仮称:やる夫スレ的世界でオカルトやってくー   作:水野芽生

10 / 59
H.R.i 博麗霊夢の黒山探検記

 

【博麗霊夢の日誌】黒山ダンジョン探索レポート:エリア1

 

日時: 2013年5月某日 曇り(湿度高め)

探索者: 博麗霊夢(Lv.1 ※転生後レベル)

場所: 境港市・黒山(神社裏手〜北側斜面)

 

1. チュートリアルエリアの確認

 

 神社の掃除も終わったし、暇なので黒山の探索に出ることにした。

 

 この「博麗神社」が長野の山奥を漂流していた頃は、周囲は標高の高い針葉樹林だった。空気は冷たく乾燥していて、聞こえるのは鹿の鳴き声くらい。いわゆる「日本の原風景」ってやつね。

 

 でも、ここ「黒山」は違う。

 

 まず、「臭い」。

 

 海からの潮風と、腐った腐葉土、それに何とも言えない鉄錆のような臭いが混ざって、鼻の粘膜にじっとりと張り付いてくる。

 

 湿度も高い。私の脇巫女服、通気性はいいはずなのに、肌にペタペタ張り付いて不快指数が高いわ。ああ、この嫌な湿り気……前世の島根を思い出すわね。山陰特有の「重さ」だわ。

 

 山の規模自体は、大したことない。

 

 前世で読んでた『ドラえもん』に出てくる学校の裏山……あれを二回りくらい大きくした程度かしら。

 

 標高もせいぜい200メートルあるかないか。

 

 健脚な人間なら30分で一周できそうな「小山」ね。

 

 ――だけど、この山には「マップの整合性」がない。

 

 弓ヶ浜半島なんて、川から流れてきた砂が溜まってできた平坦な砂州よ?

 

 そこにポコっと、こんな密林の丘があること自体が「バグ」なのよ。

 

「さて、クエスト開始としますか」

 

 私は愛用の大麻(おおぬさ)を片手に、獣道へと足を踏み入れた。

 

2. 植生の違和感

 

 歩き始めて5分。違和感がすごい。長野の森は、杉や松が整然と並んでいたけれど、ここはまるでジャングルだ。シダ植物がやたらと巨大化しているし、木々の幹にはビッシリと見たこともない色の苔が生えている。何より気持ち悪いのは、「木がねじれている」こと。どの木も、空に向かって真っ直ぐ伸びていない。螺旋を描くように、あるいは何かから逃げるように、幹がグニャグニャに曲がって成長している。

 

「……磁場が狂ってるのか、それとも霊脈がトグロを巻いてるのか」

 

 神職の目で見ると、この山の地脈は「かさぶた」に近い。

 

 地面の下に「とてつもなく巨大な傷口(あるいは穴)」があって、それを塞ぐために無理やり山という蓋を乗せ、樹木という糸で縫い合わせている……そんな不安定さを感じる。

 

 ワクワクするわね。

 

 こういう「意味深なマップ」こそ、探索のしがいがあるってものよ。

 

3. モブ敵との遭遇

 

 ガサガサッ!

 

 藪の中から、何かが飛び出してきた。

 

 大きさは野犬くらい。

 

 でも、形は「ヤドカリ」に似ていて、殻の代わりに「古びたヘルメット(昭和の工事現場用?)」を背負っている。

 

 中身は……泥とヘドロが固まったような不定形生物。

 

「『泥の怪異(マッドマン)』の幼体……ってところかしら」

 

 こいつらは、黒山の常在菌みたいなものね。

 

 私は慌てず、懐から霊符を一枚取り出す。

 

「――夢想封印、省エネ版」

 

 パンッ、と霊符を貼り付けると、ヤドカリもどきは「ジュッ」という音と共に蒸発した。

 

 残ったのは、焦げたヘルメットだけ。

 

「経験値(XP)にもならないわね。……でも、ドロップアイテムのこのヘルメット、なんでこんな古いのが落ちてるの?」

 

 ヘルメットには『■■建設』という文字と、微かに『昭和四■年』という書き込みが見えた。

 

 やっぱり、過去にここで何か工事があったのね。

 

 そして、それが「失敗した」か「放棄された」か。

 

4. 発見:コンクリートの祠

 

 山の中腹、少し開けた場所に出た。

 

 そこには、異様な光景があった。

 

 森の中に、唐突に「コンクリートの塊」が埋もれていた。

 

 戦争遺跡のトーチカ(防御陣地)に似ている。

 

 でも、銃眼であるはずの穴が、内側から「大量のお札」で目張りされている。

 

 お札は古く、雨風でボロボロだが、そこに込められた術式はまだ生きている。

 

「……神道系じゃない。これは……陰陽道と、西洋魔術のキメラ?」

 

 興味深い。

 

 この結界を張った術者は、相当な手練れだし、手段を選ばないタイプだ。

 

 トーチカの壁面に、錆びついた看板が残っていた。

 

『管理区域番号:K-7 絶対封鎖 立ち入る者は――』

 

 その先は、誰かが爪で引っ掻いたように削れていて読めない。

 

 耳を澄ますと、そのコンクリートの厚い壁の向こうから、音が聞こえる気がした。

 

 ……ゴゴゴゴゴ……

 

 重低音。

 

 巨大な機械が動いているような、あるいは巨大な生物が寝息を立てているような。

 

「……なるほど。これが『黒山』の正体の一部ってわけね」

 

 地下にダンジョンがある。

 

 それも、ラストダンジョン級のやつが。

 

 今の私のレベル(装備:竹箒と大麻のみ)でソロ攻略するのは、さすがに無謀ね。

 

 セーブポイントもないし。

 

5. 撤退と収穫

 

 日が傾いてきた。

 

 この山の夕暮れは早い。そして夜になれば、さっきのヤドカリもどきじゃない、「本物」が湧き出してくる気配がする。

 

「今日はここまでね」

 

 私は来た道を引き返すことにした。

 

 帰り道、ちょっと珍しいものを見つけた。

 

 シダの葉の裏に生えていた、青白く発光するキノコ。

 

「『幻覚茸』の亜種かしら? ……これ、煎じて飲ませたら面白い効果が出そうだけど、さすがに人体実験はできないわね」

 

 とりあえず採取して、ジップロック(持参)に入れる。

 

 売れるかもしれないし、対怪異用の毒餌になるかもしれない。

 

 神社に戻ると、ちょうど夕日が日本海に沈むところだった。

 

 眼下には境港の街。

 

 そのさらに向こう、海の彼方には、私の故郷である島根半島が黒いシルエットになって浮かんでいる。

 

「……ま、悪くない暇つぶしだったわ」

 

 私は泥だらけになったブーツを脱ぎながら、にやりと笑った。

 

 この黒山は、私の庭だ。

 

 今はまだ表面を撫でただけだけど、いつか地下の「主」とも挨拶してやるわ。

 

 もちろん、特大の「退治料」を請求できる時にね。

 

本日の成果:

 

経験値:微量

 

ドロップ:古いヘルメット×1

 

採取:謎の発光キノコ×3

 

マッピング:山全体の15%完了

 

追記:

 帰宅後、ヘルメットの内側に「おかあさんごめんなさい」という子供の字がびっしり書かれているのに気づいた。

 ……塩で清めてから、裏の焼却炉で燃やした。

 やっぱり鳥取の怪異は、湿っぽくて嫌いだ。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。