【博麗霊夢の日誌】黒山ダンジョン探索レポート:エリア1
日時: 2013年5月某日 曇り(湿度高め)
探索者: 博麗霊夢(Lv.1 ※転生後レベル)
場所: 境港市・黒山(神社裏手〜北側斜面)
1. チュートリアルエリアの確認
神社の掃除も終わったし、暇なので黒山の探索に出ることにした。
この「博麗神社」が長野の山奥を漂流していた頃は、周囲は標高の高い針葉樹林だった。空気は冷たく乾燥していて、聞こえるのは鹿の鳴き声くらい。いわゆる「日本の原風景」ってやつね。
でも、ここ「黒山」は違う。
まず、「臭い」。
海からの潮風と、腐った腐葉土、それに何とも言えない鉄錆のような臭いが混ざって、鼻の粘膜にじっとりと張り付いてくる。
湿度も高い。私の脇巫女服、通気性はいいはずなのに、肌にペタペタ張り付いて不快指数が高いわ。ああ、この嫌な湿り気……前世の島根を思い出すわね。山陰特有の「重さ」だわ。
山の規模自体は、大したことない。
前世で読んでた『ドラえもん』に出てくる学校の裏山……あれを二回りくらい大きくした程度かしら。
標高もせいぜい200メートルあるかないか。
健脚な人間なら30分で一周できそうな「小山」ね。
――だけど、この山には「マップの整合性」がない。
弓ヶ浜半島なんて、川から流れてきた砂が溜まってできた平坦な砂州よ?
そこにポコっと、こんな密林の丘があること自体が「バグ」なのよ。
「さて、クエスト開始としますか」
私は愛用の大麻(おおぬさ)を片手に、獣道へと足を踏み入れた。
2. 植生の違和感
歩き始めて5分。違和感がすごい。長野の森は、杉や松が整然と並んでいたけれど、ここはまるでジャングルだ。シダ植物がやたらと巨大化しているし、木々の幹にはビッシリと見たこともない色の苔が生えている。何より気持ち悪いのは、「木がねじれている」こと。どの木も、空に向かって真っ直ぐ伸びていない。螺旋を描くように、あるいは何かから逃げるように、幹がグニャグニャに曲がって成長している。
「……磁場が狂ってるのか、それとも霊脈がトグロを巻いてるのか」
神職の目で見ると、この山の地脈は「かさぶた」に近い。
地面の下に「とてつもなく巨大な傷口(あるいは穴)」があって、それを塞ぐために無理やり山という蓋を乗せ、樹木という糸で縫い合わせている……そんな不安定さを感じる。
ワクワクするわね。
こういう「意味深なマップ」こそ、探索のしがいがあるってものよ。
3. モブ敵との遭遇
ガサガサッ!
藪の中から、何かが飛び出してきた。
大きさは野犬くらい。
でも、形は「ヤドカリ」に似ていて、殻の代わりに「古びたヘルメット(昭和の工事現場用?)」を背負っている。
中身は……泥とヘドロが固まったような不定形生物。
「『泥の怪異(マッドマン)』の幼体……ってところかしら」
こいつらは、黒山の常在菌みたいなものね。
私は慌てず、懐から霊符を一枚取り出す。
「――夢想封印、省エネ版」
パンッ、と霊符を貼り付けると、ヤドカリもどきは「ジュッ」という音と共に蒸発した。
残ったのは、焦げたヘルメットだけ。
「経験値(XP)にもならないわね。……でも、ドロップアイテムのこのヘルメット、なんでこんな古いのが落ちてるの?」
ヘルメットには『■■建設』という文字と、微かに『昭和四■年』という書き込みが見えた。
やっぱり、過去にここで何か工事があったのね。
そして、それが「失敗した」か「放棄された」か。
4. 発見:コンクリートの祠
山の中腹、少し開けた場所に出た。
そこには、異様な光景があった。
森の中に、唐突に「コンクリートの塊」が埋もれていた。
戦争遺跡のトーチカ(防御陣地)に似ている。
でも、銃眼であるはずの穴が、内側から「大量のお札」で目張りされている。
お札は古く、雨風でボロボロだが、そこに込められた術式はまだ生きている。
「……神道系じゃない。これは……陰陽道と、西洋魔術のキメラ?」
興味深い。
この結界を張った術者は、相当な手練れだし、手段を選ばないタイプだ。
トーチカの壁面に、錆びついた看板が残っていた。
『管理区域番号:K-7 絶対封鎖 立ち入る者は――』
その先は、誰かが爪で引っ掻いたように削れていて読めない。
耳を澄ますと、そのコンクリートの厚い壁の向こうから、音が聞こえる気がした。
……ゴゴゴゴゴ……
重低音。
巨大な機械が動いているような、あるいは巨大な生物が寝息を立てているような。
「……なるほど。これが『黒山』の正体の一部ってわけね」
地下にダンジョンがある。
それも、ラストダンジョン級のやつが。
今の私のレベル(装備:竹箒と大麻のみ)でソロ攻略するのは、さすがに無謀ね。
セーブポイントもないし。
5. 撤退と収穫
日が傾いてきた。
この山の夕暮れは早い。そして夜になれば、さっきのヤドカリもどきじゃない、「本物」が湧き出してくる気配がする。
「今日はここまでね」
私は来た道を引き返すことにした。
帰り道、ちょっと珍しいものを見つけた。
シダの葉の裏に生えていた、青白く発光するキノコ。
「『幻覚茸』の亜種かしら? ……これ、煎じて飲ませたら面白い効果が出そうだけど、さすがに人体実験はできないわね」
とりあえず採取して、ジップロック(持参)に入れる。
売れるかもしれないし、対怪異用の毒餌になるかもしれない。
神社に戻ると、ちょうど夕日が日本海に沈むところだった。
眼下には境港の街。
そのさらに向こう、海の彼方には、私の故郷である島根半島が黒いシルエットになって浮かんでいる。
「……ま、悪くない暇つぶしだったわ」
私は泥だらけになったブーツを脱ぎながら、にやりと笑った。
この黒山は、私の庭だ。
今はまだ表面を撫でただけだけど、いつか地下の「主」とも挨拶してやるわ。
もちろん、特大の「退治料」を請求できる時にね。
本日の成果:
経験値:微量
ドロップ:古いヘルメット×1
採取:謎の発光キノコ×3
マッピング:山全体の15%完了
追記:
帰宅後、ヘルメットの内側に「おかあさんごめんなさい」という子供の字がびっしり書かれているのに気づいた。
……塩で清めてから、裏の焼却炉で燃やした。
やっぱり鳥取の怪異は、湿っぽくて嫌いだ。