナト伯爵は「叶わないな」と笑った

 

■大人の喧嘩術


 

「1点懸念がある」

今迄話を聞いていたオルデン卿が口を開いた。

 

「どんな話?」

「フリーレン。お前たちは今迄荒れ果てていたクレ地方の戦士の村周辺地域の魔物の駆逐をしたと言っていたな」

「そうだね。辺り一帯の魔物はもうほとんど全滅させたと思うけど」

 

オルデン卿は腕を組みながら顎に片手を当てた姿勢で続ける。

 

「おそらく、あの地域は長らく放任されてきた地で周辺の管理を任されていた領主からすると悩みの種だったことだろう。

 だがそこに伝説の勇者パーティの魔法使いと時の英雄の二人が居着くとなるとな……」

「……なるほど、神輿に担ぎ上げられる可能性か」

「今迄荒れ地を放置してきた御仁はあまり良い噂を聞かない。あまり関与させたくはないな」

 

オルデン卿の一族は戦士の村の出身だ。魔族に滅ぼされた後のこともある程度耳にしているのであろう。

であるならば、グラナト伯爵が前置きして口を開く。

 

「ちょうどいい。そこも含めて明日の会合で決着を付けてしまおう。

 フリーレン。申し訳ないが、出席してもらって経緯を説明してもらうことは可能か?」

 

なかなか大事になってきたなとフリーレンは腕を組んで思案する。とはいえ……

 

「あまり気は進まないけど……二人のためであれば多少の無理は通すことに決めているんだ。必要があるなら出るよ」

 

フリーレンのその言葉に、グラナト伯爵は不敵に笑う。

 

「よし、ならば出てもらおう。こういった物は会議が始まった時点で決着はついているものだ。

 重要なのは会議が始まる前にどれだけ根回ししているかだ。オルデン卿も頼めるか。信のおける知己の者たちに声をかけてくれ」

「当然だ」

「では、今日しか時間はないので早々に行動を始めるとしよう」

 

そう言ってグラナト伯爵は机から立ち上がった。

 

その場は一度解散となり、いつの間にか行われていた宿泊の手続きの紙をグラナト家の執事から渡され。

気の回る優秀な人物だと思いながら、それを受け取ったフリーレンは帰りが遅れる事を手紙に書き、使いの鳥に持たせて飛ばした。

 

さて、明日はどうなるやら。

 

■大人しくしていても会議は廻る


 

翌日、領主会議が開かれる直前となり部屋に向かう途中、オルデン卿が声をかけてきた。

 

「フリーレン、シュタルクがやろうとしている戦士の村の弔いと立て直しの興業、

 フォーリヒの代表としては約束できんが、我々オルデン家としては全面的に支援したい」

「それはいつかのシュタルクに対してお返しってこと?」

「違う。あの村は我々一族の故郷でもある。己の領分ではないと随分と距離をおいてしまっていたが……そうだな。酷く後悔をしている。

 だからお前たちには感謝している。我々でも援助や、生き残りの縁者の探索をこちらでも受け持とう」

「そう、でもあの村の再建を決断したのはシュタルクとフェルンだ。感謝は私にではなく二人に言うべきだよ。

 ここには代理で来てはいるけど私はもう二人の保護者じゃない。二人とも立派な大人だ。そういう話は大人同士でするものだよ」

 

オルデン卿は顎に手を当て少し考えたから「そうか……そうだな」と言ってから

 

「近いうちに、そちらに赴こう。成長したシュタルクの顔も見てみたい」

 

まるで我が子の成長を喜ぶ親のような顔でオルデン卿はいう。

 

「『俺はあんたの息子じゃないぜ』ってまた、言われちゃうよ?」

「構わん。俺はただ、大人になったシュタルクという一人の戦士が見たい」

 

表情も変えずにきっぱりとそういうオルデン卿に、フリーレンは微笑み「きっと喜ぶよ」と返した。

 

オルデン卿の「そうか」とだけ呟いた変わらぬ表情の裏には満足気な感情が見えた気がした。

 

「それで、今日の根回しはどうなったの?」

「出ればわかる。昨晩の内に勝敗は決している。

 フリーレン。お前が前もって我々に声をかけてくれたのが大きかったな」

 

✧ ✧ ✧ ✧

 

会議の内容はフリーレンが全て関与することではないため、今は控室で待機中だ。

暇つぶしになにかよこせと言ったら魔導書を一冊渡されたため暫く退屈はしないだろう。

おそらくフリーレンやフェルンとシュタルクが関わった北側諸国を悩ませていた大魔族の話が始まった段階で呼ばれるだろう。

 

「フリーレン様、グラナト伯爵がお呼びです」

来た様だ。「わかった」と答えて読んでいた魔導書を椅子に置いて立ち上がって部屋に入る。

 

入室後に、自己紹介を終えて、求められた説明を終えてからはグラナト伯爵の宣言通り怒涛の展開となっていった。

どうやら本当に事前に根回しを終わらせていたようだ。

 

北側諸国の戦線で猛威を振るっていた大魔族数体の討伐の顛末の報告の後、その討伐の立役者であるフェルンとシュタルクの2名の婚約。

そして、その二人とフリーレンがクレ地方の戦士の村跡地に住み始めるといった辺りで、色めき立ったクレ地方を周辺を治める貴族を吊るし上げ……

グラナト伯爵とオルデン卿、そして彼らに協力するように息がかかった領主たちの猛反論に会い、長年放置し続けていた土地をまるごと返還する流れとなった。

 

(本気になった貴族の喧嘩って怖いな…… 全く口を挟む隙すらない)

 

こういった腹を探り合う口喧嘩はあまり得意ではないフリーレンとしては、ちょっと引いてしまう。

自分の説明パートが終わると限りなく気配を消し、薄くなって結果を見守るしかなかった。

 

しばらくの討論の末

 

「さて、お歴々の衆、既に予想はついていると思うがクレ地方の打ち捨てられた地の管理権限に関してだが。

 ここにいるフリーレンを代理人としてに元々の土地を管理していた戦士の村の里長の子息である戦士シュタルクとその内縁の妻となったフェルンに譲渡し、

 時の英雄である彼らを政治目的による関与を回避するため自治領化を進言したい。

 反論のある者はいるだろうか?」

 

というグラナト伯爵の言葉に過半数のものが拍手で答えた。やや少数の貴族が納得をしていない様子だが、もはやこうなっては無駄な抵抗だ。

 

「フリーレンそちらからは何かあるか?」

 

と、話を振られたフリーレンは「もうここまで来たら止めれないでしょ……」とぼやきながら立ち上がった。

全員が見守る中、会議テーブルの前に立つ。正直こんな公の場で目立つのは好きではないのだが致し方あるまい奮い立って宣言する。

 

「承知した。謹んでその提案をお受けする。

 ただ、肝心の土地や戦士の村の跡地の開拓はまだ始まったばかりだ。

 我々も冒険の中で得ていた資金でギリギリやりくりをしている状況で人手も資金も足りない、自治領化とは別に当初の目的の通り国としての支援を頂けないだろうか」

 

それまで、隻眼の目をつむり続けていたオルデン卿が口を開いた。

 

「無論、それには対応をするが、どうする? おそらく個人的に恩を売りたい連中が押し寄せるぞ」

 

おそらく他の人間から出てくると揉める可能性があるので答えが判っての質問だろう。

(こういうのは事前に打ち合わせてよ……)とやや不満に思いながらも答える。

 

「私が元勇者パーティの一人であり、フェルンやシュタルクは多数の大魔族の討伐を行った時の英雄とも言える微妙な立ち位置であることは理解してる。

 それでも、この件は私達では手に負えない。窓口としては信のおける者で対応頂きたい。

 グラナト伯爵、お願いできますか。不正な取引がないように監視が必要なら三大騎士と魔法協会、聖都の教会側で好きにやってくれたらいい」

 

その言葉にグラナト伯爵はうなずいた。

 

「判った。それは善処しよう」

 

それと同時に彼は片手を適当に振りながら「まぁ、堅苦しいのはこの辺にしよう。」と述べた。

 

「我々としても自治領の領主になってもらった上で特に取って食う意志はない。どちらかといえば貴族政治からお前たちを引き離すのほうがメインだ」

 

「どういう事?」とフリーレンが聞き返すと、グラナト伯爵のかわりにオルデン卿から回答が返ってきた。

 

「我々としては数多くの魔族と戦ってきた功労者に責任を負わせる意志はない。

 シュタルクは……あいつは、あの日手を取った娘――お前の弟子のフェルンを選び、失った幸せを掴もうとしているのだろう。

 あいつが選んだフェルンに関しても南部出自に関する経緯は報告で聞いている。

 例えお前たちが大魔族達に拮抗しうる大陸内でも屈指の戦力だったとしても。そのような扱いをするのは無粋なことだ。」

 

そう述べるオルデン卿は顔は表情こそ変わらないものの、ヴィルトの絵画を前に彼のことを誇らしげに語った時の表情をフリーレンに思い出させる。

(アイゼンという親が居ながらもシュタルクという男は本当に……)、とフリーレンは内心で苦笑する。

 

オルデン卿の言葉に続き、今回の会議はこれで決着だろうとグラナト伯爵はフリーレンに向けて宣言する。

 

「フリーレン。儂は、いや我々は貴族だ。

 我らの仕事は、明日を生きる民の幸せを守ることだ。幸せを夢見る若人の明日を作ることだ。

 だから、お前たちにどんな理由があったにしても魔族や魔物と戦い続け多くの命を救ってきたお前たちに報いるために最大限の努力を約束しよう」

 

二人の言葉に会場内にわずかながらに拍手が起きる」。

その拍手は徐々に広がり、大きな波のように拍手喝采へと発展する。

 

この世界は魔族と魔物に溢れ、戦も少なくはない。どこまでも過酷だ。

だが、その世界に賢明に生きる人達はいつの時代もどこまでもお人好しでお節介で、したたかだ。

エルフほど長命で魔法や技術を磨き続けることが出来ない人々が発展し生き残り続ける理由。

判っていた気でいたつもりだったが、改めて感じる。

 

「世界中の貴族が貴方のような人物ならもっと平和になるかもしれないね」

 

とフリーレンの言葉を聞いたグラナト伯爵は、意外なものでも見たような顔をした後に肩を揺らしながら

「面白いが、そんな気色の悪い世の中、儂はゴメンだ」

そう言って笑った。

 

■WANTED僧侶アゴヒゲ


 

「さて、これでフリーレンの話は最後になるが、そちらから他に申し送りはあるか」

 

話の切り上げにグラナト伯爵が問うた。

さて、なにかあるだろうか。当初の目的は十分に果たした。やけに話が大きいのでシュタルクは文句を言いそうだが。

 

最近であの二人が必要としていたこと……と考えていると1つ大事なことを思い出した。

 

「いま、大陸を周遊しているある僧侶を探してほしいんだけど」

「ほう」

「多分、二人組で居ると思うんだけど……こんな感じの」

 

そう言って、最近開発した光の像を投影する魔法で思い出した姿を映し出す。

印象が妙に強かったので、パーティーから別れる直前の夜にフリーレンと一緒に飲んだ時に見たエールのグラスを机に叩きつけて叫んでる時の姿だ。

像の姿はぱっと見呑んだくれに見えるため周辺から「え、僧侶?」と言った反応が出ている。

 

「分かった、探索しておこう、名前と大雑把な場所を教えてくれるか?」

 

「ザイン、って名前なんだけど――」

 

✧ ✧ ✧ ✧

 

「とまぁ、だいたいそんな感じかな」

「そうだったのですね。それにしても、シュタルク様は本当に色んな人に好かれていますね」

 

そう言って、フェルンは嬉しそうなような、やれやれと言ったような複雑な表情をする。

 

「そうかな? フェルンも十分だと思うけど」

 

天然の人たらしである当人は相変わらずの無自覚である。

 

「グラナト伯爵やオルデン卿には脚を向けて寝れねーな。そのうち挨拶にも行かないと」

「いつかそうしてあげてよ。顔には出さないだろうけど喜ぶと思うよ」

「落ち着いたら、フェルンと一緒に挨拶に行くよ」と屈託なく笑う彼を見ていると

あの無愛想な領主達が何を守ろうとしたのかはフリーレンにもわかる気がした。

 

ところで、とフェルンが話を切り替える。

「フリーレン様、最後にザイン様を探す様に依頼していましたが?」

久しく合っていないため顔をあわせる事自体に反対はないが、突然探索を依頼したのは何故だったのかと、フェルンはフリーレンに聞いた。

 

「ああ、その事か。だって今の二人には必要でしょ。いつまでもそのままって訳にはいかないし。

 そろそろ、話を前に進めたほうが良いかなって」

 

言葉の意味を汲み取れなかったシュタルクは小首をかしげる

 

「フリーレン。もうちょっと、ちゃんと説明してくれ。何の話をしているんだ?

 ザインに久しぶりに会おうって話だよな?」

 

フリーレンも逆にシュタルクの質問の意味がわからないような表情をする。

 

「だって、必要でしょ? フェルンとシュタルクはこれから女神の前で誓いを告げるんだから。

 仲介してくれる神父役ってやつがさ。きっと二人にはザインが一番いいと思うんだよね」

 

というフリーレンの言葉にようやく理解が追いついた二人は

 

「「あっ」」

 

といいながら目下止め置いていた話をやっと思い出したようだ。

フリーレンとしては弟子でもあり我が娘同然の晴れ姿は結構楽しみにしているのだが

そんな二人のんきな様子にいま少し時間は掛かりそうだと嘆息する。

 

「まぁ、いいや。こういうの待つのは随分慣れちゃったし」

 

と苦笑いしながら二人を見つめるフリーレンの言葉でこの日は幕を閉じた。

 

~ fin & to be continued ~

 




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