葬送フリーレン~アフターオレオール~   作:rvr75_raiden

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■前回までのあらすじ(不要な場合は次ページへ)


戦士の村を復興しつつ、定住生活を進めるフリーレン一行。
そんな中、フェルンへのプロポーズをしたシュタルクは夫婦になるにあたって女神の教えに従うのであれば指輪を交換し、女神への誓いを必要とすることを知る。
シュタルクは指輪を用意しようと苦心するが、そこに助け船を出してくれたのはアイゼンに頼まれて家の建設に来てくれていたドワーフたちだった。
フェルンを喜ばせようとサプライズで用意しようとしていたシュタルクだったが、結局サイズがわからず四苦八苦している最中にあっさりバレて、今後は2人の事は2人で協力するべきだと説かれてしまうのだった。
一方でそんな2人を見てフリーレンはフェルンの望む幸せを願う一方で、人は何故家族を作るのだろうという漠然とした疑問をフェルンに問う。フェルンはフリーレンへの回答と共に、フェルンの望む未来への夢のためフリーレンとある約束をする。
それから数日後、指輪の完成とともにフリーレンたちのもとにザインを発見したという連絡が届いた。



幸に門なし、ただ僧侶の招く所

■僧侶の帰省


北側諸国アルト森林

 

村へと続く街道の道のりは幼い頃に友と何度も歩き。そしてこの地を訪れた魔法使いの一行と旅立ったあの日からなにも変わらない。

そんな街道を1人歩く長身の僧侶ザインは、郷愁と懐かしさからくる独特の嬉しさを胸に村への道を歩く。

 

「変わらないな。村のみんなも元気だといいけど」

 

数年前に魔法使いのフリーレンと共に旅立ち、少しばかりの時間を共に冒険をしてから別れ、ずっと探し続けてきた友のゴリラと再会した。

また暫くは冒険続きの日々が続いていたある日、兄から「そろそろ一度顔を見せろ」と連絡が来たのだ。

 

ザインは大きな街に到着すると折を見て兄に手紙を送り、無事に過ごしている事と現在はどこに居るか伝えるようにしていた。

兄からの返事を受け取るまで冒険者向けの依頼をこなしながら街に滞在し、受け取った後に出発といったやり取りを2,3ヶ月に1度やっていた。

 

顔を見せろという手紙にはゴリラも「流石に一度村に帰るか」と合意はしてくれたものの、途中で挨拶に回るからちょっと遅れて帰るということで帰路の途中で別れて今は1人だ。

ゴリラは行方不明の前科持ちなので「約束通り絶対に帰ってこいよ」と口酸っぱく伝えたが守ってくれるだろうか?

そんな事を考えながら道を歩いてたザインだが、街道を進むにつれて徐々に物々しい雰囲気になっていくのを肌で感じていた。

 

やけに騎士や兵士の行き来が激しい。

魔王が討伐されて何十年経っても強力な魔物や魔族による被害はまだ多い、そのため兵士が街道を行き来すること自体は珍しくはない。

……と思っていたが、流石にこの先にあるのは小さな村だ、いくらなんでもおかしい。

しかも、通りがかる兵士たちが時々こちらを見ている気がするとザインは警戒を強める。

 

お縄につくようなことはした覚えがないのだが……、村で何かあったのか?

急に訪れた不安を胸にザインは足取りを早めることにした。

 

✧ ✧ ✧ ✧

 

懐かしき我が故郷。

村の入り口に差し掛かった途端に見知った顔が見えて「ザイン!久しぶりだなー」と次々と声をかけてくれる。

手をかざし、挨拶をしながら村の中を歩いていく。

どうやら、懸念したような事態はないようだとザインは胸をなでおろすが、先程までの兵士達はどこへ行ったのだろう?という別の疑問が湧いて出る。

 

そんな疑問は自宅の教会の前で解決した。

 

「なんか取り囲まれてる!!」

 

思わず声に出してしまったが、別に包囲されているわけではない。

教会の近くに待機した兵士たちが休んでおり、おそらく将校クラスの者が外に出てきた兄と会話している。

 

「ザイン!」

 

兄がザインの存在に気づいて手を振ってきた。

「ちょっと焦った顔してるなぁ……」どうにも久方ぶりの里帰りで感動の再会という感じでもなさそうだ。

 

「あー、兄貴、今帰ったよ。これは……なんというか……どう言うこと?」

「おまえ、一体何をしたんだ?この方たちは北側諸国三大騎士のオルデン家の遣いの方々だ。お前に用があるそうだ」

「オルデン家?」

 

兄は挨拶もそこそこにちょっと説教モードになっている。

そう言えば、フリーレンたちと居た頃に三ヶ月ほど滞在したなぁ、シュタルクを息子のヴィルトの替え玉として社交界に出すために、貴族の振る舞いの猛特訓をさせていたんだ。

シュタルクとフェルンの特訓の末に披露した見事なダンスは今も記憶に残っている。

 

が、そんなオルデン家のものが今更自分になんの用が……

まさか、三ヶ月の間の宿泊やら諸々経費の取り立て!?いやいや、飲み代は外の店で自分で出したぞ!

そんな風に思い出しつつも構えていると、将校らしき兵士が声をかけてきた。

 

「貴方がザイン様ですね、随分と探しました。正に灯台下暗しですね」

「はあ……、一体何でまた?」

 

■ザイン包囲網の事情


 

将校から事のあらましの説明をひととおり聞かされたザイン

 

「なるほど……、フリーレンが俺を探せとオルデン卿に依頼したと」

「はい、ご当主様からはその様に伺っております」

「フリーレンが俺を呼んでいる理由は聞いてる?」

「いえ、聞かされておりません」

 

じゃぁ、全然わかんないじゃん……

と、心のなかでツッコむが、ここにいる全員が何の回答も持ち合わせていない。

静まり返る中、ザインの兄が声をかけてきた。

 

「ザイン、会いに行ってはどうだ?

 私のことは気にしなくていい。お前が元気そうにしている事は確認できた」

 

色々事情を聞いた兄は、落ち着きを取り戻した上で色々察してくれたらしい。

そんな、気遣いの塊に兄孝行するつもりで帰ってきたんだけどなぁ……とザインは思いつつ確認を取る。

 

「今すぐ、出発って訳じゃないんだよな?

 せめて荷物置いて一息ついてからでいい?」

 

フリーレンが呼んでいるとなると自分も無視をする訳にも行かないだろう。

この兵士達も手ぶらで帰って、はいそうですかで済む訳がない。

 

「はい、構いません。こちらも報告などの準備をしておきますので」

 

許しを得たザインは一度教会内の自室に戻り、荷物をおいて旅の土産を兄に渡して次の出発の準備することにした。

 

✧ ✧ ✧ ✧

 

教会の前で出発を前に兄はザインに声をかけてきた。

 

「先程もいいましたが、私のことを気にする必要はない。ここは平和だし、村の皆も良くしてくれる

 お前は、お前を必要としてくれる人達を大切にしなさい」

「こう見えて、俺は兄貴も大事にしたいんだけどな」

「知っているよ。だから行ってきなさい。お前は冒険者なんだろう」

「へいへい。じゃあぁ落ち着いて冒険していられるよう、兄貴も壮健で頼むぜ。

 あ、そうそう、ゴリラも帰ってくると思うから説明頼むよ」

 

出かける前の簡単なやり取り。こんな放蕩者の弟に理解のある兄には感謝しかない。

行ってこいと手振る兄を後にしたザインはオルデン家の兵士の将校に準備が完了した旨を伝える。

 

「ご同行ありがとうございます。

 それでは、ザイン様を指定された場所まで送り届けるのはこの者になります」

オルデン卿の迎えということでてっきり豪華な送迎がつくと思ってたザインだったが、どうやらそうでない様だ。

「あれ?全員で行く訳ではないの?馬車とかで」

「いえ、ザイン様の正確な場所が分からず、探索部隊的な編成でしたので申し訳ありませんが馬車は用意できておりません」

「ええ……そうなの……」

楽に移動出来ると思っていたためその言葉にちょっとげんなりした顔をする。

 

そんなやり取りをしているとザインを現地まで送り届けてくれるという兵士が将校の後ろから現れた。

「ザイン殿。よろしくお願いします」

「お、おおう…… よろしくお願いします……」

挨拶のためにフルフェイスヘルムを脱いだ兵士は美人の女性だった。

ただ、かかなり身長が高い。何ならザインより高い。

兵士として振る舞うためかブロンドの髪を短く切りそろえており、中性的な顔立ちでいわゆる女性にモテそうな女性といった感じだ。

 

「レインと申します」

太陽の光に照らされ歯が輝く笑顔でニコリとしながら、握手を求めてくる彼女にザインはうろたえる。

「――そ、僧侶のザインです」

 

どういうチョイスだよ!と将校に向き直ると視線に気づいた将校は笑顔で答えた

 

「フリーレン様は、ザイン様の探索依頼を出される時に大人っぽい女性が同行すれば喜んで付いてくるだろうとおっしゃられていたと報告がありますのでこの者が良いだろうと」

 

「はあ!?あのエルフ、なんてことを公的な場で流布しやがる!!」

間違っているとは言い難いがやって良いことと悪い事はあるんじゃないか?

 

ザインは額に手を当てつつ、いい笑顔でこちらを見ているレインを覗き見る。

お姉さん……お姉さんとは何なのだろう……めちゃくちゃ麗人(イケメン)だ。

きっと脱いだら凄いんだろうな……具体的には腹筋(シックスパック)とか……

と、どうでもいいことを考えてしまう。

 

「申し訳ありませんが、こちらの早馬での長距離移動となります」

そう言って、連れてこられた馬はオルデン家の見事な馬と言わざるを得ない屈強さとしなやかさを持った白馬。

つまり、これでレインの後ろにしがみついて相乗りしろと……

 

「あの……さっき、急がないって言ってなかった?」

こんな夢のお姫様スタイルで運ばれちゃうの?と若干焦るザインは将校に確認する。

 

「ご当主様からはシュタルク様も待っているだろうから可能な限り早く送り届けてやれと言われておりますので」

「あのおっ……ルデン卿はシュタルクに甘いなっ!!」

 

危うくツッコミでおっさんと言って不敬罪直面になる所をぎりぎり耐える。

 

「それではザイン殿、ここから3日ほどは掛かりますが行きましょう」

とまるで淑女(レディ)を相手取るかのようにレインに手を取られる。

「はい……お手柔らかに頼みます……」

 

これ以上抵抗しても時間のムダらしいので渋々従うが、この時ザインは思いもしなかった。

自分より体躯の良い女性(イケメン)に3日3晩四六時中しがみくという微妙な状況で、尻の痛みに耐える地獄を味わうことを。

もちろん、ザインが馬に普段乗りなれないためであり、尻の痛みに他意はない。

 

■新たな我が家


 

中央諸国クレ地方、元戦士の村

 

「きれいなお台所……いいですね。お料理が捗りそうです」

 

先日からずっと建築していた家がついに完成したため、今日は待ちに待った内装のお披露目兼設備の説明の日だ。

フェルンもシュタルクも依頼を何も受けず本日はお休み。

 

フリーレンの眼の前ではフェルンが嬉しそうに完成したばかりの新品のキッチンを踊るように見て回っている。

フェルンは昔から誰に似たのか感情表現が苦手な娘で、誰より感受性は豊かで日々感じていることは様々あるはずなのにそれをなかなか表に出そうとしない娘だったが――

もちろん当人の中では、それなりに感情をアピールしているつもりだったし、長年一緒にいるフリーレンやシュタルクには概ね伝わってはいるのだが、まったく初対面の人には少々難易度が高い。

ここに来て、シュタルクと今後の事の話をして以来は毎日が楽しそうでよく笑い、以前より感情が豊かになったと感じる。

 

シュタルクと街まで出て買ってきたらしい食器などの日用品を2人で笑い合いながら並べているのを満足気に眺めていると

隣からこの家の建築を請けおってくれていたドワーフ職人たちのリーダーのティシュレーがフリーレンへと声をかけてきた。

 

「こういう物の本当の良さは、新品の時ではなく、十数年連れ添った後に出てくるもんなのだがな

 新品の内はそれが証明できないのが職人としてはもどかしいもんだ」

「いいじゃない。2人は嬉しそうなんだし」

「まぁ、楽しそうにしている所を水を差すもんではないの」

 

ティシュレーはアイゼンの古い知り合いだ。

アイゼンが大事にしたもの彼なりに大事にしてやりたい気持ちが態度でよく伝わってくる。

本当にいい仕事をしてくれた、とフリーレンは内心で感謝する。

 

「ちなみに、風呂も注文通り作っておるぞ」

 

その言葉に、フリーレンの耳が僅かに動いて反応する

 

「……見せてもらおうじゃないか」

 

フリーレンは食器や道具を戸棚に並べているフェルンとシュタルクに声をかけて風呂場に向かうことにした。

 

✧ ✧ ✧ ✧

 

温泉地としても有名な城塞都市ハイスの風呂屋を大変気に入っていたフリーレンは

今回、自宅の建設にあたって風呂に結構注文を付けていた。

 

客を取る店ほど広くはないにしても岩造りの湯船は数名で入っても十分な広さがあり

部屋全体も主張しすぎない程度綺麗に仕立てられていて湯船に浸かっている間にも落ち着けそうな雰囲気だ。

 

「これは……凄いね、注文通りだ」

 

フリーレンは感嘆と共に感想を述べる。

 

「湯船は広めだから、少々裏の釜が大きくなったが……まぁ魔法使いが二人もいるなら火力はなんとかなるだろ

 あとは、シュタルクがなんとかすれば、薪にも困らんだろう」

 

とはいえ、毎日沸かすとなるとなかなか大変なので可能なら魔法で省力化したいのが魔法使いという生き物だ。

 

「まぁ、お湯の効率的な調達はいい魔法をそのうち考えるよ」

「温かいお茶がでてくる魔法が確かありましたね」

「うーん、お茶のお風呂は流石に嫌なので普通のお湯にしたいなぁ。

 応用でなんとかなりそうな気はしてるんだけど」

 

魔法使い2人がそんな魔法の話で盛り上がっているのでティシュレーは残っているシュタルクに説明する。

 

「一軒家なので当然だが、宿の風呂場の様に男女別れてない家族風呂だ。

 シュタルクとフェルンの嬢ちゃんは構わんだろうが、そういう時はフリーレンとは時間を調整して鉢合わせんようにな」

「シレっと何いってんだ爺さん?」

「シュタルク様?」

「いや、そんな入り方しないよ?」

「では、お風呂には入らないのですか?」

「入るよ!入れてよ」

「えっち……」

「なんでさ!」

 

なにか始まったので、ティシュレーは風呂のお湯の注ぎ口を眺めているフリーレンに声をかける

 

「指輪作っとった時も偶にやっとったが、あのやり取り飽きずにようやるのう」

「フェルンとシュタルクのああいうやり取りは、キャッチボールみたいなものだから」

「キャッチボール?」

「他愛のないやり取りで、お互いの気持の距離感を調整してるんだと思うよ」

 

「人は会話をしないと心が通じ合わないからね」と笑うフリーレンを傍目に「距離感のう……」と言いながらティシュレーは首を傾げる。

 

正直、第3者が傍から見ているとただの夫婦漫才にしか見えない。

とは言え、何の会話もないよりは余程楽しげで良いのかもしれないな、と今も何か言い合っている2人を眺てティシュレーは納得することにした。

 

✧ ✧ ✧ ✧

 

ちなみにこの後、寝室に案内された2人が部屋にあった新品のダブルベットを見て暫く喋らなくなってしまったのはここだけの話である。

フリーレンだけは「私の寝室、随分離れて配置されてるけどなんで?」と疑問を投げかけてきたがティシュレーは「儂なりの気遣いだ」と答えた後は無視することにした。

 

✧ ✧ ✧ ✧

 

全員が居間に集まった後、シュタルクは改めてティシュレーに礼を述べた。

 

「色々助かったよ、爺さん。住居も完成した、瓦礫もかなり片付いた」

「料金分は働かねば儂らドワーフの沽券に関わるからの。

 さて、シュタルクよ。

 物は相談だが、この村はまだ人を引き入れて物を建てる機会も増えるだろう。

 儂らのうち何人かをこの村に残さんか?」

 

それは願ってもない申し出だ、何もない村に技師が住み着いてくれるのは大変ありがたい。

「そう言ってくれるのはありがたいけど、いいのか?」

「そう大勢は残れんがな。仕事が受けられたら別だが、その辺を除くと年寄り楽隠居状態の儂と弟子2,3人だな」

 

「それでも十分だよ。助かる」

 

ティシュレーは「代わりにと言っては何だが」と長い髭をかきながら続ける。

「いま仮設の寝床にしている設備がある。あの辺一帯の土地を儂らが貰い受けてよいかの?それを交渉の条件としよう」

 

現状、ドワーフ達の事務所兼酒場と化している場所である。先日も指輪を作るために工房も借りた。今更撤去されても困るので是非もない。

「ああ、もちろんOKだ。今の俺たちじゃ手のつけようもないしな」

「よし、交渉成立だ」

 

という訳で、村人第1号は手伝いに来てくれていたドワーフ達に相成った。

もともといてくれてたので何かが変わる訳ではないが。

 

■僧侶来たれば


 

シュタルクとティシュレーがそんな話をしている裏でフリーレンとフェルンは村の入口に誰かが近づいて来たのを感知していた。

 

「フリーレン様、誰かが来たようです。1人ではないようですね」

「2人と……あとは馬か何かかな?このタイミングだとやっと到着したのかも」

 

フリーレンには心当たりがありそうだったのでフェルンは重ねて確認する。

「どなたがですか?」

「ザインだよ」

 

なるほど、とフェルンは納得する。そう言えば、居場所がわかったので連れてくると言っていた。

ひとまず、ティシュレーといまだ話し込んでいるシュタルクの首根っこを掴んで

「ザイン様が来られたので迎えに行きますよ」と言いながら出迎えの準備を始めた。

 

✧ ✧ ✧ ✧

 

戦士の村の入場門跡をくぐったあたりでザインは馬から降りた。

というか、落ちて崩れたというのが正しい。

 

「大丈夫ですか、ザイン殿」

こちらは平然といった風のレイン。

「あんた……、こんだけ馬に揺られて走り続けて良く平気だな……、俺はもう駄目だ……今は椅子に座ることすら厳しい」

 

腰がくの字に曲がった状態で、尻を地面につけられそうになくうつ伏せに倒れているザイン。

こんな事に使いたくはないが背に腹は変えられず、本日何度目かの治癒魔法を臀部にかけている。

 

そんなザインを眺めていたレインだったが、人が来る気配を感じ取ってザインに声をかける

「どなたか来られたようです」

 

ザインは言われた方向に顔だけ向けて確認すると見覚えのある3人組がこっちに向かってきているのが見えた。

全員が怪訝な顔をしているのは今の自分の姿を見ているからか。

 

「ザイン久しぶりだね、再会できて嬉しいよ?」

「ああ、フリーレン。それにシュタルクとフェルンも。

 ところでそんな軽蔑するような目で見るの辞めてもらえる?致し方ない事情があるんだ」

 

妙なポーズから立ち上がらないザインに怪訝な目が向くのでいたたまれなくなってレインがフォローに入る。

「はじめましてフリーレン様にシュタルク様、フェルン様、私はオルデン家に仕える騎馬隊のレインと申します」

「はじめまして。私の依頼でザインを連れてきてくれたのは貴方だね。遠い所をありがとう」

そう言って、レインから差し出された手を取り握手をするフリーレン。

 

挨拶を終えたレインはひとまずザインの状態に関して説明する。

 

「ザイン殿のこの状態は私の不徳の致すところです。早馬で飛ばしてきたため

 乗り慣れぬザイン殿には随分負荷をかけてしまったようで、道中もこの様に時折休憩を兼ねて治癒されておりました」

「まさか、自分の尻に治癒魔法をかけざるを得ない状態になるとはな……思いもよらなかったぜ」

 

若干格好をつけて言っているが、さっきからザインのポーズは尻を突き出したうつ伏せくの字状態だ。

 

「私も自分の尻に治癒魔法をかけている僧侶は初めて見たよ」

「もうすぐ治療終わるから、そういう心に刺さる視線と言い方やめてくれる?」

 

✧ ✧ ✧ ✧

 

治療が終わったザインは、何もなかったように立ち上がった。

まずはフリーレンの後ろで微妙な顔をしていたシュタルクとフェルンにも声をかける

 

「シュタルクにフェルンも久しぶりだな、元気だったか?

 てかシュタルクおまえ身長伸びたな……。フェルンも以前の印象より随分大人びた」

「あれからそれなりに時間は経ちましたからね」

「ザインは相変わらずだな。でも元気そうで良かった」

 

妙な再会の仕方になってしまったが、言葉を交わせば、共に旅した懐かしい感覚が蘇ってくる。

 

「で、ここは結局何処で、今どういう状況で、俺がフリーレンに捜索されていたのはなんでなんだ?」

 

オルデン家の者たちにはとにかく連れてきてくれという話の概要しか聞いていない。

いい加減把握してもいい頃合いだろう。

 

「あー、話せば長くなるんで、とりあえず落ち着ける場所に行こうか。せっかく家も完成したしな」

「家?お前らここに住んでるのか?」

 

ザインは注意深く周りを見渡す。正直何もない。

瓦礫はほとんど撤去されているため、もう完全に建物がない更地だけが余っている状態である。

シュタルクが指差しているあたりには確かに、何もない場所にしては少々大きめの家が立っている。

 

「住んでいるのか、と言われたらそうなりますね」

シュタルクの代わりにフェルンが隣から答えた。つまり案内された家で3人で定住を始めたということだ。

いや、冷静に考えたら家があるなら当然か。

 

ザインは、落ち着け……と自分に言い聞かせる。定住をするということは、ある程度……いくつかの可能性に想像はつく。

だが、ここではまだ心の祝杯のエールをがぶ飲みするのは早い。喜ぶなり祝いの言葉を言うならきっちりと話を聞いてからだろう。

 

レインの方を見ると、彼女は手を振る。

「行って来てください。私はここで待っておりますので。報告を出す準備もしなくてはいけません」

 

とまぁ、許可も出たのでザインは「判った、じゃあ案内してくれ」とシュタルクに応えた。

 

✧ ✧ ✧ ✧

 

シュタルクとフェルンから案内された部屋は完成したばかりという言葉の通り真新しい居間だった。

部屋の中には最低限の道具しか置かれていない。

 

フェルンは奥の部屋でお茶を入れているらしい。

 

ザインは向かいの席に座ったシュタルクに切り出す。

 

「んで、呼び出された理由というかこの状況を説明してくれるか。なんとなく想像はできるけど」

「そうだな……、まずはフェルンと結婚することにしたんだ」

 

――へー、ふーん、そうか。やっとかー、なるほどねー

 

「過程を話せよ!!」

「え?」

「話長くなるんだろう!?落ち着いて話すためにここに呼んだんだろ!?

 あと、おめでとう!!」

「あ、うん。ありがとう」

 

トンチキなやり取りをしていると横から「どうぞ」という声と共にスッとティーカップが差し出される。

 

「この地は、中央諸国クレ地方の戦士の村と呼ばれていた場所で、シュタルク様の故郷です。

 シュタルク様が魔族や魔物に荒らされた村を復興したいというので、ここで暮らすことにしました」

 

シュタルクの隣に座りながらフェルンが説明する。

 

「クレ地方の戦士の村……そうか、ここが……」

 

ザインも聞いたことがある。優秀な戦士を排出していたが20年近く前に魔族に滅ぼされた地だ

なるほど、シュタルクはその出身だったのかと納得する

 

「フェルンとフリーレンはいいのか?」

「目的としていたエンデには辿り着きました。

 その後は……私はシュタルク様とフリーレン様と一緒に居ることを望んだ結果です」

 

なるほど、身内にいる者を何より大事にしていたフェルンはそうなるのだろう。

 

「フリーレンはどうなんだ?」

「私が旅をしていたのは、趣味も兼ねていた事だからね。師匠(フランメ)が世界中にばら撒いた魔法を集めるとか。

 フェルンとシュタルクの望みを優先させて時々機を見て取りに行くぐらいでも良いんだよ」

 

カウンター席からこちらを眺めて紅茶を飲んでいたフリーレンは「なんせ私はエルフだからね」と付け加えた。

実にフリーレンらしい。エルフの悠久と言える人生の優先度決めは独特だなと改めて思い知らされる。

 

「状況は大体判った。

 で、お前らが結婚って……あ、ごめん、そこはいいや、胸焼けしそうな気がする」

 

とはいえ、次あった時にもしや数年間かけて何も起きてないなんて事ないよなと心配していたが安心した。

と、心の中ではザインも深々と思っているものの、こうなったのは実はここ最近の話なので結構ギリギリセーフだったりする。

 

「……どういう意味ですか?」

 

少しだけむっとした顔でフェルンが答えるので横からフリーレンがやれやれと言った具合にフォローする。

 

「聞いてあげてよ、ザインを呼んだ理由なんだから」

 

シュタルクが、「続き話して良い?」と苦笑いしながら確認を取ってくるので

ザインは「わかったよ」と言いながら続きを促す。

 

シュタルクは隣にいるフェルンの顔を一度見てから、彼女の手を握る。

フェルンは驚いたように目を見開いてシュタルクを見た後に柔らかい表情に変わって手を握り返す。

俺はなにを見せられているんだ?とザインもちょっと思ってしまうが、握ったシュタルクの左手に指輪がついていることに気づいた。

フェルンに目を向けると左手の薬指に同様のものを付けている。

 

「実はまだ正確にはちゃんと結婚してなくて」

「あ、そうなの?」

「女神様への誓いのための神父をザインにやって欲しいんだ」

 

 なるほど、そりゃ僧侶に向けの依頼だ。どっちかというと兄貴の領分だけど。

 

■僧侶のさだめ


 

シュタルクの話とフェルンやフリーレンの補足説明を足すと要するに身内でコンパクトに結婚式をあげたいということだ。

フリーレン達はかつての勇者一行ほど名前を各所に触れて回っていないものの、実は知っている人は知っている程度に名前は有名だ。

ここ数十年大陸を悩ませた多数の大魔族撃破に関わっているし、何なら撃破自体をこの2人それぞれにやっている実績を持ちであり、勇者なき時代の英雄とも言える。

 

各地に像を作らせたヒンメルと違い、目立つのを嫌うこの2人は斧を持った赤い戦士とか長髪の美しい魔法使いとかそんな感じでしか容姿は知られていないため、人前に出て騒ぎになることはないが、街の教会で手続きをすると何処かで騒ぎになるだろう。

 

「わかった。お前らがそう言うなら引き受けるよ。けど良いのか?俺は正規の神父じゃないぞ。僧侶の洗礼を受ける時に資格は貰ってるが」

「ああ、ザインがいいんだ。俺たちにはきっとそれが良い。だって俺たちのパーティーの僧侶はずっとザインだろ」

 

屈託なく笑うシュタルクから出た言葉にザインは虚を突かれてつい返す言葉を見失う。

「そうだな……」

 

といいながら照れ隠しに、つい懐のタバコに手が伸びるが

 

「ザイン様、新築なのでタバコはダメです」

 

笑顔のフェルンにバッサリと切られてしまった。

 

✧ ✧ ✧ ✧

 

新居でタバコ禁止はごもっとも。しかし、喫煙者のザインはタバコを吸いたくなってしまったら止まらない。

概ね聞きたい話は聞けたため、解散して表口から外へ出てタバコに火をつける。

 

周りを見渡すと、ついこの前まで魔物だらけ瓦礫だらけだったことが嘘みたいにのどかな風景だ。

まあ、背にある家とドワーフの工房以外はなにもないのだが。

 

「てか教会なくね?」

 

と、ふと気づいた事につぶやくと後ろからシュタルクの声が聞こえた。

 

「そうなんだよなぁ。実はザインとはその辺の相談もしたくてさ」

 

ザインは向き直らず、タバコを吸ったままの姿勢で答える。

 

「再建し始めた街にいきなり教会があるわけ無いのは仕方ないとして、女神に誓いを上げるならせめて女神像ぐらいは欲しいところだな」

「だよなぁ……。とりあえず爺さんのところに相談に行こうかなって思ってたんだけど、ザインも来てくれないか?」

 

ザインは概ね吸い終わったタバコをガラ入れに突っ込みつつ

 

「爺さんって、誰?」

 

と至極当然の疑問を口にした。

 

■酒飲みと酒飲みの遭遇


 

「で、儂らのところに来たわけか」

 

ティシュレーたちは当初の目的の建設も終えたため、ドワーフ達の幾人かは荷物を畳んで帰る準備をしているようだ。

「女神像と教壇、後は客が来るなら椅子ぐらいは用意しときたいな」

「多分そろそろ来るだろうなぁとは思って、資材だけは準備しておったぞ

 若いの、女神像もこんな感じでいいのかの?」

 

ティシュレーはそう言いながら図面を出してくる。祈る姿をした女神の三面図だ。随分準備がいい。

この爺さんも、シュタルクとフェルンのやり取りを間近に見せられ続けた類だろうか?となんとなくザインも同情的な気持ちになる。

 

隣ではシュタルクが感心したように「爺さん、絵すげぇ上手いなー」と言っており、

「阿呆か、製図は職人仕事の基本の"き"じゃ!」というやり取りを見るに仲良くやっているようなので問題ないのだろうけど。

 

「十分だ。ティシュレーさん、幾ら掛かる?」

「若いのは道理がわかっておるの。ちょっと待て、いま計算する。なに、そんなに高くはならん」

 

ティシュレーが部下のドワーフに声をかけると、そのドワーフはそろばんを叩き始めた。

 

「いや、俺たちの事だから俺が払うよ」

 

その2人のやり取りを見たシュタルクは焦ったよう言うが

 

「いいよ、俺が準備する仮設教会だ。俺が出そう。それが2人の門出の祝いだと思ってくれ」

「……わかったよ。でも、足りなかったら言ってくれよ」

 

ザインは、まったく、こいつはと思いつつ嘆息しながら

「いいから、お前は余計な心配するな」とシュタルクに伝えた。

 

✧ ✧ ✧ ✧

 

「なんでこうなってんの?」

 

一度自宅に戻ってから、フェルンとフリーレンに状況を説明した後にドワーフの工房に戻ったシュタルクが見たのは昼間からエールを煽り始めたおっさん達のどんちゃん騒ぎだった。

 

「おー、戻ったかシュタルク。段取りの相談はもう全部終わったぞ。

 このおっさんたち、色々話していると結構気が合ってな。いい酒があるからってさー」

 

割と出来上がっている。確かに少し時間を空けたけど、早くない?

先程までの頼もしさはどこへやらという風体だ。

 

「まだ昼間だぞ。生臭坊主に磨き掛かってないか?」

「いや、前からこんなもんだって。

 シュタルク、お前も来い。前と違って酒だって飲める歳だろ」

 

やんやと騒ぐ酒好き共にうんざりした目つきでシュタルクは返す。

 

「今日は、家の完成とかもあって仕事は休みにしたけど、こんな時間に飲み始めたら流石にフェルンから怒られちゃうよ……」

「お前、今からそんなだとこれからずっと尻に敷かれるぞ」

 

相変わらず、痛い所を突いてくれる。

 

「出会ったときからだからもう慣れたし、俺はそれぐらいで丁度いいよ」

「坊主はあの嬢ちゃんのやわらかな尻の下がお気に入りだからなー」

 

とドワーフの一人の言葉。否定はしきれないので「ほっといてくれよ」と返しておく。

 

「爺さん、オレンジジュースある?」

「なんだ、シラフで付き合うのか?」

「一応な」

 

✧ ✧ ✧ ✧

 

結局、この後、酔っ払い達に最近の事をあれやこれやと根掘り葉掘り聞かれることになってしまった。

プロポーズ前後でドタバタしたことや指輪をサプライズしようとしたらあっという間にバレたこととか。

 

そこまでは平和な範疇だったが実はまだ何も手出ししていないことが白日の下になった段階で

 

「いいかシュタルク!そういう時は女の子が不安にならないように男の方からちゃんとリードしてだな――」

 

というザイン先生の熱い座学タイムに入ってしまい。シュタルクは暫く脱出不可能なことを覚悟した。

 

■大人の条件


 

日が高いうちから開かれた宴は、日が沈むちょっと前に解散になった。

普通逆だろうと思いながら自宅に帰ると、居間ではオルデン卿からの遣いで来ていたレインがフェルンとフリーレンと談笑をしているところだった。

野郎共が盛り上がっている間に女子会をしていたようだ。

 

「おかえりなさい、シュタルク様。少しお酒臭いですよ……ザイン様たちとこんな時間から飲んでたのですか?」

 

真っ先に帰ってきたシュタルクの元に駆け寄ってきたフェルンは上着を脱がせて畳みつつ、お酒の臭いにちょっとムッとした顔をする。

 

「俺は飲んでないよ、ザインとティシュレー爺さん達が大騒ぎはしていたけど」

 

フェルンはじっとシュタルクの目を見てきたのでそらさずに大人しくしているとちょっと照れた様子で「わかりました」と納得してくれた様だ。

そのまま服の汚れを取る魔法でお酒の臭いを落とそうとしている向こうでレインが立ち上がりシュタルクに挨拶をしてきた。

 

「シュタルク様、お邪魔しております。今夜こちらの客間をお借りするようにお二人に勧められたのですが構いませんか?」

「二人がいいって言うなら自由にしてくれ、ザインの捜索とここへの案内、本当にありがとう」

「それは、いずれ旦那様にお伝えしてください。いつも顔には出しませんがフリーレン様達の話を耳にする度に随分心配をされておりました」

「そうだな、オルデン卿にも世話になってるしちゃんと礼を言わないと」

 

と、そこでシュタルクは自宅に戻ってきた理由を思い出した。

 

「そうだ、ザインが今日は仮設の小屋で寝るからって寝袋とか毛布を取りに来たんだった」

 

今更空になった仮設小屋を使うという話にフリーレンは不思議そうな顔をする。

 

「そうなの?まだ部屋はあるからザインにもこっちに泊まってもらったら良くない?」

「俺もそう言ったんだけど、流石に野暮だから遠慮するってさ」

「そう……、ザインも相変わらずだね」

 

というとレインは申し訳なさそうに「野暮……でしょうか?」というので

「レイン様は兵士職にあろうと女性なのですから、こういうところで遠慮をしないでください」

とフェルンが答えた。

「しかし、ザイン殿は――」「あの人は本人希望の通りの寝袋で問題ありません」

うーん、フェルンは相変わらず手厳しい――とシュタルクは口には出さずに思うのだった。

 

✧ ✧ ✧ ✧

 

中央諸国は北側に比べると随分温暖だが、夜の冷え込みを舐めると体調を崩す程度にはなる。

フェルンと一緒に寝袋などの防寒道具を持って小屋に訪れるとザインが入口前でタバコを吸っていた。

 

「よお」

「ザイン、もう復活していたのか」

「アルコール抜くのは慣れてるからなー」

 

フェルンは持ってきていた荷物を魔法で持ち上げて小屋の中に入れながらザインに声をかける。

「流石ザイン様。昼間から飲んだくれる方は鍛え方が違います」

「辛辣すぎない?いや、騒いだのは悪かったけど……」

 

フェルンが怒ってるのは多分俺が巻き込まれたことだろうなーとシュタルクはなんとなく察したが自分が言うとフェルンが拗ねるのでとりあえず黙っておく。

 

「まぁ、なんだ……

 今更改めて言うのもなんだが、二人共おめでとう。正直言って、結構驚いたよ」

 

タバコを咥えたまま、星が光り始めた空を見上げてザインは二人に言う。

 

「どうしたんだよ、改まって。昼間も言ってたじゃん」

「事情も判らずバタバタしてたからな。さっきと今じゃ心のこもり方が違うだろう」

 

ザインが笑いながら言うのでシュタルクは苦笑しながら「タバコくわえながらよく言うぜ」と返す。

 

「旅の途中でさ、お前たちの話はよく聞いたよ。

 黄金卿のマハトや終極の聖女トート、血塗られた軍神リヴァーレ。どれもこれも人の身に相手取るには過ぎた化け物たちだ」

 

「……そうだな」

 

「色々あったんだろうけど、それを打倒したお前たちが一体どうなったのかはずっと心配してた。

 でも今こうして、あの日の光景の続きのように3人で居てくれて、別れる前日に痴話喧嘩なんてしていた2人がこれから結婚するとか言ってるんだもんな」

 

痴話喧嘩の下りで流石にフェルンとシュタルクはバツが悪そうにする。今考えるとかなりくだらない事で喧嘩してザインに仲裁なんてさせてしまっていたなと。

 

「いや、あの時は悪かったよ。流石に俺たちもちょっと子供過ぎた」

「ほんとに理由がくだらなかったな」

 

ザインは当時を思い出したのか懐かしそうに笑う。

 

「シュタルク。あの時、2人にそれぞれ話しをしたけど、フェルンはなかなか面白いこと言っていたぞ、なんて言ったと思う?」

というザインの言葉にハッと気づいたフェルンは「ザイン様!」と非難の声を上げる。

 

「結婚前に隠す必要もないだろ。

 あの日、フェルンに『シュタルクのこと嫌いか』と聞いたら『どうしてそんな事を聞くのか、そんなふうに見えるのか』と俺に難癖つけてきたんだぜ。

 仲裁買って出た俺はなにを聞かされてんだと思ったね」

 

ザインの話にシュタルクはキョトンとする。

当時はフェルンに嫌われかねないぐらい怒らせてしまったと思っていたのだがそんな話は初耳だ。

隣にいるフェルンが若干挙動不審だったので「フェルン?」と顔を覗き込むと、彼女にしては珍しく耳まで赤くしながらフェルンは顔をそらした。

 

フェルンからすると当時から重めに好きだったとバラされたに近いため、今がどうであろうと恥ずかしいものは恥ずかしい。

 

なんだかフェアじゃなかったかなー?とシュタルクは考えながら

 

「当時の俺にフェルンがどう感じてたかわからないけど、今にして思えばあの時だって今と変わらず好きだったよ。

 お互いの気持ちもまだ判らなかったし、どう表現していいのかも判らなかったけど」

 

じゃなきゃあんなに一緒に居ないよと付け加えながらシュタルクがフェルンに伝えると

フェルンは少し向き直りながら「えっち……」とだけ呟いた。

 

そのまま2人は

 

「ええ、なんで……!?」

「そういう所がです」

「わかんないよぉ……」

 

とか言い出し始めたのを見てザインは「変わらないものもあるんだな」と苦笑する。

 

「もう仲裁役もいらないだろ、この先の夫婦喧嘩は……好きにしていいけど自分たちでなんとかしろよ」

 

たぶん、この先もこの2人はこんな感じなのだろう。

ちょっとしたことで小さな喧嘩をして、また仲直りを繰り返して少しずつ毎日に彩りを添えていく。

近くにいるフリーレンは巻き込まれるだろうけどきっと何とかはなる。

 

✧ ✧ ✧ ✧

 

「まっ、とりあえずだ。そんな感じで大人になった二人に言いたかったんだが」

ふと、ザインは言っておきたかったことを思い出した

 

「なにを?」

と言いながらシュタルクはザインに向き直る

 

「悪かったな。お前たちのことずっとガキ扱いしていたこと

 今のお前たちは十分立派な大人だよ」

 

というザインにシュタルクはまだ納得してない様子だった。

 

「俺には今も昔もずっとザインみたいな人が大人だと思ってたし

 今も俺は未だまだ誰かの力を借りないとなにも出来ない青二才だよ」

「……」

 

そう答えるシュタルクと、言葉を選んでなにも言わないフェルン。

 

「シュタルク。

 子供と大人の違いってなんだと思う?どこで変わる?歳を重ねれば大人になるのか?お前たちはいつまでが子供でいつから大人になった」

 

ザインの言葉にシュタルクは考え込む

「難しい、質問だな……大陸じゃ18から20歳になって仕事を始めたら大人の仲間入りと言われていたかな。条件を突き詰めると、わからないな」

 

その隣りにいたフェルンは言い方を慎重に選びながら答える。

 

「……生き方を選んだときでしょうか?」

 

二人の回答を聞いたザインはフッと笑ってから

 

「俺が言いたい事はフェルンの言い方に近いな。

 俺なりの解釈であって、絶対そうだとは言わないけど。

 自分の今後の人生を誰に言われるでもなく、自分自身で選択して決断した時から人は大人になる。

 シュタルクもフェルンも、フリーレンの旅に付き合う人生から自分の生き方と夢を見つけ出して歩き出した。

 あのフリーレンの生き方すらも変えてな。だからお前たちは立派な大人だ」

「選択と決断か……」

 

シュタルクはエンデから帰り、この村の有様を見て、かつて戦士達の魂をその人生を持って救うと決意した。

フェルンは、そんな彼を支え、フリーレンの心も助けると決断をした。そんな選択が大人の証拠だとザインは言う。

 

「今おまえたちの人生の手綱はお前たち達の手の中だ。未だに兄貴に心配されて放蕩弟状態の俺に比べれば立派なもんだ」

「そんなことは……」

 

きっとこうやって未熟な自分たちの背中を押して褒めてくれるザインもまた立派な大人の姿ではあるのだろうとシュタルクは考えている。

だが、きっと今言うべき言葉はそうではないのだろう。

 

「いや、ありがとう、ザイン。俺頑張ってみるよ。

 どこまでやれるか判らないけど、フェルンと一緒ならきっと大丈夫だ。そんな気がする」

「シュタルク様……」

 

ちょっと真面目な話をしすぎたか?と思ったザインは少しおちゃらけた様子で

 

「ちと真面目な話をし過ぎたか。まぁそんな大人の仲間入りをした2人にお願いだ。

 今度はお前たちも酒の場に出てきて相手してくれよ、フリーレンとだけじゃ話の内容が偏るからな」

「昼過ぎから爺さん達と楽しげにずっと酒飲んでたじゃないか」

 

とシュタルクが笑うと

「さぁ、酔ってたから覚えてねーなー。俺は2人とも飲みたいんだよ。忘れんなよ」

と言ってザインもまた笑って答えた。

 

■星降る帰り道にて戦士は誓う


 

ザインと別れた後の帰り道。と言ってもすぐそこなので大した距離はないのだが。

星を見上げながらシュタルクはフェルンに話しかける。

 

「なあ、フェルン」

「なんでしょう?」

「今晩、居間で寝ていい?」

 

というシュタルクの言葉にフェルンは思わず脱力してつんのめる。

「おっと、あぶね」と言いながら、すぐに抱き支えようとするシュタルクは本当に無意識の天然なのか意図的なのか?

 

「ついさっき、『フェルンと一緒ならきっと大丈夫』といった後に星空を見上げて言うセリフがそれですか。

 回答は絶対にダメです」

「ええ……ダメ?」

「ダメです。居間で寝ると私より客間のレインさんの近くで寝ることになります。それは絶対に許せません」

「いやでも、ベッドがね……」

 

まったく、この男はこういうところはいつまで経っても察しが悪いとフェルンは嘆息する。

 

「逆転して考えてください。男性のお客様が来た時に私が他意はなくともシュタルク様よりその人の近くで一晩過ごすと言い出したとしたらどう思います?」

「うっ……、絶対に嫌です」

 

シュタルクの回答にちょっと満足したフェルンは笑顔になり続ける。

 

「なら夜は私のそばから離れないでください」

「はい……いや、でも……」

「なにを気にしているのですか?」

 

いい加減長くなったシュタルクとの付き合い。何故こんな事を言いだすかと言えば婚前のフェルンの身を気にしているからであろう。

徹頭徹尾、誰かを想って判断する彼が考えそうな事は容易にわかる。

 

――お前たちは立派な大人だ

 

先程のザインの言葉が反芻される。時折シュタルクが見せる欲望に自分も許しを与える余裕があってもいいのではないかと。

 

「では……、今夜はシュタルク様が何をしようとしても……私は受け入れます」

 

そう、真っ直ぐにシュタルクを見て伝えるフェルン。

それを聞いて一瞬固まったシュタルクは、スタスタと近場の木に向かって歩き出し、

 

「―――ッッ!!」

 

声ならぬ声を上げてから眼の前の幹に向かって頭突きをした。

 

目前の木はメリメリと音を立てて頭突きの当たった位置から折れて倒れていく

突然のシュタルクの奇行にフェルンも唖然としている。

 

額から血を流しながら帰ってきたシュタルクにフェルンはハンカチで血を拭きながら

 

「なにをしているのですか!?」

 

と叱るが、シュタルクは至って真面目な様子でフェルンの肩を掴む。

 

「今日はお客様が家に来ている。だから……何もしない!良いよな!」

 

触れるやいなやぐらいの距離感で目を合わせながら強く言われるとさすがに肯定しか出来ない。

 

「は、はい……」

「そういうのは、式が終わったら頑張るから!だから、帰ったら俺、先に寝るから!」

「えぇ……」

 

女神の教えに従うなら至極真っ当な意見ではあるのでフェルンとしてもダメとは言えない。

とは言え、先程の許しはそれなりに覚悟を持って言ったことなのだが……

行き場のない気持ちが顔に出て、むっすー状態になったフェルンだったが今回はシュタルクも折れない様だ。

 

なお、結構家の近くで騒いでいたので、一部始終を見ていた人物が2人。

 

「……何このやり取り」

「私はやはり、野営したほうがよくありません?」

「それはダメ。この後のフォローが手に余る」

「はあ……」

 

そういいながら、フリーレンはコレクションの魔導書をパラパラめくりつつ

 

「確か、体力回復用の安眠魔法がどこかにあったような。深く眠っちゃうから旅の間はあんまり使えなかったんだよね」

 

といいつつ、暫くはシュタルクの決意?だか逃げ口上?だかの手助けをしてあげることにした。

 

■それは無慈悲なる


 

翌日からドワーフ達が簡易の会場設備の作成を始めた。

家の建設の時とは違ってかなり人数は絞られているが、青空式場の予定であるため数日でできるだろうということだ。

 

そんな折、ザインから当然のような質問が飛び出る。

 

「式場と、指輪はさておき、ドレスとスーツはどうするんだ?いつもの格好でやるつもりか?」

 

ザインとしてはそれでもいいと言えばいいんだけど流石に思い出作りとしては寂しい気もするので老婆心的な確認だ。

 

「それは、買うか、借りるしかないので現在お金貯めながら交渉中」

「間に合うのかー?」

 

と言っていると

「問題ありません」

という声が聞こえてたのでその方を向くとレインがこちらにやってきた。

 

「レイン様、問題がないとは?」

「旦那様より、言伝です。おそらくドレスの類は今の状態で調達に苦労するだろうからこちらで用意すると

 さて、シュタルク様、フェルン様、ダンスをしたときからスタイルに変化はございませんか?」

 

そういいながらレインは採寸用のメジャーを取り出し、シュッと伸ばした。

「え」

っと青くなりながら声を上げたのはフェルン。

 

「シュタルク様はかなり背丈が伸びておりますよね。

 フェルン様は自宅で3サイズを測りましょう。ご覚悟ください」

 

シュタルクにはいまいちピンとこないが、フェルンの顔は大魔族と対峙した時より絶望感が濃い

 

「フォーリヒに居た頃のサイズと……比較をされるというのですか……?」

 

思い返してみれば、あの頃は歳にして18歳になりたての頃。もう結構前の話だ。

 

「既にドレスの仮縫いはそれを前提に作っておりますので。同じ女性として気持ちは痛いほどわかりますが、致し方ありません。

 旅の中で鍛え抜いた体を信じてください」

「それは……あんまりに残酷じゃないですか!?」

 

暫くゴネそうだが、これはもうどうせ逃げることは出来ないだろう思ったザインはシュタルクに向き直る

 

「オルデン卿に感謝だな。これで準備は整う」

「ああ」

「あとは、誰を呼ぶか考えておけ」

 

来賓者か……どうするべきか考えながらシュタルクは空を眺める

 

■来賓の


 

北側諸国オイサースト

 

「フリーレンめ」

 

大陸魔法協会本部の最奥。最強の魔法使いと名高いゼーリエは面白いおもちゃでも見つけたかのような顔で笑う。

 

「何か書かれていましたか?」

そばでゼーリエに確認を取るのは一級魔法使いのゲナウ

勤勉で真面目で、いつでも冷静さを失わず、どんなときでも論理的に素早く判断をする男。

 

「一級魔法使いのフェルンが結婚をするから祝いの言葉ぐらいかけてやって欲しいとのことだ」

 

「……はぁ?」

 

ゼーリエから出てきた予想外な話に思わず間の抜けた声を上げてしまう。

少し後ろで控えていたメトーデがちょっと吹き出したのが聞こえた。

(こいつ……何か知っていたな……)

 

「本来、絶縁中のフリーレンの言うことを聞いてやるのは少々癪だが……

 フェルン一級魔法使い程の才覚のある血を後世に残すことは魔法協会にとって非常に重要なことだ」

 

ゼーリエの言う通りだ。才覚がある親からは才覚がある者が産まれる可能性が高い。

 

「相手は?」

「本気で聞いているのか、ゲナウ?

 フリーレン達とは共にレヴォルテと戦っただろう」

 

なるほど……それはそうかと納得する。

 

「人の身でリヴァーレを打倒した男だ。実におもしろい」

「シュタルクですか」

 

バカが付くぐらいにまっすぐな瞳で自分を見つめ自分の事を『いいやつに見えるよ』といった少年。

文字通り命を賭して村を守るために戦った少年。あいつはそのまま真っすぐ成長して人類の仇敵であるリヴァーレすら撃破した。

 

「ゲナウにしては面白い反応をする、なんならお前たちで行くか?

 手土産を持って、祝いの言葉でも伝えてやるといい」

 

ゼーリエはそう言って楽しそうにくつくつと笑った。

 

~ fin & to be continued ~

 

 




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