十代好きの私が天上院明日香に転生したのはいいけど、この世界のカードパワーが明らかにインフレしている!   作:スパークリング

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Turn-10 「カイザー亮」

 あの昇格試験デュエルを終えて。

 明らかに私に恋愛関連、そして派閥関連で絡んでくる生徒たちがいなくなった。

 

 前者は十代が万丈目くんに勝利して万丈目くんがそれ以降十代になにもアクションすることがなくなったから、後者は先輩相手に先攻ワンキルを決めた影響でしょうけど結構露骨に減った。

 

 特に女子の動向は顕著で、上級生の知り合いでもなんでもない先輩はほぼ私に近寄らないようになったし、同級生でもどこかの派閥に入った子たちからは避けられるようになった。

 逆に私とそれなりに仲が良かった子や、中等部から少し接点があった上級生からは、他の上級生たちからの隠れ蓑として近づいてくるようになった。別に迷惑しているわけでもないし、良い情報をくれたりもするから来るなら好きにしてって感じでオープンに接することがほとんど。それくらいのインパクトがある事件として、あのデュエルは女子の間で受け止められていた。

 

 さてはて、そんな日常の変化があったものの、それでも変わらない恒例行事というものも存在する。

 

「来たか明日香」

「ええ。どう、なにか掴めたかしら?」

「いいや。すまない」

「そう……」

 

 それが夕方の灯台下での亮との密会。……密会? まぁ、ジュンコとももえに人払いさせているんだから密会なのでしょうけど。

 いわゆる迫真灯台部として前世で散々いじられていることをこの世界でもしているわけなんだけど、少なくとも私と亮にとっては真面目で真剣なことだったりする。

 

 なにせ原作通り、アカデミアで失踪してしまった私の兄である天上院吹雪についての情報交換がこの密会の趣旨なんだから。

 

 アカデミアに行くときに兄さんに散々「気を付けて」と言ってはいたけど結果は変わらず。覚悟をしていたし、原作通りならいずれセブンスターズの刺客として私たちの前に現れることになるとはいえそれでも悲しいものは悲しいし、心配なものは心配なのだ。もしかしたらダークネスとか関係なしに、この孤島内のどこかで……なんて真っ暗な想像もしてしまうこともある。

 そう考えるなら、原作の天上院明日香は私以上に不安だったでしょうに。それでもあれだけ気丈に明るく振舞えていたのは、多分相当頑張っていたのでしょうね。禁忌を犯してまでしてひとりで廃寮に乗り込もうとする、私とは違ったアグレッシブさもある。そういうところは原作の彼女を素直に尊敬できるところね。

 

「そういえばなのだが、おまえが惚れた男の昇格試験デュエル、あれは見事だったな」

 

 お? なにも情報を掴めてこられなくてしんみりしちゃったから、空気変えるために十代の話を持ち出してきたわね。でもそれは正解。十代を褒められて私が喜ばないはずがないもの。

 

「そうでしょう。お気に召していただけたかしら?」

「ああ。対戦相手の万丈目とやらもおまえと肩を並べられるほどに優秀な男だったそうじゃないか。クロノス先生の次に下した相手がそれではもはや本物と言わざるを得まい」

「あら、まだ疑っていたの? 私ともデュエルしたって言ったじゃない」

「だが決着は付かなかったのだろう?」

「まぁね。でも8割くらいは私の負けだったわよ」

「2割も勝機があるなら、おまえならば捲り返せるだろう」

 

 あらまぁ、嬉しいことを言ってくれるわね。

 

「いつか、タイミングさえ合えば彼ともデュエルをしてみたいものだ」

「私から口添えしてあげましょうか? あの子は根っからのデュエル好きだから言えば乗ってくるわよ?」

「それもいいが……できるものなら遊城十代の方からオレに仕掛けてきてほしいものだ。キミから仕向けるのではなく彼の方からオレに興味を持ち、向かってきてほしい」

 

 そこだけは受け身なのかこの男は。でも気持ちは分かる。

 カイザーなんてアカデミアでもてはやされて、面と向かってやってくるような子なんてご無沙汰でしょうし、だから十代には挑戦者として真っ向から自分に向かってきてほしいのでしょう。亮にしては珍しい、年相応のささやかな願いだ。ちょっとかわいい。

 私はこんなだから向かってきてくれる子には絶えなかったけど、なんちゃってとはいえクールな亮はそうもいかないもの。できるものなら十代と亮のデュエルを特等席で見てみたかったけど、亮のその気持ちは尊重したい。

 

「わかったわ。私からは十代になにも言わない。でも十代なら近いうちに貴方に挑んできそうよ? 『オマエが丸藤亮か! カイザーって呼ばれてるんだってな!?』とか言って」

「なんで少し声が似ているんだ?」

「声が似ていたの!?」

 

 言い方を似せていただけなのに声が似ているって言われた。

 私ってそんなに男の子っぽい声しているのかしら? いや、原作通り我ながら女の子らしい綺麗な声をしていると思っていたのだけど……。

 

 地味にショックであった。

 

 ちなみにこれはシンプルに、亮の天然が発動しただけ(言い間違い)だった。ちょっと(つね)ってやった。

 

 

 

「はぁい、十代。翔くんも……ってあら、どうしたの?」

 

 週が明けて月曜日の4限目、必修科目の授業にて席についている十代たちに挨拶したのだけどどういうことか、ふたりはちょっとぎくしゃくしていて微妙な雰囲気になっていた。

 

「あ、ああ、明日香。おはよう」

「おはようっす明日香さん」

「うん、おはよう。で、どうしたの、らしくないじゃない?」

「い、いやっ、なんでもないっすよ! うん!」

「?」

 

 これまた珍しい。翔くんがちょっととはいえ大きな声出してなんでもないよアピール。つまりなにかあるってことよね。翔くんサイドの問題で。

 

「そう? それじゃあ授業が始まるから行くわね」

「はっ、はい! それじゃあっ」

「お、おう……」

 

 気になりはしたけど時間もないし、話したくない相手に口を割らせようとしてトラブルも起こしたくないから今のところはこの軽いやり取りだけしてこのふたりと別れた。

 

 

 

 

 そして授業が終わって昼休憩に差し掛かった。

 いつものようにジュンコとももえと一緒に食堂に行こうとしたところで。

 

「なぁ、明日香。ちょっと時間くれないか?」

 

 ちょっと元気がなさそうな十代が私の所に来た。あらあらまぁまぁ。そんなにしょげちゃって……どうしちゃったのかしら? チラリとさっきまで十代と翔くんが座っていた席を見ると翔くんの姿はないし……。

 

「明日香さん」

「わたくしたちはお先に失礼いたしますから、ごゆるりと」

 

 気遣ってくれた親友たちが私と十代に一礼して教室から出て行った。本当に、私にはもったいない子たちよもう……。

 

「いいわよ十代。とりあえず、一緒にランチでもいかが? 相談ならゆっくりと聞くから」

「あ、うん。サンキュ」

 

 歯切れが悪いわねぇ。まぁ、友達と関係が微妙になっちゃったらそうもなるか。

 

 私たちは食堂に向かうことにした。道中無言だったけど、無理に話しかけるのもつらいだけだと思うし、私は正直友達と無言の時間が長く続いてもあんまり気にしないタイプだし、なにより十代が私を頼ってきてくれたことがちょっと嬉しいしで、気まずくは思わなかった。

 

「で、どうしたの?」

「い、いや……その、翔の件でちょっと、な」

 

 ご飯を食べ終えて互いにお水を飲んだところで本題を聞き出すと案の定、翔くんについての相談だった。

 

 なんでも昨日翔くんとフリーのデュエルをしたところ、途中でドローしたカードを見た翔くんの様子がおかしくなった。怪訝に思いつつもデュエルは続いて……結果的に十代が勝ったらしいのだけど、その後に翔くんの手札を確認したら……機械族最強クラスのパワーカード『パワー・ボンド』があったことを見つけちゃった。そしてそのカードを使えば翔くんの勝ちだったことを指摘しちゃったと。そうしたら翔くんが怒っちゃって……それで今に至ると。

 

 ああ……なるほどねぇ。

 そういえば初期の翔くんって亮に『パワー・ボンド』使用禁止令を食らっていたわね。そして十代はデュエルに関しては楽しんでいると同時にかなり真面目に取り組むタイプ。特に勝敗に関わることなら指摘しちゃってもおかしくない。私だって、なにも事情も知らないでそれをされたらいい気分はしないもの。

 

 正直これはどっちも悪くない。

 十代の指摘は御尤もだけど、翔くんにも事情があったわけだしね。言ってしまえばふたりの性格とデュエルに対する思いの擦れ違いみたいなものだもの。

 というか見方を変えればどっちも悪いとも言える。勝手に翔くんの手札を見て指摘した十代はフリーとはいえ普通にノンデリだし、センチメントな理由で使用を躊躇うようなカードをデッキに入れてトラブルのタネを作っている翔くんも翔くんだ。

 

「翔が言うにはさ、『パワー・ボンド』は翔の兄貴から封印されているらしいから、悪いことしちゃったなって思うけど……それでもちょっと納得できなくて、謝るに謝れないんだ」

「アナタからしたらそんな事情なんて知らないし、フリーの遊びとはいえデュエルでそんなことをされちゃったら、と考えちゃうとね」

「ああ……。それでも、どうしてもなんとか納得して、翔に謝りたいんだ」

 

 …………。

 

「なぁ、明日香。翔の兄貴って、もしかしてこのアカデミアにいるのか?」

「……ええ、いるわよ」

 

 まさかこんな形で、十代が亮の話題を出してくるなんて思わなかったわ。原作だとどんな流れだったかしら……。卒業デュエル前に一回だけデュエルしていたのは覚えているのだけど、忘れちゃったわね。

 

「丸藤亮。オベリスク・ブルーの3年生。現状、このアカデミアで最強の称号を手にしている帝王。カイザーって呼ばれているわ」

「カイザー……そんなに強いのか、翔の兄貴は」

「ええ、まぁね。中等部でつるんでいたから亮のデュエルの腕前は良く知っているわ。私とデュエルして勝ったり負けたりを繰り返すくらい、って言えば伝わるかしら?」

「つまりめちゃくちゃ強いってことだな」

「うっふふ……」

 

 十代が私のデュエルの評価をめちゃくちゃ強いって言ってくれたわ。嬉しくて思わず笑みがこぼれちゃったわ。

 

「でもそれは中等部での話よ。あれから2年経っているわけだし、さらに強くなっているでしょうね」

 

 この調子じゃあ、十代のことだもの。亮にデュエルを挑んで翔くんの『パワー・ボンド』の真意を聞き出そうと考えているに違いない。うーん、でも私が連れて行くのはなんか亮の希望とは違うだろうし……。

 

 ……よし。

 

「十代、まさか亮にデュエルを挑む気?」

「……ああ。翔のことについて聞いてみたいし、どんな兄貴なのかも知りたい。だったらデュエルをするのが一番だし……なによりこのアカデミアナンバーワンの実力も拝んでみたいんだ!」

 

 よしよし。十代の亮にデュエルを挑みたい意思の確認完了。だったら私がけしかけることにならないわよね? ほんのちょっと背中を押すだけ。1103ゲートボールで相手の手札とバックが尽きた時に出す『氷結界の龍ブリューナク』と同じくらいの力で背中を押しているだけだから問題なしよねきっと。

 

 ――キーンコーンカーンコーン。

 

 おっと、次の授業の予鈴。いつの間にこんな時間になっていたのね。でもお(あつ)え向きのシチュエーションかも。

 

「今日の夕方、6時の灯台」

「え?」

「私が今言えることはこれだけよ。それじゃあね、十代」

 

 次の授業が始まるからという理由を盾に手短に、それでいてクリティカルな情報だけを与えて、ついでに軽くウィンクをして私は十代と別れた。

 

 さぁ……来てくれるかしらね?

 少しワクワクしながら、私はこのあとの授業を消化した。

 

 

 

 

「! 今日はいつもより早いな明日香」

「ええ、ちょっとね」

 

 あれから時間が経って午後5時50分。いつもは私が後になって合流していたからか、亮が少し驚いた顔をした。亮って10分前行動者だったのね。そこはちゃんと紳士的。

 

「もしかしてなにか進展があったのか?」

「残念だけど、兄さんに関してはなにもないわ。でもねぇ……今日はちょっと面白いことが起こるような予感がしてね」

「なに?」

「ほーら、予感的中よ?」

「?」

 

 私が指さす先にはこっちに向かって走ってきている複数の人影……十代と翔くん、それから前田隼人くんの姿があった。表情からして翔くんは十代に引っ張られてきているようだけど手とか繋いでないし、自分の意思で十代について行っているみたいね。隼人くんは付き添いかしら?

 

「明日香、おまえ……」

「真面目な話、最初に貴方に用があるって言いだしたのは十代の方よ? そしてここに来たのも十代の意思。私はただ相談に乗ってあげただけよ」

「……ふっ、そうか」

 

 ジュンコとももえが十代たちに目を瞑っていることからすぐに私の差し金だと気付いた亮だったけど、あくまで十代の意思でここまできたことを伝えたら納得してくれた。どんな理由であれ、十代が亮に興味を持って、そして仕掛けてきてくれたことが純粋に嬉しいのでしょう。

 

「お、お兄さん!? それに明日香さんまで!」

「はぁーい、翔くん」

「久しぶりだな、翔」

 

 相変わらずの仏頂面ねぇ。だから翔くん、ちょっとだけ貴方のことが苦手になって『パワー・ボンド』にトラウマを持っているのよもう。

 

「アンタが翔の兄貴……丸藤亮か! たしかカイザーって呼ばれているんだっけか?」

「ぶっ」

「?」

 

 この間私がしたモノマネとほとんど同じことを言った十代に亮が吹き出し、小さく肩を震わせる。しかしそれも刹那の間。すぐに元の澄ました顔に戻った。

 

「ああ、そうだ。キミは遊城十代だったな。クロノス先生の時もこの間の昇格試験デュエルの時も見ていたぞ。将来が楽しみなルーキーだったから記憶している」

「え、ええ? そ、そうかぁ?」

「ああ、そうとも」

「へ、へへ……」

 

 純粋に褒められて頬が緩んでいる十代だったけど、すぐにキリッとさせて亮を見る。

 

「なぁカイザー。いきなりで悪いんだけど、オレとデュエルしてくれないか?」

「ふむ、理由を聞こう。なにか事情がありそうだからな」

 

 チラリと翔くんの方を見たからか、翔くんが少しびくついて目を反らしていた。

 

「理由か。それはいたって簡単だぜ。オレはアンタのことが知りたいんだ」

「オレのことを?」

「ああ。アンタのことを知れば、オレの友達と少しでもわかり合うことができる気がするんだ。だからオレとデュエルしてほしい。デュエルをすればアンタがどんなやつなのかがわかるからな」

「ふむ……ならばそのキミの友達とやらとデュエルする方がよいのではないか? なぜオレを中継する必要がある」

「したさ……。けれど、どうにも納得できないことがあったんだ」

「その納得できない部分の要因がオレにあると?」

「それはわからない。でもデュエルすればわかるって、オレは思っている」

「ふむ……」

 

「オレの勝手だってことは百も承知だ。だけど頼む。オレとデュエルしてくれ。……いや、オレと、デュエルしてください!」

 

 ……これは驚いたわ。あの十代が頭を下げて頼み込むなんて。この頃の十代なら「なぁ、いいだろ?」とか言って勢いで押し通してきそうだったのに。

 

「ほら」

 

 亮は今デュエルディスクを装着していない。だから代わりに持ってきていた私のデュエルディスクを亮に差し出す。さて受け取ってくれるかどうかだけど……仏頂面を崩している辺り答えは決まっている。

 

「わかった、いいだろう。オレもキミに興味があったところだ。幸いなことにこの場所は今、明日香のおかげで誰も邪魔しに来ることはない」

 

 私のデュエルディスクを受け取って左手に装着した亮は、デュエルディスクなくてもいつも持ち歩くほど大事なデッキを装填して構えた。

 さて、邪魔にならないように私は離れるとしますかね。十代の後ろ……翔くんの隼人くんの所まで私は移動することにする。

 

「頑張ってね、十代」

「……ああ。ありがとうな明日香」

 

 十代とすれ違いざまにこっそりとエールを送ると、十代も感謝の言葉を返してきてくれた。その言葉と今から見られるデュエルで色々と満たされるものがある。

 

「本気でかかってこい遊城十代。でないと……なにもできずに潰れることになるぞ……ッ!」

 

「っ! ああ! 挑戦を受けてくれたこと、感謝するぜカイザー……ッ!――行くぜ!」

 

「「決闘(デュエル)!!」」

 

 観客僅か3人。いや、双眼鏡を使ってこっちのやり取りを見ているであろう親友ふたりを含めたら5人しかいないけど……今のアカデミアで一番見る価値のあるマッチアップ――

 

 アカデミア最強のデュエリスト――カイザー亮と、

 

 最強のオシリス・レッド――遊城十代、

 

 このふたりの真剣勝負が、波打つ音と吹き荒ぶ潮風とともに幕を上げたのであった。

 

 

 

 




タイタン「そういえば私の出番は?」

ないよ、よかったね。生存確定やで。

迷宮兄弟「「ま、まさか我らも……」」

誰も校則違反してないんだからあるわけないじゃん。ただゲートガーディアンは使わせたかったなぁ。
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