だからウマ娘はエロ禁止だっつってんだろ!! 作:散髪どっこいしょ野郎
スティル在学中の時系列です
「はぁ……今日も仕事かぁ……」
ボヤきながらも手を動かす。今日も提出書類や資料とにらめっこしていた。全ては担当ウマ娘、スティルインラブのために。
「にしてもマジで生殺しだよなぁ」
最近ひとりごとが増えた。俺まだ青年なんだけどなぁ……。
生殺し。それは俺にかけられた呪い。ウマ娘に対してムラっと来たら即死の呪印。これの所為で神経がかなり擦り減る。元より教職に向いていないのだ、俺という男は。
「……スティルから貰った菓子でも食うか」
甘い。コーヒーも欲しいな。淹れるか。ちょい休みがてら。
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彼はいつも、私のためにご尽力くださる。だからこそ、私は走ることで応えてきた。それでもどうしても、考えてしまう。
トレーナーさんを癒したい。また明日も笑ってくれるように、活力を捧げたい。
「ねえねえスティルちゃん、あの噂知ってる?」
「はい?」
トレセン学園は時折怪奇現象が起きる。七不思議、逢魔が時の怪。こと恐怖の噂には事欠かなかった。
「トレーナーとうまぴょいしないと出られない部屋があるんだって! でもうまぴょいってなんなんだろ……?」
「うま、ぴょい……」
ご学友の方から聞いたそんな噂が、妙に私の心を惹いた。
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「よっしゃ終わりー! はぁ……つっかれたぁ……」
今日の分の仕事が終了した。また明日も早い。さっさと帰って寝ないと……ん? このノック音……。
「スティルか? どうぞー」
「失礼します」
「……」
「? どうかしましたか?」
「いや……キミってやっぱかわいーなーって思って」
一目見ただけで癒された。気が抜けて思わずセクハラしてしまったが、やはりスティルの存在は俺にとって何よりも大きいものだった。あ、顔赤くなってる。
「……っ」
「ああすまん、つい本音が……。何か用事でもあったか?」
「その……トレーナーさんのお体にマッサージをさせていただきたく」
「……爆発しねぇか心配だな」
「?」
「ああいや、なんでもない。じゃ、お言葉に甘えようかな」
ソファーに寝転がる。こんなだらしない姿を教え子に見せるのは恥ずかしくもあったが、厚意にはちゃんと応えたい。
「それでは、始めます」
「ん」
……うおぉ、気持ちいい。
「痛む所はございませんか?」
「いや……めっちゃ気持ちいいけど……眠い……」
「終われば私が起こしますから、どうぞお眠りください」
「……わかっ、た。じゃあ、まか、せる……」
眠気と指圧の快感板挟みに耐えきれず、俺は眠りについた。
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よほどお疲れだったのか、私が施術を始めるとトレーナーさんはすぐお眠りになった。……私のために、ここまで消耗させてしまった。
指圧を続ける。むにゃむにゃとうたた寝をするトレーナーさんを見ていると、また卑しい自分が顔を出した。
「……ダメ。そんな、はしたない……」
いつまでもこの寝顔を見守っていたい。その幸福をお守りしたい。だからそんなはしたない衝動は、消さないと。綺麗に、くまなく。
──何を躊躇っているの? ワタシ。
「……ッ!」
──この方なら、ワタシたちを受け入れてくれる。そう分かっているから、アナタも衝動を起こしたのでしょう?
「……トレーナー、さん……」
お顔が、すぐ傍にある。少し押されたら合わさってしまいそうなほど近くに。
……! だ、ダメ私! そんな、はしたない……!
「……失礼します、トレーナーさん」
ゆっくりと彼を
そして部屋を出た先は、知らない場所だった。
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うーん……あれから俺どうしたんだっけ……たしかスティルがやってきて……仕事終わって……
「ハッ!」
マズい、今何時だ!? かなり長いこと眠ってた気がする! 明日の準備だって──と、考えて異変に気づく。
「お目覚めになりましたか、トレーナーさん」
「ここは……」
大きな部屋だった。学園の敷地内にこんな建物あったか? ん? なんだこの看板……。
「……うまぴょいしないと出られない部屋?」
冷や汗が背筋を伝った。
▫▫▫▫▫
分かったことがいくつか。ここはトレーナー室から出た先にあった建物で、廊下をぶち抜いて突如現れた部屋ということ。
そして扉は固く施錠されており、ウマ娘の膂力でも開けられない。
そして部屋の張り紙に書かれている情報が真実だとするならば、俺たちはうまぴょいするまでここを出られず、外からの救助も頼れない。
紙に書かれていた話では、『ここでは時間が圧縮されているため一年部屋にいても外では一時間程度にしかなりません。お楽しみに!』とのこと。引き千切ってやろうかと思った。
「よし、ちょっと下がってくれスティル」
「? はい……」
一回
「ほあああああっ!!!」
▫▫▫▫▫
「お目覚めになりましたか、トレーナーさん」
「……え?」
……あれ?部屋の中だ。確かに死んだ筈なのに。
「……マジで出られないのか?」
「うまぴょい、とは何なのでしょうか……」
呪いがある上にうまぴょいしないと出られない……これ、詰みでは?
いやまて考えろ。そもそもうまぴょいとはなんだ? ……ダメだ、意識がエロにしか向かない!
だからウマ娘はエロ禁止だっつってんだろ!! 何かしらの抜け道がある筈だ……!
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それから考え得る全ての方法で部屋から脱出を試みたが、扉は頑として開いてくれなかった。
部屋にはベッド、冷蔵庫、キッチン、バスルーム等々、生活に必要な全てが揃っている。生きるだけなら何年でもいられそうだ。
「ハーッ、ハーッ、ハーッ……悪いスティル。ちょっと眠る」
「……はい」
非常に罪悪感がある。俺のようなキモオタと同じ空間で寝食を共にしなければならなくなった彼女のことを思うと涙が滲み出てきそうだった。
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もしかしたら一生出られないかもしれないのに、私の心は凪いでいた。
私は貴方を愛している。そして、貴方は私を愛している。時間を積み重ねる程にその事実が表面化してくる。その毎日が愛おしかった。
もちろん、彼のご希望に沿いたいとは思う。どうにかしてこの部屋から出なければ、多くの方にご心配をおかけしてしまう。
それでも、貴方と一緒にいたいと願うのは、罪?
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「だからウマ娘はエロ禁止だっつってんだろ……」
あれから何度か夜を明かしたが神様は俺を招いてはくれなかった。
絶望のさなかにいた。俺だけが閉じ込められるならまだいい。未来ある俊英が俺のために『終わろうと』している事実が許せなかった。
「トレーナーさん、少しお休みください。私は大丈夫ですから」
「ふーっ、ふーっ……。……そうだな、ちょっと風呂入ってくる」
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「はぁ……」
湯加減は最高だった。この部屋の材質はどれも高級品なのが余計に癪に障る。
うまぴょいしないと出られない。しかし俺はエロ禁止されている。マジで詰みだろこれ。
スティルと……うまぴょい……
「ほあああああっ!!!」
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「あ、開きました」
「ゑ?」
爆発して二度湯船に浸かることになったが、風呂を上がると部屋の鍵が開いていた。
……え? うまぴょいしないと出られないんじゃ……
──あ。
「……スティル。まさか、だけど」
「はい。うまぴょい伝説を踊ったら開きました」
「………………」
無言で空を仰ぐ。そうだ。うまぴょいって元はうまぴょい伝説のことじゃねえか。俺頭ン中ピンクすぎるだろ……。
「……本当に、ありがとなスティル。こんな俺に付いてきてくれて」
「トレーナーさん……? 何か、お辛いことでもあったのですか?」
涙が流れる。やっぱ俺トレーナー向いてなさすぎるだろ……。スティルには余計な心配させちまうし、うまぴょいの真意にすら気づけねぇし。
「よし、帰るか。時間がゆっくりとはいってももう夜だしな」
「……あの、トレーナーさん」
「ん?」
寄ってきたかと思うと、スティルは上目遣いになり、
「……あと一日だけ、トレーナーさんとこの部屋で過ごしたいです」
「………………OK」
爆発する以上に、『萌え』の威力が凄まじかった。
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「なんてこともあったな〜」
「ふふ、今となっては懐かしい思い出ですね」
スティルと結婚して数年経ち、俺はふとあの部屋のことを思い返していた。
「ところで……トレーナーさんはうまぴょいを何の用語だと思っていらしたのですか?」
「う゛……それは……その……」
この部屋には二人きり。しかし二の句が継げない。
そんな俺を眺めながらスティルは蠱惑的に微笑み、
「私の気持ちは、今でも変わりません。貴方のしたいようにしてください」
「ウマ娘は! エロ! 禁止だっつってんだろ!!」
俺は叫んだ。