スターピースカンパニー市場開拓部第十三艦隊~地球を渇望する者達の狂騒譚~   作:らんかん

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⬛︎スターピースカンパニー
アルテナ・ジャズパライズ……市場開拓部第四艦隊司令官

⬛︎ピノコニー
Dr.エドワード……夢境ショップの店主


故郷での思い出

 ……新無憂宮(ノイエ・サンスーシー)は、壮麗な夜空の下に浮かびあがらせていた。

 独立した、あるいはたがいに連結された大小の建物。無数の噴水。自然の森と人工の森、沈床式の薔薇園、彫刻、花壇、四阿、芝生の際限ないつらなり、それらが巧妙な照明効果になって、視神経を刺激しないよう配慮された淡い銀色につつまれている。

 

 耳障りな声を出す、宇宙をたたえた瞳をした目以外は。

 

「どうですか、これが貴方が持ち込んだ小説をできる限り再現した場所になるのですが」

「これが新無憂宮、ね」

 

 ここにいるのは、記憶や情報から作り出された憶質を売りにしているドクター・エドワードと、その力を頼りにやってきたアルテナ・ジャズパライズである。

 

 彼は、自分の小説に記された情報を頼りにして、なんとか相手に再現してもらったようだ。その名前は彼にとっては大切なものだったが、その大切なものは本来どんなものだったかを視覚的に知る由がない。ないからといって、他人に妄想させるのは本末転倒だが______

 

 ともかく、アルテナはエドワードの力を借りて、この夢の中で新無憂宮なる王族が住む場所を作って探索しているのであった。

 

「ところでこの場所には、何か思い入れがあるのでしょうか?もしよろしければ、お聞きしたいのですが」

「昔、昔な。金銀妖瞳(ヘテロクロミア)の黒猫をずぶ濡れの中から拾ったことがあるんだ、その時にはすでに本を読んでいたから、俺はそいつにロイエンタールという名前をつけた。そいつを拭いてやったらついてこいって睨まれてたからついて行ったら死にかけの黄金色した猫が蹲ってたからそいつも同じようにして、で、そいつにはミッターマイヤーって名前をつけた。しばらくすると、金毛の長毛がやってきて……そいつは当然ラインハルトと名付けたわけだ。そんな風に猫が猫を呼ぶことになっていつの間にかすげえ猫の溜まり場になったんだ」

 

 結果、彼の両親は困った末に、彼らを働かせることにしたのだ。猫カフェという文明ができてそれこそ何万年以上も経っている頃、母親はバイトの金で猫カフェを始めることにした。父親は非常に聡明なエンジニアだったので設備を整える仕事をしたし、彼もそれによく付き合わされたもの。

 

 手伝った甲斐もあり、我が子のことが可愛かったのもあり、そもそも猫の面倒をちゃんと見てたアルテナに名前の命名権を与えた。猫の名前がそもそも小説から取ったので、最初は獅子の泉(ルーベン・ブルン)と名付けようかと思ったものだが、それは作る前に設計者が爆殺されたことを踏まえれば不安であるとした。また元帥府などと猫の住処にとんでもない名前を与えてもと思った彼は、猫の名前になった者たちは嫌がるだろうと自嘲した上で新無憂宮という彼らが打倒した帝国の皇帝が住むところに名前を当てた。

 

 事実、猫たちが自分たち家族の生活の場所を占領したのを考えれば、店ができるのも含めて小さな王朝の交代というビックイベントには相応しく、居場所にそう名乗らせるのは悪くないと考えたのがイゼルローン一家である。

 

「なるほど、そんなことが」

「名前自体は別に悪いものでもなかったからな。何も憂うものが無い、新しい宮殿。猫が住むにはピッタリじゃないか」

 

 花壇のそばに雑に座って、アルテナは話を続ける。

 

「ちなみにその後ものんびり過ごしているとはメールで来る、いいものだ」

「それはよかった。猫達は人間と比べて寿命が短いので、たまには帰ってあげてください。カンパニーの人間は幹部になればなるほど会社につきっきりになることは知っていますが」

「んじゃピノコニーじゃなくて家に帰るべきだったかな?」

「いえ、そんな人想いだけではピノコニーの商売はからっきしになってしまいます。私どもは、あなた方に来ていただいた方がとても嬉しいですがね」

「正直でよろしい」

 

 アルテナは笑って、エドワードのあまり気を悪くしないブラックジョークに少しばかり感銘を受けながら、近くのベンチに座った。

 

「しかし、貴方は結構不思議な方なのですね」

「カンパニーの人間が来てるっつっても市場開拓部の人間はこっちに寄りつかないからな。そりゃ、分かりやすいほど異色なのは分かってたが」

「P44社員としても、あまり見かけない部署の方でも、です」

「どういうことだ?」

 

 目に表情はないが、威圧感がないように黒目を少しばかり小さくして、Dr.エドワードは口にする。

 

「戦略投資部、しかもオーク一家の起こした事件の時にお越しになっていた十の石心の皆様はともかく、他の社員は意外と高圧的な方も多くてですね。P40付近は特に多いような印象を受けました。そこから下はストレスの発散が上手くできずに暴発している方ですが、そう言った方は受け止め慣れてますから」

「栄華に心をやられたやつの相手は相当心にくるよな、分かるよ。いや、申し訳ないと言った方がいいか?」

「そこに関してはお気になさらず。悪いのは全て個人ですから」

「どーも」

 

 夢の横に出てきたスラーダの飲み口を開けて、ゆっくり喉を撫でさせるアルテナ。その様子に本気のリラックスを感じ取っていたエドワードだが、何か疑問があるのだろう。目の前の男に、一つ尋ねる。

 

「……このような夢で本当に気が晴れるんですか?最近、貴方の活躍を耳にすることが少々ありました。かなりの短期間で二度ほど艦隊戦をしていると聞いたので、かなりストレスが溜まっているものと思いました。特に、最近は自然のセラピー効果よりも刺激が強い方が脳のシャットダウンも合わせて結果的にリラックスになるのではという話も出てるほどですから」

「あー、まあその説は間違ってない。けど、自然でリラックスする方が効果はあるんだよ。カウンター性の夜ふかしと一緒だ。昼間やそもそも十分な時間遊び足りなかったりすると夜更かしするやつ、あれ長期スパンでもあり得る話で、それらを無視して自然で……っていうのは正直毒なんだ。逆にストレス溜まるからな。無理やりリラックスすれば効果はあるが、果たしてストレスを上回るかは謎なのさ」

 

 そうならないようにワークライフバランスがあるのだろうが、そのワークがあまりに過剰かつ基礎作業からかなりのハードだとまあそれを7時間やって苦しんでいるのにたった3時間程度でカバーできる話でもないだろう。

 

「俺はその点そこまでストレスがたまらないように生きれてるから、これでも十分リラックスできる。時が癒せる程度のストレスが、結局一番なんだ」

「自分をコントロールできるほど、嬉しいこともないですね」

「ああ」

 

 互いに軽い返事をして、自然に目を通す。

 

 遠く緑の丘には茶色の何かが動いている。あれは鹿だろう、貴族が狩猟ごっこをするための贄だ。あっちの遠くにある白いのはきっと離宮か何かの館かもしれない、重役が済むのか王妃が住むのか、どちらにしろ住み心地は良かったりするのだろうか?

 

 アルテナがそうやっていろんな妄想を膨らませながら、景色を楽しんでいるのをおおよそ30分経った後、もう一回エドワードは口を開いた。

 

「そういえば、アルテナ様」

「どうした?」

 

 今度は真面目な話らしい、少しばかりのかっこよさを湛えた目線が彼を捉える。

 

「少しばかり、仕事の話をしても?ある穏健派のオムニックと、アベンチュリン様からの情報なのですが」

「オッケー、聞こう」

 

 大きな目は近寄り、ベンチの近くで遠くを見ながらその情報とやらを伝えた。

 

「最近、オムニックの過激派がとてつもない大遠征を計画しているそうです。えーっと、ティーベル星系よりもさらに向こうの……カラヴェア星域を拠点に、その周辺にかなりの艦を揃えての行動をするとのこと」

「えっと、数は?」

「おおよそ30万隻」

「30か……30!?」

 

 椅子から転げ落ちそうになって、石畳に手をついてまた座るアルテナ。表情は驚嘆、目は見開いた後に戻ろうとする様子すら見せない。

 

「ティーベルでやった時にほぼ10万の衝突戦だったんだぞ!30なんて大軍どころの話じゃない!それに、そんだけの数を動かせばいろんなやつに目をつけられる……スターピースカンパニーだってそれを無視するとは思えない」

「しかし、どうやらその作業をしているのは事実のようでしてね。話によれば、そこら辺一体を制圧して一度新たな経済圏を確立し、オムニック特有の装置でルパート一世が計画していた星の機械化をして不可逆的な改革をするそうです」

「大事件じゃないか!」

「現在は色々な方が調査、また人事部の方が頑張って人を伝って妨害工作を企てているそうですが少し時間が掛かりそうです。オスワルド・シュナイダー氏の判断はともかく、場合によっては戦略投資部の依頼で休暇後に討伐遠征を計画するかもしれないと」

 

 とんでもない話が飛んできて、彼は頭を抱える。

 

(くっそー、こういう時になんて話が飛んできたんやら。ちょっと焚きつけすぎたのが良くなかったか?いやでもなあ、そうでもしないと下手に付け上がられるし仕方ないんだよな)

 

「ん、まあ、そうだな。それに関してはまたおいおい仲間内で話し合いがあるはずだしな。ありがとうDr.エドワード、先に言ってくれるだけでも心が若干楽になるよ」

「それは良かった」

「他に連絡とかは?」

「連絡……というほどではないのですが、もし良ければタルタロフ号に行ってみてはいかがでしょうか」

 

 タルタロフ号。

 

 開拓者達がピノコニーでの事件を解決したお礼として、五大ファミリーが星穹列車に送った豪華客船のことだ。持ち主のうち好き勝手やっているのは星、という名前の少女だったと彼は記憶している。

 

「あの豪華客船にか?しかし、お邪魔していいものだろうか。あそこはVIPしか通れないと聞いているし……てか通れたとしてもなんのために行くんだ」

「今、あそこにはスクリューガムさんが居ると聞きました。かのスクリュー星の王であるならば、きっと今回の件も知って何かしらの対策をとっているか、もしくは練るところまではいっているはず」

「でもあの天才クラブの一人だろ?碌に会話できるか?」

「模擬宇宙開発プロジェクトに関わっているメンバーは、ルアン・メェイ博士はともかく他のメンバーは話は聞いてくれると聞きました。ちゃんと話をつけられるなら、問題はないかと。それに貴方はP44、十分に行く資格はあると思いますが」

 

 エドワードの表情が一切ない姿に少しばかりの威圧感を感じたが、アルテナは臆せずに言葉を返す。

 

「……はあ、しゃあねえ。少しばかり情報を集めてから、尋ねてみることにしよう」

「その意気です」

 

 この小さな夢の支配者が発した言葉を最後に、夢想された新無憂宮は暗闇に消え、次に視界に光が出てきた頃には黄金の刻にと戻ってきていた。

 

「ありがとな、エドワード。楽しかった」

「私も一人の客と話せて楽しかったです。お気をつけて」

「ああ!」

 

 アルテナは元気のいい返事をして、そのまま彼に背を向けて走り出した。目指すはタルタロフ号であり、その船の入口を探すために夢の中を右往左往するのである_______

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 三度に(わた)る戦いで、オムニックのうちで昔に囚われた者たちとの決着がつくかは不明だ。もっと言うのであれば、その戦いをした後でカンパニーの評判が無事で居られるかも知るはずもない。

 

 知っている奴はただ一人、記憶の其、星神の浮黎である。

 

 その彼女は、そんな個人的シーンに目をくれるはずがない。見ていたらストーカーそのものであるし、そこまでの力を秘めているのが仮にいたとして、それはアルテナ・ジャズパライズではないことは確かだ。

 

 すでに其の瞳が向いている先は、三度目の戦争。この物語には避けて通れない、運命というもの。

 

 このストーリーがスターレイルの側に随伴しているのは、すでに歴史が終わった際で、時のない場所で記憶が佇んでいるからだ。もっと言うのであれば、浮黎が開拓者達以外の話に目を向けて、レコードのように再生している物語こそがアルテナ達の話である。きっと他の物語も、そうなのだろう。

 

 結末はいかに、その答えを知っているのもまた其であるのだが、彼女は答える術を知らない。全てが終わった世界で、誰に口を聞けばいいのか?

 

 過激派のオムニックとの戦いは、そろそろ終幕を迎える。

 

 アルテナ、リュエ、ジェシー、善妃、マリーン、チェリン、テーバイ______

 

 第一章のエンディングは、もうすぐその開幕がレコードの針に到達しようとしていた。




《余談》
らんかんは拾った子猫が錆みけだったのでキシリア・サビと名付けたことがある。今も元気。
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