斉木楠雄の災難 〜魔法少女が生まれる前から、僕の日常は終わっていた〜   作:saiki!!

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お疲れ様です、作者のsaikiです。

第2話では、まさかの「バナナの皮」が世界を救う(?)という、斉木楠雄らしい理不尽な解決法をお届けしました。読んでくださった皆様、ありがとうございます!

さて、今回の第3話は、少しだけ真面目なお話です。
高町家の次女・美由希が抱える「心の傷」と、亡き父・士郎の「未練」。
そして、それらを一番近くで(ゼリーを食べながら)見守る羽目になった楠雄。

・今回の見所:
幽霊の士郎と楠雄の、噛み合っているようで噛み合っていない「お節介コンビ」。
超能力による「物理的な家族カウンセリング」が、高町家の道場で炸裂します。

・作者より:
魔法少女が生まれる前の物語ですが、少しずつ原作キャラたちの「核心」に触れ始めます。
楠雄の動機は相変わらず「コーヒーゼリーのため」ですが、その結果として誰かが救われる……そんな彼の「やれやれ」な活躍を楽しんでいただければ幸いです

それでは、第3話。
栗入りゼリーの甘味と、家族の苦味を添えて……どうぞ。



『第3話:家族のΨ難 〜隠し事とコーヒーゼリーの苦味〜』

(……やれやれ。前回のバナナ騒動で、この街の治安が少しばかり不安になったが、それ以上に僕を不安にさせているものがある)

 

【放課後:翠屋】

 

僕は今、約束された『栗入りゼリー』を目の前にしている。

だが、その味を楽しむには、この店を包む「空気」が重すぎた。

 

恭也:「斉木!しのぶから聞いたぞ。お前、暴漢を前にしても微動だにせず、ただ突っ立っていたらしいな! だが、敵はお前のその『隙のない佇まい』に呑まれ、勝手に足を滑らせて全滅した……。

戦わずして勝つ。 まさに武の極致! お前はやはり、俺が認めた最高の男だ!!」

 

(……ただ、**『僕が動くのが面倒だったから、指先一つでバナナを滑り込ませた』**だけだ。それを『武の極致』なんてカッコいい言葉でデコレーションするのはやめてくれ……それより、さっきから店の奥で聞こえる、あの重い溜息は何だ?)

 

テレパシーを広げずとも、高町美由希の心の声が、ノイズのように僕の脳に流れ込んでくる。

 

美由希:(……お父様の遺した流派、私がもっとしっかり継がなきゃいけないのに。恭也兄みたいに強くならなきゃいけないのに。……私は、あの日から何も変われていない……)

 

(……やれやれ。高町家の次女、高町美由希か。

彼女は、父である高町士郎が負傷し、その後に亡くなったことに対して、自分自身の力不足という強迫観念を抱いている。

このまま放っておけば、彼女の剣はただの『自己犠牲の道具』になりかねないな)

 

士郎(霊):『……斉木くん。美由希のこと、やっぱり気になるよね? あの子は責任感が強すぎるんだ。僕が死んだのはあの子のせいじゃないのに……。何とかして伝えてあげられないかな?』

 

(……幽霊、君の『未練』が一番の重荷なんだよ。……だが、高町美由希がそんな顔で掃除をしているせいで、コーヒーゼリーの味が心なしか苦く感じる。非常に迷惑だ)

 

僕は、カウンターの端で一人、何かを決意したような顔で紅茶を飲む月村しのぶに目を向けた。

 

彼女もまた、月村家の抱える、人間離れした力と孤独に押し潰されそうになっている。

 

しのぶ:(……昨日の男たちは、私の『血』を狙ってきた。……結局、私は周りを不幸にする存在なのかしら。なのはちゃんや、高町家の人たちを巻き込む前に、私は……)

 

(……やれやれ。こっちはこっちで、悲劇のヒロインを演じ始めているな。

バナナの皮でせっかく救った日常を、勝手に闇に染めないでくれ。

……仕方ない。コーヒーゼリーの『栗』が最高に美味いからな。

お礼に、二つの家の『闇』を、僕の超能力で少しばかり照らしてやるとしよう)

 

(……やれやれ。高町美由希の溜息に月村しのぶの孤独、そこに幽霊(士郎)の未練まで混ざり合って、せっかくの栗入りゼリーが台無しだ。これ以上この重苦しい空気に付き合わされるのは、僕の胃袋が拒否している)

 

僕は、スプーンを置くと、無造作に席を立った。

 

(……まずは、あの『重すぎる責任感』を抱えた次女からだ。

あそこの壁に掛けてある、幽霊の形見の木刀。あれを少しばかり『加工』すれば、幽霊の言いたいことも伝わるだろう)

 

恭也:「お、斉木! どこへ行くんだ? まさか……俺が言おうとしていたことに気づいたのか!?」

 

(……気づいたというか、聞こえていたんだよ。君が心の中で『美由希の稽古を見てほしい』と叫び続けていたのをな。……やれやれ、案内しろ。君の家の道場へだ)

 

恭也:「ははは! さすがは斉木だ、察しがいいぜ!」

 

【高町家・道場】

 

道場では、美由希が自分を追い詰めるような鋭い素振りを繰り返していた。

 

恭也:「美由希! 手を止めろ! 達人を連れてきたぞ!」

 

美由希:「……はぁっ、はぁっ……。……え? 斉木くん? 兄さん、何を言ってるの。彼は一般人でしょう? こんなところに……」

 

(……正しい反応だ、高町美由希。だが、君の背後で父親(幽霊)が泣きそうな顔で僕に縋っているんだ。非常に邪魔だし、何よりその湿っぽさが僕の「ゼリーの後味」を汚し始めている)

 

僕は彼女の言葉を無視し、無造作に壁に掛けられた古い木刀へ歩み寄った。

 

士郎(霊):『斉木くん! それだ! その木刀に、僕の想いを……!』

 

(……幽霊、君の想いなどという抽象的なものは僕には扱えない。だが、僕のサイコメトリーで読み取った君の「剣の記憶」を、この木刀を介して彼女の筋肉に直接叩き込むことなら可能だ)

 

僕は、士郎の木刀を手に取った。

 

しのぶ:(……斉木くん? 彼は一体、何を……)

 

いつの間にか道場の隅で観察していたしのぶが、

不審そうに目を細める。

 

(……やれやれ。月村しのぶ、君は本当に目がいいな。

だが、安心しろ。君たちの常識の範囲内で、この問題を解決してやる。

……「たまたま、木刀に士郎の癖が染み付いていた」という、もっともらしいオカルトのせいにしてね)

 

僕は、木刀を高町美由希に向かって無造作に放り投げた。

 

(……さあ、受け取れ。君の父親からの、少しばかりお節介な「指導」だ)

 

美由希:「……っ!?」

 

無造作に放られた木刀を、美由希は反射的に掴み取った。

 

その瞬間、彼女の表情が凍りつく。

 

美由希:(……え? 何、これ。この木刀……まるで、お父さんの……手の温もりが、残っているみたい……?)

 

(……残留思念。厳密に言えば、僕がサイコメトリーで読み取った高町士郎の『剣の練度』と『娘への想い』を、木刀の分子構造に一時的に定着させたものだ。……まあ、君には「お父さんの奇跡」に見えているだろうがね)

 

士郎(霊):『……美由希。剣はね、自分を傷つけるために振るものじゃないんだ。誰かの笑顔を守るための、温かいものなんだよ』

 

美由希の瞳から、ボロボロと大粒の涙が溢れ出した。

 

彼女の体は、自分の意志とは無関係に、流れるような美しい演武を始めた。それは、悲壮感に満ちた先ほどまでの素振りとは正反対の、柔らかく、包み込むような「高町流」の真髄。

 

恭也:「……美由希? その構え……まさか、父さんの……!?」

 

(……やれやれ。恭也、君が驚くのはいいが、その拍子に僕の方を向くのはやめてくれ。……あ、月村しのぶ。君が携帯で動画を撮ろうとするのも阻止させてもらうぞ。余計な証拠を残されてはたまらないからな)

 

僕は、道場の隅で震えている月村しのぶの携帯のレンズに、微弱なサイコキネシスで「ピントを永遠に合わせない」呪いをかけた。

 

美由希:「……お父さん……。私、ずっと……怖かったの。私がもっと強ければ、お父さんは……。でも、違うんだね。お父さんは、私に笑っていてほしかったんだね……」

 

高町美由希がその場に泣き崩れる。

その背後で、士郎の幽霊が満足げに、そして今度こそ消え入りそうなほど透き通った笑顔で頷いていた。

 

(……やれやれ。ようやく冷気が収まったか。

これで店内の温度も適正に戻るだろう。……というか、いつまで泣いているんだ。これでは追加のゼリーを注文しにくいじゃないか)

 

しのぶ:(……信じられない。斉木くんが木刀を投げた瞬間に、美由希ちゃんの剣が変わった。……彼は、一体何をしたの? まるで、死者の声を届けたみたいに……)

 

(……月村しのぶ。君のその鋭すぎる感性は、もはや『災難』という言葉では足りないな。……仕方ない。君の疑惑を逸らすために、もう一仕事してやるか)

 

僕は、泣きじゃくる高町美由希の肩を叩こうとしている恭也の足元を、サイコキネシスで軽く掬った。

 

恭也:「うおっとぉ!? ……あ、痛てて……。な、なんだ、急に足が縺れた……。……あ、美由希! 大丈夫か!」

 

(……身内が感動のシーンでズッコケれば、大抵の人間はそっちに意識が向く。

……さて、家族の和解も済んだことだ。僕は一人、静かに翠屋へ戻らせてもらうぞ。

引換券で貰える『栗入りゼリー』が、乾燥して表面が硬くなる前にね)

 

(…泣き崩れる高町美由希と、ズッコケた恭也を置いて、僕は静かに道場を後にした)

 

【翠屋:カウンター席】

 

店内に戻ると、先ほどまでの重苦しい空気は嘘のように消え去っていた。

 

高町母(桃子)が、穏やかな笑顔で僕を迎えてくれる。

 

高町桃子:「あら、斉木くん。美由希たちの様子はどうだったかしら? なんだか、道場の方が急に明るくなった気がするけれど……」

 

(……ああ。少しばかり、古い木刀の『埃』を払ってきただけですよ。……それより、約束のものをいただけますか)

 

高町桃子:「ふふ、そうね。はい、お待たせしました。『特製・栗入りコーヒーゼリー』。美由希を気にかけてくれたお礼に、栗を一つサービスしておいたわよ」

 

(……栗が二個……!! ……いけない、口角が上がりそうになるのを必死で抑えろ。僕は今、ただの『お節介な転校生』を演じている最中なんだ)

 

僕は震える手でスプーンを握り、黄金色に輝く栗と、漆黒のゼリーを同時に口に運んだ。

 

(………………!! ……完璧だ。リキュールの香りと栗の甘みが、口の中で高町流の演武のように完璧な調和(ハーモニー)を奏でている。……これだ。この瞬間のために、僕は幽霊の片棒を担いだんだ)

 

しのぶ:「……斉木くん」

 

(……ゲフッ。……せっかくの至福の時間が、背後から忍び寄る『不発弾』の声で中断された)

 

月村しのぶが、少し戸惑ったような、それでいて何かを確信したような複雑な表情で僕の隣に立った。

 

しのぶ:「……さっきのこと、やっぱり偶然とは思えないわ。……あなたは、私たちが思っている以上に、この街にとって『重要な存在』なのかもしれないわね」

 

(……月村しのぶ。君のその勘の良さは、もはや超能力の域だ。だが、残念ながら僕はただのコーヒーゼリー愛好家だ。……というか、今の思考、わざとらしく僕の『栗』を見つめながら言うのはやめてくれ。あげないぞ)

 

しのぶ:「……ふふ。今度、お礼に私の家にも遊びに来て。……最高のパティシエが作るゼリーを、用意させておくから」

 

(……月村家の、専属パティシエだと? …………。……やれやれ。どうやら僕の海鳴市での『災難』は、まだ始まったばかりのようだな。……まあ、ゼリーが美味ければ、多少の隠し事は目を瞑ってやることにしよう)

 

窓の外では、夕焼けが海鳴市の街をオレンジ色に染めていた。

 

高町家の家族の絆が、少しだけ修復された春の日。

 

僕は二個目の栗を口に放り込み、静かに目を閉じた。

 

(……やれやれ。明日は、静かな放課後であることを願うよ。……無理だろうがね)

 

 

 

 

 




第3話、最後までお付き合いいただきありがとうございました!

今回は、高町家の少しシリアスな部分に触れてみました。
『リリカルなのは』原作でも語られる高町家の過去ですが、そこに斉木楠雄という「最強のイレギュラー」が介入するとどうなるか……。
幽霊の士郎さんとの(一方的な)協力プレイ、いかがでしたでしょうか?

【今回のポイント】

・感動の押し売り拒否: 美由希さんの感動シーンでも、楠雄の頭の中はゼリーのことでいっぱいです。

・恭也の安定感: どんなに良いシーンでも、最後は彼がズッコケないと落ち着きませんね(笑)。

・しのぶのフラグ: 月村家のパティシエ……。楠雄にとっては、どんな魔法の呪文よりも魅力的な勧誘だったはずです。

次回の第4話では、いよいよ月村しのぶの招待(という名のコーヒーゼリーの罠)によって、月村家の「闇」の部分にも少しずつ踏み込んでいく予定です。

楠雄の平穏がさらに遠のいていく様を、これからもニヤニヤしながら見守っていただければ幸いです!
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