序盤からずっと利用するような施設経営者だけど強キャラに薄目にこやかで見られながら名前を呼ばれて最後に「ですよね?」で締め括られる存在になりたい 作:ブ雨堰ド
それは、まぁ、幻術使ってるだけじゃあなぁ、とか思って訓練施設の掃除なんかをしていた時のことだ。
「あれっ、管理員さん。お掃除……ですか?」
「ああ、はい。といっても掃き掃除を少々するだけですが」
「そんな、私がやりますよそれ。あの規模の幻術使ってて疲れてないはずないんですから、管理員さんは休んでてください」
「ん、どうしたリュニス」
「幻術やってくれてる管理員さんがお掃除してたから、奪っちゃった。私達が汚したんだし、私達でやるのが筋じゃない?」
「あの幻術やって掃除までやる体力あんのかよおっさん。……いや、無理してるって見抜いたんだな? さすがリュニスだ。貸せ、この俺がスーパースタイリッシュな掃除をキメてやろう!」
「あ、ちょっと! 余計に汚さないようにね!!」
俺が少年少女に認知されることはないんだろうな、とか勝手に思ってたんだけど、やっぱ身を張って世界を竜から救いたいとするような連中は、根っこから光属性らしい。
あれよあれよの間に皆集まってきて、掃除を始めた。どこか尊大な態度だったりクールを気取っていたやつまでも、だ。
……直接教えているわけじゃないからアレだけど……なんか、懐かしいな、という思いもありけり。
今回の「──ですよね?」終わったら一度エチェロエグズル教戒院に帰るかね。いや、書庫への知識同期のためにアクセス自体は頻繁にしてるんだけどさ。
これを食い下がるのは違うな、って思ってそのまま任せていたら、アルカじゃない方のこの子たちの担任の教師が近付いてきた。
「すみません、仕事を押し付けるような形になってしまって」
「いえいえ、一部始終見ていましたからわかっていますよ。……それに、嬉しいことじゃないですか。知を身に付け、武を纏いて、英雄にならんと羽搏く寸前の卵たちが……規範を律し、人として正しくあろうとする人格者である、なんて。そのきっかけをくださったことに感謝こそすれど、咎めるようなことはしませんよ」
「そんな大層なことはしていませんが……」
「今回の話だけではありませんが、あまり野暮なことは言わないでおきましょう。……それと、あなたが子供達を眺める目。紛う方なき教職のそれでしたよ。マイズライト理事長に教職はできない云々を言ったと聞いていますが、本当は天職なのでは?」
う。
……アルカの手前でだけは本域の演技をしたからなんとかなったっぽいけど、こういう無意識の部分を見られると……敵わんな。
もう少し気合を入れて別人にならないと、どことどこが繋がっているかわからん。いずれ芋づる式にバレるぞ。
「それで……もしかして、なにか私に用事でもありましたか?」
「あ、そうでした。忘れるところでした。一部の生徒がですね、放課後、幻術空間で自主練及び数人の仲間内で訓練をしたいと言い出していまして。手当や給金関係はもちろん私からマイズライト理事長にお話させていただくのですが、お時間やご都合などは問題ありませんか、というのをお聞きしたくて」
「ああもう、そんなことなら、いくらでも大丈夫ですよ。私、魔力効率と秒間の魔力回復量だけは人に勝っている自信があるので、そうですね……幻術空間訓練の授業が昼前の日か、昼食後すぐの時でしたら、放課後には回復できていると思いますよ」
「それは……素晴らしい。回復量の部分は個人差ですからどうしようもありませんが、効率の部分はぜひご教授願いたいですね」
「ええ、いつでも話しかけにきてくだされば教えますよ」
……ついでに、この学園に一人だけいる夢妄の魔族も連れてきてくれないかな。
その子にこの幻術空間についてを教えておきたい。いずれ来るトンズ……「──ですよね?」後のためにも。
こうして……一年くらいかな。生徒とも教師とも交流を行う生活が続いた。
その間にも当然竜災は起きまくっていたし、少なくない血と、少なくない犠牲者が出たけれど……子供達はすくすく成長していった。
ちなみにあのクラス以外も当然幻術空間を利用するんだけど、やっぱり利用率は圧倒的にあのクラスが多いから、俺も名前を覚えちゃったよね。顔はマー見分けつかんから勘弁してくれ。魔力の質は覚えているからサ。
して、その日がくる。
今日はドランシア軍士官学校から留学生が来るということで、少年少女らはざわつきを抑えきれない、という様子だったのだが……その子が来た瞬間、ざわめきは収まった。
なぜか。
それはその子が、多分、美しかったからだろう。
俺としては既視感を覚えるその美貌。色味こそ違うが、恐らくは──。
その子……少女は、皆の前にまで歩いてきて、優雅なカーテシーを行う。
「はじめまして、越竜学園の皆さま。私の名前はチェルシー・
「父って……じゃあやっぱり、そのファミリーネーム……」
「ええ。──お久しぶりです、お父様? かつて連邦軍特殊情報局にて『幻煥』の名を恣にした、同じ情報局員にすら姿を明かさなかった伝説の存在。……今更、言い逃れなどしませんよね?」
え、誰──!?
君の種族を言い当てる前に誰!? ナタリー……でもないっぽいけど。知り合いでもないっぽいけど!?
そして凄い既視感。たしか……ハーフ魔族の洗脳どうこうでローレンスに似ている名前がうんぬんかんぬん!
いやでも今回は名指し……というか娘が父親を見間違えるワケなくないか。
「な……特情の局員!?」
「なんだ、ユーリッヒ。トクジョーってのは。うまいのか」
「連邦軍特殊情報局。昔の……戦争とか頻繁だった時代の連邦が使ってた、国を内側から監視する局だ。……でも、特情は四年前に解体されたはずなんだよ。時代に合ってないから、って」
ほとんどセンバー・アークライトの時と同じ背景で、今度こそ成功させる、って意気込んでたんだけど……。
キ、キター……ではあるのか? いやでも誰君。娘? 俺の?
「……情報源は、ウィルさんですか」
「っ──? ……ええ。ウィルヘルム・エリスフィア殿下がお元気になった理由をお聞きしたら、何の偽名にもしていない名前が出てくるものですから、驚いてしまいました。……と、皆さまの時間をこれ以上身内の話題に使うべきではありませんね。……お騒がせしました。本日より越竜学園にて学ばせていただきます。よろしくお願いいたします」
……マジで誰だ。知らん霊質だぞ。霊魂も見たことが無い。
まさか……『院長』が誰かと子を儲けたとか? いやいやコンストラクトに生殖能力なんかありませんよ。あるいは作り直してやった涅月のコンストラクト……も同じだってば。
あるいは未来で……まだ俺の知らん俺が、みたいな? ……ぜーぇったい無いな。アルカにあれだけ言っておいて心変わりとかぜーぇったぁい無い。
「シュトロハイムさん、動揺して……おられないようですね。幻術に動揺は色濃く影響を与えると聞きますから、今日の訓練は、とも思ったのですが」
「ハハ、まぁ、今言い当てられた昔の仕事柄、動揺というものには強いんです。大丈夫ですよ」
とりあえず幻術使うけど……マージで誰だ。
「──招待夢」
あらゆる場合を考えて、レジストされては面倒臭いので、本域で飲み込む。
……無事に飲まれてくれたようだ。
「シュトロハイムさん、少し……お時間よろしいですの?」
「ああ……マイズライト理事長。もちろんです」
これは……懲戒免職の流れかな。
そうしてくれたらラッキーだ。ちんぷんかんぷん「──ですよね?」ではあったが、まぁ、「──ですよね?」は「──ですよね?」だし。あの子が身内かっていうと微妙だし。
連れてこられたのは……校長室であった。
そこにいたのは、アルカ、エレンちゃん、……そして、対面するのは初めましてだな。
「初めまして。僕はこの学園の学園長を務めています、ヘンリー・エカスベアです」
「はじめまして。かのエカスベア魔導博士の再来とも謳われているヘンリー博士に出会うことができるとは思ってもみませんでした」
「……」
ヘンリー・エカスベア君。
彼が……じぃっと、俺を見る。
「まずは私から話をさせていただきますわ。……四年前、あなたを雇うことになったとき、あなたはご自身の経歴に一般会社員として働いた会社が倒産になり、流れで解雇された、と書いていましたわね」
「……はい。娘の存在で……色々割れたのでしょうから、それを知っている前提で話しますが……すべてをそのまま書くわけにはいかなかったので、別の言葉に置き換えさせていただいた形ですね」
「つまり、もう連邦とは繋がりを持っていない、と?」
「それは、ええ、そうですよ。情報局が解体になった際、私も解雇されてしまいまして……。まぁ、お金は稼いでいたので、気分転換にエリスフィアまで来て……私を知る者のいないこの国でゆっくりしようとしていたところで、ウィルさんと出会った……と。そういう流れです」
……あと、これは本当に知らなかったんだけど、ウィルヘルム殿下とか言ってたね。
中間管理職っていうかトップじゃない? 国家元首じゃない?
「嘘は言ってないね。魔法、刻印魔法、気功、霊視、呪詛……ありとあらゆる嘘発見器を起動してたけど、どれにも引っかからなかったから」
「しかし、経歴詐称をしていたことに変わりはありませんわ。……あなたは人材として非常に優れていて、学園としては絶対に手放したくない人物ですの。けれど、ルールはルール。特例を作ってしまっては脆弱になっていくもの」
おお。どっちかっていうとルールは破るためにありますわ! タイプだったエレオノーラと違って、エレンちゃんは生真面目委員長タイプなのか。
いや、言っていることはとても正しいから文句とかないし肯定派なんだけど、違いがあって面白いなって話。実の娘なのか孫なのかは知らんけどね。
ちなみにアルカが嘘発見器的な魔法をこれでもかと用意しているのはわかっていたので、全てに対してtrueが出るような言動や魔力の質、霊質を作りましたとも。
甘い甘い。相手がそれを知らない、できないはず、って思いこんじゃうのがお前のウィークポイントだ。魔力マニピュレータもだけど、まだまだ課題は山積みだな。
「どのような罰も甘んじて受け入れます。お騒がせして申し訳ございませんでした」
「……いえ。思えばあの時も……やんわりと断ろうとしていたことを覚えていますわ。あなたは初めから乗り気ではなかった。ストレイルも受け取ろうとしていませんでしたし。……そう考えると、悪いのは私やウィルですの。余生を過ごそうと決めたエリスフィアで……余計な縛りを与えてしまって」
「悪いけど、少しだけ黙ってもらっていいかな、エレン」
「なにを……はぁ、わかりましたわ」
黙っていたヘンリー・エカスベア君がようやく口を開いたかと思えば、出てきたのはそんな言葉だった。
……特に何か、解析系の魔法を使われている気配はない。霊視……霊質を見る行為をされているわけでもない。
だからわからない。彼が今、何を視ているのか。
「僕は……天才だなんだともてはやされてはいますが、僕自身から……ゼロからイチを創造したケースっていうのは、実は少ないんです。そのほとんどが歴史上の偉人たちの発明の……アレンジとか、合作とか、そういう類のものばかり」
何を言うかと思えば。
その「アレンジ」とか「繋ぎ合わせ」ができなかったから紫輝は人族を見放したんだろう。
過去から学べないから……不要と述べた。
彼はそれをクリアしている。その証拠に、ただの一度も……彼が生まれた時のそれ以外の竜災には遭遇していないらしいじゃないか。
「
……正しい。
癖というか、信念として、俺は魔法をそう使っている。存在としてある限りの万物は、それがどのようなものであれ、他者と共にあり、他者を求めるものである、と。
「ただしあなたは、自身の持つ全ての痕跡を意図的に消そうとしているきらいがある。きらい、というよりは……警戒している。恐らくですが、その痕跡を見られたら、自身の正体がバレてしまいかねない身内がこの学園内にいるのでしょう。……いえ、この部屋の中に」
「……え。ヘンリー、それって」
「やはり……なんですの?」
いや……今、肉眼だっただろう。
というか幻術なんて今使ってなかった。……まさか記憶にある幻術を後から鑑定してたってのか?
映像記憶タイプ……いや、だとして、記憶の中の幻術の外殻を後から思い出して……魔法的だったりなんだったりで観察して、特定して……。
この子の天才性は、アレンジ力どころの話じゃないんじゃないか?
「と言われましても……連邦時代の癖が出ている、と言われたら、そうなのかもしれませんが……」
「アルカさんの前で使ったという刻印魔法。彼女の記憶をアウトプットし、改めて見させていただきました。……僕はプロの筆跡鑑定師ではありませんが、一度見た筆跡は忘れませんし、その人がどの国出身でどの時代を生き、どういう性格でどういう生い立ちなのか、くらいはわかるつもりです」
「くらいは、って……」
「結果から言って、ツェルニさん。あなたの筆跡は、国籍や時代を感じさせない字でした。古代魔族語や精霊語を母語とする方でもこうはなりません。一応僕の知らない純天体語なるものを母語とする方の可能性も考えましたが、そうであった場合はなおさらでしょう。確かにアルカさんの言うような、教本に書かれているような字、とは程遠いですが、意図的に崩した字であることは明白です。余剰魔力もムラがあるように見せかけてはいましたが、知的生命体である以上は必ず、完全なるランダムに、ということは難しいはずです。刻印魔法式外部計算機のようなものでパターンを生成しているのならともかく、あなたが出した余剰魔力のムラの偽装は、災厄の地にいたという"教授"なる存在が最後に使用した大魔法、その魔力線が持つムラに酷似していました」
記憶力。そして……そこから可能性を導きだす力。分析力。解析力。
こーれはなるほど紫輝さんも出生を遅らせますわ。遅らせたの大地さんだっけ? その辺も曖昧だから書庫行かなきゃなー。
「……本当に教授……なんですか? いや、正直私自身はあの別れ方をしていないっていうか、書き込まれただけだから夢現な感覚なんですけど……もしかして私達の様子を見にきたんですか?」
「相変わらず世話焼きなことですわね」
うーん。……まだ夢妄の魔族ちゃんに幻術空間の極意を教えられていないんだよなぁ。
今ここでトンズラこくと、若者たちがナー。まー古くはガジール君たちをすっぽかして失踪したりしてたわけだから、畜生エンジョイ勢としてはその辺もう気にしなくていっかな感はあるんだけど。
──と、そこに……ノックがあった。
「すみません、今、よろしいですか?」
「誰かは知りませんけれど、今大切なお話中ですの。後にしてくださいまし」
「いえ、そういうわけにはいきません。──父がお世話になっているようですから」
入室許可とか一切関係なしに入ってきたのは……チェルシー・シュトロハイム。俺の娘を名乗る少女。
「あなた……
「仮に。学園長さんの言う通りの方が私の父であったとして……それでは私は、どういう存在なのだと……学園長はお考えなのですか?」
「無視!? この──」
「ど、どうどうエレオノーラ。今はちょっとだけ見守ろう。ねっ?」
「……はぁ。そうですわね」
なんだ、この子は本当に。
庇ってくれようとしているみたいだが……全然、このまま詰問されたのが心にキて、みたいな理由で飛ぼうとしていたんだから、余計なことをしてくれなはるな。
「君の存在は、正直言って不明だ。君という人間がこの十四年間を生きてきた痕跡は世界中に残っているのに、君自身のパーソナリティを決める痕跡が欠片も無い。まるで、後から君と言う存在がいたことにして、必要分だけの痕跡があったことにした、とでもいうかのように」
「それは当然ではなくって? 私は元ヴァグス公国皇族。その存在は、つい最近まで明るみに出されずに──」
「僕は自身を中心とした半径46kathl範囲で起きた魔力的現象の全てを感じ取れる。魔力を持つ人間の出産は間違いなく魔力的現象であり、生まれたばかりの子供が大気中の魔力を肺いっぱいに吸い込むことだって魔力的現象だ。普段はあまりにも雑然としすぎているから意識しないよう情報のフィルタリングを行っているけれど、それは覚えていないとか、記憶していないとかってわけじゃない。君が残した魔力的な痕跡だけをハイライトして思い出すことだって可能なんだよ。……その上で、君の存在は不明だ。僕の所感だけで言うなら、君は、今日ここへ留学生として訪れるまで、存在しなかった、という方が正しい」
「まさか……ご自身のアリバイ作りのためだけに命を創造しましたの? ツェルニさん」
「いやあの、本当になんのことやらで……」
濡れ衣濡れ衣! 俺そこまで倫理無い存在じゃないよ畜生なのは認めるけど!
「不明で終わりですか? 人類史きっての天才さん♪」
「……証拠なしの推測でいいのなら、君の正体はわかる。……連邦の中には、『不可侵の地』と呼ばれる小さな小さな地域が存在する。そこはかつて、アウノルド村で行われたという『魔鉱石抽出実験』の次なる候補地とされていた場所であり、同時に、魔王国以外で唯一の候補地に設定されていた場所だ。名を、オールトヴァルド。小さく限られた地域であるというのに、どのような術を以てしても、認可の無い者は近付くことができないとされていた。オールトヴァルドに近いところに住んでいた現地民曰く、妖精の住まう村があるとされていたその場所」
オールトヴァルド。……確か、V・D連邦の右上……『
そして……なんだ、『魔鉱石抽出実験』って。名前からしてエグそう。……まてよ、アウノルド村? それって確か『王様』との話に出てきた……俺が詳細を聞くと、模倣できてしまいかねないから、と伏せられた土地だったはず。
人魔戦争の引き金。あの温厚な『王様』を戦争にまで駆り立てた実験。
「君はそこの住民だ。だから記録も何も残っていなかった。そしてさっき僕が言ったことはすべて真実で、君は今日、新たな身分を得るために、隙のありそうな者の懐に潜り込んだ。……それがツェルニさんだった。……実は君としても驚いたんじゃないかな。情報源を聞き返された時、僅かに息を詰まらせていたのは……まさか洗脳も無しに娘だという話が受け入れられるとは、って、想定していなかったから」
「ふふふ♪ 凄いわ。天才って本当のことなのね。……ええ、その通り。私は妖精さん。実を言うと、この人とは何のかかわりも無い誰かさん。まさか彼が私を娘だと認めるとは思わなかったっていう話もその通り。誰とか知らないとか口走ろうものならえいっと認識を甘くして認めさせようとしたんだけど、まさか受け入れるだなんて。もし私が彼の娘なら、母親は誰なのかしらね」
魔鉱石抽出実験。……察するに……まさか、生きたまま魔族の体内から魔鉱石を抽出しよう、みたいな実験じゃないだろうな。
……どっかに記録残ってないかね。人魔戦争の引き金ってことは紫輝歴618年の……連邦の、汚点ともいうべきものが隠してありそうな場所。
……あった。
成程……想像以上にエゲついことやってんね。
しかし……出資者が、【マギスケイオス】所属『財宝』のマイズライトってのは……どういう了見だ。
この頃ってことは、エレンの前代『財宝』。アルカが【マギスケイオス】入りした時に高価な指輪をもらった、みたいなエピソードに出てきた奴。
外道か、それとも勘違いか、あるいは……。
「身体的特徴からして、君はエルフなんだろう。つまりオルドヴァルドに住んでいる住民自体がエルフと考えて問題ないだろう」
「当たり。けど、身体的特徴って……なぁに、エルフの知り合いでもいたのかしら?」
「僕自身の、ではないけれどね。……さて、君についてを詰問するのは後にしたい。どうしてこうやって今躍り出てきたのかも含めて後で聞くから、今は捌けてくれないかな」
もし。
もし──この実験を推し進めていたのが、彼女であるのならば。
「──ッ!?」
血相を変え、飛び退き、こちらへ手を翳すエレンちゃん。
……ちょっと漏れたか。聡い子だな。すまなかった。
「エレオノーラ? どうしたの?」
「……アルカ。私の首、ちゃんとくっついていますの? 心臓は刳り出されていませんわよね」
「いきなり何、怖い事言わないでよ」
「私達……想像以上に危ない竜の尾を踏んだ可能性がありましてよ」
ああ、で……なんだって? 俺の娘を名乗る少女がエルフで、潜り込んだだけうんぬんかんぬん?
んー、興味無いな。
「申し訳ありません。結局、なにがなにやら、なのですが……私のこのあとの処分はどうなるのですか?」
「経歴詐称を悪いと思っているのなら、僕らと一緒に竜災へ対抗するすべを編みだす仕事をしてほしい」
「しているじゃないですか。竜災を防がんとする子供達のための糧になっています。それが何か問題が?」
「君という超常現象は、それしかできないということはないだろう。……いや、違うな。僕という人間が君に頼むべきは、それじゃない」
彼は。
「──邪魔です。今、人類は、紫輝の出した試練に打ち勝たんと頑張っている最中なので──僕らの視界の外で遊んでいてもらえませんか。あなたに関することで悩むのは時間の無駄だし、あなたの行動の一切が目障りだ」
「へ、ヘンリー? 何を言って……」
「だってそうでしょう。アンドリアミアフィナイラロカという天使は、彼以外の存在しか英雄として認めない。災厄を討ち果たすのは彼に依らない英傑である必要がある。条件が緩和されたのだとしても、そもそも求められているものはそちらであるはず。──だから、一年間のご指南ご指導、ありがとうございました、と。そう言って……あなたを解雇するのが、人類としての最善の選択であると考えます」
……。
……流石だ、天才。
「わかりました、出ていきましょう。……ああ、そこなエルフについて、私は何も知りませんよ。その場のノリに合わせるのは得意なので受け入れてみましたが、本人に隠す気が無いというのならそれに付き合う意味も無い。私の使う幻術の極意については、できる限り資料としてまとめておきましょう。夢妄の魔族の方が読めば、似た空間を作り得るかもしれません」
「……散々お世話になっておいての解雇については、誠に申し訳ございませんでした。……お礼は、必要でしょう。あなたには給金等々は意味を為さないでしょうから、なにか、僕の力の許す範囲で……お望みがあればお聞かせください」
「では、エレンさんに三つ、お伺いしたいことがあります」
「……私、ですの? ……わかりましたわ。お答えいたします。ウィルへの不義理も兼ねて」
なにか、面白いことを思いついた、という顔をしているエルフを零花霜で凍らせる。空気を読め。銀・結糸ですら読む場所だぞ、ここは。
そして、エレンちゃんに問いをかける。
「人道を外したことは、ありますか?」
「ええ、何度か。今こうして私が生きていること含めて、外道の行いの成果ですわ」
……生きていることが、外道。
そんなことを言わせる生い立ちとは……なんなのか。
「『魔鉱石抽出実験』について、あなたの意見は?」
「身の毛がよだつ思考ですわ。同じヒトガタをしている存在をどうして実験動物のように見られるのか理解に苦しみますの。……無論、魔物だからといってやっていい、というわけではありませんが」
「最後に……アルカ・ダヴィドウィッチさんのことを、どう思っていますか?」
「……ま、恐らくは……我が人生において、唯一無二の親友でしょうね。一時は娘のようにも思っていましたけれど……私の弟二人と同じく、血の繋がっていないだけの家族のようなものですわ」
そうかい。
それならまぁ、もう俺は、お前を疑うことはしないよ。
「あの──教、」
「今回は及第点超えならず、ということです。課題を放置している生徒が自身の欲する言葉をもらえるとは思わないように。──引き継ぎ書、書き終わりましたので、幻術訓練施設の棚をお探しください。それでは」
消える。レイン・ヤーガーの時と同じく、肉体を魔力素にまで崩して。あ、勿論訓練の幻術は消した上でね。
正直よくわからんかったぽっと出のエルフによる「──ですよね?」はノーカン気味だけど、またぞろ教授としての役割を求められても違うし、何よりここには……俺が不要であるみたいだからな。
頑張れ、実は名前も知らない夢妄の魔族ちゃん。頑張って覚えて幻術のスペシャリストになるんだよ~。
──と見せかけてェ!!
当然こんなのじゃ満足できないのでお代わりいきまァす!!
色々思うところないことはないけど、それはそれこれはこれなのである!!