葬送フリーレン~アフターオレオール~   作:rvr75_raiden

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■前回までのあらすじ(不要な場合は読み飛ばしてください)


互いの気持ちを確かめたフェルンとシュタルク、二人の人生に寄り添うことを決めたフリーレンは戦士の村の再建をしつつの生活を始める。
そんな一行の下にアイゼンが訪れ、シュタルクとフェルンがその親心に触れる一方でフリーレンは国からの復興支援を得るために聖都へ単身向かっていた。
そんなフリーレンは聖都にてグラナト伯爵と再会しこの地で行われる領主の会議について知る。
この会議がフリーレンとも無関係ではないことを知り渋々参加することになるが、フリーレンがその会議で知ったのは
自らが関わってきた領主達が未来をつかもうとしているフェルンとシュタルクを全力で守ろうとする名君達の姿だった。
会議の終わりに、申し送ることはないかと問われたフリーレンはザインの捜索を依頼する。
それは、フェルンとシュタルクが結婚する際に女神への誓いを仲介する神父はザインが相応しいというフリーレンなりの気遣いだった。



指輪を臨みて天命を待つ

■ある告白の翌日


中央諸国クレ地方、戦士の村 "跡地"

 

時はこの地にたどり着いた日の翌日にまで遡る。

 

つい昨日、廃墟となった戦士の村の跡地にたどり着いた後、周囲に巣食っていた魔物を一掃し

そして色々……本当に色々あってからこの地に腰を下ろす決心をしたシュタルクは

一応、締まり切らないながらにフェルンにプロポーズしフェルンから快諾をもらった。

 

そんな、昨晩の出来事をパーティーメンバーの中で最も早く目が覚めたシュタルクは覚醒の覚めやらぬままの頭で思い出し、羞恥に打ち震えていた。

 

(なんだよ『俺のお嫁さん』って!……過疎化の進んだ田舎の男かよ!)

 

現状、過疎化の進んだ田舎村の男なことは違いないのだが、受諾された言葉はもはや修正不可能。

変更依頼を出しても「これはシュタルク様が一生懸命考えたプロポーズです」という言葉と共に却下されること請け合いだ。

とにかく冷静になろう。あんな話があった後のフェルンと顔を合わすのだ。どんな話をすればいいのかわからないが万全を機さなければ。

 

そうして、起き上がるために地面に手をつくか……と思った瞬間

 

――ふにゅ

 

と、柔らかい感触が手の平に広がる。

 

「ッッ!? 何だ!?」

慌てて手を離し、周囲をキョロキョロと確認する。

 

「……んんっ……」

 

――フェルンが、真横で寝ていた。

 

( 寝る前こんな所に居たっけ? ――――いやっ! 俺、今どこ触ったの?)

確認する前に手を離したのでわからなかったが、めちゃくちゃ柔らかかった。

 

静かに寝息を立てるフェルンを起こさないようにそっと起き上がる。

「まずは落ち着こう」と朝から跳ね上がった心拍数を抑えながら野営地から近くの川辺へ向かうことにした。

 

川の冷水で顔を念入りに洗い、小道具のナイフで髭を剃る……女性二人と冒険に出るようになってからは出来るだけ気をつけている朝のルーティン。

二人から不潔だと言われたらシュタルクのメンタルでは立ち直れない。

フェルンと両想い……と認め合った今なら命すら危うい。

 

「……よし!」

 

準備は万端だ。後は薪のになりそうな木材と朝食に使えそうな山菜を取って戻ればフェルンが起きる頃合いであろう。フリーレンは……朝食ができた頃には起きるだろう。

 

✧ ✧ ✧ ✧

 

「おはようございます。シュタルク様」

 

目を覚ましていたフェルンは、身仕度を整え終えて、テキパキと朝の準備をしている。長い冒険生活で染み付いた習慣である。

 

「お、おう。おはよう。フェルン」

「薪と朝食の食材ですね。いつもありがとうございます。

 フリーレン様が起きる前に準備してしまいましょう」

 

そう言って、華やいだ笑顔でカゴを受け取るフェルンにシュタルクはたじろぐ。

いつもより応対が可愛すぎる……まともに見てられない。

だって普段は表情変わらないんだもの……

 

嬉しそうに朝食の準備をするフェルンにドギマギしながらも

『これが両想いに成った変化なのか!!』と、シュタルクは背後に落雷が落ちそうなほどの衝撃を感じていた。

 

とまぁ、ここまでは良かった。

 

フリーレンを起こし、朝食を食べ、今後の計画として最低限の生活基盤を整えようといった相談をし……

フェルンは終始ごきげんそうではあったが、シュタルクはふと疑問に思う。

 

フェルンが笑顔な事を除けば生活パターンはいつも通りだ。

しかし、プロポーズをした後の男女が次の日からどうなるのかのイメージが全然ない。

シュタルクとしてはフェルンと添い遂げる覚悟は無論出来ている。むしろ今更フェルン以外を考えられない。

 

だが、次の一手は何なのだ? えっちなことなのか? えっちなことなのだろうか?

いやいやいや、今は家もないし、寝床も寝袋だし、怒られたばっかりだし。

世間の夫婦の旦那さんはどうやって乗り越えたんだ。どうして<ruby><rb>魂の眠る地 </rb><rt> オレオール</rt></ruby>で出てきて教えてくれなかったんだ親父……

等と行き急ぎ悩むシュタルクはどうにも取り留めのないことを考えてしまう。

 

実際の所、普段から一緒にいる二人が夫婦になっても何か変わる訳ではなく、普段と変わらぬ日常こそが幸せだと気づくのはまだ少しだけ先の話である。

 

わからない……わからないなら聞くしかないか? 今更フェルンの前で恥などかき慣れている。

メソメソどころか本気泣きすら見られた。後で問題になるより今聞いたが方絶対いい……筈だ

と、男らしい(?)覚悟の下、シュタルクは素直にフェルンに聞くことにした。

逆に言えば、フリーレンに聞いても解決しなさそうだし、悩んでいても事態は好転しないので消去法だが。

 

フェルンはフリーレンからもらった図面を見ながら、シュタルクが切ってきた木材を魔法で加工している。

そんなフェルンにシュタルクは「よし!」と覚悟を決めて声をかけた。

 

「なあ、フェルン。確認したいことがあるんだ」

「はい、何でしょう、シュタルク様」

フェルンは木材を地面におろしてシュタルクに向き直る。

 

えーあー、そのー、と繰り返すシュタルクに「どうかされましたか?」と小首をかしげるフェルン。

意を決したシュタルクは思い切って質問をする。

 

「俺たちって、その、昨日の夜から……夫婦、ってやつになったんだよな。それで……その――」

 

よく考えると何を聞けばいいんだっけ?と続く言葉を考えている内にフェルンから帰ってきた言葉はシュタルクの予想していたものと異なる答えだった。

 

「え、まだなってませんよ?」

「――あれ?」

 

■実は知らなかった


 

突然降って湧いたフェルンの言葉にシュタルクは困惑する。

 

「え、あれ? 昨日の話はプロポーズして、それで……途中から夢か何かだった?」

 

そんな姿を見たフェルンは朝からのシュタルクの浮足立ち……していたのは自分も人のことは言えないけれども。

とにかく、浮足立っており、そして今のさっきのやり取りで困惑していることに察しがついた。

 

シュタルクの中では結婚が終わったことになっていた?

戦士の村に関しては最早わからないが幼少のシュタルクを育てたアイゼン達ドワーフの文化などは結婚を決めた二人は仲間に報告して宴を持って婚姻とするケースなども多いらしい。

フェルンは女神信仰の信徒ではあるので、指輪などの相手の人生を誓う贈り物の交換と共に女神の前で誓いを立てるスタンダードパターンだ。

とはいえ、登録手続きだけで儀式自体は後付でやるケースもあるとも聞く。要するに何をもって互いに夫婦というかは地方や文化圏によってまちまちだ。

 

「シュタルク様、とりあえず座って話をしましょう」

フェルンはそういいながら木材を座れるように置き直し、その上に腰掛ける。

「はい……」

シュタルクは力なく返事をしながらフェルンの正面に正座した。

「………」

そんなつもりはなかったのに何故か説教スタイルのような構図になる。

 

どうしてこの人は……と思いつつ、フェルンは自分の左隣りを手でトントンと叩く。

 

「??」

「シュタルク様、座ってください」

「座ってるけど……」

「シュタルク様、こっち」

「はい……」

 

会話するならば顔を突き合わせては確かにそうだが、良いじゃないか隣り合っていても。

私達はそういう関係なのだと思ってはいても、口には出さないのがフェルンだが、意外とシュタルクはこの辺をわかってくれない。

 

シュタルクは恐る恐るという様子でフェルンの隣に座る。

フェルンは30cm 程開いた隙間に若干腹が立ったので肩が触れ合うぐらいの距離まで移動するとシュタルクの肩がビクッと動いた。

ちょっと居づらそうだが、フェルンとしてはこのくらいの距離感が気持ち良いし、話が進まないのでフェルンは構わずにシュタルクに語り出した。

 

「シュタルク様、私はハイター様の元で育ったので女神様を信仰する教会の教えに準じて生きています。

 いつかクラフト様と一緒に過ごした時期、シュタルク様も様々な考え方を聞いたと思います」

「……そうだな、クラフトには色々教えてもらったな」

「私達は昨日、お互いの気持ちを遅まきながらに確認しました。シュタルク様が今後の人生に私を望んでくれると、私もシュタルク様の側にずっといると」

「……そ、そうだな」

 

フェルンから改めて言われると若干照れる。もっともシュタルクが言い出した事に他ならないが

 

「女神様の教えで言えば、この状態は結婚の約束を、婚約した状態となります。

 女神様信仰のある場所では夫婦となるためにはいくつかのプロセスがあり、私はコレを守りたいと思っています」

「……な、なるほど」

 

シュタルクは腕を組んで考え込む。

こういう事を我が事として考えて来ずに居たことを恥じるばかりだが、フェルンが望むなら自分はそれを叶えたい。

 

「ごめん、俺の考えが足りてなかったよ。必要なことを、ちゃんとやろう。全部教えてくれるか?」

「はい。最終的には、女神様の前で誓うことになりますが、それに必要な条件がいくつかあります」

 

そうして、シュタルクとフェルンのそこそこ長きに渡る幸せ家族計画がこの時から始まったのだった。

 

■指輪を用意したい


 

とまぁ、そんなこんなありつつも日々は過ぎ――

生活基盤を立ち上げたり、瓦礫を片付けたり、アイゼンが来訪したり、フリーレンが自治領化の話を持ってきたりと……

案外慌ただしい日々を過ごしているシュタルクだったが、先日のフリーレンから飛び出したザインを神父として招こうという話でやらねばならないことを思い出した。

 

そうだった。プロポーズして結婚をしようと約束してから正直一歩も進んでない。

ちなみに、二人の近くで日々を過ごすフリーレンからすると割と折を見てはナチュラルにイチャついている様に見えるので、何もしてない訳でもないのだが。

当初の約束という意味では確かに進んでない。

 

そんな事を悩んでいると

 

「よお! アイゼンの小倅、景気の悪い顔をしとるのう」

 

威勢のいい声と共にシュタルクの背中が勢いよく叩かれた。

 

「ティシュレー爺さん。おはよう、爺さんは昨日夜遅くまで飲んでいたのに元気そうだな」

「爺さんはやめろ、アイゼンに比べるとだいぶ若いわい」

 

ティシュレーはドワーフ族の技術屋であり、アイゼンの古い友人だ。アイゼンがシュタルクのために声をかけて数名のドワーフと共にやってきてくれた。

少なくとも、アイゼンからもらった料金分でお前らの家は立ててやるぞとの事でシュタルクとフェルン、フリーレンの住居を目下建築中だ。

土台は昔シュタルクが住んでいた族長の家の跡を利用している。燃え残った廃材を除けば地盤がしっかりしていたからだ。

先日「どんな家がほしい?」と聞かれたためフェルンが嬉しそうに台所やリビングの作りについての希望を説明し、フリーレンはお風呂の要望に関して熱心に語っていた。

 

「歳取ってる人はみんなそう言うよ」

「む、なかなか言いよるな。まあいい、何にしても未来ある若者が景気の悪そうな面をするな。悩みがあるなら聞いてやるぞ」

 

ティシュレーの見た目はもう典型的な工具の大型ハンマーに合う立派なひげを携えたドワーフの爺さんといった風体で、ぱっと見は気難しそうな見た目をしている。

そういう気難しそうなおっさんや爺さんこそある意味シュタルクの人間味のいい餌食であり、出会った当日に数刻話し合っただけで、息子か孫かと言わんばかりに気に入りっぷりである。

これは、もともとシュタルクがアイゼンの息子同然の人間だということだったのもあるだろうが、あっという間に意気投合して日々を過ごしている。

 

✧ ✧ ✧ ✧

 

「なるほど、嬢ちゃんに送る指輪のう」

 

ドワーフ達が来てからあっという間に建った彼らの仮設拠点兼酒場。

そこでシュタルクはティシュレーとはじめとするドワーフたちと相談していた。

 

そう、指輪だ。女神様の前で誓う時にお互いの誓約の証として指輪交換する。コレを準備しなくてはならない。

重要度から考えると、露店のアクセサリー店で選ぶ……で済ませるのも気が引けた。

 

「そう、用意したいんだけどさ……大事なものだからちゃんとしたものにしたくて

 この前近くの街まで買い出しに行った時、二人の目を盗んでちょっと宝石店とか覗いたんだよ」

「ほう。まぁ……オチは見えるが」

 

そんなドワーフ達の言葉にウっと詰まるシュタルク

 

「めちゃくちゃ高えよ! 何なの? みんなあんなの買ってるの?

 時々やってる討伐依頼とか細々した出稼ぎの利益だと食費とかぶっ飛んじゃうよ!」

 

ちなみに、シュタルクはあまり意識していないがフリーレン一行のエンゲル係数は一般的な家庭と比較するとやや高い。

 

「まー。宝石店で選ぶとなるとのう。ああいうのは上流階級向けじゃ、庶民はもっと違うものを用意する」

「そうなんだ。例えば?」

「そうさのう……、露店のアクセサリー商などがおるだろう。ああいう連中はアクセサリを作れる。そういう人間に専用の指輪の作成を頼むとかならよくある手だ。

 宝石は、貴族でもないなら付ける意味も薄いしのう。変に価値があるものにすると危うい目に会いかねん」

 

顎髭に手を当てながら、語るティシュレーにまだ若干残念顔が抜けきらないシュタルク。

 

「そうなの? でも腕のいいアクセサリー商人とか俺知らないよ……予算もわからないと交渉も難しそうだし」

 

そんな言葉に、その場に居たドワーフ達はキョトンとした。何を言っているのだこの坊主は?といった風だ

 

「シュタルク、お前は何を言っとるんだ。

 お前の目の前に居る者たちを何だと思っておる」

「え?」

 

シュタルクが顔をあげると酒場に集まっていたドワーフ達が、エールの入った樽型のジョッキを掲げて笑っていた。

 

「そんな貴金属加工、儂らドワーフの職人の得意中の得意領域の話じゃろがい」

 

✧ ✧ ✧ ✧

 

シュタルクには腕組みをして自分を囲いながらいい顔で笑う筋骨隆々のドワーフ達が救いの神のように見えた。

「じゃ、じゃぁあ指輪の作成をお願いしたら爺さんたちが作ってくれるのか!?」

 

笑顔でティシュレーはシュタルクの肩に手を置き、深く頷く。

 

「ああ、自分で作れ」

「くれないのかよ!!」

 

高い高いからのバックドロップを食らったかのような気持ちでシュタルクは叫ぶが「まぁ、おちつけ」とティシュレーに止められる。

 

「いいかシュタルク。こういうのは一生物だ。貴族連中はその指輪の意匠とはめられた宝石でその気持を価値に込める。

 一般庶民もそうでないにしても基本的には自分の金で手に入る最上のものを用意する。

 お前は現在この村の立て直しで手持ちがない。

 儂らがアイゼンから貰った依頼の範疇で格安で作ってやってもいいが……お前はそれをフェルンの嬢ちゃんに渡すのか?」

 

「うっ……!それは、駄目だ……」

 

そうだ、フェルンとの事だけは、シュタルクの無茶に、人生に寄り添ってくれると言ってくれた彼女の事だけは妥協してはいけない。

そう決めているのだ。師であり親でもあるアイゼンとも手を握り続けると約束したのだ。

 

「で……だ! 儂らが作り方の技術と道具を提供する。だからお前が作れ。それは高級品を買う事に負けない一生物だ」

 

たしかにそのとおりだ。金が無い自分が彼女に今できる最大限の限りを尽くすべきだ。

 

「わかったよ爺さん、やってみるよ。教えてくれ!指輪の作り方ってやつを」

「よし、いい面だ! それでこそアイゼンの小倅だ。見せてやろうドワーフの魂ってやつを」

 

✧ ✧ ✧ ✧

 

そうして、シュタルクの結婚指輪作りがドワーフ達の協力の元で始まった。

材料は冒険の合間にいつか斧を強化しようという目的で折を見て集めていた希少鉱物が役に立ちそうだった。

 

「そうだな、この白金とオリハルコン片があるのがいい。換金するには量は少ないが指輪みたいな小さいアクセサリーを作るには十分だろう。

 オリハルコンは他の素材と合成することで、その素材自体の劣化防止や魔力的な効果を強化させる。

 白金だけだと加工が難しいがオリハルコンとの合金化で加工時の難易度が随分下がるぞ。まぁ、少々火力が必要だが……お前らのところには凄腕の魔法使いがおるからなんとかなるじゃろう」

「フリーレンか……」

フェルンに依頼するのは出来れば避けたい。となるとフリーレンに協力をお願いすることになる。流石に手伝ってはくれるだろうけど……

「フェルンに隠れてやるの難しくなるなぁ……」

「なんだ、嬢ちゃんには秘密にやるのか?サプライズっちゅうやつか?」

シュタルクはそのつもりでいたが、ドワーフたちはそうでは無い様だった。

「え、まぁ、なんとなくそうしたほうが良いかなって」

「あー、それでも良いと言えば良いがのう。お前知っとるか?嬢ちゃんの左薬指のサイズ」

「え?」

 

結果論から言うと、フェルンの指のサイズが分からないとどうにもならないというポイントで行き詰まった。

 

「ブカブカだったり、はまらないぐらいのサイズだったら、お前……渡してはめるときに超ダサいぞ」

 

という、ティシュレーの言葉で脳内シミュレートした時にシュタルクは想像上のフェルンの視線にすら耐えられない。

これは駄目だ。どうにかしないと。

 

■嘘の付けない青年


 

最近、シュタルクの視線をやたら感じる。瓦礫の撤去作業や街に出たときに受けた依頼をこなしている合間にシュタルクがやたらこっちをチラチラ見ている。

自分たちの関係性からすると、好きなように見ればいいと思うのだが何やらそうではない様子。本人は気づかれていないと思っていそうな感じなので少々こそばゆい。

 

「シュタルク様、どうかされましたか?」

 

観察モード?のときに問うと「いや、何でも無いよ」と脱兎のごとく逃げてしまう。

そういう状況に変化が起きたのはフェルンが料理中に左手の指を少し切ったときだった。

 

「痛っ」

「フェルン!?大丈夫か?」

慌てて近寄ってくるシュタルクに観察モードの雰囲気はなく、本当に心配している様子だった。

「……はい、少し切っただけなので」

「血が出ている。すぐ手当しよう!」

シュタルクはそう言って救急箱がある場所までフェルンの手を引いていく。もちろん傷がある場所には気を使った握り方だ。

 

救急箱を開けてからは戦士職故か小さな傷の手当は手慣れたもののように対応していくシュタルク。

とても頼りになる私の戦士様。シュタルクがこうして自分を想って手当をしてくれることが嬉しくてつい笑顔に成ってしまう。

 

大した傷でもなかったので、消毒してガーゼを当てて包帯を巻くあたりでシュタルクの手が止まった。

しきりに薬指を見ている。

 

「あのーフェルンさん……薬指とかも切ってたり……してたら不味いから包帯巻いても良い?」

「いえ、切ってませんし、流石に不要にまいていたら不格好ですし少々不便ですので」

「ですよねぇ……」

 

露骨にがっかりした様子を見せるシュタルクに疑問が湧く。

薬指に包帯をまきたかった?何故……というかここ最近チラチラ見ていた事に関係があるのか?

シュタルクは今も手当をしたフェルンの左手を離さずに薬指を凝視している。

と、考えた辺りで流石にフェルンも気づいた。この時期に左手薬指のことを気にしだす理由なんてほぼ1つしか無い。

 

「シュタルク様、凝視しても流石に目測でサイズは測れませんよ」

「ッッ!?」

 

軽く鎌をかけたら勢いよくすっぱり斬れた。

 

✧ ✧ ✧ ✧

 

「言ってくれれば、指のサイズなんて答えましたよ」

「いやぁ、何の話だか……」

 

この期に及んで目をそらしてごまかそうとするシュタルクの姿は、思いつく理由を加味すると若干可愛くも思えるのだが話が進まない。

 

「――――指輪、用意してくださるんですね……」

「イヤァ、ナンノコトデショウ……」

 

ストレートに聞いてみたが誤魔化したいらしい。今更なにを隠したいのだろうか?

 

「最近、夜遅くにティシュレー様達の元へ行っていたのはそのせいですか?」

「………」

 

何故か答えようとしないシュタルクにフェルンは聞き方の角度を変えることにした。

 

「私とフリーレン様に隠れて、毎晩皆さんでお酒を飲んで遊び呆けていたという容疑が掛かっていますが」

「――はい、指輪をどうにかしようとしてました……」

 

あっさりと自白したシュタルクの様子を見て「やっぱり」とフェルンは微笑んだ。

 

■君の一生を


 

もう、観念するしか無いというか、全然隠せてないじゃん!とシュタルクは自分自身に突っ込む。

といっても建築に来てくれたドワーフ達を除けば3人しか居ない上に手狭な小屋生活で隠し事をするのがそもそも難しいのだが。

出来れば、完成してから驚かせてあげたかった。

 

それもこれも、フェルンの左手薬指のサイズを把握していないがためにッッ!

と、悔やむが、流石にそんな事を淀みなく言えるぐらい知ってたら逆に怖い。

 

手当をし終えたフェルンがまっすぐにシュタルクを捕らえている。

この場で逃げたら逆に拗れてしまうと諦めたシュタルクは渋々といった様子で語り始めた。

 

「えっと、その……、ちゃんと用意しようと思ってて。

 たまには格好良く、渡せたら良いなって……ティシュレーの爺さんたちに毎晩加工技術の手ほどき受けてて」

 

シュタルクのその言葉を聞いたフェルンは少し驚いた様子で目を見開いていた。

 

「……シュタルク様が、作られているのですか?」

「そうだけど……? こんな状況だから上等なものを買うのは無理だけどさ、フェルンにとっても一生の物になるからちゃんと想いは乗せたくて。

 爺さんたちも協力してくれるって。大陸指折りのドワーフの職人が協力してやるから絶対いいものが仕上がるぞって息巻いてたよ」

 

「ちょっと大げさだよな」と茶化して笑うシュタルクだったが、フェルンは動揺とはまた違う形で固まって静止していた。

不意にそんな彼女からポロッと一粒の涙がこぼれ落ちた。

 

「…………」

「えっ、フェルンどうした!? なんか不味いこと言った? 駄目だった?」

 

そんな顔を見たシュタルクはワタワタと慌てふためき、フェルンからこぼれた涙の意味を測りかねていたが

 

「いえ……私の一生をシュタルク様が、受け取ってくださるのですね」

 

覚悟を持っていても、お互いそうあるべきだと、そうであろうと思っていても言葉を交して確認する事は特別だ。

そんなフェルンの言葉に、こういう事ってちゃんと伝えられてなかったなとシュタルクは頭をかきながら考える。

もう、サプライズなど格好をつけずに、ちゃんと伝えるべきだろうとシュタルクはフェルンに向き直る。

 

「当たり前だろ。俺の一生はフェルンだけでいいし。フェルンの一生も俺だけでありたい。

 だから、ちゃんと作りたいんだ」

 

結構長く一緒に居た気がするけど、フェルンが泣いたところを見たのはそれほど数多くない。

ちょっと前に、悪い意味で泣かせてしまったけれど、今回はそうではないようだと安堵する。

 

ずっと握りっぱなしだったフェルンの左手を取ったシュタルクの手をフェルンは右手で触れながら

「――はい……、私も、そうあると、必ず……」

と、そう答えてくれた。

 

――少しだけ、待っているとフェルンも落ち着いたようだ。

「――――こういう話は指輪ができたときにもう一度言ってください。私もちゃんと応えますから」

「うっ……」

 

前回もそうだったが、こういう事のリテイクは結構、いや死ぬほど恥ずかしいのでシュタルクはちょっと苦手だ。

だがフェルンが望むのであれば答えるしかあるまい。

 

「はい……渡すときにもう一回言います……。――で、本題を忘れるところだったんだけど、指のサイズを……」

「もちろんお伝えしますが、次作りに行くときは私も一緒に行っていいですか、そこでちゃんと測りましょう」

「え? フェルンもくるの? 爺さん達の簡易工房だけどめちゃくちゃ汗臭くて熱いよ?」

 

シュタルクを含め、筋骨隆々な野郎共がひしめき合っているのでフェルンのような女性に来てもらうのはちょっと忍びないと思っていたがフェルンもそこにくるという。

 

「当然です。 私達の一生の物なんでしょう?二人でやるべきです」

 

二人のことは二人でやるべきだと、そう言ってフェルンは笑った。

 

そんなやり取りを割と近い場所で見せつけられて、ひとまず壁に徹するしか無いなと思っていた人物が1人。

 

「ねえ、そろそろ喋っていいかな?」

 

話がまとまりそうだったのでとりあえず声をかけてみるフリーレン。

 

「お鍋吹いてたから、火消したよ?

 ほっとくと、冷めちゃうよ? そろそろ料理の続きしない?フェルン?シュタルク?聞こえてる?」

 

この日の夜はそうして更けていった。

 

✧ ✧ ✧ ✧

 

そんな事があった後日

 

「結局嬢ちゃんも来たのか」

「悪い、ティシュレー爺さん。バレちまった」

 

そう、答えるシュタルクの言葉を聞くが、ドワーフの老職人は髭をかきながらどうしたこともない風だ。

 

「まぁ、シュタルクの小僧に付き合いはしたが、隠し通すのは普通に無理だと思っとったよ。

 とにかく、これで工程が次に進む。嬢ちゃんは採寸してからこちらの炉に魔法で加熱してくれねえか?もうちょっと火力がほしい」

「わかりました」

「本命の素材でやる前に、型を整えながらテスト用のリングを何個か作るぞ」

 

こうして、指輪の作成にフェルンも加わり進捗はようやく進むことになった。

そんな作成の途中、ティシュレーはシュタルクに問いかけてきた。

 

「指輪になんか意匠はつけるか? 素材は良いからシンプルなものでもそこそこ見栄えはするが」

「だったら、フェルンの腕輪の……」

 

そう言ってシュタルクはフェルンの左腕を見る。

フェルンも左腕の袖をたぐり、いつも付けていた腕輪を見せる。

 

「こちらですか?」

「ほう、鏡蓮華の飾りか、なかなか洒落とるが、こんなもんもう送っとったのか?」

 

ティシュレーは顎に手を当て、フェルンの腕輪を見る。

おそらく花言葉も知っての言葉だろう。ドワーフの爺さんでも当たり前のように知ってたんだなぁ……とシュタルクは少し反省する

 

「18の時に、腕輪のプレゼントを貰ったお返しに」

「この意匠を選ぶのは随分気が早いプレゼントだの」

そう言われるとシュタルクはおっしゃるとおりで、といった顔にならざる得ない。

「意味は……あんまりわかってなかった。フェルンも気に入ったみたいだし、似合うと思ったんだよ……そしたら偶然」

「まぁ、らしいと言えばらしいのう」

なお、あのときはちょっと不満気な顔をしたフェルンだが今は何故か満足げな顔をして黙っていた。

 

「まあ、意匠も作って取り付けよう、余程大事なのだろう? 鏡蓮華の意匠が。細かい作業は得意か?」

ちょっとニヤニヤして笑うティシュレーだったが、シュタルクはまっすぐに

「得意かはわからないけど、フェルンと二人で一緒に頑張るよ」

そう応えた。

 

■いつか帰り着く我が家


 

指輪の加工は建築後の夜に少しずつ教わりながらシュタルクとフェルンで慎重に進めているので、もう少しばかり時間がかかるだろう。

グラナト伯爵とオルデン卿にお願いしたザインの捜索よりかは先に終わるだろうといった所だ。

二人が一緒になにかを成すのをフリーレンは旅の中でもずっと見てきた、それはとても嬉しくて誇らしく、そして少し寂しく、何より眩しいものだと感じていた。

 

初めて会った時は自身を守ることもままならぬ程幼かったフェルンも、己の試練に向き合えない程に未熟だったシュタルクも立派に成長し、こうして互いの手を取って大人になっていくのだろう。

もう少しすれば、あるいはもう既にフリーレン無しでも生きていけるのかもしれない。

 

自分はよく変わったと言われるが、本人は昔からそう変わらないでいるつもりだ。

そんな中でどんどん大人に変わり自分の手を離れていく二人にフリーレンはほんの少しの寂しさを感じる。

 

もう少しで完成しそうな新居の屋根に登り、星を見上げていたフリーレンの背後から声がかかる

「フリーレン様、こちらにいらしたのですね」

「フェルン。シュタルクはどうしたの?」

「細かい作業も多かったせいか、疲れて寝てしまいました。シュタルク様がこんな時間に寝てしまうなんて珍しいです」

 

そういってフェルンはくすくすと笑う。

シュタルクとフェルンの日中は瓦礫の撤去か街の方で出された討伐依頼をこなしての出稼ぎにでており、ここ数日は夜も作業で少々忙しそうだ。

 

「シュタルクは出会った頃より背も伸びて顔も大人びたけど寝顔は昔から変わらず、童顔ぽさが抜けなくてちょっとかわいいよね。あまり見せてくれないけど」

「そういう隙は意外と見せてくれませんね」

 

そんな他愛のない会話の中で、「ところで」とフリーレンは話題を変える。

 

「けしかけた手前で変なこと聞くけど、人ってなんで結婚して夫婦になるんだろうね?

 そんな事しなくてもフェルンとシュタルクはきっとずっと一緒にいるんじゃない?」

 

フリーレンも大昔にエルフで家族を持った集落の中に居たが、それもフランメと出会う前の話で、1000年近く経ってしまった。

それ以来、フランメやゼーリエと一緒に居た時期もあったが、それ以外の長い時間は1人で過ごしてきた。

それがいいとは思っていない。少なくとも今はフェルンとシュタルクと共にいるこの時間がたまらなく大事であることは間違いない。

ただ、漠然とした疑問。もし、あの日、魔王討伐から帰還したあと、それぞれ別れずにヒンメルと共に過ごしていたならば……そういった感情も、選択肢も合ったのだろうか?

 

「……哲学的な話であれば、わかりません。

 女神様の教えでは夫婦となり、子を作り、末永く協力して過ごす事が美徳とされていますが……

 そうですね、私がここに来て、シュタルク様と共にある事を決意してから思ったのですが」

「うん」

「私達は、いつか何処かで、いずれ帰りつく場所が欲しいのだと思います」

「帰る場所のために、夫婦になるの?」

 

「そうなんじゃないかなと……思います。家族を作り、家を成し、戻ってきたときに『ただいま』と言える場所を、

 フリーレン様やシュタルク様が戻ってきたときに、『おかえりなさい』と言える場所を人は欲しがるのでは……いえ、私が欲しいと思っています」

 

そっか、と言いながらフリーレンは膝を抱きながら顔を伏せる。

 

「やっぱり長い時間を1人で過ごすものじゃないね。孤独に慣れてしまうとそんなことにも気づけなくなってしまう。

 楽ではあったけど、時が過ぎるのが早すぎて、全ての事に置いていかれてしまっていたような感じだ」

「フリーレン様は1人ではありません。私が居ます。シュタルク様もいます。ここには居ない旅で出会った沢山の人がフリーレン様を知っています」

「そうだね、今の私ならわかる気がするよ。帰り着きたい場所が欲しい気持ち」

 

■星空の下の誓い


 

「でもいずれ、みんな先に行っちゃうのは寂しいな……魂の眠る地(オレオール) で話すことが出来たとしてもやっぱり寂しいかな」

 

そうこぼれ落ちた言葉はきっとフリーレンが漠然と感じている恐怖なのだろう。みんなの記憶を未来に連れて行く使命を負った彼女の恐怖。

フェルンもシュタルクも半世紀もすれば年老いてしまう。同じエルフであるゼーリエやクラフトですら、フリーレンより年上なぶんいつか先立ってしまうかもしれない。

いずれまた孤独が訪れるかもしれない。今ある暖かなものを失う恐怖があるのだろうとフェルンは感じていた。

 

「フリーレン様。私、目標と夢があるんです」

「どんな? フランメを超える大魔法使いになるとか?」

 

フリーレンらしい発想にフェルンはすこし苦笑いをしながら首を振る。

 

「それも面白そうですけど、もっと小さくて、そして途方もなく気の長い話です」

「へえ、どんな?」

 

興味深そうに聞いてフリーレンからフェルンは星空に視線を移し願うように告げる

 

「シュタルク様と一緒に、沢山家族を作りたいと思っています」

「へ、へえ……」

 

聞きようによっては大胆発言だが、フェルンの真意はそういう事ではないようだったのでそのまま静かに聞き続ける

 

「いずれ産まれくる子供達に伝えたいのです。フリーレン様という凄い魔法使いがいる事を、優しい魔法使いがいる事を」

「……」

「きっとその子達が次の世代に語り継いでくれます。そして、フリーレン様を1人きりにしない未来を作りたいのです」

 

――君が未来で一人ぼっちにならないように、かな。

――絶対に一人にならないで。君がその手に掴んだ絆はそれを可能にする未来へと君を導くはずだ。

 

かつての勇者がフリーレンに伝えた言葉をふと思い出す。

 

「……フェルンはヒンメルみたいなことを言うね、アプローチは違うけど」

「そうかも知れません。きっと目的は一緒なのだと思います。大好きな貴方に孤独を味わってほしくない」

 

フェルンは真剣な目でフリーレンに向き直って告げる。

 

「だから、私達の前からいなくならないでください、ここは私達の家です。だからフリーレン様も必ず帰ってきてください」

 

フェルンのその言葉にフリーレンはクスリと笑いながら答える

 

「言ったでしょ、フェルンとシュタルクの我儘ならこの先何百年だって付き合ってあげるって」

 

フェルンは安堵したかのような表情を見せて

 

「そう……、そうでしたね。じゃあ、約束です。決して破らないでくださいね」

 

この先の長く続くであろう約束を星空の下で交わしたのだった。

 

✧ ✧ ✧ ✧

 

約束の夜から数日経ったある日。

シュタルクとフェルンの

「完成したーーー」

「やりましたね、シュタルク様。凄くきれいな指輪です」

という嬉しそうな声と、偶然にも同様の時刻にオルデン家配下の魔法使いが使いの鳥に運ばせた手紙がフリーレンの下へと届いた。

 

フリーレンがその手紙を開くと

『ザインという名の僧侶だが、先日故郷の教会に戻って来たところを確保した。これよりそちらに送り届ける』

というちょっと物騒でシンプルな文章が書いてあった。

 

「丁重に扱ってあげてと念を押しておけばよかったな」とぼやきながらも

そうか、ザインがここを訪れるのか。また暫くにぎやかになりそうだ。と、まだ見ぬ明日に胸を膨らませてフリーレンは空を見上げるのだった。

 

~ fin & to be continued ~




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